All Chapters of 賜婚の宴でやり直し――クズ皇太子から叔母上と呼ばれた: Chapter 21 - Chapter 30

30 Chapters

第21話

そこまで言うと、沈薬の喉が熱くなり、また涙がこぼれそうになった。普段は何も気にせず、明るいふりをしているが、本当は悲しくてたまらず、彼らに会いたくて仕方なかったのだ。後になって、沈薬はいくつかのことに気付き始めた。例えば、なぜあんなにも謝景初を追いかけていたのか……もしかすると、かつては本当に彼が好きだったのかもしれない。あるいは、喪失の苦しみから逃れるための、ただの拠り所に過ぎなかったのかもしれない。沈薬は必死に涙を抑え、静かに続けた。「今はただ、靖王殿下が目覚めるのを待っています。どれだけ時間がかかっても、私は待ち続けるつもりです」線香を供え、沈薬は深く頭を下げた。お堂を出ると、思ってもみないことに、謝景初と謝長宥がまだ残っていた。ということは、先ほど中で自分が言った言葉も、彼らには聞こえていたのだろうか?「叔母上、一緒に千味閣(センミカク)に行かない?」謝長宥が嬉しそうに沈薬を誘う。「太子兄上とあそこで朝食を食べようと思ってるんだけど、三人で一緒にどうかな?」沈薬はすぐさま首を振った。「靖王府に帰るから、私は遠慮しておくわ」それでも、謝長宥は食い下がった。「行こうよ!昔はよく三人で千味閣に美味しいものを食べに行っただろ?あの頃は楽しかったのに……」沈薬は揺るがない。「昔はまだ子供で、結婚もしていなかったから、好きなところへ行けたけれど、今はもう違う」謝長宥はなおも言葉を紡ごうとしたのだが、「数日後に安宜の誕生祝いの宴がある」と、謝景初が不意に口を開いた。「来るのだろうね、叔母上?」謝景初は、わざと「叔母上」という言葉を強調して言った。沈薬は前世でのこの誕生祝いの宴を覚えている。前世では、彼女と謝景初の婚約が決まった直後だった。五番目の姫の誕生祝いであるため、当然彼女も参加した。安宜が自分を気に入っていないことは知っていたが、いずれ義姉になる身として心を込めて贈り物を準備し、贈ったのだ。だが宴の席で、思いがけない出来事が起こった。沈薬と謝景初の関係がさらに悪化しただけでなく、望京(ボウケイ)中、つまりは都中の笑い者になってしまったのだった……「叔母上、緊張することはない」謝景初は沈薬を見据える。「誕生祝いの宴といっても、大勢の客を呼ぶわけではない。身内の他に、母上は都の良
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第22話

沈薬は靖王府に戻った。馬車を降りるなり、趙女官にばったり会った。「王妃様、やっとお帰りに!」沈薬は思わず尋ねる。「どうしたの?何かあった?まさか靖王様が?」沈薬が緊張しているのを見て、趙女官は慌てて手を振った。「靖王様はご無事です」しかし、顔を曇らせる。「実は……周叔母様の長女、薛浣溪(セツカンケイ)様が、また王府にいらしているのです」沈薬は少し戸惑った。「薛浣溪?」趙女官は詳しく説明する。「薛浣溪様は薛将軍と周叔母様の長女で、靖王様より一つ年下、そして昔から靖王様に想いを寄せておられました。数年前、薛将軍がまだご健在だった頃、薛浣溪様は靖王様に嫁ぎたいと何度も申し出たそうなのですが、薛将軍はその縁談には賛成せず、自分の配下の副将に嫁がせるおつもりでした。しかし、薛浣溪様は頑として聞き入れず、泣き喚いてその縁談をふいにしてしまったのです。その後、薛浣溪様は伯爵府の三男様に正室として嫁がれました」沈薬は頷いた。「伯爵府なら、とても良い縁談ね」「良さそうに聞こえますが……」趙女官は少し顔を近づけ、声をひそめた。「三男様はお体が弱く、夫婦の営みがうまくできず、薛浣溪様はそれに不満を抱き、外で何人か男を作っているらしいです」沈薬は困惑した。そして、思わず趙女官に聞き返す。「腹いせに、外で男の人を探して、その人たちに伯爵家の三男様を殴らせているの?」この言葉に、趙女官は言葉を詰まらせた。盛朝の娘たちは嫁ぐ前に、夫婦の事情について、結婚後どうすれば子供を授かることができるか、家で教わってくるものなのだが……沈薬の事情は特殊だった。沈薬の両親が健在だった頃、彼女はまだ幼すぎた。そして、嫁ぐ年齢になった時には、教えてくれる人など、誰もいなかったのだ。前世で、謝景初に嫁いだものの、死ぬまで彼と夫婦の契りを結ぶことはなかった。そのため、沈薬には分からないことが多すぎた。趙女官は言葉を選んで言った。「薛浣溪様は三男様を殴ったりはしません。外で知り合った男たちと度々出かけて遊んだり、あるいは三男様が留守の隙に、男を家に連れ込んで男女の交わりをしているのです」男女の交わりという言葉が出た途端、沈薬はたちまち顔を赤らめた。彼女にもようやく、それがどういう意味なのかが理解できた。趙女官は続けた。「数年前、
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第23話

