安奈は先に視線を逸らした。詩乃のそばにいる怜央をちらりと見てから、足早に近づき、声を落とした。「詩乃さん、少し話せますか?」詩乃が答えるより早く、安奈はもう脇の路地へ向かって歩き出していた。詩乃がついてくると、決めつけているようだった。怜央がわずかに眉を寄せ、詩乃を見た。詩乃は彼に小さく首を横に振り、席を立ってそのあとを追った。路地の中は静まり返っていた。両側に建つ建物に遮られて陽射しはほとんど届かず、地面には細い光の帯だけが落ちていた。安奈は振り返ると、前置きもなく切り出した。「詩乃さん、どうしてあの人と二人きりでいるんですか?」その口調には、詰め寄るような響きがあった。「蓮司くんを裏切ったんですか?」詩乃は何も言わず、ただ静かに彼女を見ていた。詩乃が答えないのを見て、安奈はさらに焦ったように言葉を重ねた。「それに、蓮司くんといったい何があったんですか?ここ数日、蓮司くん、別人みたいなんです。ずっとあなたを探してますよ。あなたはどうしてここにいるんですか?私が会いに行っても、会ってくれないどころか、家にも入れてくれなくなったんですよ」最後のほうには、声にかすかな恨めしさが滲んでいた。詩乃には分かった。安奈の長い言葉の中で、本当に言いたいことはただ一つ。蓮司が、彼女に会わなくなったということだけだった。「離婚したの」詩乃は淡々と言った。「あなたも知っているでしょう?」安奈の目の奥に、一瞬だけ嬉しそうな光がよぎった。ほんのかすかな変化だったが、詩乃は見逃さなかった。安奈はすぐにその感情を押し隠し、心配そうな顔を作って、わざとらしくため息をついた。「こんなこと、私が言うことじゃないのは分かってるんですけど……蓮司くん、詩乃さんには十分優しくしていたと思いますよ。本当に離婚なさったんですね。私はてっきり、蓮司くんを試しているだけなのかと思っていました。離婚の原因って、何だったんですか?まさか、私のせい……なんてことはありませんよね?」安奈は小さく笑った。「私と蓮司くんの関係は、詩乃さんもご存じですよね。小さい頃から一緒に育ってきたんです。少しくらい距離が近くても、普通じゃありませんか。私のことで蓮司くんと離婚なさったのだとしたら……少し、分をわきまえていないと思います」
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