บททั้งหมดของ 『尽くしすぎたのでやめました。今さら後悔しても遅いです』〜帰らない人を待つのは、もうやめます〜: บทที่ 101 - บทที่ 110

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101話 感想を持ち帰る

 展示室を出る頃には、外はすっかり夕方になっていた。 一階の書店に下りると、窓の外に薄い茜色が残っている。 レジ横には、読みかけのように置かれた本。 平台には、表紙のきれいなエッセイ。 入口横の掲示板には、私が見つけたチラシがまだ貼られていた。 さっきまでは、そこに朝倉さんの名前を見つけただけで胸が落ち着かなかった。 今は少し違う。 会った。 話した。 でも、何かが急に始まったわけではない。 ただ、私は写真を見に行った。 そして、見たものをちゃんと好きだと思った。 それだけのことが、今は大きかった。 書店を出る時、私は展示リストをバッグにしまった。『帰り道の灯り』 そのタイトルが、まだ胸の中に残っている。 顔の見えない誰かの後ろ姿。 オレンジ色の灯り。 帰る場所へ向かう背中。 私はあの写真を、たぶんしばらく忘れないと思った。◇◇◇◇ 帰り道、私は少し遠回りをした。 スーパーには寄らなかった。 今日は冷蔵庫に卵もヨーグルトもあるし、昨日のかぼちゃも残っている。 前なら、必要なものを忘れないように、足りないものを補うように、頭の中でずっと段取りを考えていた。 今日は違う。 写真の余韻を、少しだけ持って歩きたかった。 古い喫茶店の前を通る。 窓には暖かい灯りがともっていた。 写真に写っていた店とは違うのに、どこか似ている気がした。 店の中では、年配の男性が新聞を読んでいる。 カウンターの向こうで、店員さんがカップを拭いている。 知らない人たちの、何でもない夕方。 私は足を止めずに、その光を横目で見た。 世界には、こんなふうにたくさんの生活がある。 私が知らなかっただけで。 悠斗の帰りを待つことに慣れす
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102話 前とは違う人

◆ 藤崎真琴が展示室を出たあとも、朝倉蓮はしばらくその背中を覚えていた。 一階へ下りる階段の前で一度だけ立ち止まり、展示リストをバッグにしまった横顔。 誰かに急かされているわけでも、逃げるようでもない。 静かに、自分で帰る方向を選んでいる人の背中だった。 初めて会った時とは違う。 蓮はそう思った。 以前の藤崎は、丁寧に笑う人だった。 人当たりが柔らかく、会話の受け方も上手い。 けれど、その笑顔の端に、どこか自分を小さく畳むような癖があった。 楽しいと言う前に、相手が楽しいかを確認するような。 好きだと言う前に、それを言っても迷惑ではないか測るような。 蓮はそれを、少し危ういと思っていた。 だから、あの時つい言ってしまった。 楽しそうな時の笑顔と、気を遣っている時の笑顔が違う、と。 踏み込みすぎたかもしれないと思った。 けれど藤崎は、その言葉を雑に流さなかった。 今日、再会して分かった。 あの人は、受け取った言葉をどこかに置いて、自分の足で考えてきたのだ。◇◇◇◇「朝倉さん、こちらの作品について聞いてもいいですか?」 声をかけられ、蓮は顔を上げた。 展示を見に来た年配の女性が、一枚の写真の前に立っている。 雨上がりの歩道を写したものだった。「はい」「この水たまりの光、夕方ですか?」「そうです。雨が上がった直後で、店の明かりが映っていました」「きれいねえ。こういう道、普段ならただ濡れてるだけって思うのに」 女性は笑った。 蓮も小さく頷く。「通り過ぎるだけの場所でも、少し見方が変わると違って見えることがあります」「写真って面白いわね」「はい」 答えながら、蓮はふと藤崎のことを思い出していた。 彼女もきっと、そういう途中にいる。
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103話 感想の言葉

