LOGIN南の島の庭園はいつも緑が豊かで、雑草を残らず抜く作業も枝の剪定も苦にならなかった。先にいた同性の使用人達も皆、同じ身分で優しかった。
しかし自分には秘密があった。 いつも仕事が終わると各自、小屋へ戻り話したり水を飲んだり自由だ。その中で、いつもの景色を眺めに行くと嘘をついて自分だけ崖へ行く。いつも自分が先に来ていて、ガサガサと茂みの音が鳴るのを待つ。
そして草木を掻き分けて現れた男は大きく手を伸ばし、自分をきつく抱きしめる。 背中越しに感じる温かさはいつもと変わらない。「待たせた」
二人は身を寄せ合い、愛を語り合う。いつもほんの少し。束の間の癒し。
彼は──島の領主の御子息。誰にも知られてはいけない。
二人は秘密の恋をしていた。□□□
気が付くと仁香は寝室のベッドで横になっていた。
ベッドの縁には功一が座って頭を抱えていた。「功一さん……」
「ニカ……」
功一は迷子になった子供を見つけた母の様な、不安が吹き飛んだ様な笑みで仁香を見下ろす。
寝室は静まり返っていた。「大丈夫か ? 」
「え、ええ」
まだ15:30──早退して帰ってきてくれたのか。
功一はスーツ姿のままだったが実に穏やかで、なんだかベッドの上でこんなに顔を合わせて会話をするのは久々だった。同居してからは夫婦の会話も筒抜けで、お互いを楽しむ時間など持つ気になれなかった。 果たして何週間ぶりだろうと胸がドキンと波打つ。 だが、現実は過酷だ。すぐに引き戻される。「 駄目だわ ! 夕飯 ! 準備しないと ! 」
神代家の家事サイクル。それは『旅館と同じ動きをする』に尽きる。故に食事は17:00〜19:00。19:00には風呂が湧いてないといけない。洗濯に関しては朝に友紀と自分たちの物を、夕刻は佐喜男と美千花の作業服と園児の賢治君の洗濯が待っている。
「20時だよ。
早退ついでにコンビニでお弁当買ってきた。美千花さんとこにも。喜んでたよ。今日は汚れてないから別にいいって。 俺も、今日はニカを休ませるからってはっきり言ってある。大丈夫だよ、休んで」「そんな訳には……。明日の朝ごはんの用意もあるし……」
「母さんがやるから、いいってさ。
それより、奥の部屋に入ったんだな」仁香はぼんやりとした頭で埃を被った白い鳥居の部屋を思い出した。
「あの部屋……何 ? 全然手入れがされて無い……でも確かに神社みたいなもので……」
思い出せない。
何かを視た気がする。 仁香は窓ガラスに写った男をすっかり忘れていた。「何か……あったような……。でも覚えてない」
功一は仁香の髪をサラリと梳くと、愛おしそうに見つめる。
「塁がトイレに行く時、廊下から倒れている姿を見つけて、父さんに連絡をしたらしい。美千花さんとここへ運んだんだ」
「美千花さん…… ? 今日は隣町に行くんじゃなかったかしら……」
「いや ? ずっと父さんと一緒に作業してるよ」
「そ、そうなの…… ? 」
美千花本人は確かにそう言っていたはずだが、思い違いだろうかとそれ以上の追求は出来なかった。
それよりも気になるのはあの部屋の事だが、功一は穏やかに話し始めた。「あの部屋は、俺の祖父が造ったんだよ」
「造った ? なんの神様なの ? 」
「それが……家族にはさっぱり分からないんだ」
「……どういうこと ? 」
功一は眉間をサリサリと擦りながら慎重に言葉を選んでいるようだ。
「新興宗教と言えば、そうなるのかも。祖父は幼い頃から色々なモノが視えたらしいんだ。俺が産まれた頃かな。突然、ご信託があったと言い出してあの部屋を造ったんだ」
「霊能者……とか。そう言う感じなの ? 」
「どうかな ? 見た通り、素人が作った様な物で、部屋の中に突然鳥居があって、あの社も手作りでさ。手水場や賽銭箱がある訳でもないしね。社の中に何があるのかも分からない、狛犬もない。神社の体を成してないじゃないよな ?
