白川澪(しらかわ みお)が空港で離婚協議書の内容を淡々と確認していると、親友である黒崎夏美(くろさき なつみ)が彼女を迎えにきた。「澪!学生時代のディベート大会で、柴田くんと討論してる動画がバズってるじゃん!」澪を見るなり、夏美が興奮を隠しきれない様子で、声を弾ませる。「ネットじゃ『神ビジュアルの二人』って大騒ぎだよ。それに、その二人が今どうなってるかみんな知りたがってるし、推しカップルだって盛り上がってるんだから」画面をスクロールさせていた澪の指先が、微かに止まった。しかし、夏美は澪の異変に気づくこともなく、まくし立てるように言葉を続ける。「当時のクラスメイトたち、解説まで始めてるんだよ。澪が反対派の代表として、法学部の憧れの的だった柴田くんを堂々と口説き落とした伝説の試合を、みんなが絶賛してる。二人が付き合い始めた時なんて、私たちの大学に通う人たちのSNSが全部澪と柴田くんでもちきりだったもんね。誰もが澪が柴田くんを落としたなんて言ってたけど、彼が即座にプロポーズしてきて、みんなの鼻を明かしてやってさ……」「夏美、私……」澪は夏美の言葉を遮り、離婚協議書の条項に視線を落としたまま言った。「離婚するつもりなの」夏美は息を呑んだ。「一緒になるのに、あんな苦労をしたのに?」夏美は信じられないというように首を振る。「偶然を装うために、柴田くんのスケジュールを調べ上げて、あのディベート大会の出場枠だって半月徹夜して勝ち取ったんだよ?やっとの思いで付き合えて、結婚してからの数年間も傍から見ていて幸せそうだったのに、どうして……」どうして離婚なんてことになってしまったのか?澪は答えなかった。なぜなら彼女自身も、その問いの答えを知りたかったから。本当に、どうしてこんな結末を迎えることになってしまったのだろう?かつての自分の姿を思い出す。澪は柴田隼人(しばた はやと)を一目見るためだけに、法学部の前で3時間も待ち続けた。彼が国選弁護の事件を引き受けたと知れば、澪はボランティアに参加し、38度の猛暑の中でビラを配った。あのディベート大会では、実力者の先輩を打ち破り、素人だった自分を最終ディベーターにまで持っていく努力をした……何度も偶然を作り出し、本来なら交わるはずのない二人の平行線を、無理やり交差させたの
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