All Chapters of 偽装死した夫が義姉と不倫?私は最高の男と再婚: Chapter 11 - Chapter 20

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第11話

夜になり、拓海はいつものように雪乃の隣に横たわった。彼女を腕の中に抱き寄せ、いたわるようにお腹を優しく撫でた。お腹の子の話になると、二人の会話も自然と弾んだ。ふと、雪乃は生まれてくる子の顔が気になり、尋ねてみた。「ねえ拓真、この子は大きくなったら、どっちに似ると思う?」拓海はお腹を撫でていた手を少し止めてから、こう言った。「どちらに似てもいいさ。雪乃が気に入ってくれればね」そう口にしたものの、拓海の頭には突然、青葉の姿が浮かんできた。もし、将来青葉との間に子供ができたら、どちらに似るのだろう?女の子なら、青葉にそっくりだといい。そうすれば、二人まとめて思いきり可愛がってあげられる。男の子なら、自分に似てほしい。息子に背中を見せて、二人で青葉を守っていけるから。子供が甘えてまとわりついてくる姿を想像すると、拓海の険しかった表情は一気に和らいだ。口元には、自然と笑みがこぼれていた。拓真の優しい様子を見て、雪乃の身体は甘く火照り、ますます胸元へとしがみついてきた。その細い指先が、拓真の服の中へと潜り込んでいく。「拓真……」見下ろすと、潤んだ瞳でこちらを見つめる雪乃がいた。その仕草一つひとつが、拓真の理性を狂わせるには十分だった。しかし、拓海は理解していた。雪乃の妊娠が分かった時点で、自分の役目は終わっている。今こうして寄り添っているのは、ただ無事に出産を迎えてほしいからだ。元の家庭に戻る準備はできているし、もう二度と、兄の女に手を出すつもりもなかった。拓真は深く息を吐き出し、込み上げる衝動を抑えつけながら、雪乃の手を優しく退かそうとした。しかし、妊娠中の雪乃は人恋しさが勝っているのか、簡単に離れようとはしなかった。雪乃はただ、夫が強がっているだけだと考え、紅潮した唇を自ら彼に近づけた。「拓真、私たちは夫婦でしょ?もう安定期に入ったんだし、大丈夫よ……」ドクン、と心臓が跳ね上がった。夫婦という言葉が、重いハンマーのように拓海の胸を打ち、その現実を嫌でも突きつけてきた。そうだ。青葉の待つ家に早く帰りたい一心で、自分の今の状況を見失いかけていた。自分はまだ、兄である「拓真」であり、雪乃の夫なのだ。まだ、夫としての義務を果たさなければならない。覚悟を決めたように目を伏せると、拓海は突然、雪
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第12話

史哉の素っ気ない態度に、拓海は一瞬何が起きたのか理解できなかった。拓海の知る限り、史哉は自分をとても気に入ってくれており、自分の家族のこともいつも温かく歓迎してくれていた。これまでは、こんなに冷たい態度では決してなかった。拓海は思わず手を強く握りしめた。何かがおかしいと感じたが、それが何なのかまではわからなかった。電話の向こうの史哉は、拓海が押し黙っているのを聞いて、そのまま電話を切ろうとする。拓海はハッとして我に返り、青葉が家に帰っているのか、彼女に電話を代わってほしいと頼んだ。史哉が言葉に詰まると、隣から電話をひったくった森下菜々子(もりした ななこ)が、皮肉たっぷりの鋭い声を浴びせてきた。「あなたは青葉の何から何まで、生き方までコントロールしておきながら、あの子が今どこにいるかも分からないんですか?」拓海はぽかんとした。そうして初めて、森下家の人たちがなぜ自分に怒りを抱いているのかを思い出した。夫に先立たれて苦労している青葉を見かねた森下家の人たちは、青葉を実家に連れ戻し、いい人を探して再婚させようとしていたのだ。しかし、実は死んでいなかった拓海は、自分の妻を他の男に嫁がせるなんて我慢できるはずがなかった。だからあの時、拓海は玄関先に必死に立ちふさがり、頑なに森下家の人たちを中へ入れなかったのだ。近所から後ろ指を指されながらも、森下家の人たちの前に土下座までして、生涯、青葉を幸せにすると神に誓いもした。それでも森下家の人たちは拓海の言葉を全く信じず、青葉を絶対に連れ戻すと言い張った。結局、上層部の力ある人間に頼み込んで、間に入ってもらうことで、ようやく事態を収束させたのだった。それ以来、森下家の人たちは拓海や菅原家に対して決して良い顔をすることはなかった。拓海は自分に非があるのは重々承知していたため、雪乃が子供を産んだ後に、自ら罪を認めにいくつもりでいた。電話を切ると、菜々子は隣にいる史哉の方を向き、苛立ちを隠せない表情を見せた。「よくもまあ何の恥じらいもなく青葉のことを聞いてこられるものだわ」森下夫妻は、最初から電話の相手が拓海だと気づいていたのだ。青葉がすでに隆平と籍を入れ、遠い離島へと引っ越す決断をしたことも、とっくに紗枝から聞いていた。二人が頑なに内緒にし続けていたのは
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第13話

