真希の意識が混濁し始めた夜、瑞希のスマホに両親から連絡が入った。「病院に来なさい……真希が……もう、長くないわ……」瑞希は一瞬、目を閉じた。陽翔を預け、岡部に軽く頷き、マンションを出た。花散らしの夜風が、冷たく頰を撫でる。集中治療室のベッドに、真希は横たわっていた。ビニールの管が何本も体に繋がれ、点滴と酸素マスクが彼女の弱々しい呼吸を支えていた。計測機器には緑色の線が上下し、規則正しいビープ音を刻んでいる。真希の顔は土気色で、髪はパサつき、かつての華奢で美しい姿はどこにもなかった。まるで、枯れゆく花のように——瑞希はベッドの横に立ち、静かに妹を見つめた。真希の目が、わずかに開いた。焦点の合わない瞳が、瑞希を捉える。「……お姉ちゃん……」声は掠れ、ほとんど聞き取れない。真希の指が、シーツを弱々しく掴んだ。「来てくれたの……?私……もう……死ぬの……?」瑞希は静かに頷いた。真希の唇が、震えながら歪んだ。憎しみと、哀れみと、死への恐怖が、枯れた体の中で最後に燃え上がった。「羨ましい……お姉ちゃん……どうして……あなただけが……健康で……自由で……子供を産んで……新しい男に愛されて……幸せそうに生きてるの……?私は……この冷たいベッドで……管だらけで……誰も看病してくれない……ただ、息をするのも苦しくて……枯れて……死ぬだけ……お姉ちゃん……本当に……憎い……でも……私も……こんな体で生まれて……惨め……どうして……私だけが……こんな運命……?」真希の声が途切れ、息が荒くなった。管が体を締め付け、ビープ音が少し速くなった。「お姉ちゃんの子供……私のものに……したかった……陸斗くんも……私のものだったのに……全部……お姉ちゃんが……奪った……死ぬまで……憎い……でも……お姉ちゃん……私を……少しだけ……哀れんで……」真希の目から、涙が一筋、伝い落ちた。それは、純粋な憎しみと、自分の哀れな運命への嘆きが混じり合った、最後の涙だった。瑞希は静かに、真希の手をそっと握り返した。冷たい、乾いた手。かつて双子として、同じ温もりを感じていた手。(真希……私はあなたを憎んでいた。でも、同時に、哀れんでいた。双子であることが、こんなにも残酷で、こんなにも切ないなんて……私はもう、あなたの影ではない。
Last Updated : 2026-05-04 Read more