雪荒ぶ道。 轍のついた路面の端で仁花《ニカ》は冷えていくサンダルの爪先を見詰めた。 眺めたところで仕方ないというのに、疲労と絶望で思わず顔を下に向けてしまう。 仁花は両手に大きなナイロン袋を提げ、ありったけの日本酒を持っていた。瓶の重なり合い割れてしまうのを見越し新聞紙を持参したが、あまりの重さに一度雪の上へ袋を下ろした。 普段温厚な義父はいつも仁花を可愛がり、気遣ってくれる。そんな義父の頼みとあっては断れないのだ。例え酒が人格を狂わすとしても、味方になりうるのは義父だけ。 今晩、酒を買いに行って来いと義父が言うもので家を出たが、仁花は義母に車を置いていけと言われ徒歩で三キロ先の個人商店まで出向く事になったのだ。『こんな深夜に店を開けてくれ、なんて……あんた頭どうなってんの〜 ? 』 中年の女は眠そうな目を擦りながら、適当に会計を済ませた。『あんた、歩きできたの ? だって、神代さんとこの嫁でしょ ? あ〜、車は。そりゃペーパードライバーに雪道運転させるの怖いからでしょ ? お義母さん、心配なのよ』 言われた言葉に信用も信頼もない。 他人なのだから他人事。 そんなの当たり前だ。 仁花は真っ赤になった手を見詰め、指をハァっと温める。 闇の雪夜は猛烈な風の吹き流れる音から始まる。 そのうち耳が痛み、ザクザクという雪の感触が足から全身に響き、やがて自分の心音が脳を支配する。 ドクンドクンという頭の中身に感覚の無い爪先。 お洒落どころか服も買いに行く暇がない仁花にとって、この豪雪地帯は予想を遥かに超えた生活だった。「流石にサンダルしか持ってないのは、自分の責任かな」 気を取り直す。 口に出す事で自身の精神を保ちたかった。 前も後ろも小さな街灯がぽやんとしているだけで、目の前の大きな雪はどんどん肩に積もっていく。「ハァ……」 また下を向いてしまう。 もう限界だった。 このまま倒れてしまったらどうなるだろう。朝方、誰かが見つける頃には……。「駄目ね。そんな事は」 ナイロン袋を持ち上げてから、それに気付き全身の血の気が引いていくのを感じた。 雪の上に下ろした一升瓶の一部、雪の間から尖った石ころ頭を出していた。 認識するとすぐに襲ってくる酒の臭いと、先程までに無い袋の軽さ。 慌てて袋の中を覗こうとした時、今度は割れた
Last Updated : 2026-05-01 Read more