拓海が声をかけようとしたその時、沢子が強引に笑顔を作って割って入った。「まあまあ、森下家の方々じゃないですか、どうされたのです?」愛想をふりまく沢子の対応を、菜々子は冷酷な目で見返し、彼女を力ずくで突き飛ばした。「気軽に話しかけないで!」「母さん!」拓海は慌てて駆け寄り、沢子を支えた。彼の表情は厳しくなった。「皆さん、一体何をするんですか?」菜々子はさらに頭に血が上り、怒鳴り返した。「何をするって?こっちが聞きたいわ、菅原家がうちの娘に何をしてくれたのか!みんなの前であれほど娘を大事にすると誓ったくせに。まだたいして時間も経っていないのに、娘をあんなにボロボロにして!」騒ぎを聞きつけた野次馬たちが、野次馬根性で周りを取り囲んだ。菅原家の面々は顔色を変え、一瞬目配せをした。彼らは慌てて森下夫妻を屋敷へ引き入れようとする。しかし、史哉は聞き入れない。他の家の者たちにガードを固められ、叫んだ。「ここをどけ!」今さら体裁を気にするくらいなら、最初から娘をあんな風に傷つけるな!」「拓真くん!君に聞きたい。地方復興員が街へ戻る権利を売り払った罪を、奥さんの代わりにうちの娘に擦り付けたのは君だな?炭鉱の崩落事故に巻き込んで娘を死にかけさせたのも君か?奥さんが放火して娘を殺そうとしたとき、見て見ぬふりをしたのも君だな!」衝撃的な真実が次々と明かされると、野次馬たちはどっと沸き立ち、あちこちで騒然となった。沢子は何も知らなかった。彼女の顔は一瞬で真っ青になり、信じられない様子で横にいる拓海を凝視した。「拓、拓真……今言ったことは本当なの?」「当然、すべて本当だわ!」拓海が何か言うより早く、横にいた菜々子は用意していた証拠の紙をぶちまけた。白い紙がまるで雪のように舞い散り、野次馬たちの手に渡っていく。その内容に目を通した野次馬たちは、一様に表情を硬くした。「おい、本当にこんなことが……菅原家は、未亡人一人にここまで残酷な仕打ちをしていたのか?」「青葉さんは夫を亡くしたばかりなのに、どうしてあんな義姉の代わりに汚名を着せられなきゃならないんだ?」「これじゃ、青葉さんを死に追いやるようなものじゃないの!」「……」それらの声を耳にした菜々子は、抑えていた苦しみをついに爆発させた。その場に崩れ落ち、涙を
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第14話

