剣聖と聖女の娘はのんびりと(?)後宮暮らしを楽しむ의 모든 챕터: 챕터 91 - 챕터 100

142 챕터

第91話 蠢動/事件

王都内、某所。とある屋敷の一室。昼日中だというのにカーテンを締め切った部屋は薄暗く、燭台の灯りが二人の人影を壁に映し出していた。年配の男が一人ソファに腰掛け、そこから少し離れたところにもう一人の若い男が立っている。部屋の主に対して、何らかの報告を行っているようだ。「……首尾はどうだ?」まるで誰かに聞かれるのを恐れるかのように抑えられた低い声で、その問いは発せられた。「はい。|商品の仕入れ《・・・・・・》も終わり、あとはオークションの開催準備を進めているところです」主人らしき人物の問に、部下らしき人物が答えた。主人は鷹揚に頷いてから、さらに問いかける。「うむ。それで……騎士団には気取られておるまいな?あの小僧……青二才とて油断ならぬぞ」「それは……問題ない、はず……です」先程とは異なり、部下の答えは歯切れが悪い。「何だ?何か気になることでもあるのか?」当然、主人はそんな部下の様子を見過ごすことなどできず、その理由を問いただす。部下は、自分でも確証が持てない様子ながらも、その懸念を口にする。「それが……王が神殿に赴き、大神官と面会したらしいのです」「なんだと?……面会の理由は?」「『かつての事件』について……とのことです」「…………」部下の言葉に主人は瞑目し、おとがいに手を当てて考え込み始めた。しばらくは黙って主人の次の言葉を待っていた部下だったが、沈黙に耐えかねたのか……恐る恐る声をかける。「……オークションは中止しましょうか?」「そう……だな」思案に暮れていた主人は、その途中で声をかけられても特に気分を害することもなく……しかし、まだ思考の海から戻りきれていないのか、どこか上の空と言った様子で中止を決断しようとした。しかし。そう言えば……といった感じで、主人は別の問いかけをする。「|商品《・・》の中に、アレはいたのか?」「あ、そうでした。実はそのご報告もありました」「ほう?ということは……」「はい。一人だけ……聖女がいました。それも、かなりの力を持った」「ふむ……」部下の答えを聞いた主人は、再び考え込む。今度は目まぐるしく視線を彷徨わせながら。彼の頭の中でどのような考えが巡っているのか。部下は、辛抱強く主人の次の言葉を待つ。彼の経験からすれば、次は叱責されることが分かっているので、もう自分から声をかけることはし
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第92話 色欲の王

(君の母……エドナがエル・ノイア神殿の聖女だったことは知ってるのだろう?)かつての事件の話について……アルドはまず、その話から切り出した。(あ、はい。それは知ってます。……お母さんから直接聞いたわけじゃないですけど)エドナは娘に昔のこと……特に王都に住んでいたときのことをあまり話したがらない。なので、彼女は自分が神殿に所属する聖女であったことも、娘に直接教えてはいない。エステルがそれを知ったのは、シモン村の長老がポロッとこぼしたのを聞いたからだ。(そうか……。まず一つ言えるのは、かつての『事件』の中心には彼女……『赤の聖女エドナ』の存在があった)(……そう言えば、何で『赤の聖女』なんですか?お母さん、ぜんぜん赤くないですよ?アイツらも何か勘違いしていたみたいですけど……)エステルは鮮やかな赤い髪をしているが、それは父ジスタルから受け継いだもの。エドナは金髪碧眼だ。だから、エステルは母がなぜ『赤の聖女』などと呼ばれているのかが不思議であった。(そうなのか……?俺もてっきり……君と同じ赤髪なのだと思ったが)(私の赤髪は、どちらかと言えばお父さん譲りですね。お母さんは金髪です)(ふむ、確かに気になるが……まぁ、今はそれは置いておこう。とにかく、君の母親は『事件』に深く関わっていた人物の一人だった……ということだ)エドナの二つ名の由来は気になったものの、とりあえずは今の話に関係ないと思い、アルドはそのように続けた。(……でも、その事件は解決したんですよね?それが……今回の誘拐事件と何の関係があるんです?)(それは、今から順を追って説明しよう。エドナが事件の中心人物の一人と言うのは今言った通りだが、他にも何人か重要人物がいる。その一人が……先代の国王であるバルド、俺の伯父だ)(先代の国王……へ〜かの伯父さん?)(そうだ。知ってるか?)(いえ、知らないです!)きっぱり。それで良いのか国民よ。しかしアルドは苦笑しつつも、それも仕方ないというふうに続ける。(まぁ、最近になって俺が正式に王になるまでは、長らく空位だったから……君が知らないのも無理はないな)いや、そもそも彼女は現国王の名前も知らなかったのだが。流石のアルドもそれを聞いたら凹んだかもしれないが、その事実を告げるものがいなかったのは幸いだろう。(え!?ずっと王様がいなかったんですか
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第93話 事件の背景

