Semua Bab ありがとう、デス・メモリアル: Bab 11 - Bab 20

28 Bab

第11話

薫が目を覚ますと、病室には健志や静子、正樹、智則たちが揃っており、全員が心配そうな顔でベッドを囲んでいた。最初に反応したは正樹だった。「薫、目が覚めたのか!」その声に全員が一斉に振り向く。静子は目を潤ませながら身を乗り出し、布団を丁寧に整えた。「薫、大丈夫?痛くない?少しは楽になったの?」みんなの視線が自分だけに向けられているのを見て、薫の瞳の奥にわずかな優越感がよぎる。だがそれは一瞬で消え、代わりに心配そうな表情が浮かんだ。「琴羽は……?どうしてここにいないの?」そう言った途端、何かに気づいたように顔色を変え、慌てて静子の手を握る。「まさか……私に移植された腎臓って琴羽のものなの?そんなの駄目でしょ……琴羽こそお母さんたちの娘なのに、私なんかが腎臓をもらう資格なんてないわ……」さらに不安そうに続ける。「琴羽は無事なの?どうしてみんな私のところにいるの?お願い、琴羽の様子を見に行ってあげて。私は平気だから……」そこまで言うと胸元を押さえ、小さく咳き込んだ。その瞬間、全員の顔色が変わる。「何を言ってるんだ!」健志が慌てて声を上げた。「お前が腎臓をもらうのは当然のことだ。むしろあいつの腎臓なんて大丈夫なのかと心配したくらいだぞ」静子もすぐに続く。「薫、あんたも私たちの娘よ」正樹は眉をひそめながら言った。「琴羽のことなんか気にしなくていい。彼女は丈夫なんだから。むしろお前は小さい頃から大事に育てられてきたんだ。こんな手術を受けたことないし、今は自分のことだけ考えればいい」智則も続く。「そうだよ、薫、余計なことは考えずにゆっくり休んで」次々とかけられる優しい言葉に、薫は危うく笑みを浮かべそうになった。慌てて目を閉じ、言われた通り横になる。――どうやら、この人たちはまだ琴羽が死んだことを知らないらしい。けれど、知ったところで何だというのだろう。きっと最後まで自分の味方でいてくれる。もともと琴羽には腎臓が一つしか残っていなかった。その最後の一つまで奪ったうえ、さらに苦しめるため、薫は看護師を買収して麻酔まですり替えさせていた。激痛の中で死ねばいい。そう思ったのだ。たかが使用人の娘として育った人間が、今さら青森家の令嬢の座を奪おうなど、身の程知らずでもほどがある。そんなことを考えながらも、薫は唇の端が
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第12話

病室にいた全員の視線が、一瞬で医師へと集まった。最初に顔色を変えたのは智則だった。怒ったように眉を吊り上げながらも、その声はかすかに震えている。「何を言ってるんですか。腎臓を一つ提供しただけでしょう?そんなことで死ぬわけがない」医師を睨みつける。「まさか琴羽に頼まれて来たんじゃないでしょうね。また僕たちの気を引くための芝居ですか?」突然疑われた医師は、露骨に不快そうな表情を浮かべた。もともと家族への連絡を頼まれただけで来たのだ。こんな言いがかりを受ける筋合いはない。「芝居?そんなことをする暇なんて誰にもありません。むしろ私には、あなた方が本当にご家族なのか疑わしいくらいです。身内の死を告げられて、その反応ですか?」冷ややかな視線が病室の面々を見渡した。「彼女はあなた方に何か恨みでも買っていたんですか?」さらに言葉を続けようとしたその時、一人の若い看護師が小走りで駆け寄ってくる。声を抑えてはいたが、その内容は病室にいる全員の耳にはっきり届いた。「先生、もうご家族を探さなくて大丈夫です。患者さんは遺言を残されていました。ご本人の意思に従って、すでにご遺体は別の方が引き取られています」その言葉を口にしながら、看護師は病室の中を見回した。先ほど遺体を引き取りに来た関係者から聞かされた話を思い出したのだろう。その視線には、隠しきれない嫌悪が滲んでいた。看護師は医師の腕を引き、そのまま足早に立ち去る。これ以上、この部屋の人間たちと言葉を交わす気などないというように。残された病室には重い沈黙が落ちた。智則の胸に、理由のわからない不安が広がる。今の話はどういう意味なのか、確かめなければならない。そう思って立ち上がりかけた瞬間――「っ……」薫のか細いうめき声が響いた。「傷口が……痛い……」その声を聞いた途端、智則の足は止まった。正樹も健志も静子も、さっきまでの話など忘れたかのように慌ててベッドへ駆け寄る。「薫!大丈夫?どこが痛むのか?すぐ先生を呼ぶから――」正樹が病室を出ようとすると、薫が弱々しく袖を掴んだ。「平気……急に少し痛くなっただけだから……」全員の注意が再び自分へ戻ったことを確認しながら、薫は伏し目がちに問いかけた。「それより……さっき先生が言っていたこと、どういう意味なの?琴羽に……何かあったの?」
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第13話