 週明けの朝、私はいつもより少し早く会社に着いた。 デスクにバッグを置き、パソコンの電源を入れる。 画面が立ち上がるまでの短い時間に、私はバッグの中から展示リストを取り出した。 週末に行った、小さな写真展。 まちの光を写す。 その文字を見るだけで、あの二階の静かな空気を思い出す。 白い壁。 やわらかな照明。 喫茶店の窓にともるオレンジ色の灯り。 そして、久しぶりに会った朝倉さん。 自分の時間を持っている人の顔です。 そう言われた時の胸の揺れは、まだ残っていた。 嬉しかった。 でも、その嬉しさをすぐに何かの名前にしなくてもいい。 私は展示リストをそっと閉じて、手帳の間に挟んだ。「藤崎さん、おはようございます」 森下さんの声がして、私は顔を上げた。「おはよう」「週末、少し休めました?」「うん。写真展に行ったの」「写真展?」「近所の書店でやってた小さい展示」 森下さんの目が少し明るくなる。「素敵ですね。どうでした?」 どうでした。 何でもない質問なのに、私は少しだけ迷った。 よかった。 綺麗だった。 そう言えば十分なのかもしれない。 でも、それだけでは少し足りなかった。「……帰り道の写真があって」「帰り道?」「うん。喫茶店の窓に灯りがついていて、買い物袋を持った人が歩いてる写真」 言いながら、写真の光が頭に浮かぶ。「顔は見えないんだけど、その人がどこかに帰る途中なんだって分かる感じで」「へえ」「それが、好きだった」 言えた。 理由を整えすぎずに、ただ好きだったと。 森下さんは穏やかに笑った。「藤崎さん、最近そう
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104話 もう一度見たい

 展示最終日の前日、私は定時を少し過ぎて会社を出た。 夕方の空は薄く曇っていて、ビルの窓に街の灯りがぼんやり映っている。 バッグの中には、昼休みに書いたノートが入っていた。『一人で歩いているのに、光があった』『私も、そういう帰り道を歩きたい』 あの写真を見た時の感想。 うまくまとまっているかは分からない。 でも、それは私の言葉だった。 誰かにどう思われるかを先に考えた言葉ではなく、私が見て、感じて、持ち帰って、ようやく形にした言葉。 電車の中でバッグを膝に置き、私は窓の外を見た。 もう一度見たい。 その気持ちは、週明けからずっと小さく胸の奥にあった。 朝倉さんに会えるかもしれない。 それを意識していないと言えば嘘になる。 でも、それだけではない。 私はあの写真の前に、もう一度立ちたかった。 今度は、感想を持って。◇◇◇◇ 書店に着くと、入口横のチラシには小さな紙が貼られていた。『展示は明日まで』 その文字を見て、少しだけ胸が急ぐ。 終わってしまう前に来られてよかった。 店内には仕事帰りらしい人が数人いた。 本を選ぶ人。 レジで文庫本を買う人。 平台の前で立ち止まる人。 何でもない平日の夕方。 その中を抜けて、私は二階へ向かった。 階段を上る足音が、少しだけ大きく聞こえる。 今日は前より緊張していなかった。 それでも、胸は静かに鳴っている。 受付にいた書店員さんに会釈して、展示室に入る。 白い壁。 やわらかな照明。 並んだ写真。 私は最初から順番に見ていった。 朝の商店街。 雨上がりの歩道。 夕方の踏切。 前に見た時より、少し違って見える。
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105話 少しだけ話せる人

 展示室には、私たちの他にも数人の客がいた。 写真の前で立ち止まる人。 作品リストを見ながら小さく頷く人。 受付で書店員さんと話す人。 その中で、私は朝倉さんと『帰り道の灯り』の前に並んで立っていた。 近すぎない距離。 でも、声を少し落とせば届く距離。 その距離が、今の私にはちょうどよかった。「藤崎さんは、最近この辺りに?」 朝倉さんが聞いた。 質問は自然で、踏み込む感じはなかった。「はい。引っ越してきたばかりです」「じゃあ、この書店も偶然?」「はい。帰り道に見つけました」「いい書店ですよね。小さいけど、置いてある本が丁寧で」「分かります。まだ中をゆっくり見られていないんですけど、入口の平台だけで好きだなと思いました」 好きだな。 その言葉を、私は以前より軽く言えるようになった気がする。 朝倉さんは少し笑った。「藤崎さんは、本がお好きなんですね」「たぶん」「たぶん?」「前は、好きだったはずなのに、あまり読めていなくて」 言ってから、少し迷う。 どこまで話すか。 でも、朝倉さんは急かさなかった。 だから私は、言葉を選びながら続けた。「最近また、少しずつ読むようになりました。まだ積んである本の方が多いですけど」「積んである本があるのは、いいことだと思います」「そうですか?」「はい。これから読む時間があるってことなので」 その言い方に、私は笑ってしまった。「そう言われると、罪悪感が減ります」「本は待ってくれますから」「人より優しいですね」「人も、優しく待てる時はあると思います」 朝倉さんはそう言ってから、少しだけ視線を落とした。 その言葉には、何かを押しつける響きはなかった。
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106話 約束ではない予定