「あんたに反対する資格なんてあるの?ねえ、拓真くん!」菜々子は最後の名前を特に強調した。今の拓海の立場を分からせようとするかのようだった。「私の娘は、あんたの弟さんのために2年も喪に服したわ。つらい思いだって十分してきた。それに恩義なら、もうとっくに返したはずよ。それにね、反対していいのは娘の旦那さんだけよ。ただの義理の兄に過ぎないあんたが、他人同然なのに、なんでしゃしゃり出てくるのよ!」「ち、違います、俺が拓海です!」ゴロゴロ!再び激しい雷鳴が響き渡り、騒がしかったその場が一瞬で静まり返った。みんな信じられない様子で拓海を見つめ、あんぐりと口を開けた。聞き間違いだろうか?今、何と言った?自分は拓海だと言ったのか?まさか、そんなわけがない。傍らにいた雪乃は完全にフリーズし、お腹の痛みすら忘れてしまっていた。雪乃はなりふり構わず、拓海の腕を掴んだ。「た、拓真……何をバカなことを言っているの?」「そうよね。いくら青葉さんを引き留めたいからって、そんなウソを言わなくても。亡くなった弟さんに祟られるわよ!」「そうだよ。拓真さん、どうかしてしまったんだわ!」菜々子は、我慢できずに自ら正体を明かした目の前の男を見て、フンと鼻で笑った。「自分が拓海くんだなんて、証明できるの?拓海くんが亡くなったのは誰もが見ているし、お葬式をしてお墓に入れたはずよ」「そうだ。冗談にしても悪質すぎる!」「拓真さん、そんな冗談で人をからかうもんじゃない!」拓海はその場に立ち尽くし、拳を強く握りしめた。その表情は迷いと葛藤に満ちていたが、やがて顔を上げると、一語一句、噛み締めるように言った。「俺が拓海で、兄じゃないです。あの時死んだのは兄で、俺じゃないです」拓海は自分の覚悟を甘く見ていた。彼は、雪乃の子供が生まれてから真実を明かすつもりだったのだ。だが目の前で、愛する妻である青葉が連れ去られようとしている。逃げ場のない執拗な攻撃に拓海も打つ手がなかった。青葉を失うわけにはいかないのだ。雪乃については、これまで十分そばに寄り添ってきたし、お腹には子供もいる。これからは一人でも強く生きていけるはずだ。ドンッ!激しい雷の音とともに、土砂降りの雨が降り出した。バケツをひっくり返したような大雨が屋根
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第15話

この混乱は、雪乃が気絶したことでようやく一時的に収まった。一晩中行われた救急治療の甲斐あって雪乃は一命を取り留めたが、お腹の子を救うことはできなかった。パシッ!沢子は拓海の頬を強く叩き、悔しげに声を震わせた。「なんて馬鹿なことをしたんだ!」拓海があと数ヶ月だけ耐えてくれれば、雪乃の子供が無事に生まれていた。そして、菅原家の跡取りを残すことができたのだ。それなのに、よりによって自ら秘密を暴露してしまった。その結果、初孫を失ったばかりか、菅原家の面目まで丸潰れにしたのだ。今や雲嶺市の誰もが、菅原家の次男が兄のふりをして未亡人の義姉と肌を重ねていたことを知っている。もう森下家がこれ以上しつこく言う必要もなく、拓海の上司が独断で間に入り、青葉と菅原家の縁を切らせた。そのうえ、この一件が大ごとになりすぎたため、拓海自身も役職を罷免されてしまった。これほど多くのものを一気に失った沢子が激怒するのも無理はなかった。彼女はすかさず、もう一発ビンタを浴びせようと手を振り上げた。だが拓海は魂の抜けた操り人形のようになっており、沢子にいくら叩かれ、罵られても全くの無反応だった。見かねた看護師が病室から出てきて二人を制止し、雪乃が目を覚ましたので、誰がその面会に入るかと尋ねた。拓海はようやく我に返り、かすれた声で答えた。「俺が入ります」結局のところ、雪乃自身は何も知らなかったのだ。自分のせいで苦しめてしまったのだから、何としても償わなければならないと考えた。そう思うと、拓海は背後から引き留める沢子の声を無視し、雪乃の病室のドアを開けて中に入った。ドアが閉まった瞬間、外の喧騒は一気に遮断された。拓海がベッドへと目をやると、青ざめた顔で虚ろな目をした雪乃の姿が目に入った。彼は拳をギュッと握り、雪乃のもとへ歩み寄ってベッドの傍らに腰掛けた。「本当に申し訳ないことをした。どんな補償でもするから、望むことを言ってくれ」補償って?長い沈黙の後、ようやく雪乃に反応があった。彼女はゆっくりと首を傾げて、このやつれた男を見つめた。目が真っ赤に充血し、無精髭を伸ばした姿に、胸は複雑な感情で満たされた。彼に何が償えるというのだろう。自分は毎日のように夫の帰りを待ちわび、愛を確かめ合い、二人を繋ぐ新しい命をお腹に宿して、心
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第16話