静子の言葉を聞きながら、薫は潤んだ瞳を上げた。「でも……少し不安だから、様子を見に行ったほうがいいんじゃないの?私、体調が悪くても大丈夫だから。頑張って行くわ」そう言って眉を寄せ、痛みを堪えるような表情を作った。本来なら、この姿を見た皆がまた琴羽のことを忘れ、自分のそばに残るはずだった。だが予想外にも、智則が先に口を開く。「確かに、一度確認はしたほうがいいね。琴羽がまた何を企んでいるのか分からないし」そして少しだけ声を和らげた。「でも薫、君は休んでいてくれ。僕たちだけで行ってくるから」意外なことに、その言葉に誰一人反対しなかった。薫の表情が崩れかけた。だが全員の視線が自分に集まっている以上、感情を表に出すわけにはいかない。無理やり微笑みを作り、優しく、健気に聞こえる声で言った。「私も行く。だって琴羽は私に腎臓をくれたんでしょう?ちゃんとお礼を言わなくちゃ」健志はそんな薫の頭を撫でた。その声音は先ほどまでとは打って変わって柔らかい。「分かった。一緒に行こう。でも少しでも具合が悪くなったらすぐ戻るんだぞ。無理はするな」薫は唇を噛みながらも、小さく頷いた。……数人は、琴羽がどの病室に移されたのかすら知らなかった。そこで健志はようやく思い出す。自分と静子はただ「一般病室に移しておけ」と言っただけで、どの病室かまでは指示していなかった。それどころか、入院費すら払っていなかったのだ。その顔に、珍しく後ろめたさがよぎる。健志は看護師を呼び止め、琴羽がどこにいるのか尋ねた。「青森琴羽さんですか?」看護師は驚いたように目を瞬かせた。「あの患者さんなら、手術中に亡くなられましたよ。もともと腎臓は一つしか残っていなかったのに、ご家族が『腎機能に問題はない』と説明されていたんです。執刀医が異変に気づいた時には、もう手遅れで……」そこまで言って、看護師は何かに気づいたように目の前の一行を見渡した。「まさか……あなたたちが、ご家族ですか?」誰も否定しない。看護師の表情に浮かんだのは、同情と軽蔑だった。同情は琴羽へ。軽蔑は、この人たちへ。「ご遺体は今、霊安室にあります。ただ、すでに遺言状を持った方が引き取りに来られていましたので、もう搬送されたかもしれません」その言葉を聞いた瞬間、一同の顔色が変わった。琴羽は――
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第14話

