第520便が着陸した。これまで一度も迎えになんて来たことのない恋人、高城修司(たかしろ しゅうじ)が、空港で私・藤原夏希(ふじわら なつき)を待っていた。彼は空輸で取り寄せたブルースローズの花束を抱え、ベルベットの箱の中ではダイヤの指輪がきらきらと輝いている。彼が膝をついた瞬間、周囲から信じられないというように息をのむ音が上がった。付き合って十年。彼が私と結婚したいと言ったのは、これが初めてだった。私は平静を装いながら、指輪をはめてもらい、震える声で言った。「修司、私たち……」けれど彼は、ふっと笑った。そしてそばにいる誰かへ視線を向け、軽く眉を上げる。「言っただろ。こいつなら絶対うなずくって。賭けは俺の勝ちだ。絵を寄こせ」私はその場で固まった。背後で、悪意のこもった笑い声がどっと起こる。育ちのよさそうな若い男女の一団が、私の前までやって来た。先頭にいたのは佐伯伊織(さえき いおり)だった。修司の、かつての縁談相手。彼女は涙が出るほど笑っていた。「だから言ったでしょう?夏希がどうしてこんなに長くあなたのそばにいられるのか不思議だったけど、ここまで言いなりになる犬なら、私だって簡単には手放せないわ。今回の喧嘩ではずいぶん意地を張ったそうじゃない。澄香邸を出ていったくせに、修司がちょっと手招きしただけで戻ってくるなんてね」若い男のひとりが、手にしたカメラをほとんど私の顔に押しつけてきた。「見ろよ。こいつ、本気にしてるぞ。感動して泣きそうじゃん」「修司さん、これ絶対しがみついてくるって。責任取ってとか言い出すぞ、ははは!」修司が横目でひと睨みすると、皆はようやく黙った。彼は珍しく、事情を説明した。「じいさんの傘寿の祝いに、ちょうどいい贈り物が見つからなかった。伊織が先週、『青嶺図』を落札したばかりでな。知ってるだろ、じいさんはああいうものが好きだ。だから賭けをした。お前が俺のプロポーズを受けたら、この絵は俺のものになる」つまり、ただの賭けだったのだ。指の付け根がじんじんと痺れていた。少し大きいその指輪は、薬指に力を入れていなければ、今にも滑り落ちそうだった。まるで、私と修司の関係そのものだ。私は力を抜いた。指輪は床に落ち、乾いた音を立てて、取り繕われた平穏を切
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