千尋が帰ったあと、部屋は急に静かになった。 玄関のドアが閉まる音。 階段を下りていく足音。 それが遠ざかって、最後には何も聞こえなくなる。 私はしばらく玄関に立っていた。 誰かを見送るのは、久しぶりだった。 前の部屋では、悠斗を見送ることが多かった。 行ってらっしゃい。 気をつけてね。 遅くなるなら連絡して。 その言葉のあと、私はいつも部屋に残った。 帰ってくる人を待つ部屋に。 でも今日は違う。 千尋は、自分の家へ帰っていった。 私は、私の部屋に残った。 待たされているわけではない。 置いていかれたわけでもない。 ただ、友達が遊びに来て、ケーキを食べて、笑って帰った。 それだけのことが、今はとても新しかった。 リビングに戻ると、丸いテーブルの上にはケーキの箱が残っていた。 小さな皿。 フォーク。 紅茶のカップ。 千尋が座っていた椅子は、少しだけ斜めになっている。 私はそれを直そうとして、手を止めた。 さっきまで、そこに千尋がいた。 健康診断後の合法ケーキについて妙に真剣に語って、私の段ボールを見て「建国初期は混沌としているものです」と言っていた。 その声を思い出して、笑ってしまう。 空いた椅子を見ても、胸が痛まなかった。 寂しくない、とは少し違う。 誰かが帰ったあとの寂しさはある。 でも、それは冷たいものではなかった。 また来るね。 そう言ってもらえたあとの寂しさだった。 私は椅子の背に触れた。 空いている。 でも、空っぽではない。 さっきまでの笑い声が、そこに少し残っている気がした。 前の部屋の食卓で見ていた空席とは違う。 あの頃の空席は、いつ
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