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1.神代家

ผู้เขียน: 神木セイユ
last update วันที่เผยแพร่: 2026-05-01 15:02:42

 いつも仁香は南の島の崖に立っている。

 恋人と会うために。

 場所は知らない。何しろ、自分は物心つく前に、庭の手入れの為だけに連れてこられた使用人なのだ。その庭のある豪邸の主人にも名前すら覚えて貰えない。そんな身分だ。

 ある日、生活に色がついた。

 花は美しく、海はどこまでも続くコバルトブルー。

 地平線のスカイブルーがオレンジに変わる頃、仁香はドキンドキンと高鳴る胸を押えて、誰かを待つ。

 庭木がガサガサっと揺れる。

 振り返ると功一によく似た、身なりの良い青年が出てきて、仁香の細い腰を抱きめ、嬉しそうに笑いながら抱えあげる。

 幸せだった。幸せな気持ちだった。

 ──この夢は繰り返し見る夢の断片の一つだ。

 目覚まし時計より早く目が覚める。ダブルベッドだと言うのに、いつからか仁香が隅に丸まって寝るようになっていた。

(腰が痛い……)

 諦めてベッドから出て着替える。ベッドでは功一がまだ寝ていた。

 新婚生活が始まっても、功一の寝顔は交際を始めたばかりの頃と何も変わらない。

 スらりとした眉に彫りの深い顔立ち。

 その寝顔を見る度、仁香は自分にまだ愛があると安心する。まだ消えてはいないと。そう思わないと何かが壊れてしまいそうだった。

 けれど、昨晩は酷い雪の中でも来てくれた功一。功一もまた、始まったばかりのこの義父母との同居生活の板挟みに苦しんでいるだけかもしれない。

 そう思えば些細な事だと、しっかり前を向くのが今仁香にできる事。

「さてと。今日のお弁当はミニメンチカツ ! 」

 仁香はソッと音を立てないように二階の寝室を後にした。

 □□□

「すまん ! 仁香ちゃん ! 俺……またやっちまったか ? 」

 仁香が弁当を詰めていた時に義父の佐喜男が顔を出した。暖簾を掻き分け、どうにも気まずそうな顔で仁香を伺う。

「ふふ。大丈夫ですよ。ただの買い物ですし。いつもの量、切らしてるの気付いてたのに補充しなかったものだから……すみませんでした。

 でも功一さんが途中で来てくれたので助かりました」

「え……功一が ? そうか……珍しい事もあるものだ……。

 最近は帰ってすぐ寝ちまうのになぁ〜」

「ストレスでしょうね。ふふ、元々優しい人なので」

「なにかいい事でもあったんかなぁ ? 」

 佐喜男も功一の最近の変化に気付いていた。しかし、それが本当なら二人は上手く結婚生活をしているのだと考える。

「どうでしょう ? ここに来てから塞ぎ込みがちでしたしね」

 功一は都会の大手不動産屋の営業でとてつもない成績を残し、たちまちエリートコースとなり、そのまま重役に……とはならなかった。

 長男であるという理由でこの家の改装に合わせて同居となったのだ。

 現在はその業績を知った個人経営の同業者に拾われた訳だが、何かと勝手が違い悪戦苦闘している。

「無理に消防団にいれたのがわるかったんかなぁ ? それとも祭りの連盟か ? 

 ここじゃ成人男性は入るのが当たり前だからなぁ」

 仁香はそれに対しては何も言えなかった。田舎の横の繋がりは、仁香から見てもとても面倒そうに思えていた。おそらく功一もだ。

「そうだ、お義母さんは部屋ですか ? 」

「あー、化粧してたよ」

「ありがとうございます」

 仁香は洗濯を終えたエコバッグを手に取ると、しっかり乾いているのを確認しシワひとつなく畳む。

 廊下へ出ると、空気が重い。

 いや、仁香がそう感じるだけなのだが、この新しいはずの家の空気がずっしりと息が詰まるような苦しさがあるのだった。

「お義母さん、おはようございます」

 ノックをすると、不機嫌そうな返事だけ。

 ソッと襖を開ける。

「昨日はこのエコバッグありがとうございました」

 畳まれたエコバッグを一瞥した義母の友紀は、鏡に向き直った。

「はぁ ? それわたしのじゃないよ」

「え ? 功一さんはお義母さんのだと……」

「そんな趣味の悪いバッグ持たないわよ。だいたい、わたしはスーパーで買い物なんかしないもの」

「そ、そうでしたか。失礼しました」

 仁香は襖を閉めると、もう一度エコバッグを広げてみる。

 白地に青い犬のプリントがされていた。

 見た事のないキャラクターだなと、仁香はまた畳むと、キッチンの収納棚に入れたのだった。

「おかしいわ。でもわたしのものではないし……功一さんの物かしら ? そんな感じは無かったけどなぁ」

 そう言いながら、ある事に気付く。

 テーブルに置いておいた弁当が無くなっているのだ。

 毎朝、功一には手渡ししていたはずなのだが。時計を見るが、まだ出勤時間より少し早い。朝食はそのままだった。

「……雪もあるし……そうだよね。いつもより早出よね……」

 行ってきますの一言も無いのかと、少し切なさが過ぎる。

 今日はたまたまだと言い聞かせる。自分だって義母の部屋へ行っていたのだから、探しても見当たらず出ていったのかもしれない。

 きっとそうだと信じたて、朝食はラップをかけた。

「昼にでも食べようかな」

 洗い物を始めると今度はドタドタと廊下を走る音が近付いてくる。

 キッチン横の柱を掴み、仁香に泣きそうな顔を向ける若い女性。

 神代家の元に農業実習生として住んでいる美千花だ。

 保育園児を抱える一人親の美千花にとって、神代家の離れに居住していることも、食事が出るのも有難い環境だった。

 更には、食事の提供は食材ではない。

「大丈夫。ちゃんと作ってあるよ」

「はぁ〜 ! 焦ったァ〜。いつも賢治のお弁当ありがとうー」

 保育園への登園は弁当持参である。美千花達の食事も仁香の役割だった。

「美千花さん、実はお願いがあって」

「何なに ? 」

「お義母さんがどうしても雪道に運転はやめた方がいいって……」

「あ〜、ペーパードライバーなんだっけ ? んー。心配なのかもね」

「それで今日の夕方なんだけど、時間があったらスーパーまで……」

「あ〜、今日はちょっと予定があるの。きゅうり屋さんのバイトくんがね、どうしても会えないかって」

「あ、あぁ。そうなんだ」

「うん。まー、でも。このままでも仕方ないし、運転しちゃえば ? 

 もしくは……塁くんにお願いするとか。あいつ、本とかは自分で運転して買いに行くらしいじゃん」

「塁さんは、まだ話したことなくて」

 この家にはまだ一人、住人がいる。功一の弟、塁である。年子だが功一とは正反対なのか、部屋から出ない……出れない男であった。

「あたしも全然、週一くらいに顔をチラッと見かけるくらい」

「うん。無理はさせられないかな。

 そうだよね。自分で運転しようかな」

「そうしなよ。車、わざわざ買ったんでしょ ? 

 じゃ、弁当ありがと。今日から山向こうの方のハウスだから、雪掻き面倒くさいわ〜。行ってきまーす」

「気をつけてね」

 慣れない家事に、突然の義父母との同居。更に今まで見たことのない大雪に、農作業者が多い近隣環境。

 仁香はまだ、新婚二ヶ月である。

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