「駄目だ……」「いいえ、できるわ!」拓海が言いかけると、病室のドアで聞き耳を立てていた沢子が遮るように入ってきた。沢子は拓真と青葉を失いひどく落ち込んでいた。そのうえ雪乃まで失うかもしれないと思い、焦りで頭がおかしくなりそうだった。まさか雪乃のほうから、拓海と結婚したいと言い出すなんて。これは沢子にとって、願ってもない最高の知らせだった。「母さん!」拓海はまさか、こんな時にまで沢子が首を突っ込んで話をややこしくするとは思わなかった。「拓海、うちはもう青葉さんにひどいことをしてしまったのよ。これ以上、雪乃さんまで傷つけるわけにはいかないわ。この結婚に私は賛成よ。雪乃さんが退院したら、すぐに役所へ行って婚姻届を出しなさい!」「絶対に嫌だ。俺の妻は青葉だけだ!」拓海も完全に表情をこわばらせた。もうこれ以上、青葉を傷つけるわけにはいかない。他の女と結婚するなど、到底できるはずがなかった。「母さんがどう思おうと、俺が愛しているのは青葉だけだ!」「拓海!」バン!そのとき、病室のドアが外からいきなり激しく開き、誰かが息を切らしながら駆け込んできた。「拓、拓海……青、青葉の手がかりが見つかったぞ!」「本当か!?」先ほどまでの沈んだ表情が嘘のように拓海の顔に希望が宿り、彼はなりふり構わずその場を飛び出した。「拓海、待ちなさい!」後ろで沢子がどれほど叫ぼうとも、拓海が振り返ることは一度もなかった。……とある離島にて。青葉は、自分の体力を過信していた。3日間の船旅のうち、2日間は船酔いで苦しんだ。残りの1日も、ずっと頭がぼんやりして眠り続けていた。船を降りてから賀川家に着くまで、青葉はずっと隆平におんぶされて移動した。2週間ほどベッドで安静に過ごし、ようやく体力が戻り、そこで青葉は、隆平との新居をゆっくりと眺めてみた。新居は山の中腹に建つ、2階建ての一軒家だった。家の中も外も綺麗に整えられ、必要な家具や家電がしっかりと揃えられていた。家の周りには、たくさんの果樹や野菜が植えられている。池の横には柵が設けられ、鶏やアヒルが数羽飼われていた。池のすぐそばでは、隆平がTシャツと短パン姿で小さな折りたたみ椅子に腰かけ、のんびりと釣りを楽しんでいた。青葉が近づいていくと、隆平は急いで
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第17話

それは、隆平の人生の中で、最も叶えたいと願っていた夢だった。高校生の時、初めて青葉を一目見たその日から、隆平の心には他の誰一人として入る余地がなかったのだ。しかし、当時の青葉は勉強のことで頭がいっぱいで、恋愛など眼中になかった。そのため、ラブレターを送る隆平はことことく断られていた。それを見た隆平は、ほっとする半面、切ない思いもあった。青葉に好きな人がいないのは嬉しかったが、自分では到底、追いつけない気がしたからだ。それでも隆平は悩みに悩んだ末、やはり一度、勇気を出して青葉に想いを打ち明けようと心に決めた。しかし、思いを伝えるより先に、大学進学のため二人は別々の道を行くことになった。ようやく隆平が青葉の消息を知った時、彼女はすでに拓海と結婚した後だった。その夜、隆平の足元には空の酒瓶が何本も転がっていた。それでも彼は、どうしても諦めることができなかった。隆平は、ただひたすらにチャンスを待ち続け、そしてついに、青葉が夫を亡くしたことを知る。その知らせを聞いた隆平は、興奮を隠し切れなかった。彼は両親に報告するよりも早く、紗枝を頼ってすぐに結婚のための段取りを進めようとした。その間、何度も断られはしたが、ようやく実を結ぶ日がやってきたのだ。それを思い出し、隆平は腕の中にいる青葉の体をより一層いとしそうに強く抱きしめた。翌朝早く、隆平と青葉は新しく舗装された道路を通り、遠くの港を目指して車を走らせた。この離島はかなり交通の不便な場所にあり、生活物資は大型の定期船が月に一度運んでくるだけだった。そのため、毎月15日は島民たちが買い物へと港に押し寄せる買い出しの日だった。隆平は周囲の人混みに押されないよう、そっと青葉の肩をかばい、慎重に彼女を船へと導いた。月に一度きりの貴重な機会とあって、貨物船には所狭しと品物が並んでいた。船に上がるとすぐに、隆平はあちこちで手当たり次第に商品を買い始めた。お菓子に飲み物、椿油、ワンピース、セイコーの腕時計まで。すべてが青葉のためだった。あまりに惜しみなくお金を使う姿を見て、青葉はお財布が心配になり、慌てて隆平の手を引っ張った。「隆平、もういいわ。さすがにこれ以上は必要ないでしょ……」隆平は穏やかに笑って、青葉の手を取った。「いいや、これでもまだ買い
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第18話