健志も鼻を鳴らし、不機嫌そうに続けた。「それに遺言だの何だのと他人に後始末を頼むなんて、いったいどういうつもりだ。結局は、自分が私たちにいじめられてたって周りに見せつけたいだけだろう!私たちが冷たくしたと思わせたいなら勝手にすればいい。そんなに嫌なら、最初から青森家に戻らなければよかったんだ!」だが今回は、正樹も智則も相槌を打たなかった。二人は薫の病床の脇に腰掛けたまま黙り込み、伏せた視線の奥に複雑な色を滲ませている。病室には再び重苦しい沈黙が落ちた。薫はその空気を変えようと口を開きかけた、その時だった。健志のスマホが突然鳴り響いた。画面には見覚えのない番号が表示されている。彼は首を傾げながらも通話ボタンを押した。「青森健志様でいらっしゃいますか?」「ああ、そうだが」適当に返事をし、病室を出てベランダで話そうとしたところで、相手は続けた。「奥様、それから西沢正樹様、藤井智則様もご一緒でしょうか?」その言葉に健志は足を止めた。「……いるが」「ありがとうございます。お手数ですが、スピーカーにしていただけますか。皆様にお伝えしたいことがございます」相手の口調は丁寧で、悪意も感じられない。事情は分からなかったが、健志は言われるままスピーカー機能をオンにした。どうやらそれを察したらしく、電話の向こうで小さく咳払いが聞こえる。そして、改まった声が病室に響いた。「皆様、こんにちは。こちらは『デス・メモリアル』運営事務局でございます。私どもは先日、青森琴羽様よりご依頼をいただき、ご本人のご希望に沿った『デス・メモリアル』の制作を担当しておりました。琴羽様はすでにご逝去されておりますため、映像の編集作業を完了し、本日皆様のメールアドレス宛てにデータを送付いたしました。ご確認のほどよろしくお願いいたします。ご不明な点がございましたら、いつでも担当スタッフまでお問い合わせください」その説明が終わると、病室は異様なほど静まり返った。「デス・メモリアル」。数年前から知られるようになった終活支援サービスだ。依頼者の人生を映像として記録し、その扱い方も本人が決められる。棺に納めることもできるし、家族や友人へ送ることもできる。あるいは、ネット上で公開し、不特定多数の人々に見てもらうことも可能だ。誰も言葉を失っている中、真っ
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第15話

薫は、智則がメールを開こうとしていることに気づいていた。青白い顔を上げると、か細い声で彼を呼ぶ。「智則くん……その映像、見なくてもいいかな……」智則が不思議そうに眉をひそめると、薫の瞳からたちまち涙がこぼれ落ちた。「琴羽、本当に私のせいで死んじゃったんだよね……私、もう琴羽に関するものを見る勇気がないの……」そう言った途端、薫は胸元を押さえて苦しそうに身を丸めた。「全部、私のせいよ……どうして死んだのが私じゃなかったの?もし私だったら、誰にも迷惑をかけずに静かに消えたのに……どうして私じゃなかったの……」その姿を見た正樹は顔色を変えた。すぐさま智則の手からスマホを取り上げると、メールを削除する。さらに健志や静子の端末に届いていたメールまで、全部消していった。「俺たちは映像を見ない。だから泣くな、薫。琴羽の死はお前のせいじゃない」静子も智則を睨みつけた。今の彼の立場を考えて、ストレートに責めることはしなかったが、その怒りはすべて琴羽へ向けられる。「前から言ったのよ。最初からあの子を引き取るべきじゃなかったって。死んだ後まで遺言だの、他人に遺体を引き取らせるだの、挙げ句の果てには死ぬまでの映像をメールで送りつけるなんて……私たちを不快にさせたいだけじゃない」健志もまた、薫のうつ病の症状が悪化することを恐れていた。慌てて声をかける。「薫、もう泣かないでくれ。琴羽が死んだのはお前の責任じゃない。安心しろ。家にある琴羽の物は全部処分させる。お前がそんなふうに気に病む必要はない。今は自分の体のことだけ考えろ」智則も立ち上がり、薫のそばへ歩み寄った。彼の中には、どうしても消えない負い目があった。もともと薫が腎臓を失ったのは、自分に腎臓を提供したからだと信じている。だから今回の事故もその延長線上にあり、悪いのは薫ではなく、自分のはずだった。だがいくら罪悪感を感じても、琴羽はもう戻らない。自分たちは彼女の分までちゃんと生きていかなければならないのだ。そう考え、智則は薫の手をそっと握った。「薫、君は悪くない。そもそも今回のことだって、元をたどれば僕のために腎臓を提供してくれたから起きたことだ。琴羽はもういない。だから、この件もこれで終わりにしよう。彼女も、昔はいい子だった。だからきっと、向こうでも僕たちを恨んだりはしな
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第16話

