梅鈴は、椅子の脚が床を擦る音も聞こえないほど、反射的に立ち上がっていた。胸の奥で何かが弾けたようだった。「わ、私……もっと頑張って働くから……!」言葉を発した瞬間、自分の声があまりに頼りなく震えていることに気づく。それでも止まれなかった。止まったら、すべてが崩れてしまう気がした。李婆へ歩み寄る足は、焦りと恐怖で勝手に動いていた。彼女の手を掴む。掴んだ指先は、冷たく、細かく震えていた。その震えは、梅鈴自身がいちばんよく知っている――「失うことへの恐怖」が形になったものだった。「ご飯は……飛鵬と半分こする。だから……」言葉が途切れた。喉の奥がきゅっと締めつけられ、息が浅くなる。“ここを失ったら、飛鵬を守れない。”“また居場所がなくなる。”“また、あの頃みたいに……誰にも必要とされない自分に戻ってしまう。”胸の奥で、そんな声が次々と湧き上がる。それが怖くて、怖くて、たまらなかった。「お願いします……飛鵬と二人、ここに居させてください。追い出さないで……」その言葉は、必死に抑え込んでいた不安が、ついに溢れ出した瞬間だった。声が震え、視界の端が滲む。李婆の表情を見るのも怖かった。拒まれたら、もう立っていられない――そんな確信めいた恐怖があった。李婆は、梅鈴のその震えを見た瞬間、息を呑んだ。次の瞬間、彼女の肩を強く抱き寄せる。「誰が追い出すもんかい!」叱るような声なのに、梅鈴の不安を一気に包み込む温かさがあった。「ご飯だって好きなだけ食べていいんだよ。飛鵬と二人……いつまでもいておくれよ」その言葉が胸に落ちた瞬間、梅鈴の膝から力が抜けた。安心が涙となって頬を伝い、震えがようやく静まりはじめる。不安の渦の中で必死に立っていた心が、ようやく休める場所を見つけたのだった。帝城の空気は、日を追うごとに重さを増していた。陽徳はその中心に立ちながら、まるで見えない手でじわじわと締めつけられていくような圧を感じていた。梨華公主が後宮入りして以来、後宮は華やぎを取り戻したかのように賑わいを見せていた。廊に響く笑い声、侍女たちの忙しない足音、各宮から届く香の匂い――それらは本来、帝にとって誇るべき繁栄の象徴であるはずだった。だが陽徳にとっては、ただ遠い世界のざわめきに過ぎなかった。済世からは、毎日のように後宮へ赴く
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