あの頃の青葉は、恋愛経験も社会人経験もほぼなかった。入籍に関する知識など全くなく、役所の担当者や拓海に教えてもらうばかりだった。だから無事に手続きが終わっても、嬉しいというよりは、将来への不安しかなかった。これから自分はどうなるのか、どんな妻になればいいのか、何も分からなかった。だが拓海は、青葉が緊張しているのだと思い、「何も心配はいらない、これからは全部俺が支えるから」と優しく慰めてくれた。拓海は本当に約束を守ってくれた。初夜からその後の親戚付き合いまで、いつも青葉を助けてくれた。拓海があまりに優しすぎたせいで、青葉は彼に依存しすぎていたのかもしれない。だからこそ、拓海の訃報を聞いた時、悲しみと同時に深い絶望を感じたのだ。拓海の優しさにすっかり甘えきっていた青葉は、彼がいなくなったら生きていけないと思い込んでいた。あの時の青葉にとって、拓海がすべてだったと言っても過言ではない。だから頭が混乱してしまい、彼の後を追うことばかり考えていた。でも、拓海の死を乗り越える中で、青葉は少しずつ自立していった。そして、彼がいなくても一人で強く生きていけることに気づいた。ところが、青葉がようやく苦難を受け入れて立ち直った時、拓海の重大な秘密を知ってしまう。その秘密を知った時の衝撃は、まるで頭に雷が落ちたかのようだった。それで拓海への気持ちは完全に冷めてしまい、彼から完全に離れるために、隆平のプロポーズを受けた。隆平と結婚してからは、過去を忘れて妻としての義務を果たそうと努めた。しかし、結婚生活に期待や情熱を抱くことなど、もう二度とないと思っていた。でも今、青葉は自分が間違っていたことに気づいた。ここ最近、隣にいる隆平の温かさに触れたからか、今の青葉は少し胸を躍らせ、新しい生活に期待していた。これから隆平と二人でどんなことをしようか、そんな想像まで膨らませていた。青葉は幸せそうに微笑みながら、婚姻届に書かれた名前を指でなぞった。隆平も同じように興奮していた。目の前の婚姻届を見つめながら、まるで夢の中にいるかのような心地よさを味わっていた。夢ではないと確かめるために、隆平は自分の太ももを思い切りつねった。痛みを感じた瞬間、嬉しさのあまりだらしなく笑ってしまった。その声を聞いて、青葉が不思議そうに振り返
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第19話