薛遂川は震え上がりながら、事の顛末をすべて話した。そこで周氏は初めて、沈薬が自分を騙していたことを知ったのだ。薛遂川は沈薬の容色に惹かれ、部屋に忍び込んで手を出そうとしただけだったのに。そんなほんの些細なことなのに、沈薬はでたらめをでっち上げ、あろうことか薛遂川が靖王様を暗殺しようとしたなどと言いがかりをつけた。しかもそれを口実に、自分から通行札まで取り上げたなんて。周氏は全く怒りが収まらなかった。薛浣溪がまだ葡萄を食べているのを見て、周氏は乱暴にそれを止める。「食べるのはもうおやめ!毎月あなたが男を養うのに使っている銀は、誰が出していると思っているの?もしこの靖王府が本当にあの小娘の手に渡ってしまったら、どこから銀を引き出せるっていうのよ!」そこまで言われてやっと、薛浣溪の目が動いた。彼女は葡萄を噛んで飲み込み、手巾を取り出して口元を拭う。「お母様、焦らないでください。人も事の段取りも、とっくについているんですから」周氏は呆気にとられた。「段取りがついている?」薛浣溪はにやにやと笑った。「私も名ばかりの妻みたいなものだから、寂しい思いをする辛さはよく分かっているんです。あの王妃が何を望んでいるか、私が分からないとでも思いますか?今日は、とっておきの隠し玉を用意してきたんです。王妃は必ず私の罠にはまりますから。お母様は大人しく見ていてください」……一方。部屋に戻る途中、沈薬の耳に怒号が響いた。「どこに目をつけてやがる!薛様のものに手を出そうなんて!ぶち殺してやる!」続いて、拳や蹴りが肉に当たる鈍い音が聞こえる。沈薬が声のする方を見ると、円窓越しに、体格の良い下男が地面に倒れている少年に殴る蹴るの暴行を加えているのが見えた。少年は身を丸め、必死に両手で頭を抱えていたが、痛いという声一つ上げない。沈薬は眉をひそめた。趙女官がすかさず大声で叱りつける。「やめなさい!」下男は慌てて手を止め、沈薬に恭しく礼をした。「王妃様」沈薬は尋ねた。「何をしているの?」下男は地面の少年を指差した。「王妃様、この小僧は図々しくも薛様のものを盗もうとしたのです!幸い私が見つけて取り押さえました」沈薬は理解できなかった。「捕まえたなら、品物を取り返せばいいじゃない。どうして殴る必要があるの」地面
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第24話