 書店を出ると、夜の入口のような空だった。 真っ暗ではない。 でも、昼の色はもう残っていない。 店先の灯りが歩道に落ちて、ガラス越しに本の背表紙が並んで見えた。 私は少しだけ振り返った。 二階の窓は外からは見えない。 でも、あの白い壁に並んだ写真の光が、まだ目の奥に残っている。 朝倉さんと話したこと。 感想カードを書いたこと。 また見かけたら来ます、と言ったこと。 それらを思い出すと、胸が静かに落ち着かなくなる。 でも、それは不安だけではなかった。 何かが急に始まったわけではない。 連絡先を交換したわけでもない。 次に会う約束をしたわけでもない。 それでも、また会うかもしれない場所がある。 そのことが、小さく心に残っていた。◇◇◇◇ 帰り道、私は八百屋に寄った。 閉店前の店先には、かぼちゃと小松菜、トマトが並んでいる。 店のおじさんが「今日は小松菜安いよ」と声をかけてくれた。 私は少し迷って、小松菜と卵を買った。 前なら、悠斗が食べるかどうかを考えていた。 量は足りるか。 味は好みに合うか。 明日の朝にも使えるか。 そういう段取りがすぐに頭を占めた。 でも今日は、私が食べたいから買った。 お浸しにしてもいい。 卵と炒めてもいい。 雑に味噌汁に入れてもいい。 自分だけの夕飯なら、失敗しても誰にも申し訳なくない。 それが、少し気楽だった。 袋を下げて歩きながら、私はふと笑ってしまう。 写真展の帰りに小松菜を買う。 何だか現実的すぎる。 でも、その現実感が嫌ではなかった。 写真の光も、夕飯の野菜も、同じ私の一日の中にある。 特別なものと日常は、別々に置かなくてもいいのだ
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107話 残った皿

◆ 悠斗は、食器棚の前でしばらく立ち止まっていた。 棚の中には、まだ二人で使っていた皿が残っている。 大きめの平皿。 深い鉢。 来客用にと真琴が買った小さな取り皿。 どれも、特別なものではない。 高価でもないし、思い出の品として飾っておくようなものでもない。 けれど、そこに並んでいるだけで、以前の生活の形が見えた。 真琴がよく使っていた白い器は、もうない。 欠けたグレーのマグカップもない。 それは真琴が持っていった。 持っていってよかったと思う。 真琴が自分で選び、自分の部屋に置くべきものだった。 それでも、残った皿を見ていると、胸の奥が鈍く痛む。 真琴が持っていかなかったもの。 この部屋に残ったもの。 それをどう扱えばいいのか、悠斗にはまだよく分からなかった。◇◇◇◇ 夕飯は、豚肉と野菜の炒め物にするつもりだった。 スーパーで安かったもやしとピーマン、豚こま肉。 味付けはネットで見た。 醤油、みりん、少しの砂糖。 分量どおりに入れたはずなのに、火加減が分からなくて少し水っぽくなった。 悠斗はフライパンの中身を見下ろした。「……まあ、食えるだろ」 誰に言うでもなく呟く。 食器棚を開ける。 一人分の皿を出せばいい。 そう思って手を伸ばしたのに、なぜか大きめの平皿を選んでいた。 二人で使っていた皿だった。 真琴が炒め物や焼き魚を盛って、テーブルの真ん中に置いていた皿。 それを見た瞬間、悠斗は手を止めた。 違う皿にするか迷う。 でも、戻さなかった。 これは真琴の代わりではない。 思い出を飾るためのものでもない。 皿は、食べるためにある。 残っ
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108話 高瀬の電話

