ただ機長に昇進したことしか知らず、深雪がどれほど優れているのかを、まったく分かっていなかったのだ。機体の前に佇む彼女は、全身から眩いばかりの輝きを放ち、強く心を揺さぶるものがある。武志の胸に、名状しがたい後ろめたさと恐怖が湧き上がった。思わず唇を噛み締め、声を絞り出した。「彼女に、離婚したくないと伝えるためにここへ来ました。彼女は離婚届を置いたまま姿を消してしまい、昨日は仕事に行くと言い残して出かけたので、身を案じています」講義の場ではあれほどよどみなく言葉を操る大学教授の武志が、今はひどく不器用に、一言一言を慎重に選びながら話している。「離婚したくない、ですか?」哲生は鼻で笑った。「まともな夫婦関係ならお互いの支えになりますが、足かせになった時点で、さっさと断ち切るべきだと思います。家庭を持つ身としてはっきり言いますが、君たちはとっくに終わらせるべきでした。君は彼女に不釣り合いで、ただの足手まといに過ぎません。彼女を結婚という狭いしがらみに閉じ込め、底なし沼へ引きずり込むだけでしょう。それに、俺の知る限り、君には忘れられない初恋の女性がいるはずです。その女性と復縁するつもりはないんですか?」哲生の容赦ない言葉は、武志の胸の奥深くを抉り、ひた隠しにしてきた醜い本心を白日の下に晒した。――諦めるべきなのか?しかし、どうしても納得がいかない。いつか深雪が他の誰かのものになるかもしれないと考えるだけで、胸が締め付けられるように痛む。三年間も共に暮らしていれば、たとえ生き物を飼っていても、愛着が湧くものだ。ましてや、あれほど素晴らしい女性を目の前にして、惹かれないわけがない。ただ、これまでは鈴への未練と執着が頭から離れず、深雪を愛してはならないと、何度も己の心に言い聞かせていただけだったのだ。時折、武志は考えていた。鈴が世界のどこかで生きていて、二度と戻ってこなければよかったのに、と。そうすれば、少なくとも深雪と共に平穏でささやかな幸せを紡いでいられたはずだ。あるいは、最初から深雪と出会っていなければ。あの日、頑なに突っぱねてお見合いを断っていれば。そうすれば、今のような板挟みの状況を避けられるのではないだろうか。武志はうつむき、前髪の隙間から床を見
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