隆平は深く息を吸い込み、あふれ出す喜びをなんとか抑えようとしたが、じんわりと潤む目元を隠すことはできなかった。しかし、胸の内にあふれる感動を抑えることはできなかった。隆平はもう我慢できず、隣にいた青葉をひょいと抱き上げると、嬉しさのあまりその場でぐるぐると回りだした。「ついに結婚したぞ!僕にお嫁さんができたんだ!」「きゃっ、何するの!」急に抱き上げられた青葉は声を上げた。抱きしめる隆平の回るスピードがあまりに速かったため、彼女は慌てて隆平の首にすがりつき、照れながらその肩をぽんぽんと叩いた。「嬉しくてたまらないんだ、青葉。ようやく君と結婚できた。本当に、僕の妻になってくれたんだな!」隆平が幸せそうに声を弾ませるものだから、通りすがりの行き交う人たちも一斉にこちらを振り返った。隆平の言葉を聞いて、周囲にいた別のカップルたちもつられて微笑み、温かい祝福の視線を送ってくれた。青葉がそっと隆平を見下ろすと、自分を映すその漆黒の瞳には、こぼれ落ちんばかりの深い愛が満ちていた。それだけで心臓がトクトクと激しく高鳴り、顔がカッと熱くなった。青葉はうつむき、こらえきれずに微笑んだ。青葉も心から幸せを感じていた。こうしてまた、自分を心から愛してくれる人と出会えたのだから。夜が更け、月明かりが大地を照らし、広大な夜空に瞬く星々が美しくまたたいていた。9月の涼しい夜風が梢を吹き抜け、少し遅れて咲く季節の花が、ひっそりと花びらを開いていた。今夜は、二人にとって大切な新婚初夜だ。青葉はすでにお風呂に入って、早々とベッドに入っていた。しかし、隆平のほうは妙に緊張している様子だった。ベッドの端に腰掛けたまま、どうしても青葉の方を振り返ることができないのだ。やがて隆平は深呼吸を数回繰り返し、何かを一大決心でもしたかのように、青葉の方を向いた。「青葉、やっぱり、正式にみんなの前で式を挙げる日まで、待った方がいいんじゃないかな……」婚姻届が受理された狂喜が去り、冷静になった隆平はひどく緊張していた。そこには、小さな不安も混じっていた。この何もかもが、実はただの夢なのではないかと怖かったのだ。けれど次の瞬間、柔らかい腕が優しく隆平の首に巻きついた。青葉が体をすり寄せてくると、ふわりと花の香りが彼の全身を包み込んだ。「
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第20話

乗客たちが次から次へと押し寄せるようにして、甲板から港へと降りていった。その中には、はるばる妻を捜しにやってきた拓海の姿もあった。青葉が実家に戻っておらず、完全に行方をくらませたと知ってから、拓海は半ば狂ったようにその行方を捜し回っていた。そして1ヶ月後、ようやく青葉の足取りを掴み、離島に渡ったことを突き止めたのだ。その時は嬉しさのあまり、拓海はすぐに船の切符を買って青葉のいる離島へ行こうとした。ところが、島特有の規制のために事前の厳重な審査が必要だと言われ、おまけにチケットも入手困難で、今日ようやく上陸することができたのだ。しかし、いざ上陸してみると、その島は思った以上に広かった。青葉の居場所を特定する手がかりもなく、彼女をここで捜し出すのは至難の業だと思われた。それでも拓海に諦めるという選択肢はなかった。離島の人たちに青葉の行方を聞いて回りながら、手がかりを追うことに決めた。そう決めると、足早に遠くの集落へ向かった。バスで山道を登っていると、突如としてバスが止まった。乗客たちが一斉に車を飛び出し、すぐ先で結婚式の祝い事が行われている場所へ走り出した。バスを降りるつもりはなかったが、親切な見知らぬ通行人に手を引かれ、そのままバスを降りることになった。「ほら、何をぼさっとしているんですか!ここでは祝い飴を拾いに行って、お祝いにあやかるのが風習ですよ!」拓海が拒む暇もなく、そのまま野次馬の大きな波に流された。広場の向こうの挙式はすでに最高潮を迎えようとしていた。新郎が皆の祝福の中、花嫁のベールを剥ぎ取り、口づけを交わす瞬間だった。たくさんの歓声で沸き立つ中、新郎が静かに促して新婦の手を取り、向き合った。周りに群がる一同はもっと寄ろうと互いを強く押しのけ合い、押し出されるまま拓海も群衆のすぐ先頭へと立たされた。彼にも次第に、新郎の隣に立つ花嫁の姿が見えてきた。最初に拓海の視界に入ったのは、新婦の身にまとった鮮やかで美しいロングドレスだった。ゆったりとなびく生地が、華奢なその腰回りとしなやかな姿勢を際立たせていた。一体何だろう、拓海はこの新婦の後ろ姿に胸騒ぎがし、強い既視感を覚えずにいられなかった。そのとき、新郎がゆっくりと手を伸ばし、花嫁のベールをそっと持ち上げた。皆の目に映ったのは、真っ白
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