入籍したその日、私は婚姻届をキャンドルディナーの隣に置き、写真を撮ってSNSに投稿しようとしていた。そのとき、岳がふいに口を開いた。「それ、偽物だから」私は固まった。彼のスマホから、女の甲高い声が響く。「ちょっと!なんでそんな早く種明かしするのよ!これじゃ面白くないじゃない!」岳はつまらなそうに眉をひそめた。「こいつ、今まで気づかなかったくらいだし。もう演技続ける必要ないだろ。賭けはお前の勝ちでいいよ。これで満足か?お姫様」でも、もう投稿はしてしまっていた。みんなが祝福していた。私と岳、7年越しの恋がようやく実ったのだと。電話の向こうの女は、昔私をいじめていた頃と同じように、嫌味ったらしくコメントを残す。「へぇ〜もう籍入れたんだ?で、結婚式はいつ?お祝いのお酒飲ませてよ〜うふふ」私は少し考えてから、返事した。「来週よ。じゃ、切るわ。俺、まだ記念日デート中だから」電話越しの征矢遥(そや はるか)が、明らかに言葉を失った。「......え、別れないの?」「何で?別れてお前と付き合うのか?お前、もうすぐ結婚するだろ」川島岳(かわしま がく)は興味なさそうに通話を切ると、ケーキの箱を開け、丁寧にテーブルの中央へ置いた。まるで何事もなかったかのようにキャンドルへ火を灯し、私を手招きする。「詩野、早く。願い事するんだろ?」全身の感覚が鈍くなっていた。私はただ真っ直ぐ、彼の目を見つめる。その瞳は静まり返っていて、欠片ほどの罪悪感すら浮かんでいなかった。「......ずっと騙してて、楽しかった?」岳の笑みがわずかに薄れる。「騙したってほどじゃないだろ。俺は負けてもちゃんと話すつもりだったし。お前との関係を壊したくなかったんだよ。それだけ、お前を大事にしてるってことじゃないのか?それに、籍入れてなかっただけのことだろ。別れるなんて言ってない」ケーキには七本のキャンドルが刺さっていた。それがいやでも突きつけてくる。――私は7年間、ずっと弄ばれていたのだと。揺れる火には、ほとんど温かさなんてない。それなのに、とうに塞がったはずの腕の傷跡が、じくじくと痒んだ。夢にも思わなかった。一生一緒にいようと誓ってくれた恋人と。ヘアアイロンで私の全身を火傷だらけに
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