「もう回ってるかな」動画が再生されると、まず映し出されたのは琴羽の少し青白い顔だった。カメラとの距離が近く、おそらく位置を調整している最中なのだろう。映像はしばらく揺れ続け、ようやく固定される。「皆さん、こんにちは。青森琴羽と申します。この『デス・メモリアル』が公開されている頃には……私はもう、この世にいないでしょう」そう口にした彼女は、かすかに微笑んだ。「私の人生は、ずっとぐちゃぐちゃでした。それでも記録として残しておきたい。皆さんに見て、答えを出してもらいたいと思いました。私の実の両親は養女の薫ばかりを愛し、私には冷たい言葉しか向けなかったのかのは、私が嫌らしい人間だからなのか」そこまで話したところで、彼女の目が一瞬だけ翳る。そして襟元を指差した。「ちなみに、ここにも小型カメラを付けています。身につけているので映像が少し揺れるかもしれませんが、その点はご容赦ください」その後も琴羽は静かに語り続けた。青森家で受けた数々の理不尽な仕打ち。誰の目にも明らかな偏愛。そして、自分だけが家族の輪の外に置かれ続けた日々。やがて疲れたのか、琴羽は水を一口飲み、椅子にもたれながら目を閉じた。その瞬間だった。突然、二人の男が画面の中へ入ってくる。正樹と智則だった。二人は事情を説明することもなく琴羽の腕を掴み、無理やり立たせる。引っ張られた拍子に琴羽は大きくよろめき、危うく転びそうになるが、誰一人として気遣う様子はない。そのまま病院へ連れて行かれ――映像が大きく揺れた次の瞬間、パシンと、乾いた音が二度、はっきりと響いた。それまで静かだったコメント欄が、一気に騒然となる。【え、嘘でしょ。今のって実母だよね?癌患者の説明も聞かずビンタ二発?さすがに引くんだけど……】動画はそのまま流れ続け、コメント欄も大荒れだった。【でも養女を自殺未遂まで追い込んだって話だろ?それなら本人にも問題あるんじゃないか?癌になってのも、バチが当たったってことだろう】【いやいや、それにしたって露骨に養女だけ可愛がりすぎでしょ。こんな環境なら、琴羽さんが精神的におかしくなっても不思議じゃない】【癌だって診断された人に献血させるとか正気?】【家族全員に信じてもらえず、赤の他人みたいな扱いをされたら、私でも壊れるわ】次々と流
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第17話

映像は再び青森家の邸宅へと切り替わった。外はすっかり暗くなっている。使用人たちはすでに帰宅しており、琴羽は薫のための料理を作るよう言いつけられ、一人で帰宅していた。画面の中の琴羽は、見ているだけで痛々しいほどやつれていた。顔色は青白く、身体は痩せ細り、今にも風に吹き飛ばされそうなほど頼りない。玄関の鍵を取り出したその時、突然、琴羽の表情が苦しげに歪む。慌てて口元を押さえたものの、指の隙間から鮮血がこぼれ落ちた。助けを呼ぼうとしているのだろう。だが声にならない。震える手で必死にドアを開けようとするものの、身体は思うように動かず、次の瞬間、力尽きたように階段から崩れ落ちた。そのまま動かない。コメント欄がざわつき始める。【これ、かなり重症じゃない?病気だって気づかなかったっていうより、誰も気にしてなかっただけでは……】【え、ちょっと待って。誰も気づいてくれなかったの?まさかそのまま放置?】ここで映像は早送りになった。空の色がゆっくりと変わっていく。そして視聴者は気づく。琴羽は誰にも発見されないまま、一晩中、たった一人で玄関の階段に倒れていたのだ。【献血したばかりの人を放置って本気?誰一人連絡すらしなかったの?この子が『誰にも愛されなかった』って言ってたの、ちょっと信じてしまう……】一方で反論する声もあった。【でも本人にも問題があったんじゃない?なんで養女はみんなに好かれて、この子だけ嫌われるの?】【いやいや、それは違うでしょ。みんな同じように働いてるのに、片方は月収二百万で、片方は五万だけなのも本人の努力不足だっていうの?その理屈、さすがに無理があるよ。それに、こんな状況で被害者を叩くなんて、どうかしてるわ】映像の中では、ようやく目を覚ました琴羽がふらつきながら立ち上がり、何事もなかったかのように家へ入り、そのままキッチンで料理を作り始めていた。そこまで見たところで、病室の空気が微妙に重くなる。誰の顔にも、わずかな居心地の悪さが浮かんでいた。あの日、確かに誰一人として琴羽へ連絡を入れなかった。だが彼らには彼らなりの理由がある。薫が自殺を図ったのは琴羽のせいだと思っていた。だから献血くらいして当然。そう考えていたのだ。まさか身体の状態がそこまで悪化したとは思わなかった。ただ献血しただけで倒れるな
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第18話

