展示室を出る頃には、外はすっかり夕方になっていた。 一階の書店に下りると、窓の外に薄い茜色が残っている。 レジ横には、読みかけのように置かれた本。 平台には、表紙のきれいなエッセイ。 入口横の掲示板には、私が見つけたチラシがまだ貼られていた。 さっきまでは、そこに朝倉さんの名前を見つけただけで胸が落ち着かなかった。 今は少し違う。 会った。 話した。 でも、何かが急に始まったわけではない。 ただ、私は写真を見に行った。 そして、見たものをちゃんと好きだと思った。 それだけのことが、今は大きかった。 書店を出る時、私は展示リストをバッグにしまった。『帰り道の灯り』 そのタイトルが、まだ胸の中に残っている。 顔の見えない誰かの後ろ姿。 オレンジ色の灯り。 帰る場所へ向かう背中。 私はあの写真を、たぶんしばらく忘れないと思った。◇◇◇◇ 帰り道、私は少し遠回りをした。 スーパーには寄らなかった。 今日は冷蔵庫に卵もヨーグルトもあるし、昨日のかぼちゃも残っている。 前なら、必要なものを忘れないように、足りないものを補うように、頭の中でずっと段取りを考えていた。 今日は違う。 写真の余韻を、少しだけ持って歩きたかった。 古い喫茶店の前を通る。 窓には暖かい灯りがともっていた。 写真に写っていた店とは違うのに、どこか似ている気がした。 店の中では、年配の男性が新聞を読んでいる。 カウンターの向こうで、店員さんがカップを拭いている。 知らない人たちの、何でもない夕方。 私は足を止めずに、その光を横目で見た。 世界には、こんなふうにたくさんの生活がある。 私が知らなかっただけで。 悠斗の帰りを待つことに慣れす
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