かつての事件について、アルドとエステルの念話が続く。先程まで落ち着き無……元気だったエステルが、急に黙り込んでしまったので、周りの女性たちから心配する視線が向けられているが、会話に集中している彼女は気が付いていなかった。(エル・ノイア神殿はエルネア王国にありながら、王の権力も及ばぬほどの力を持っている。言ってみれば……国の中にもう一つの国があるようなものだ)アルドはエステルに、神殿と王国の関係を説明する。女神エル・ノイアが王に祝福を与えたという歴史的な経緯から、王が威光を示すための後ろ盾となっていること。王国も女神信仰を国民に奨励し、様々な権利を認めたり優遇措置を取ってること。つまり、相互に支え合う対等な関係である、と。(へぇ〜、そうなんですね〜)アルドの説明にエステルは相槌を打ちながら答えるが、あまり興味が無いので多分すぐに忘れることだろう。(そういう背景もあってな、いかに王であるバルドであっても、欲望のため聖女を好き勝手にすることなど出来ない……はずだった)(でも……そうじゃなかった?)(ああ。確かに神殿には、おいそれと手出しは出来るものではない。しかし、神殿側の権力者が協力すれば話は別だ)(そんな……まさか、女神様の神殿に悪者がいたんですか!?)エステルは敬虔な信者……というほど信心深いと言うわけではない。しかし、母や自身の癒しの奇跡の力は女神からの授かりものと教えられてきた事から、女神エル・ノイアに対しては敬愛の念を抱いている。故に、女神を信奉する神殿の関係者に、女性を蔑ろにするような者がいた事に怒りを覚えた。(その神殿の権力者……当時の大神官ミゲルもまた、欲に溺れた俗物だったのだ)吐き捨てるようにアルドは言う。大神官と言えば神殿の最高権力者だ。そんな人物が悪事に加担していたという事実に、流石のエステルも絶句する。(神殿がどうやって聖女を集めているか……君は知っているか?)(……いえ、知らないです)話題が変わったことでエステルはいったん怒りを沈めて答える。(君がそうだったように、親から力を受け継ぐというケースもあるようだが……多くの場合はそうではない)(へぇ……そうなんですね)(一つは……何らかの怪我を負って、たまたま癒しの奇跡が発動したことで発覚したケースだな。こういった者たちは、家族や本人が神殿に申し出て聖女として所
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第94話 騎士の矜持、王の道