【何この人たち……養女は自作自演だし、あの程度の火傷なら放っておいても治りそうなのに、どうしてそっちを優先して、あんな重傷の琴羽さんを後回しにできるの?】【ひいきする親はいるけど、ここまで露骨なのは初めて見た。琴羽さんの傷なんて一目で深刻だって分かるのに、全員見て見ぬふり。もはや実の家族じゃなくて、何か恨みでもある仇みたい】映像の中では、誰もが薫の周りに集まり、ほんの軽い火傷を心配していた。一方で、血まみれの琴羽はたった一人。助けを求める相手もなく、自分で医師を探しに行くしかなかった。診察費の支払い場面になると、コメント欄は再び大きく荒れ始める。【え、待って。青森家ってあの青森グループだよね?お金に困ってる家じゃないでしょ?実の娘にはお小遣いすら渡してなかったの?】【私、青森薫さんの同級生です。薫さんのお小遣いは本当に多かったし、使い切れないくらいでした。彼女の両親は薫さんだけを可愛がっていました。それに薫さん、学校ではずっと『琴羽さんは使用人の娘』って匂わせてました。今まで知らなかったけど、本当にひどい】【こんなのまだ序盤だから。先を見れば分かるけど、もっと胸糞悪いよ。今まで『デス・メモリアル』を見て泣いたことはあっても、ここまで腹が立ったのは初めて】映像はその後も続いていく。琴羽の体調は日に日に悪化していた。家の中でも突然吐血し、立っていることすらままならない。それなのに、家族全員の関心は薫だけに向けられ、琴羽の異変に気づく者は誰一人いなかった。カメラのレンズが血で染まることも一度や二度ではない。そのたびに琴羽は申し訳なさそうに、「ごめんなさい」と小さく謝りながら、丁寧にレンズを拭いていた。そしてカメラの前では、薫から送られてくる挑発的なメッセージを隠しもせず映し出していた。時には一人で笑いながら、薫の口調を真似して読み上げることさえある。その場面が流れるたび、病室の空気は重くなった。健志たちは思わず薫を見る。しかし、ベッドの上で顔を覆い、涙を流す薫の姿を目にすると、結局また心が揺らいでしまう。――この子だって不安だっただけだ。琴羽に愛情を奪われるのが怖かっただけだ。――ずっと大切に育てられてきたのだから、少しくらいわがままになるのも仕方ない。そんなふうに自分たちを納得させながら、彼らは再び映像へと視線
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第19話

