All Chapters of 檻を飛び出し、羽ばたけ大空へ​: Chapter 21 - Chapter 23

23 Chapters

第21話 ​

深雪はただ微笑みながら、首を横に振った。​「武志、もうそんなことはどうでもいいの。私が分かるのは、別れることがお互いにとって一番良い選択だったってことだけ。あなたを許すつもりはないわ。私を自由にして、二度と会いに来ないで。​今の私にとって、あなたはただの迷惑でしかないのだから」​――ただの迷惑、か。​武志はひどく傷ついた表情を浮かべ、その目には戸惑いが満ちている。現実を受け止めきれず、体がよろめいて今にも倒れそうだ。​「そこまで言うなら……分かった。なるべく……お前の邪魔はしないようにする」​そう口にするだけで、ありったけの力を使い果たしたかのように、言葉を途切れ途切れに絞り出した。​彼が背を向けて立ち去るよりも早く、深雪の背後に一成の姿が現れた。​「まだ行かないのか?今日の打ち合わせ、もうすぐ始まるぞ」​彼の冷ややかな眼差しは、彼女に向けられた途端、瞬時に優しく和らいだ。​「ええ、分かったわ。今すぐ行く」​深雪は慌てて一成の歩調に合わせ、背の高い彼と並んで歩き出した。すらりとした見栄えのする二人の佇まいは実にお似合いで、通りすがる多くの人々が思わず目を奪われた。​「深雪!」​武志が突然その名を叫び、深雪はふと後ろを振り返った。​けれども彼はただ「さようなら」と口にしただけで、彼女は二度と振り返ることなく、一成の後を追って去っていった。​「あの人と一緒なら、もっと幸せになれるのか?」​武志は自分にしか聞こえないほどのか細い声で、呆然と呟いた。​胸を突き刺す切なさと痛みが、今にも彼を丸ごと呑み込もうとしている。​同じ男として、一成のあの眼差しが何を物語っているのか、分からないはずがない。​初めて一成と顔を合わせた時から、武志は強い敵意を肌で感じ取っていた。​だが今になってみれば、どこを比べても、自分は彼に遠く及ばないように思えた。​深雪とは同じ機長として、息の合った仲であり強い絆で結ばれているが、自分と彼女とのわずか三年間の夫婦生活には、何一つ残るものがなかった。​一体何をもって、一成と張り合おうというのだろう。​武志はただ、底知れぬ無力感に苛まれるばかりだ。​自分の手で深雪を失い、その心の中でとっくに終わりを告げられた身では、一成と競い合う資格さえない。​スマホに搭乗
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第22話 ​

「一体どうして深雪と別れるなんてことになったの?あんた、彼女に何かひどいことでもしたんじゃないでしょうね!ほら、一緒に謝りに行くわよ!何が何でも連れ戻してきなさい!」​境子は歯がゆさに身を震わせ、彼の鼻先を指さして怒鳴り散らした。​けれども武志は身じろぎもせず、ただ力なく呟いた。​「もう許してもらえないよ。母さん、諦めてくれ」​そのひどい落ち込みぶりを目にして、境子はふと三年前の彼の姿を思い出し、次第に語気を和らげた。​「あんたたちが決めたことなら、もう口は出さないわ」​彼女は眉間を押さえ、力なくため息をついた。​「あの時は私たちのせいで深雪に苦労をかけたものね。彼女の実家、梁島(やなしま)家には相応の埋め合わせをしなければならない。​でも、あんたのこれからの人生だってあるんだから、いつまでも一人じゃ寂しいでしょう。寄り添ってくれる人が必要よ」​境子は親身になって諭しながら、手元のスマホで知り合いの金持ちの連絡先をめくり、お似合いの女性がいないか探し始めようとした。​「もういい。これ以上、何も悪くない人を深雪のような目に遭わせたくないんだ」​武志の言葉を聞いて、境子は返す言葉を失った。​彼女はさらに深く反省し始めた。かつて自分が下したあの決断は、本当に正しかったのだろうか、と。​もしあの時、無理に籍を入れさせたりしていなければ、今とは違う道があったのだろうか。​もし二人がもっと自然に出会い、武志が鈴への想いをきれいさっぱり断ち切った後であったなら、末永く幸せに暮らせていたのではないか。​申し訳なさで胸がいっぱいになり、唇を震わせたものの、何と言っていいか分からない。​しばらく経ってから、境子は小さくため息をもらした。​「分かったわ。あんたの好きにしなさい。心穏やかに過ごせるのなら、もう無理強いはしないから。​ただ、希望を捨てて命を絶つような真似だけはしないで。私もお父さんも、これ以上の悲しみには耐えられないから」​武志の父親も隣で深くうなずいた。​「精神科を手配しておくから、定期的に通ってくれ。何よりもまず、生きていくことを考えなさい。無茶な真似はするんじゃないぞ」​武志は首を横に振った。​「そんなことはしない」​深雪がこの世界のどこかで健やかに生きている限り、死のうなどとは
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第23話 ​

二人は足並みを揃えて並んで歩き、親しげに笑い合っている。その睦まじい空気は、武志が深雪と過ごした日々には決して存在しなかったものだ。​記憶を辿ると、彼らが一緒にいる時、いつも誰かが冷ややかな顔をしていた。​体の脇にそっと添えられた深雪と一成の手、その薬指にはめられた指輪が、いやでも目を引いた。​飾り気のないシンプルな仕立てでありながら、細やかな模様が施されており、どこか控えめで気品がある。​武志はふと、かつて自分が深雪に贈った婚約指輪を思い出した。​目を剥くほど大きな宝石があしらわれた、贅沢の極みとも言える代物だったが、彼女が身に着けているところを一度も見たことがなかった。​彼は忘れていたのだ。彼女は鈴とは違い、大空を飛ぶ機長なのだから、あんな派手な指輪は仕事の邪魔にしかならないということを。​今の自分という存在もそうだ。彼女にとって何の役にも立たないお荷物に他ない。​武志は急に恐ろしくなり、彼女の前に姿を現すことさえためらった。​けれども運悪く、深雪と一成が彼の存在に気付き、こちらへと歩み寄ってきた。​「俺たちの結婚式の招待状だ。よければ足を運んでくれ」​そう言いながら、一成はポケットから一通の書状を取り出し、武志の前に差し出した。​その鋭い眼差しには、息が詰まるほどの威圧感が満ちている。​深雪もうなずいた。​武志は長い間ためらった末、がたがたと震える手で、恐る恐るその招待状を受け取った。​「……ああ、そうさせてもらう」​彼はかすれた声で静かに答えた。​式当日、集まったのはほとんど新郎新婦の同僚や親しい友人たちで、会場は実に和やかな雰囲気に包まれている。​運航本部部長の哲生は目尻を下げて微笑みながら、冗談めかして言った。​「二人の仲を取り持ったのは俺みたいなものだから、相応の心付けを期待してるぞ!」​言い終わるか終わらないかのうちに、一成は大きなギフトボックスを差し出した。​哲生は遠慮せず、ありがたくそれを受け取った。​一成も深雪も、いわゆるタキシードやウェディングドレスではなく、揃いのパイロットの制服を身にまとっている。​二人は凛とした厳かな面持ちで、親族や大空に向かって誓いの言葉を述べた。​「残された人生と、命とも言えるこの職務に懸けて誓います」​二人の声が重な
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