二人の人物がものすごいスピードで街道を疾走している。昼を少し過ぎたくらいの時間であり、王都エルネの近郊という事もあって、多くの人が行き交っている中……目にも止まらぬスピードで走る二人は、当然ながら物凄く注目されていた。しかし、あまりにも一瞬で過ぎ去ってしまったので、どのような人物だったのか……道行く人々は知るすべもなかった。「……大丈夫か?」「ええ。こうして全力疾走するのは久しぶりだけど……案外何とかなるものね」気遣わしげに尋ねる男の言葉に、並走する女性が事もなげに応える。その間も二人は走るスピードを緩めることはない。「それにしても……」複雑そうな表情で女性が呟く。「どうした?」「こうしてまた、エルネに戻って来ることになるとは……と思って」「……そうだな」同じように複雑そうな表情になって、男性もその言葉に同意する。そして更に女性は続ける。「まったくあの娘は、王都に行って早々に……クレイ君も付いていたというのに。あのトラブル気質は誰に似たのかしら?」「…………さてなぁ」男は少しもの言いたげであったが、そんなふうに言葉を濁した。「とにかく。今代の王がどのような人物か……しっかりこの目で見ないと」「ああ。まぁ、噂では悪い話は聞こえてこないが……」「噂なんてあてにならないわよ。もし、またあの愚物のような奴だったら、いかに王と言えども……」厳しい顔つきになった女性を見て、男は少し顔をひきつらせながらも、諭すように言う。「あまり、突っ走るなよ?『赤の聖女』」「……分かってるわ。というか、その名前で呼ぶのはやめて」少し間をおいてから応えた女性の様子を見て、彼は……『間違いなくお前の気質を受け継いでいると思うぞ』などと内心で思うのだった。そうして二人……ジスタルとエドナは走り続け、もう王都エルネは目前というところまで来ていた。 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆(……じゃあ、お父さんが事件を解決したってことなんですね?)(ああ。俺も又聞きだから事の経緯の詳細までは知らないんだが……とにかく、騎士ジスタルが一連の事件に終止符を打ったのは間違いない。そしてバルドは王の座を追われ……俺が即位するまで、王位は暫く空位が続く事になったんだ)過去の『事件』に関する一通りの説明を、アルドはそのように締め括った。話の概略はこうだ。時の王で
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第95話 隠された愛情

王都の郊外。市街を囲む外壁の門より、徒歩で小一時間ほどのところにある森の中の屋敷にて。外套のフードを目深に被った怪しげな風体の人物が、コンコン……と重厚な玄関扉のノッカーを叩く。さほど間を置かずに扉が開き、使用人らしき老人が来訪者を屋敷の中に招き入れた。その様子を木陰から別の人物が見つめていたことには、彼……もしくは彼女は気付いていなかっただろう。 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆「何をしに来た?」屋敷の主である男性が、応接間のソファーにゆったりと腰掛けながら来訪者に問う。壮年から老年に差し掛かろうか……という年齢に見えるが、その容貌以上に老け込んだ印象を受ける。彼の表情からは何の感情も読み取れなかったが、その言葉は咎めるような響きに感じられた。来訪者……レジーナは、そんな言葉に怯むこともなく答える。「娘が父親に会いに来るのに、理由なんて必要でして?」「……もう、私のところには来ないように言っただろう」今度は僅かに感情の揺らぎが見られた。しかし、それがどのようなものなのか……相対するレジーナにも分からない。いずれにせよ、父娘の対面にしては……緊張の糸が張り詰めたような空気感であった。……そう、屋敷の主はレジーナの父親だ。前王バルド、その人である。「私がどう行動するのかは、私が決めることですわ。私たちは籠の鳥ではない……陛下も、そう仰ってました」「陛下……アルドか。私と違って、聡明で公正で……正に王の器として相応しいのだろうな」自嘲めいたその言葉ほどには、自身を卑下するような感情は見られない。いや、もしかしたら……彼は、感情そのものが起伏に乏しいだけなのかもしれない。「それで……お前はここに、何をしに来たんだ?」彼は、改めて同じ問いを娘に投げかける。しかしそれは、最初のものと異なり、単純に彼女の用向きを問うもののようであった。「かつての『事件』の話を聞きに」神殿でアルドから事件の話を聞いた彼女は、かつての事件のように自分の父が関与してるのではないか……そう思って屋敷を訪ねてきたのだった。「……今、それを知ってどうする。そもそもお前は、おおよそのことは知っているのだろう?」「では、聞き方を変えますわ。かつての『事件』と関わりがあると思われる大きな事件が、いま王都で起きています。何かご存知ではないですか?」そして彼女は、現在
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第96話 剣聖と聖女の帰還