でも何かを拝み続けて……そんな祖父を、父さんは嫌ってたよ。俺も友達を家に連れてくることはなかったな」「霊感が強いのは本当だったの ? 」
「別にそれを責めてるわけじゃない。
あの鳥居を建てる時、この家にある仏壇も神棚も、全部庭で燃やしたんだ」思いだして見れば、仁香はこの家のどこを掃除してもそれらを見たことがなかった。新築とはいえ元は大きな地主。遺影や仏壇の一つも無いのは不思議だったが、功一には一人だけ兄がいる。早くに婿養子に遠方へいき、あまり付き合いもなく、美千花のいる離れには勝手に入る訳にも行かず……どこかにはあるのかもしれない、ここには無いだけかと勝手に納得していたのだった。
「あの部屋自体が、この神代家の仏壇であり神棚みたいなものなんだ。
家を建て替える時、手当り次第、住職や宮司に相談したんだけど……どうにも出来ないって言われたらしくてさ」「出来ないって、なんで ?」
「祖父が書いた雑記みたいなのが出てきて、それを読んだ宮司がこのままにしておけって言ったんだ」
「そんな……それで新築にわざわざあの部屋を繋げたの ?
その宮司さんは来てくれないのかな ? 」「死んだよ」
「……」
「どうしてもこの部屋を処分したい父さんが頼み込んで、護摩焚き供養の日取りが決まってた。その予定日の直前に」
「悪いものなの ? あそこは開けちゃいけなかったんだね」
仁香の呟きに、功一は目を丸くした。
「そんなことないよ。いつでもおいで──」
「……え ? 」
功一はすぐベッドから立ち上がった。
「……おいでってそういうこと ? 」
「……はぁ〜……全く。面倒かけんなよ」
功一は手のひらを返したように悪態をつき始めた。
「ええ。ごめんね」
仁香はそう返したが、何かが引っかかった様な気分にかられた。
「お祖父さんは……何を祀ってたんだろう」
「さぁね。会社からわざわざ早退するんじゃなかったな」
「こんな場所に呼び出しやがって ! 」 功一が草木を掻き分けて進んでくると仁香も美羽も既に準備済みだった。 納屋の前に並ぶ供物に周辺を囲う紙垂の付いた縄。「クソ ! 」 一歩踏み込んでしまった功一の靴は地面にズブズブと飲まれていく。「逃げられません。納屋の中に呪術が……まさかこんな場所にあるなんて」 功一の祭壇は納屋の中にあった枯れ井戸の奥底に確認された。「功一さん、この土地を売ってどうするつもりだったの ?」 功一は無言でそっぽを向く。「おそらく、井戸を潰さない事を言い付けて売るつもりだったのだろうね」 井戸は古来より塞いではいけないものだ。恐らく守られるだろう。「でも今日までだ。わたしが責任持って護摩焚きする。 異界の悪神とは今日これまで」 美羽が大きな壺の蓋を開ける。「それでも仁香さんに礼を言うのね。貴方達を無の世界に放り込んだりしないそうよ。 そしてこの壺に二人を封印したらわたしが持ち帰る。 一生分の祈祷料を払ってでも、佐喜男さんや塁さんに呪いが降りかからないようにとね。配慮したのよ。貴方も神代家も、仁香さんには感謝しなさい」 やがて美羽の経が始まった。 一瞬、仁香と変貌した功一の視線が絡んだ。「糞女ぁぁぁっ」 ルシウスだったものから視線を逸らすと、仁香も美羽の側で手を合わせ始めたのだった。 □□□□□□ 雪解け水が流れる川の上。 高速道路へ向かう大きな橋の手前のスペースにて、塁の運転で来た佐喜男と友紀が二人を見送りに来た。 仁香と功一は再び都心部へ戻り、別居を決めた。 本来仁香の家へ婿へ入るべきと美羽に言われたが、塁にもしもの事があったらと、功一は事情を理解したあとも首を縦には振らなかった。「近いうち、お伺いしたいから……仁香さん、お父様に予定を聞いていただけるかしら」 友紀の様子はまさに憑き物が落
