【恒一視点】 .月曜日の朝。恒一は鏡の前でネクタイを締めながら、ふと手を止めた。紺色のネクタイ。見慣れた一本。昨年の自分の誕生日に美鈴から贈られたものだ。(そういえば)百貨店で実花が選んでいたネクタイを思い出す。初夏の空を思わせる青。(いい色だったな)そう思い、恒一は急いで首を横に振る。記憶からあのネクタイを振り払う。しかし、間に合わなかった。頭に浮かぶのは実花が東国光也にネクタイを選んだ場面。東国光也の喜ぶ顔。その顔に喜ぶ実花。「……くだらない」独り言を漏らしながらネクタイを締め直す。そんなことより考えるべきことがある。藤宮家だ。東国光也は自分が実花の婚約者だと言っていた。実花が否定しなかったということは、話が進んでいる可能性が高い。しかし、正式な発表はまだない。つまり、決定したわけではないということだ。(それなら、問題はない)実花はただ逆上せているだけだ。あの東国光也が自分を見ていると勘違いして浮かれている。確かに東国光也が何を考えているのかは分からない。だが、確実に何か目的がある。(そもそも好きな理由を問われて“なんとなく”なんてふざけている)ふざけているのに。――気づけば目で追っていた。(実花のやつ……)あんな陳腐な台詞で喜ぶような女は馬鹿だ。騙されて当たり前だ。(多少痛い目に合わせるのもいいな)泣きついてきたところを拾ってやれば。実花はかつてより自分に尽くすだろう。結婚すれば藤宮家の力が手に入ると思ったが、もっと手に入れられる可能性が出てきた。藤宮家の実権。それを手に入れるには藤宮実篤の死を待たなければいけないと
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