市役所の戸籍課に異動して二日目。私は白石芽依(しらいし めい)。まだ新しい職場にも慣れないまま、同僚から引き継いだ案件を担当することになった。それは、婚姻届受理証明書の再発行を希望する若い女性――天城結月(あまぎ ゆづき)の手続きだった。書類を確認している私に、同僚が面白がるように言う。「この子ね、婚姻届受理証明書の再発行で来るの、もう九十九回目なのよ。データも全部残ってるから、すぐ終わるけど」思わず聞き返した。「九十九回もですか?」「若いのに年上のお金持ちと結婚したらしくてさ。夫婦喧嘩するたびに証明書を破っちゃうんだって。まあ、あれだけのわがまま受け止められるのは年上の旦那くらいでしょ」さらに同僚は声を潜めて続けた。「しかも相手、うちの汐見市で一番の資産家――明智家の人らしいわよ」私は思わず眉をひそめた。「明智家の人間なら、なおさら軽率な真似はしないはずじゃないですか。その旦那さん、本当に本人なんですか?」すると同僚は顔色を変え、慌てて私の口を押さえた。「お願い、それ以上言わないで。本物よ。明智家の当主――明智陽介(あけち ようすけ)、その人本人なんだから」その瞬間、頭の中が真っ白になった。気が抜けた拍子にスマホが手から滑り落ち、机の上に転がる。画面に映っていたのは、陽介に寄り添う私とのツーショット写真だった。それを見た結月が、突然表情を変え、私のスマホをつかみ取る。「あなた、誰?どうして私の夫との写真なんか持ってるの?」何か言おうとした。けれど喉の奥が詰まったみたいで、声にならなかった。今、彼女ははっきり言った。――私の夫、と。でもその写真に写っている男は、五年間、私が夫だと信じてきた人だった。明智家は、この街でも指折りの名家だ。明智家は血縁関係も家の事情も複雑で、下手に表に出せば大きな騒ぎになる家だった。だから私たちは、結婚していることを周囲には隠していた。公表しないのは私を守るためだと、陽介は言った。仕事柄、週刊誌に追われるような生活は嫌だろう、と。私は信じた。――五年間も、ずっと。まさか最後に――笑いものになっていたのが私のほうだったなんて。結月は怒りで顔を真っ赤にしている。「こういう女、私いくらでも見てきたわ。お金のある男を見る
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