美羽は経を止めると、ゆっくりと仁香の方へ向き直る。 感覚か雰囲気か。 仁香と美羽の視線が合う。けれど互いに先程までと違った空気が張り詰める。「あんたが……あぁ、あんたがそうかい……」 美羽の唇から漏れる声は何故かとてもしゃがれていた。「俺ぁ、ちゃんとここに造ったんだぁ」「まさか。あなたは……」「ん。功一が産まれた時になぁ。俺がここを造ったんだぁ。 引戸の奴には随分止められたけど、悪神等を封じ込めるにはこの世界の神仏では無理だから」「功一さんのお祖父さん !! でも……それなら男性が短命という噂は…… ? 」「祭壇を造ってから止まっただろう ? もともとは悪神親子の呪いのせいで、一族は呪われてた。 別な次元ってのは存在するんだ。自分たちと同じ魂の構造で。ルシウスと父親は……ガルンと言ったか、向こうの世界で魂を封じ込められ、行き場を彷徨いやがて自分たちと同じ構造の魂がいるこの世界へ目を付けやってきた」「お祖父さんは何故、気付かれたのですか ? 」「もともと引戸んとこは口寄せができる爺様がいてなぁ。神代家に忠告はしていたのさ。 たまたま俺が建てただけで、親族は皆、神代家に憑く悪神の存在を耳にしてはいたんだ。 しかし、この大きな家がそういった行動を許さんで。 俺が祭壇を建てたときは本当に反対されたな」 神代家に憑くルシウスと領主。その存在が悪神とされ歴代当主の寿命を奪ってきた。「じゃあ、やっぱり祭壇を撤去したらまた神代家の寿命は……」「そうだな。また呪いが始まるだろうな。 だがな、巡り巡ってようやくあんたが神代家へやってきた。功一にとってはあんたと一緒にいるのが一番いいんだろうな。 だからね。本当の祭壇を見つけたら、この住職さんに焚
「では二階に」 仁香が美羽を誘導しようとすると、美羽がスッと片手を上げて制する。「ごめんなさい。暫く無言になるわね。 あと、美佳はどっか行ってて」「もう。ごめんね。じゃあわたしこっちにいていい ? 」 そう言い美佳はリビングの窓辺の椅子を指した。「はい。大丈夫。あ、よかったらカウンターのお菓子でも」「ありがと♡」 仁香が振り返った頃には既に美羽は階段下からジッと一点を見上げるように固まっていた。「……ああ、そう。じゃあいいけれど」 何やら独り言を呟き仁香へ向き直る。「こういうのってさ。抜き打ちで来ないとバレちゃうんだよね」「でも、誰にも言ってないのに…… ? 」「昨日、電話は部屋でしたんでしょう ? 」 確かに連絡を取ったときは寝室にいた。「あの時、功一さんも一緒にいたわ。寝てたけど……それは大丈夫ですか ? 」「それはその子がどうにかしてくれたみたい」 そう言い、仁香の足元を美羽がいう。しかし、仁香には何も見えないのだ。「多分、たぬきかなぁ…… ? 野生動物を保護した事無い ? 」 仁香には確かに覚えがあった。「父親の仕事の関係で。たぬき……引き取ったことがあります。 凄い。どうして分かるんですか ? 」 仁香の質問に美羽は難しそうな顔をして語った。「この子はずっと仁香さんに憑いてた良い子なんだけど、あの祭壇をきっかけに力をつけたのね。物音を聞いたことない ? 足音とか」「そういえば、祭壇を見つけた日も物音が……昨日も」「今回の事は無責任に聞こえるかもしれないけど、前世の関わりの中で今世で回避できなかったイベントみたいなものなの。深く落ち込まないで」「はい……」