 皿を片づけたあと、悠斗は洗濯物を畳んでいた。 シャツ。 タオル。 靴下。 全部、自分のものだけだ。 二人分の洗濯物があった頃は、量が多いとだけ思っていた。 けれど一人分になると、少なさの方が目立つ。 真琴の服が混じらない洗濯物は、驚くほど無機質だった。 タオルを畳み終えた時、スマホが鳴った。 画面には、高瀬の名前。 悠斗は少し迷ってから出た。「もしもし」『生きてるか』 第一声がそれだった。「生きてる」『声が乾燥わかめみたいだぞ』「どんな声だよ」『水で戻せ。飯食ったか?』「食った」『何を』「豚肉ともやしの炒め物」『おお。進歩じゃん』「味は薄かった」『醤油を信じろ』「信じたら濃くなった」『醤油は宗教じゃなく調味料だからな。加減しろ』 悠斗は思わず笑った。 笑ったあとで、自分が笑ったことに少し驚く。 真琴が出ていってから、声を出して笑うことは少なかった。◇◇◇◇『で、片づけとかできてんの』「少しずつ」『偉い偉い。三浦に言ったら、三十二歳男性に偉いって言うなって怒られそうだけど』「言いそうだな」『岡崎は、偉いじゃなくて当然って言いそう』「それも言いそうだな」 同期たちの顔が浮かぶ。 居酒屋で言われた言葉も。 生活担当にしてたんじゃねえの。 気づかなかったは免罪符じゃないぞ。 真琴さんを自分の後悔の受け皿にしないこと。 どれもまだ、胸に残っている。 高瀬の声が少し落ち着いた。『この前さ、俺も家で洗い物したんだよ』「珍しいのか」『珍しいって言ったら怒られるけど、ま
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109話 掲示板を見る日

 土曜日の午後、私は洗濯物を干してから部屋を出た。 空はよく晴れていた。 薄い青のカーテンを開けた時、窓の外の光が部屋いっぱいに入ってきて、それだけで少し気分がよかった。 今日は、書店に寄る日。 スマホのカレンダーには、そう小さく入れてある。 誰かとの約束ではない。 時間を守らなければいけない予定でもない。 でも朝からずっと、その小さな文字が少し嬉しかった。 書店に寄る。 ただそれだけ。 朝倉さんがいるかどうかは分からない。 そもそも展示はもう終わっている。 それでも、掲示板を見て、本を少し見て、帰りに喫茶店の前を通る。 そういう午後にしたかった。◇◇◇◇ 書店の前に着くと、入口横の掲示板から写真展のチラシは外されていた。 少しだけ胸が寂しくなる。 終わったのだ。 あの白い壁。 『帰り道の灯り』。 感想カード。 朝倉さんと少しだけ話した時間。 全部、ちゃんと一週間の展示として終わった。 でも、なくなったわけではない。 私のノートには展示リストが挟んである。 感想も書いた。 この町で、私が自分で見に行ったものとして残っている。 掲示板には別の案内が貼られていた。 児童書フェア。 近所の手作り市。 読書会。 そして、一番下に小さく、次回展示準備中と書かれた紙。 出展者名はまだない。 私はその紙をしばらく見た。 朝倉さんの名前はない。 それでも、少し心が動く。 この町では、こうして次の何かが準備されている。 私が知らないところで。 私が見つけに来れば、出会えるものがある。 店内に入った。 今日は二階には上がらず、一階の棚をゆっくり見る。
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110話 小さな返信

 日曜日の朝、私は買ったばかりの料理本を開いた。 窓から入る光が、丸いテーブルの上に落ちている。 薄い青のカーテンは半分だけ開けていた。 ベランダには昨日洗ったタオルがまだ少し揺れている。 白い器にはヨーグルト。 グレーのマグカップには温かいお茶。 ページをめくると、小松菜と卵の炒め物が載っていた。 昨日の私の夕飯と同じ組み合わせだ。 写真の中の料理は、私が作ったものよりずっと色がきれいで、卵もふんわりしている。 でも、嫌な気持ちにはならなかった。 次はこうしてみよう。 そう思えた。 失敗が、責められるものではなくなる。 一人分の料理は、練習に少し似ている。 誰かに出すためではなく、私が私のために上手くなっていく練習。◇◇◇◇ スマホが震えた。 森下さんからだった。『藤崎さん、例の写真展どうでした?』 そういえば、週明けに少し話したきりだった。 私は少し迷ってから、テーブルの上の展示リストを写真に撮った。 そしてメッセージを打つ。『もう一度見に行ってきました』 すぐに返事が来る。『え、素敵です! お気に入りあったんですね』『うん。帰り道の灯りっていう写真』『タイトルだけでもいいですね』 私は少し考えた。 森下さんには、自然に話せる気がした。『一人で歩いている人の写真なんだけど、寂しいだけじゃなくて、向かう先に光がある感じだった』 送信する。 少し長かったかもしれない。 けれど、すぐに返事が来た。『それ、今の藤崎さんに似合いますね』 画面を見て、胸が静かに温かくなった。 似ている、ではなく。 似合う。 その言葉が不思議と嬉しかった。『ありがとう』『あ
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