「足の調子が悪くて、検査に来ていたんだ」と弦が言った。声は低く、先ほどまでの冗談めいた軽薄な響きは消えていた。弦は自分の動かない両足に一瞥をくれ、それから窓の外へと視線を移した。あまりに素早い動作に、咲希は彼の表情を読み取れなかった。だが、その瞳にはどこか嫌悪の色が宿っていた気がする。弦は黙り込んでしまった。色鮮やかだった世界から、一気に色が剥がれ落ちたかのようだった。二人の会話は途切れたままだ。どうして咲希と出会うことになったのか、弦は最後まで明かさなかった。こんな大きな病院だ。偶然出会ったと言われれば、それ以上の詮索もできない。咲希は視線を窓に戻した。ガラスの反射越しに、弦の横顔がちらりと見えた。弦の顔立ちは、実のところ非常に整っていた。だが、その遊び人のような性格のせいで、周囲はつい彼の持つ能力を過小評価してしまう。だからみんな、比較しては泰誠の方ばかりを持ち上げるのだ。しかし、かつて九条派の一員だった咲希にとって、九条グループ最大の敵である弦は研究対象だった。笑みの裏で何を考えているか分からない彼を、商売敵としてずっと警戒していたからだ。しかし2年前、弦がスキー事故で半身不随になってからは情勢が変わった。事業への野心も足の怪我と共に消え失せたと判断し、咲希も彼を監視対象から外していたのだ。今の弦は、かつての生き生きとした面影はなく、その目元には陰鬱な色が沈殿している。咲希は反射するガラスに映る自分もまた、どこか暗い表情をしていることに気づいた。彼女はただ、目を閉じた。……現在、弦は実家で両親と同居している。足の不自由な彼を気遣って、毎日両親が手厚いケアをしているのだ。それくらいは咲希にも理解できた。実家に着いて、弦の両親と短く挨拶を交わすと、咲希は弦と一緒に、彼が一人で使っている3階へ上がった。第三者の姿が消えると、室内の空気は途端に重くなり、居心地が悪くなった。しばしの沈黙の後、咲希は切り出した。「あ、荷物の整理を……昨日送られてきたもの、開けないといけませんから」弦は車椅子の肘掛けを強く握り、静かに頷いた。2秒ほど経っても咲希が動かないのを見て、弦はもう一度だけ「ああ」と短く返事をして、主寝室の方を指した。「整理が終わったら、フルーツでも食べて飲み物でも……ああ、母さんの
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