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義実家崩壊の原因は私を守る神です〜悪神に魅入られた花嫁〜
義実家崩壊の原因は私を守る神です〜悪神に魅入られた花嫁〜
Auteur: 神木セイユ

0.プロローグ

last update Date de publication: 2026-05-01 14:47:16

 雪荒ぶ道。

 轍のついた路面の端で仁花《ニカ》は冷えていくサンダルの爪先を見詰めた。

 眺めたところで仕方ないというのに、疲労と絶望で思わず顔を下に向けてしまう。

 仁花は両手に大きなナイロン袋を提げ、ありったけの日本酒を持っていた。瓶の重なり合い割れてしまうのを見越し新聞紙を持参したが、あまりの重さに一度雪の上へ袋を下ろした。

 普段温厚な義父はいつも仁花を可愛がり、気遣ってくれる。そんな義父の頼みとあっては断れないのだ。例え酒が人格を狂わすとしても、味方になりうるのは義父だけ。

 今晩、酒を買いに行って来いと義父が言うもので家を出たが、仁花は義母に車を置いていけと言われ徒歩で三キロ先の個人商店まで出向く事になったのだ。

『こんな深夜に店を開けてくれ、なんて……あんた頭どうなってんの〜 ? 』

 中年の女は眠そうな目を擦りながら、適当に会計を済ませた。

『あんた、歩きできたの ? だって、神代さんとこの嫁でしょ ? 

 あ〜、車は。そりゃペーパードライバーに雪道運転させるの怖いからでしょ ? お義母さん、心配なのよ』

 言われた言葉に信用も信頼もない。

 他人なのだから他人事。

 そんなの当たり前だ。

 仁花は真っ赤になった手を見詰め、指をハァっと温める。

 闇の雪夜は猛烈な風の吹き流れる音から始まる。

 そのうち耳が痛み、ザクザクという雪の感触が足から全身に響き、やがて自分の心音が脳を支配する。

 ドクンドクンという頭の中身に感覚の無い爪先。

 お洒落どころか服も買いに行く暇がない仁花にとって、この豪雪地帯は予想を遥かに超えた生活だった。

「流石にサンダルしか持ってないのは、自分の責任かな」

 気を取り直す。

 口に出す事で自身の精神を保ちたかった。

 前も後ろも小さな街灯がぽやんとしているだけで、目の前の大きな雪はどんどん肩に積もっていく。

「ハァ……」

 また下を向いてしまう。

 もう限界だった。

 このまま倒れてしまったらどうなるだろう。朝方、誰かが見つける頃には……。

「駄目ね。そんな事は」

 ナイロン袋を持ち上げてから、それに気付き全身の血の気が引いていくのを感じた。

 雪の上に下ろした一升瓶の一部、雪の間から尖った石ころ頭を出していた。

 認識するとすぐに襲ってくる酒の臭いと、先程までに無い袋の軽さ。

 慌てて袋の中を覗こうとした時、今度は割れた瓶の切っ先が袋の底を割いてしまった。

「そんな……もう嫌…… ! 」

 除雪してできた路肩の雪壁に凭れてしゃがみ込んだ。

 その時──

 さく、さく……っと誰かの足音が近付いて来るのが分かった。

「コウくん」

 夫の功一だった。

 しかし、功一はにっこり微笑むと仁花の肩の雪を払い落とした。

「探したよ。ここにいたのかい」

「…………う……ん」

 様子がおかしい。夫の功一はもっと地元に帰ってたらは田舎生活にストレスが蓄積していて高圧的な人格になってしまった。

 ところが今目の前にいる功一はまるで付き合いたての頃のように、以前のように笑いかけるのだ。

「布のエコバッグなら大丈夫」

 そう言ってナイロン袋から酒瓶を取り出し入れ替えようとする。

「あ ! それ ! 割れちゃっ……え ? 」

 功一が手にする酒瓶はどれもスラリと傷一つ無く、割れどころか漏れてもいなかった。

「どうしたんだい ? 」

「あ、見間違えだったみたい。割っちゃったかと……」

「大丈夫大丈夫。さぁ、ニカ……帰ろう」

 功一は布袋を手にすると、もう片方の大きな手で仁花の肩を抱き寄せ、背を支える。

 辺りには酒の匂いが漂っていた。

「転ばないように」

「あ、ありがとう」

 転ばないように──。

 昔はそんな気遣いもあったはずだ。しかし、今朝も朝食をとると会話もなく職場へ向かう功一がそんなことを言うとは珍しい。

 家の前まで来ると、門灯の下でもう一度、功一を見上げる。

 どこかぼんやりしていて、今は話したくないように見えた。

「ただいま」

「遅い !! 」

 玄関まで聞こえる怒号。

 義父は茶の間から身を乗り出すと仁花にグラスを投げつけた。

 パシッ ! 

 軽い音を立てて、そのグラスを功一が手にとった。

「……」

 義父は顔を顰めたが、ふと功一を見て怪訝そうにするのだ。

「おい、どうした ? 」

「いや……なんかボーっとするんだよ……。

 まあ、いいや。重てぇな。ニカ、自分で持てよ ! 」

「あ、うん。ごめん」

 突き返された布のエコバッグを見て義父は持ってこいと手招きする。

「遅くなってごめんなさい」

「遅いし、吟醸じゃなくて大吟醸らよ ! 」

 呂律の危うい義父のテーブルに酒瓶を並べ追えると、仁花は自分の物ではない古風な柄のエコバッグを手に廊下を歩き、洗濯機の中へそれを入れた。

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