下男は手を止め、彼女を見た。沈薬は言った。「彼は筆を壊したけれど、弁償する銀を持っていないのでしょう。殴り殺したところで銀は手に入らないし、無駄に体力を消耗するだけ。割に合わないわ」少年はまた笑った。目尻を吊り上げ、沈薬をじっと見つめる。「いっそ、王妃様が私をお買い上げになりませんか?」少年が声を潜めた。「私は何でもできますよ」その囁かれた言葉は、毒蛇が獲物に向かって赤い舌をチロチロと出す様にそっくりだった。傍らで見ていた趙女官は、たちまち心の中で警鐘を鳴らした。彼女は宮中を出た身であり、修羅場をくぐり抜けてきている。今日この少年が殴られていたのも不自然なほど唐突で、王妃様に見せるために誰かがわざと仕組んだことのように思えた。その上、この少年の顔立ち、とりわけあの両目は、東宮の皇太子様に似ている。趙女官は思わず、心配そうに沈薬を見た。王妃様はどうなさるおつもりだろうか?「いかがですか?」少年はなおも低い声で誘惑した。その声は魅力的にかすれ、ひどく人の心をそそる。「これから、私が必ず王妃様を気持ちよくさせて差し上げますよ?」しかし、沈薬はかえって不思議そうにした。「私を気持ちよくさせて何になるの?弁償のための銀は出さないわよ」少年は呆気にとられた。沈薬は下男に向き直る。「正直に言うわ。彼を殴り殺しても無駄。それより裏庭の馬小屋へ連れて行って、馬の世話をさせなさい。普通の馬番の給金で計算して、あの筆の代金を払い終わるまで、馬小屋に置いておきなさい」下男は一瞬、状況が飲み込めなかった。少年も再び呆気に取られ、信じられないという顔をした。「馬……馬小屋?」沈薬は彼を横目で見やった。「何でもできると言ったでしょう?だったら、あなたが馬を気持ちよく世話してくれればいいのよ」少年は言葉を失った。そ、そういうことではないのだが……「王妃様……」下男はようやく我に返り、弁解しようとした。何しろ彼が受けた命令はこんなものではなく、この少年を沈薬の寝台に送り込めというものだったのだから。「どうしたの?」彼が口を開く前に、沈薬は理解しているとでも言うように、下男に向かってコクリと頷く。「分かるわ。彼が真面目に馬の世話をしないんじゃないかって心配なのね。安心して。ちょうど私のそばに護衛が二人い
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第25話

作業を終えた頃にはすっかり日が暮れており、沈薬は寝支度をして寝台に横になったが、興奮して眠れなかった。謝淵は彼女が隣で寝返りを繰り返すのを感じていた。その心地よい茉莉花の香りが、時に濃く、時に淡く漂ってきた。鼻先を香りにくすぐられ、少しむず痒い。すると、突然沈薬が横向きになって謝淵の方を向き、小声で言った。「私、もう我慢できないんです……」謝淵は困惑した。彼女は……何をするつもりだ?続いて、沈薬が苦悩するように言った。「靖王殿下……私、実はおしゃべりなんです。これ以上黙っていたら、苦しくておかしくなっちゃいます」謝淵は言葉を失った。なんだ……話すのか。てっきり、別のことかと……「そうだわ」沈薬はふと思いつき、寝台にうつ伏せになり、両手を枕について上半身を起こした。「靖王様にお話ししますね。どうせ寝ていて聞こえていないようなので」自分が何を言っても、彼には聞こえない。沈薬はそう思い、話し始めた。両足を立てて悠然と揺れながら、上機嫌で語り出す。「今日、帳簿を全部整理したんです。過去一年の帳簿を見直して、今月の祝言の収支も大体計算しました。次は王府の人員を確認しようと思っています。下男や侍女、護衛も、馬だって見逃しませんよ」謝淵は眉を上げた。将軍府は確かに彼女をしっかりと教育しているようだ。「今日、皇太子殿下に目が似た少年にも会ったんです。薛遂川の筆を盗んで壊したとかで、下男が彼を蹴ったり殴ったりしていました。なのに、その少年は、なぜそんなことを言うのかは理解できないのですが、私のそばに来て、私を気持ちよく世話ができるなんて言うんですよ……」謝淵の頭に疑問が浮かぶ。「でも、青雀や丘山、銀朱が十分よくお世話をしてくれていますから、もう十分気持ちいいんです」謝淵は沈黙した。将軍府はそういうことを、彼女に全く教えていないのか。「だから、彼らには少年を殴らずに、馬小屋へ送るよう命じました。実は、私なりのちょっとした下心もあったんです……」謝淵は内心不快になった。下心と言っても、彼が殴り殺されるのを黙って見ていられなかっただけだろうし、どうせ謝景初に似ているから、憐れみを感じたに違いない。しかし沈薬はにこにこと笑って言った。「だって私、謝景初が馬の世話をしている姿を、どうしても見てみ
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第26話

