玄関のドアを開けた瞬間、部屋が暗いことに気づいた。 午後九時過ぎ。 いつもならテレビの音がしている時間だった。 「……ただいま」 返事はない。 分かっていたことなのに、少しだけ肩の力が抜ける。 私はヒールを脱いで揃える。 その横には、朝履いていった悠斗のスニーカーが無造作に転がっていた。 ――また。 そう思って、すぐに頭を振る。 疲れてるんだよね、きっと。 今日は朝から会議があるって言ってたし。 私はしゃがみ込み、靴を揃え直した。 そのまま何気なく視線を上げる。 脱ぎっぱなしのパーカー。 ソファに置かれたコンビニの袋。 飲みかけのペットボトル。 たぶん、家を出るギリギリまでゲームしてたんだろうな。 苦笑しながらバッグを置く。 怒るほどのことじゃない。 恋人同士なんだから、これくらい普通だ。 ……普通。 そう思いながらスマホを確認すると、悠斗からLINEが届いていた。 『今日、飯いらない。飲み会』 送信時刻は一時間前。 私は画面を見つめたまま、しばらく動かなかった。 「そっか……」 声にすると、思ったより部屋が静かだった。 冷蔵庫を開ける。 下味をつけておいた鶏肉。
Last Updated : 2026-06-02 Read more