霜月咲希(しもつき さき)は海鳴市で最も影響力のある秘書として知られ、並みいる経営者たちも彼女の前では頭を垂れる。なぜなら、九条グループのトップである九条泰誠(くじょう たいせい)が、毎年咲希に惜しげもなく十億単位の投資をし、ついにはプロポーズまでしたからだ。しかし、咲希にとってかけがえのない母親・霜月杏(しもつき あん)の容態が急変し、病院から危篤を告げられたその日に、泰誠は派手なパーティーを主催した。会場では音楽が鳴り響き、まるで祭りのような賑わいだった。「泰誠さん、本気出しすぎだろ!子どもの頃を思い出して紙飛行機大会をやっただけなのに、玲奈ちゃんが勝ったからって、そこまで祝うか?高級ワインに海岸の打ち上げ花火、有名バンドまで呼んで、おまけにプライベートジェットまで贈ったなんて!」「そんな景気のいい話があるなら、俺も一日中、一番飛ぶ紙飛行機の折り方を研究してたのに!」「お前が何をしたって無駄さ。あの仕事中毒の泰誠さんが、普段は食事の時間すら惜しんでるのに、1週間も時間を割いてまで紙飛行機を折り続けたんだからな。千個の中から一番よく飛ぶものを選んで玲奈ちゃんに贈って優勝させて……ただの余興で参加したんじゃない、玲奈ちゃんを喜ばせるために本気でプレゼントを用意してたんだよ」「さすが初恋の人だな。5年間も連絡が途絶えてたのに、帰国した途端、この扱いだ」一人が声を上げた。「泰誠さん、俺も初恋の人になりたいよ!」会場の中心にいた男は厳しい表情を崩さなかったが、隣の女性に話しかけられると、その目にはほんの少しだけ笑みが浮かんでいた。急いでパーティー会場へ駆けつけた咲希は、その光景を目の当たりにして足が止まった。耳に当てた電話口の声に返事をすることさえ忘れて、ただ立ち尽くすことしかできなかった。「お姉ちゃん!泰誠さんに一体何があったの?病院まで運転手が迎えに来て、そのまま連れて行かれるなんて……もしもし?お姉ちゃん、早く帰ってきて。お母さんが……もう長くないのよ」我に返った咲希は、痛いほど強く拳を握り締めると、声を震わせながら「今すぐ行く」と告げた。そんな咲希に気づいた泰誠が、大股で歩み寄ってきた。何も持っていない彼女を見て、泰誠は眉間にしわを寄せた。「玲奈のドレスはどうした?大きく裂けてしまって、君が持ってくる予定
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