周氏は一瞬呆気に取られた。馬小屋?「まさか馬小屋とはね!」薛浣溪は鼻で笑い、口元にからかうような弧を描いた。「王妃も用心深いこと。馬小屋に人を隠しておいて、こんな時間にこっそり密会に行くなんて!」外はもう暗くなっている。二人が干し草の山や小屋の裏に隠れてしまえば、何をしていようと、他人はしばらく気付けないだろう。周氏は興奮のあまり顔を赤らめた。「それなら、早く現場を押さえに行かなくては!」しかし薛浣溪は彼女の手首を掴んだ。「お母様、焦らないでください!」「これが、焦らずにいられるもんですか!せっかく巡ってきた機会なのに!」周氏は声を荒らげる。「今行っても、まだ服も脱いでいないかもしれないわ」薛浣溪はこの手の経験が豊富だった。「半刻ほど待って、盛り上がっているところを捕まえるんです。そうすれば逃げようにも逃げられず、素っ裸のまま捕まえることができますから!」周氏はその光景を思い浮かべ、思わず笑い出しそうになった。……今日、沈薬は青雀だけを連れて馬小屋へ向かった。人員と馬の数を確認したが、問題が起きた。馬の数が合わないのだ。一同を集めてまで調べた。馬が貸し出されたのか、それとも以前の記録が間違っていたのか?長い時間をかけて、ついに真相が判明した。馬は貸し出されてもいないし、記録違いでもなかった。その馬は、死んでいたのだ。しかも今日、死んだばかりだった。あの少年が、餌のやり方を間違えて殺してしまったらしい。沈薬が向かうと、遠くから怒声が聞こえてきた。「……お前の首の上に乗ってるそれは一体何なんだ?中には何が詰まってるんだ?泥か?王妃様が寄越した奴だからと思って、重労働はさせずに、ただ水や干し草をやるだけの仕事にしたってのに!一日中サボって疲れただの文句を言うだけならまだしも、今夜とうとう馬を死なせやがって!」沈薬が声のする方へ行くと、背の高い男が数日前の少年を叱りつけていた。少年は確かに謝景初に似ており、粗末な布の服を着て、鼻先を指さされて散々に罵られているその姿は、見ていて実に痛快だった。沈薬はその光景をしばらく楽しんでから、前へ進み出た。少年は彼女を見るなり瞳を輝かせ、「王妃様」と呼んだ。その声の調子は艶めかしく、まるで恋人同士の甘い囁きのようだった。沈薬は聞いていて鳥肌が
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第27話

しかし少年はなおも囁いた。「身分など要りません。ただ王妃様のおそばにいられれば。私は何でもできますから……」沈薬は彼を遮った。「何でもできるくせに、馬を一頭死なせたのね?」少年は呆気にとられた。「え……?」「もともとあなたは筆一本の代金を返すだけだったんだから、数日馬の世話をすれば借金は返せたはず。それなのに、あんな立派な馬を死なせて。あれは北の草原で買い付けた優良な品種で、軍馬なの。あなたよりずっと価値があるわ。私が今日、王府の馬の数を確認しに来なかったら、こんなことになっていたなんて気づかなかった」沈薬は本気で怒っていた。将軍府で育った彼女は、軍馬がいかに貴重なものかよく知っているのだ。その上、こんなことさえ起きなければ、とっくに帰って寝られたのに、こんな時間まで無駄に過ごすことになった。少年は明らかに呆然としていた。「私は……」「こんなことなら、あなたを馬小屋へ送るんじゃなかった。馬に餌をやるくらいなら、頭を使わなくてもできると思ったのに、まさか馬を死なせるなんて……何でもできるって言ったのにね」沈薬の言葉の端々に軽蔑が溢れていた。少年は恥ずかしさから、顔を真っ赤にした。「私ができるというのは、馬の世話ではなく……」しかし、沈薬は不機嫌そうに言った。「分かってるわよ。寝台での男女の交わりのことでしょう」沈薬はよく分かっていなかったが、熱心に学ぼうとする姿勢はあった。この二日間、彼女は趙女官に教えを請い、もはや純真で何も知らない以前の沈薬ではなかった。少年は唇を噛んだ。少し間を置き、彼は階段を降りて、地面に沈薬に向かってひざまずいた。「王妃様がそのようにおっしゃるのは、まだご経験がないからにすぎません……今日、私に会いに来て、わざわざこんな場所へ来られたのは、まさかただ叱るためだけではないでしょう?」少年は顔を上げ、細い首筋から顎にかけて優美な曲線を描いた。彼はひざまずいたまま膝を動かし、一段、また一段と階段を上って彼女に近づいた。「王妃様。今夜は、私にお世話をさせてください……」彼の手が沈薬の両足に伸び、沈薬が蹴り飛ばそうとしたまさにその時。遠からぬ場所から、突然罵声が弾けた。「この恥知らずな女!深夜に馬番と密会するとは!」沈薬が目を向けると、周氏が大勢の侍女や女官を連れて、物凄い
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第28話

