私の予想に反して、村人から後ろ指を指されるということはなかった。まだ白髪のことは口伝されていないのだろう。 私が白髪であることを明確に知っている者はこの村に2人いる。巨躯の彼とロラ。2人共会話出来る程度の間柄だが、私が白髪だと吹聴しないという確証はない。 だが、いずれ蔑まれる。 どれだけ好意的に接して来ようが、ロラには住まいを提供してもらっている。そして現在は鍛冶屋に案内してもらっている。それだけでいい。 彼女ならそんなことはしない、などと、そんな期待をするだけ無駄なのだ。 そんな私にも、村中を歩けば話しかけられた。恐らくロラといるからだろう。ようロラか、やあ騎士様。それに、私は「おはようございます」という挨拶をして軽く頭を下げる。習慣的な動作だった。 ロラは話しかけられるたび、その人物と一言二言と言葉を交わした。その1つ1つは短い会話だが、明るく愛想のいい印象を受ける。よすぎて、社交だけとさえ思える。それほどきちんとした笑顔だった。 そうして歩を滞らせながら進むと、前方から知った顔がやって来る。しっかりこちらの存在を認知しての足取りだ。目が合うと「おう」という声を寄越した。 村長だ。 昨日腰に差していた剣はない。手を上げ、挨拶の意を示しながら村長は私達の目の前までやって来た。「おはようございます」 軽く頭を下げる。「おう騎士殿、お疲れさん。だがもう昼前だぜ」 そう言って、唇に微笑みが影のように動いた。「申し訳ありません。兵士であった時代は、時間帯に関係なくその日初めて会う場合これが挨拶だったものですから」 なるほどな。軽い微笑みを右の頬だけに浮かべながら、村長はそう言った。確かに、近しい間柄同志なら朝以外におはようという挨拶は変だ。先ほどの村人のように、「よう」や「やあ」と言ったほうが違和感はない。「リアムから聞いたよ、騎士殿。初っ端から夜通したぁ感謝する他ねぇな」 快活らしく笑う。 私はその呵呵とする様子を他人事のように伏し目ながら見ていた。感謝する他ない。そんなことを言われても、しなくてはならない
Last Updated : 2026-08-16 Read more