「ルシウス様、大丈夫なのですか ? 」「ルシウス様 !! 」 庭にいた女たちが屋敷から出てきたルシウスに群がった。ルシウスはすっかり血に塗れたシャツを脱ぎ捨て、普段は袖を通さない法衣に身を包んでいた。「ルシウス様、太陽神に選ばれたと聞きました。おめでとうございます。 ところで。その……ミレアという私の友人を見掛けませんでしたか?」「ああ、君は確かいつも彼女とペアを組んでいた娘だね。 これから行くところにいるはずさ。一緒に来るかい?」「はい ! お邪魔でなければ」 他の奴隷たちの羨む視線を振り切り二人は門を出る。「あの、ミレアは敷地の外には行かないと思いますが」「君は知ってるんだろ ? ミレアはアスターといるよ 」「そうですよね。ルシウス様にはバレちゃいますよね」「君、名前は ? 」「エリーです」「そうか。エリー。さあ、あの丘の上だ」 ルシウスはすぐ門から出て岸壁沿いにある小さな遺跡を指した。 海から吹き上がる潮風で風化した、形の崩れた物だ。背丈ほどある大きなリング状の祭壇だったが、崩落してからは太陽神の祀りは街中で行われるようになった。 街中で太陽神を民衆が拝むのとは違い、まさにここは本殿だ。 岸壁からは広大なコバルトブルーの海が見え、大きな夕日が沈む直前だった。「太陽神の遺跡……」 エリーは辺りを見渡すと不思議そうにルシウスを見上げた。「二人はどこに?」 ルシウスもまたエリーを見下ろした。 ボロを着ていてもしっかり結ばれた服の袖、まとめられた髪。そしてその表情は無邪気さはなく、明らかにルシウスに警戒心を顕にしていた。「大人しくしていろ」 突然、笑みの消えたルシウスにエリーは素早く反応した。 ガギィ!!「クソッ ! 何様のつもりだ !? 」 エリーは隠し持っていた鉄の棒で、ルシウ
朝起きると何やら一階が騒がしい。 昨日と同じく、佐喜男が騒ぐ声。それともう一つ。 事務的な口調で話す男の声。「仁香さん……」 美千花が不安そうに仁香に寄ってきた。「犯人……。馬宮って人と身分証盗んだ人、見つかったんですって」「え ? じゃあ何に騒いでるの ? 」「相手が雇いのホームレスの方みたいで……。口座のお金、使いまくったとか」「え、でもそれは返すように警察のほうで……」「うーん。無理じゃない ? そうなると、あのホームレスに財産がないと。無いものはないって感じでさ。泣き寝入りコースだよ」「そんな……」 そのうち制服を着た警官に連れられ、佐喜男と友紀は署へ同行して行った。「わたしももう行かなきゃ。仁香さん、お弁当ありがとう。 行ってきまーす」「いってらっしゃい」 神代家から人が消える。「ほんとに一人になっちゃった……あ、違うか」 塁は自室にいるはずだ。「折角だけど美佳さんが来る前に内職は終わらせて置かないと」 茶菓子があるのを確認したあと祭壇の部屋へと戻る。「え ?! 」 端に寄せてあった段ボールの山が動いていた。 荒らされたと言うよりは、並べられた感じで、仁香は恐る恐る箱の中身を確認した。「…… !? 」 終わっている。 すべての作業、一週間分の中身のセロハンの包みから箱詰めまですべてが済んでいた。「……」 思わず祭壇を見上げる。 昨晩、この部屋に来てから、トイレと入浴以外は空けていないのだ。 神がかり的力でもない限りは無理な作業量だ。 領主の男はそんなことはしないだろう。
「会食に来ないからどうしたのかと思ってたら、警察沙汰になってたぁ !? 」「強盗が奪った物がなんなのかわからなかったんです。功一さんから直近の契約の流れを見てまさかと確認しましたら……」「功一 ! お前の先輩だったんだよな ? 」 功一の顔は仁香からは見えない。しかし、どこか功一は他人事のように「まぁ、そうだな」などとあやふやな返事を返すのみだ。「ひ、被害届は出しましたんで ! 」 竹田が佐喜男をなだめようとするが、収まらない 。無理もない。 太陽電設という感謝もダミー。