木の車輪が地面を転がり、ガタガタという音を立てた。沈薬が顔を上げると、謝淵が車輪付きの木椅子に座り、青白くも端正な顔で、丘山に押されてゆっくりと近づいてくるのが見えた。彼女は驚きと喜びに満たされた。謝淵がまた目を覚ましたの?でも……どうしてこっちへ向かってきてるの?沈薬は不安にならずにはいられなかった。先ほどの会話を、謝淵はどこまで聞いていたのだろう?考えている間に、車輪のついた木椅子は近くも遠くもない場所で止まった。「靖王様、良いところへいらっしゃいました!」周氏は言葉を取り戻し、沈薬を指差して謝淵に訴えた。「ご覧なさい、これが沈家の娘の正体です!嫁いできてまだ数日だというのに、靖王様が昏睡状態なのをいいことに、裏で馬番を囲い込み、夜更けにこんな場所で破廉恥な真似をしていたのですよ!」何も悪いことはしていないが、沈薬はやはり不安だった。無意識に謝淵を見ると、薄明かりの中、その細く引き締まった顎がわずかにこわばるのだけが見えた。「先日も、彼女は私のところへ来て、遂川が靖王様を暗殺しようとしたと言ってきました。ですが、遂川が幼い頃から靖王様を敬い慕っていることは、靖王様もご存知ですよね?彼がそんな恐れ多いことをするはずがありません!この女が嘘八百を並べ立て、私の通行札を騙し取ったのです!これほどまでに腹黒いとは……」周氏は目を細め、きっぱりと言い放った。「今日のことすら、すべてはこの女の計算のはずです!彼女は靖王府の財産を奪うことしか考えていないのです!全く盗人猛々しい!」沈薬は驚いた。まさかこんな風に責任転嫁をしてくるとは!だが考えてみれば、数日前の薛遂川が謝淵を暗殺しようとしたという話は、確かに彼女が内容を誇張したものだ。沈薬は自信がなくなり、謝淵をちらりと見た。何しろ薛遂川は彼の従弟であり、周氏は彼の叔母だ。彼が味方するのはきっと……謝淵は長く骨ばった指を車輪のついた木椅子の肘掛けに乗せてトントンと叩き、静かに命じた。「引きずり出せ」周氏は誇らしげに顎を上げた。「聞こえたでしょう?早くこの恥知らずな女を引きずり出しなさい!」謝淵の背後にいた護衛が進み出たが、周氏が想像したように沈薬を取り押さえるのではなく、周氏の両腕を強く掴み上げた。周氏は愕然として謝淵を見上げた。「これ……これはど
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第29話

