《弁護士夫婦〜利益を選ぶ夫と正義を選んだ妻〜》全部章節:第 21 章 - 第 23 章

23 章節

第21話

車が都心部へと入った時、澪は自分が3年間も帰ってきていなかったことを改めて実感した。車窓を流れる高層ビル群、見知らぬ顔ぶれに変わった巨大な広告看板、立ち並ぶ街路樹でさえ、記憶よりずっと高く成長していた。潤は道中、ずっと電話で連絡を取り合っていた。通話を終えると、彼は澪の方を向いて言った。「まずはホテルに荷物を置こう。夜に会わせたい人間がいるんだ」「誰?」「父の昔からの部下なんだけど、今も会社のために奮闘してくれている。現状を詳しく聞き出しておかなければならないからさ」澪は頷き、それ以上は聞かなかった。夜8時、潤は澪を連れて個室がある料亭へと向かった。個室に入ると、50代半ばくらいの男性が座っていた。白髪交じりの頭に眼鏡をかけたその男は、潤が入ってくるなり、すぐに目を赤くする。「潤くん……」「小林さん」潤は歩み寄り、小林慎也(こばやし しんや)の手を固く握った。「戻りました」慎也は潤の肩を力強く叩き、しばらくの間、言葉を発することができなかった。澪は静かにその後ろに控えていた。二人が席に着くと、慎也が澪の存在に気づいた。「こちらの方は……」「弁護士の白川澪さんです」潤が紹介する。「翠川町での3年間、澪さんにはずっと助けてもらっていたんです」慎也は澪に視線を向け、深く頷いた。「白川先生もどうぞお掛けください」3人が席に着くと、慎也が本題へと切り出した。「潤くんが去った後、会社の状況は悪化の一途を辿っています」慎也が重い溜息をつく。「実は、植田家の連中が必要以上に圧力をかけてきていまして……まずは大口のクライアントを2社奪われ、さらには株主総会で『前社長の死後、会社を牽引できる人材がいない』と糾弾し、取締役会の再編を要求してきたのです」植田家?湯呑みを握る澪の手が、ピクリと止まった。「現在、彼らはどれほどの株式を握っているんですか?」と潤が聞いた。「23パーセントです」慎也が答える。「それに、彼らの息のかかった株主を合わせれば、30パーセント強にはなるかと思います。こちら側には、社長が潤くんに残した35パーセントの株があるのですが、その中の一部は従業員持株会が保有しているため、今の社内の混乱に乗じて、すでに植田家と接触を図っている者もいるようです」潤は数秒沈黙した。「植田家
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第22話

鍋が煮え立ち、夏美は具材を放り込みながら尋ねた。「で、どうなの?あの潤さんって男とは、一体どういう関係?」「ただの友人だから」「ただの友人が、わざわざ一緒に帰ってくるわけないでしょ?」夏美は全く信じていない。「いい、澪。私は潤さんに会ったことすら無いけど、この3年間あなたが電話で話す時、10回中8回は彼の名前が出てきてたんだから。まあ、自分じゃ気づいてないみたいだけど」箸を動かしていた澪の手が、ピクリと止まる。夏美は指を折りながら数え上げ始めた。「今日は潤さんが誰々の鶏を探してくれた、潤さんがまた喧嘩した、潤さんが減らず口を叩いて怒られた、潤さんがまたご飯を届けてくれた……ねえ、自分の胸に聞いてみなよ。これがただの友人に対する態度だと思う?」澪は数秒間黙り込んだ。「彼は……」言いかけたが、やはり口をつぐむ。夏美は澪の言葉を待っていた。「彼はとてもいい人だよ」澪は結局、その一言だけを口にした。夏美はしばらく澪を見つめ、ふっと笑う。「そっか。いい人なら、それでいいよ」食事を終えて店を出ると、時計はすでに9時を回ろうとしていた。二人が路地の入り口で立ち話をしていると、夏美が澪の腕を小突く。「澪、あそこ見て」澪は夏美の視線を追った。すると、視線の先の路地の向かいの大通りには、黒い高級車が停まっていた。ドアが開き、二人の人物が降りてくる。一人はダークグレーのロングコートを着た、長身ですらりとした男。街灯の灯に照らされ、顔には光と影が落ちている。隼人だ。そしてそのそばには、サングラスをかけた杏が寄り添っていた。夏美が小声で言った。「最近この近くでドラマの撮影をしてるらしいから、多分仕事帰りだと思うよ」澪は何も言わず、視線を隼人へと向ける。3年という月日。それでも、隼人は何も変わっていないように見えた。相変わらず落ち着いているが、それでいてどこか人を寄せ付けない空気を纏い、人混みの中でも一番に目を惹く存在。何かを感じ取ったのか、隼人が不意にこちらを振り向いた。道路を挟み、暗闇の中で二人の視線が交差する。澪は視線を逸らさなかった。ただその場に立ち、無表情のまま、隼人を見つめ返す。すると隼人は一瞬戸惑い、そして石のように固まった。彼は無意識のうちに、一歩前へと踏み出
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第23話

会議室のドアを押し開けると、長いテーブルの両側にはすでに大勢の役員が席に着いていた。澪と潤が並んで入室し、出席者たちに視線を巡らせる。皆一様に、思惑を抱いているようだ。隼人は克哉の横に座り、目の前に書類を広げて何事か低い声で話し込んでいた。そして杏は隼人に寄り添うように座り、傲慢な表情を浮かべている。「白川先生、まさかこんな場所でお会いするなんて。翠川町の法テラスへ飛ばされたと聞いていたのに、どうして?やっぱり、あんなど田舎は合わなかったの?」テーブルのあちこちから、冷笑が漏れた。しかし、澪は取り合うことなく、手元のファイルを開いた。潤が澪の代わりに口を開く。「では、会議を始めましょうか」株主総会が始まった。序盤は植田家が圧倒的なほど優勢に議論を進め、やがて克哉が採決を取り始めた。「私が会社の全権を掌握することに賛成する者は、挙手をお願いします」テーブルの両側で、次々と手が挙がっていく。克哉は満足げに手を下ろし、勝利を確信した笑みを浮かべた。「九条さん、どうやら……」「ちょっと待ってください」潤が不意に口を挟んだ。彼は立ち上がり、ジャケットのポケットからある書類を取り出してテーブルに置く。「父が俺に残した株式は、35パーセントじゃなく……」潤はその書類を克哉の方へ滑らせた。「48パーセントです」会議室が騒然となった。克哉が弾かれたように立ち上がる。「そんな馬鹿な!」「この紙が証拠です。株式名簿の書き換え記録を、好きなだけ確認してください」潤は書類をさらに前へと押しやった。「小林さんがこの2年間、あなたの目を盗んで水面下で進めていたのは、この手続きですので」克哉の顔から血の気が引く。彼は書類をひったくって目を通すと、その手が小刻みに震え始めた。「君の……君の父親が……」「父はあなたがこう出ることが分かっていたのでしょう」潤は克哉の言葉を遮った。「だから死ぬ前に株式の譲渡を済ませ、今日のこの日のために布石を打っていたみたいです」潤はその場にいる株主たちを見渡した。「俺の48パーセントに、従業員持株を合わせれば過半数です。だから、本当のことを言えば、今日のこの総会、俺の権限でいつでも中止にできたんですよ?でもそうしなかったのは、植田社長が何をおっしゃるのか、最後まで聞いてみたか
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