寒い。凍えるように寒い。四方八方から押し寄せる冷たい海水が、無数の手となって彼女を深い底へと引きずり込んでいく。玲奈は自分がどれほどの時間沈んでいたのかわからなかった。目を開けても何も見えない。目を閉じても何も見えない。海水が口に流れ込み、塩辛くて苦い。咳き込もうとしてもできず、口を開けばさらに水が流れ込んでくるだけだった。幼い頃に通った水泳教室を思い出した。コーチは言っていた。「溺れた時は慌てず、息を止めて、体力を温存しながら上へ向かって泳ぎなさい」彼女は上に向かって泳ごうともがいた。足が動かない。手も動かない。全身を縛られ、ただ沈んでいくことしかできない。深く、深く、深く。やがて彼女は動かなくなった。意識が遠のき始めた時、微かな光が見えた気がした。遠く、ぼんやりと、水面で揺らめく光。次に目を覚ました時、誰かが彼女の頬を叩いているのを感じた。「おい、しっかりしろ。起きろ!」若い男の声だ。少し焦っている。目を開けようとしたが、瞼が鉛のように重い。必死の思いで目を開けると、ぼやけた顔が見えた。その男は彼女が目を開けたのを見て安堵の息をつき、後ろを向いて何かを叫んだ。さらに数人が集まってきて、分厚い毛布を掛けられたり、口に熱いお湯を流し込まれたりした。舌が痺れるほど熱かった。全身がガタガタと震え、誰かが彼女を抱き起こし、強く抱きしめた。「もう大丈夫だ。怖がらなくていい」その人は自分の体温で彼女を包み込み、氷のように冷え切った彼女の足を懐に入れ、両手で彼女の手のひらをこすって温めた。彼の服からは良い香りがした。玲奈は目を閉じ、彼の胸に寄りかかった。もう、疲れ果てていた。再び目を覚ました時、外はすでに明るくなっていた。窓から差し込む朝日がベッドの足元を照らしている。部屋は広く、静かで、ほのかな香りが漂っていた。玲奈は横たわったまま動かず、自分の体を見下ろした。手にも足にも包帯が巻かれている。髪はまだ濡れており、枕には丸く水シミができていた。手足を少し動かしてみた。痛むが、動かせる。ドアが開いた。一人の男が水を入れたグラスを持って入ってきた。玲奈は彼を見て、呆然とした。見覚えのある顔だ。九条宗一郎(くじょう そういちろう)。九条家の長男であり、3年前に彼女と
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