馬宮という男の存在しか分からない状況だった。「そもそも権利書だけでは売買は成立しません ! 本人の同意書から身分証明書、印鑑証明、全てないと ! 」「俺、それを既に功一に渡してんだよ ! 」「えぇっ !!? 」 ここでようやく、竹田はそばで正座したまま呑気に出された茶を啜る功一を愕然と見上げた。「こ、功一くん…… ! つい先週のお客様だろ ? そんな急ぎ早で契約をするなんて…… ! 」「前の職場では契約はスピード命でしたし。 馬宮先輩もまともそうに見えたので、すっかり……。しかもまさか強盗に入るなんて」「強盗に入ったのが馬宮っての本人で契約に関するものをとりもどせればいいが、これが特殊詐欺だと流石に……細分化されて追いようがないかもしれません」「いや、冷静に考えて。ここの土地を買ったなら持ち主を辿ればいいだけだ。そこから遡ればいいだけで」 そこで竹田が疑わしい目で功一を見始めた。「お父さんの実印やらなんやら……なんで借りる必要あったんだ ? 書類だけで済むものを、なんでうちに持ってきた ? 」「最近多忙でしたので、スキマ時間にやろうかと」「それは通じないだろ 。 佐喜男さん、その土地。最近見に行かれましたか ? 」
想定外か、予想通りか──朝起きると、家事は何もされていなかった。 佐喜男と友紀の食べた弁当の空が、乱雑にシンクへ置かれていた。「はぁ……」 思わずため息が出る。 しかし、早寝をしたせいか寝起きがよく、いつもより早い時間にスッキリ目を覚ました。今から炊飯をしても間に合うだろう。 キッチンのカウンターには弁当箱の入ったランチバッグが二つ。 一つは美千花の息子 賢治のものだ。中身を見て好き嫌いをチェック。嬉しいことに昨日も完食。少し嬉しくなる。 功一の弁
部屋から部屋へ掃除機を犬のように連れて歩く。 友紀が自室からひょっこり顔を出すと、トイレへ向かった。 その間に掃除しろ、というサインなのだ。「ホイホイホイ〜」 さっさかさっさか。 作業だ。 これはただの掃除。家事だ。 そう思わないと心が病んでしまう気がして、小声で窓を開け埃を逃がす。(大丈夫。先月まではこの部屋に入れてもくれなかったんだから。考えれば自分の部屋を勝手に掃除されるっていう方も負担よね。 わたしも理解しなくちゃ……)
駅前でいつも功一と仁香は待ち合わせをした。 都会の冬はいつもビル風が強く、冷たくなった仁香の耳を功一は笑いながらポケットから出した手でぴっとりと触れて温めてくれた。 仁香は建築会社の事務員を、功一は不動産業の営業の端くれとして仕事上知り合いになった。 功一の仕事ぶりに仁香の上司や現場から多くの高評価がフィードバックとして上がってくる。土地が絡む話は大抵、揉めがちで大金を支払う者は企業、個人問わず神経質になりがちだ。 功一の勤めていた梅田不動産は先々代の社長が多くの土地を所有し莫大な資産を築いたが、その息子の代に変わると見る見る間に失速。 そこで頭角を現したのが功一だった。 仕事
いつも仁香は南の島の崖に立っている。 恋人と会うために。 場所は知らない。何しろ、自分は物心つく前に、庭の手入れの為だけに連れてこられた使用人なのだ。その庭のある豪邸の主人にも名前すら覚えて貰えない。そんな身分だ。 ある日、生活に色がついた。 花は美しく、海はどこまでも続くコバルトブルー。 地平線のスカイブルーがオレンジに変わる頃、仁香はドキンドキンと高鳴る胸を押えて、誰かを待つ。 庭木がガサガサっと揺れる。 振り返ると功一によく似た、身なりの良い青年が出てきて、仁香の細い腰を抱きめ、嬉しそうに笑いながら抱えあげる。 幸せだった。幸せな気持ちだった。 ──この夢は繰り返し







