鳥の声が聞こえた。 セレナはゆっくりと瞼を開けると最初に見えたのは、土に覆われた木の根だった。太く絡み合った根の隙間から朝の光が差し込み、夜の森を満たしていた闇は薄い青へ変わっている。 朝——そう気づいた瞬間、セレナは小さく息を吸った。 生きている。魔物の森で、夜を越した――いいえ、一人ではなかった。 毒矢を受けた黒狼がいたはずだ。血の匂いに引き寄せられた魔物から逃れるため、二人で巨木の空洞へ身を隠した。 疲れ果てたセレナは、黒狼の温もりに寄り添うようにして眠った。 その温かさは、まだすぐ近くにある。 セレナは顔を上げ、そして、息を止める。 隣に、黒狼はいなかったのだ。 代わりに、見知らぬ青年が横たわっている。黒い髪が肩にかかり、長い睫毛の奥に閉じられた目。高い鼻梁と血の気の薄い唇。だが、何よりも目を引いたのは、黒髪の間から覗く狼の耳だった。 黒い狼の耳。そして、腰のあたりには黒い尾——人間ではない。獣人だ。 セレナは遅れて理解した。自分は知らぬ青年に寄り添うように眠っていたのだと。「……っ!」 慌てて身体を起こす。腕の傷が痛んだが、それどころではない。 セレナは巨木の根に背をぶつけながら距離を取り、胸元の薬草袋を抱えた。 青年の瞼が動き、次の瞬間、金色の瞳が開いた。 それは、昨夜黒狼が見せたものと同じ瞳だった。鋭く、深く、闇の中でも光を失わなかった金色。 きっと、この青年があの黒狼なのだ。「――目が覚めたか」 低く掠れた声で、声をかけてきた。 青年は上体を起こそうとして、わずかに眉をひそめる。 左肩には、セレナが巻いた布が残っており、それは夜会用のドレスの袖を裂いたみすぼらしい包帯は、人の姿になった事で少し緩んでいる。「あ……動かないでください!」 セレナは反射的に言った。 「毒がまだ抜けていないかもしれません!傷も開きます!」 言ってから、慌てて口を閉じる。 相手は獣人——それも、黒狼の姿になれるほどの力を持つ者。 青年はセレナをじっと見た。「……自分の傷は放っておいて、俺の心配か?」 セレナは、そこでようやく自分の右腕を見た。 服の布で押さえてはいるが、血は乾いて硬くなり、痛みも残っている。「これは、大したことではありませんから……」「大したことかどうかは、俺が見て決める」 まるでそれは、
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