少年の顔は真っ白になった。「だ……だめです……」少年は細身の体だったので、あまり体力がなく、薛浣溪の相手をするだけでも、一日に二回以上となると体がもたないことがあった。なのに、一日に二、三十人の客を取るなんて?干からびてしまう!沈薬は彼の怯えた表情を捉え、眉を上げた。「それで、黒幕が誰か話す気になったかしら?」少年は服の袖を握りしめる。眉をひそめ、長く葛藤していた。今にも口を開こうとする少年を見て、周氏は極度に焦り始め、突然叫び声を上げた。「あああああ!」そして、大の字に倒れ込んだ。「周叔母様が!」少年ははっと我に返り、慌てて口を閉ざす。しかし、沈薬は特に何も思わなかった。彼が誰の差し金かなど明白で、周叔母か薛浣溪のどちらかしかいない。侍女や女官たちが慌てて周叔母を抱き起こした。謝淵は落ち着き払った様子で、再び口を開いた。「以前の私は多忙で王府の家事に手が回らず、全ての事務を一時的に叔母様に一任していた。だが今、私は妻を娶った。王府の様々な仕事は、明日から全て妻に取り仕切らせることにする」沈薬の胸が微かに高鳴った。これは、彼女に家政を任せてくれるということだ。すると、周氏の体は二度ほど痙攣し、完全に気を失った。沈薬がその様子を見ていると、謝淵の声が聞こえた。「いっそ椅子でも持ってきて、ゆっくり見物するかい?」そのからかうような口調に、彼女は恥ずかしそうに笑った。「別に、そんなに見たいわけではありませんので……」謝淵は眉を上げ、それ以上は何も言わなかった。だから、沈薬から切り出す。「靖王殿下、帰りましょうか?」謝淵は「ああ」と返事をした。丘山が残って少年の対応をし、周叔母は晩香堂へと運ばれていった。沈薬は謝淵の車輪のついた木椅子を押す。道中、二人の間に会話はなかった。中庭に戻ると、沈薬は抑えるように咳き込む音を聞いた。うつむくと、謝淵の唇に全く血の気がなく、額に細かな汗がにじんでいるのに気づいて驚いた。「医者を呼んできます!」沈薬は言って立ち去ろうとした。しかし謝淵は彼女の手首を掴んだ。「待て」沈薬は心配そうに彼を見つめる。「でも、殿下のお体が……」「無理やり起きているからな。少しの間なら持ち堪えられるが、長くは持たないだろう」謝淵は簡潔に説明した。
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第30話

言葉に詰まった沈薬は、ゆっくりと目を逸らす。「いいえ、別に……」謝淵は平然とした表情で言った。「寝台まで手を貸してくれ」沈薬は彼を支えて立ち上がらせ、寝台の縁に座らせた。謝淵が突然また言った。「明日から王府を取り仕切ってもらうが、我が王府をあまりめちゃくちゃにしないでくれよ」沈薬は慌てて約束する。「そんなことはありませんから!」それ以上、謝淵は何も言わず、沈薬から手を離して横になった。しかし沈薬は、先ほど彼に掴まれた部分がまだ熱を帯びているのをはっきりと感じていた。沈薬は目を伏せ、自分の手首を見つめる。一瞬の沈黙が流れた後、寝台の上の謝淵に視線を移した。彼は再び眠りについていた。先ほど動いたせいか襟元が緩んでおり、引き締まって豊かな胸の筋肉がちらりとのぞいていた。汗で肌が微かに光っている。「王妃様!」丘山が中へ入ってくる前に、声だけが先に聞こえてきた。「靖王様はいかがですか?」その声に、沈薬は驚いて肩を震わせ、慌てふためいて、謝淵から目を逸らす。先ほど謝淵に見入りすぎていた自分が恥ずかしくなり、耳が抑えきれないほど赤く染まった。彼女は、部屋に入ってきた丘山の方を向くこともせず、冷静を装って答えた。「……また眠ってしまったわ」幸い、丘山の注意はすべて謝淵に向いており、沈薬の異変には気付かず、ただ悲しげにため息をついた。「靖王様はもう良くなられたと思ったのですが……」沈薬は気まずさから少し立ち直り、彼を慰めた。「これも靖王殿下がだんだん良くなっている証拠よ。少なくともしばらくの間は目を覚ませるようになったのだから。しっかり療養すれば、そのうち全快するかもしれないわ」丘山はそれを聞いて、深く頷いた。「王妃様のおっしゃる通りですね!」すると、丘山がすぐに謝淵の体ににじむ汗に気付き、袖をまくって沈薬に言った。「王妃様、今日は大変お疲れになったでしょうから、早くお休みになってください。私は靖王様の体を拭き終えたら、すぐ下がりますので」沈薬は頷いた。彼女は最後に謝淵をちらりと見て、隣の部屋へと向かった。寝支度をしながら、沈薬はふと思った。前世で謝淵が目を覚ましたのは、何年も後のことだった。なのに今、彼女が嫁いできて半月も経たないのに、謝淵はすでに二度も目を覚ましている。なぜだろう?
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