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last update publish date: 2026-05-01 15:07:39

 駅前でいつも功一と仁香は待ち合わせをした。

 都会の冬はいつもビル風が強く、冷たくなった仁香の耳を功一は笑いながらポケットから出した手でぴっとりと触れて温めてくれた。

 仁香は建築会社の事務員を、功一は不動産業の営業の端くれとして仕事上知り合いになった。

 功一の仕事ぶりに仁香の上司や現場から多くの高評価がフィードバックとして上がってくる。土地が絡む話は大抵、揉めがちで大金を支払う者は企業、個人問わず神経質になりがちだ。

 功一の勤めていた梅田不動産は先々代の社長が多くの土地を所有し莫大な資産を築いたが、その息子の代に変わると見る見る間に失速。

 そこで頭角を現したのが功一だった。

 仕事は順調。容姿端麗で愛想がいいのも理由だ。何よりアフターケアがしっかりしているのが好評で、売り終えた土地も問題がないか足を使って動くタイプだった。これがある一定層の古い人間にはとても受けがいいのだった。

 社内での成績を讃えられ、梅田不動産会長から特別賞与が出たこともあった。

 仁香が功一を交際しているのを知ると、周囲の女性たちは皆口々に羨ましいと言って祝福した。男性社員や友人からも、安心安全のお墨付きで、仁香の友人知人にも功一は快く付き合いに顔を出した。

 その頃である。

 功一の実家をリフォームする話が出た。

「交際している女性はいるのか ? 」という佐喜男の連絡に、功一は「いる」と仁香の存在を明かすことになった。

 佐喜男と友紀はリフォームか、立て直しか……または車庫の数や平屋にするかなど、まだまだ決めかねていた。そこで出た一つの話が「長男の功一が帰ってきてくれたら……」と言う望みだった。

 功一には引きこもりの弟、塁がいる。塁が部屋から出ない生活に心配があった両親は、余計に悩んでいたのだ。

 その話を漏らすと、梅田不動産の社長から、個人不動産屋のツテがあるから、もし地元に帰るなら転職先を用意出来る、という事。

 そこからはトントン拍子だった。

 功一が艶々のリングを持ち、仁香の手を握りしめた日もつい最近の事なのだ。

「塁さん、朝食置いておくね」

「はい……」

 塁は完全な『引きこもり』という類ではない。自分の趣味であらばどこまででも出掛けるが、それ以外は友人も無く、高校卒業からずっとこの調子だ。資金は月に友紀から小遣いを貰い、他は持ち物を売ったり、買ったりの繰り返し。

 時々、人のいない夜更けに散歩に行くこともあるらしいが、夏だけだという。

 仁香の料理は置いておけば食べるし、米粒一つ残さず食べ、綺麗に皿を重ねて箸が揃えてドア前に置かれる。

 初めは弟の存在自体に驚いた仁香だったが、なんだか奇妙なペットがとコミュニケーションをてっているような気がしてきて不快では無かった。

 佐喜男と友紀は功一と仁香の結婚式を許さなかった。

 それは式の際に塁を出席させるかどうか、また仁香の家庭が父子家庭である事を聞くと急に態度を改めて反対したのだ。

「どうして功一はあなたのような人を選んだのか……」

「うちの親戚は少し口五月蝿くてなぁごめんな」

「お父さんの職業は ? 庭師 ? いかにも他人に媚びるような……それでこの娘ねぇ。うちの土地に目を付けたのね ? 」

 神代家は多くの土地を持つ地主で、農業は委託。佐喜男は空いている蔵や離れもリフォームすると、兼ねてから農業体験受け入れをしていた規模を拡大し、組合から紹介された農家志望の若者達を住まわせていた。

 殆どのものは志し高く羽ばたいていくか、考えが甘かったと実習から卒業していくが、今離れに住んでいる美千花は別だった。

 実習生として実習場所を転々と町中をうろつきながら、彼女は住む場所が欲しいのだ。

 美千花の生い立ちや離婚の原因を知っている佐喜男は事情を理解した上で住まわせているわけだ。

 そして幼い子供の為にも「とても働き者だ」と吹聴してまわり、実習生で「当たりくじを引いたのね」などと言われると友紀も満更でもなさそうなのだ。

「さてと。働かざる者食うべからず……とか、言われかねないわね。

 今日は気合い入れて、掃除をする ! 」

 仁香ははたきを手にすると袖を捲って意気込んだ。

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