静子がそう話すと、病室は再び異様な沈黙に包まれた。そして、まるで追い打ちをかけるように、動画の中から薫の声が響く。「また嘘をつくなんて、ひどいよ。お父さんとお母さん、毎週ちゃんとお小遣いを渡してるじゃない。もしかして使い切っちゃったの?それで可哀想なふりをして同情して欲しいわけ?」その音声を聞いた途端、薫の顔色が変わった。涙を拭いながら、慌てて首を振る。「ち、違うの……!私、本当に軽く言っただけなの。お母さんが本当にお小遣いを渡してないなんて知らなかった。ずっと、琴羽にもちゃんと渡してると思ってたの……」静子は愕然とした。薫はこれまで何度も、「琴羽にお金を持たせたら問題を起こす」、「自分をいじめるのも、お金があるからだ」と訴えていた。だからこそ静子は琴羽にお小遣いを与えず、本来なら琴羽に渡るはずだった分まで薫に回していたのだ。それなのに今、病室にいる全員の視線は静子へ向けられている。まるで、自分だけが悪者になったかのように。その瞬間、静子の脳裏にこれまでの出来事が次々とよみがえった。誰もが薫を守り、琴羽を責め続けていた日々。必死に笑顔を向けてくる琴羽に対してさえ、自分は一度も優しい言葉をかけなかった。琴羽が少しでも距離を縮めようとするたびに、「薫のものを奪おうとしている」、「同情を引こうとしている」、そう決めつけていた。静子の顔から血の気が引いていく。薫を見る目にも、これまでのような無条件の愛情はもうなかった。コメント欄も大きく荒れていた。【やばいやばい。この二人って琴羽の婚約者と幼馴染だよね?なんでここまで露骨に薫の肩を持つの?薫って、もしかして琴羽の婚約者も横取りする気?】【琴羽、お酒飲めないんじゃなかった?見てて苦しいよ。赤の他人の私ですら心配になるのに、この人たちは何とも思わないの?薫の一言だけで琴羽をいじめるなんて、この人たち、ほんと最低!】【薫、マジ無理。何かあるたびに琴羽を悪者にしてるじゃん】やがて画面には、琴羽がお酒を飲む代わりにもらったお金を、追いかけてきた黒服の男たちに奪われ、その場で破り捨てられる映像が映し出された。その瞬間、正樹と智則は顔を見合わせた。互いの目に浮かんでいたのは、同じ驚愕だった。そして次の瞬間、二人はほぼ同時に口を開く。「俺はそんな指示出してない!」「僕もだ!
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第20話

薫は真っ青な顔でみんなを見ていた。頬を伝う涙は途切れることなく流れ続けている。だがそれは悲しみではなく、恐怖による涙だった。頭の中は真っ白で、これまで用意してきた言い訳も、取り繕うための言葉も、動画の中で鼻高々に笑いながら真実を語る自分自身の姿の前では、ただただ無力になるだけだった。「わ、私は……」震える唇で何かを言おうとした、その瞬間――乾いた音が病室に響いた。静子だった。「あんた……最低よ!嘘をついてたのは、最初からあんたのほうだったのね!」薫は赤く腫れた頬を押さえ、その場で小さく身を縮める。反論したいのに言葉が出てこない。ただ涙を流し続けることしかできなかった。「ち、違うの……」ようやく声を絞り出す。「私はただ怖かっただけなの……みんなを失うのが怖くて……今までずっと、みんなは私を愛してくれてたから……」病室では誰もが怒りや衝撃を隠せずにいた。だがその中で、智則だけは別だった。彼は青白い顔のまま椅子に座り込み、画面の中で崩れ落ちる琴羽を見つめ続けていた。ふいに、数日前の病院での出来事が脳裏によみがえる。看護師の冷たい視線。そして彼女の「もともと腎臓は一つしか残っていなかったのに」という言葉。あの時の自分たちは、薫のことしか見えていなかった。だから、その一言の重さにも気づかなかった。間違っていた。何もかも。幼い頃から肩を寄せ合って生きてきたのは琴羽だった。自分がいじめられた時、前に立って守ってくれたのも琴羽だった。自分を救うために腎臓を提供してくれたのも、やはり琴羽だった。それなのに自分は何をした。幼い頃から自分たちを苦しめていた薫を守り続け、琴羽には疑いの言葉ばかりを投げつけた。彼女が必死に真実を訴えるたびに耳を塞ぎ、一度たりとも信じようとしなかった。智則の肩が小刻みに震える。目の縁は真っ赤に染まり、視界も滲んでいた。彼はゆっくりと顔を上げ、泣き崩れる薫を見た。自分は――こんな女のために、本来なら何よりも大切にしなければならなかった人を、追い詰めて死なせたのだ。怒りが全身を焼くように駆け巡る。しかし次の瞬間、智則は何かを思いついたように、意外な行動を取った。再び手を上げようとしていた静子の前に立ち、そっとその腕を押さえたのだ。「もうやめてください。薫だって、愛されなくな
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