神崎美月(かんざき みつき)が俺、如月悠冬(きさらぎ ゆうと)との三十二回目の結婚式をすっぽかしたのは、彼女の九百九十九件目となる勝訴の祝賀会でのことだった。この祝賀会は森下蓮音(もりした れおん)が彼女のために張り切って企画したものだ。会場にいる全員が蓮音こそが彼女の恋人だと思い込んでいた。「神崎さんと森下さんは幼馴染でお似合いのカップルだ。この最高にハッピーな雰囲気なんだし、ここは熱いキスの一つでも見せてもらわないと!」「賛成!見たい見たい!キス!キス!」そんなキスを促すはやし立てる声が俺の耳に突き刺さる。籍を入れて三年、一度もその存在を公にされなかった「本物の夫」である俺は、会場の隅に身を潜めるしかなかった。美月が甘くとろけるような熱い視線を蓮音に向け、ためらうことなく彼と身を寄せ合い……大勢の目の前で、唇を重ねる光景をただ黙って見せつけられていた。宴が終わった後、美月との関係が周囲にバレるのを恐れた俺は、一足先にホテル近くの交差点へ向かい、美月を待った。やがて黒い車がゆっくりと近づき、窓が下りた。助手席には、ぐっすりと眠る蓮音の顔があった。美月は俺に視線を向けると、いつものように悪びれもせず、当然といった口調で告げた。「あなたは自力で帰って。私は蓮音を送っていかなきゃいけないから」俺は目を伏せ、押し黙った。美月は極度の潔癖症で、自分の車に他人の匂いが残ることを絶対に許さなかった。以前、彼女のその強情な性格のせいで、重要なクライアントを怒らせてしまったことがあった。あの時、俺は胃に穴が空くほど酒を飲み、彼女の代わりに頭を下げて回ったのだ。しかし、すべてが終わった後、彼女は眉をひそめ、露骨に嫌な顔をして俺にこう言い放った。「あなた、お酒臭くてたまらないわ。自分でどうにかして帰ってちょうだい」あの日、彼女は雪の降る郊外に俺を一人置き去りにした。俺は四時間も歩き続けて、ようやく家に辿り着いた。それなのに今、泥酔した蓮音は彼女の助手席で安らかに眠っている。そうか。彼女の潔癖なルールは、俺に対してだけ適用されるものだったのだ。俺は自嘲気味に口角を上げ、努めて平穏な声を絞り出した。「明日の結婚式には、来てくれるのか?」美月は一瞬ためらってから答えた。「今夜は蓮音の看病をしな
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