前王の屋敷を後にしたレジーナは、木立の間を抜ける道を王都に向かって歩いていた。だが……ふと足を止め、徐ろに後ろを振りむく。そして……「そこの方、出てらっしゃいな」何者かに向かって声を掛ける。彼女の視線の先には、一見して誰の姿も確認できないが……しばらくレジーナが黙ったまま待っていると、観念したのか一人の男が木の陰から姿を現した。「気付いておられたのですか……」「いいえ、気配を読むなんて真似は私には出来ませんから。ですが、おそらく居るはず……と思いまして」「……カマをかけられたって訳ですか。参ったな……ディセフさんに怒られちまう」彼の言う通り、レジーナは『そこにいるのは気付いているぞ』と、カマをかけたのだ。アルドは後宮の女たちに自由にして良いと言ったが、その動向を追わないとは言ってない。その立場を考えれば密かに護衛……あるいは監視が付いているはずと彼女は考え、そしてそれは正しかったわけだ。彼はディセフ配下の騎士であり、レジーナが予想した通り彼女を護衛・監視するために後を付けてきたのだ。「それで……アルド陛下は私を怪しんでいるのですか?」神殿にアルドが訪れた際に、自分が会合に同席したのは彼にとって予想外のこと。そして、かつての事件の首謀者の娘であること。それらのことから、アルドは自分を……正確には父親を疑っていると、レジーナは考えた。だが……「いえ、陛下は|貴女《あなた》様を疑ってなどおりません。ただ……なにか後ろめたさのようなものを感じたとか。貴女を心配されてるのですよ」レジーナの言葉からそれを感じたのは、会話記録を聞かされた宰相フレイなのだが……ディセフの部下は、それは敢えて言わなかった。そればかりかアルドの心象を良くするようなフォローすらして見せる。「陛下が私を……そうですか……。それで、貴方は私が父に会って何を話したのかは聞かないのですか?」「それは私の役目ではありませんので」あくまでも自分は護衛兼監視である……と、彼は言う。「……分かりました。では、ここでの話は私が直接、陛下にお話しましょう」「では王城までは私めがお護り致しましょう、レディ」彼女が父親から聞いた話から予想した、事件の根幹。それは、かつての時も今回も、国外の勢力が『聖女』を欲している事にある。元大神官ミゲルは国外に追放されたが、何らかのパイプがまだ活きている
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第97話 ニアミス

ジスタルとエドナは国王と面会するため、かつてジスタルが剣の指導をしたという騎士団長ディラックに取り次いでもらおうと王城を訪ねたのだが……「ディラックは不在か……タイミングが悪かったな」騎士団長は現在、王都の外に遠征しているらしく不在とのことだった。近日中には帰還予定とは言っていたが、正確な予定までは分からないらしい。念のためクレイにも連絡をしようと所在を訪ねたのだが、受付で応対してくれた者ではいまいち要領を得なかった。これは二人は知らないことだったのだが……クレイやギデオンは特例的に前倒しで入団が決まったため、まだ名簿登録などの各種手続きが終わっていない事が原因である。そもそも……クレイが母親に宛てた手紙に、エステルがなぜか後宮にいるという事が書かれていたため、二人は急ぎ王都にやってくることになった。そのクレイも急に入団が決まってゴタゴタしていたものだから、手紙に自身の所在を書くことができなかったのだ。「はぁ……|娘《エステル》に会いに来ただけだと言うのに、ずいぶんと面倒な事ね。……もういっそのこと、後宮とやらに忍び込む?」何やらエドナが物騒なことを言っている。あの娘にして、この母あり……なのだろうか。「やめとけって」「やってやれないこともないでしょう?」たしなめる夫の言葉もどこ吹く風で、そんな事をのたまう元聖女。エルネア王国でも最も警戒が厳重であろう王城の……その中でも最深部とも言える後宮に忍び込む事を『やってやれないこともない』とは……「お前の場合は『忍び込む』じゃなくて、『無理やり押し通る』の間違いだろう」やはり彼女は、エステルの母親ということなのだろう。二人のやり取りは、クレイとエステルを彷彿とさせる。普段は物腰柔らかく、いつも微笑んでいる彼女がそんな一面を持っているなど……シモン村の人々は知っているのだろうか。(久しぶりに身体を動かして、更に王都に帰ってきたもんだから……昔の感覚になっているのかもしれんな。……はぁ、先が思いやられる)横目で妻を見ながら、内心でため息をつく夫。せめて、妻が暴走しないように自分がしっかりせねば……彼はそう思うのだった。「とにかく出直しだ。今日のところは宿を押さえて……久し振りだし、少し街をぶらつくか?」「そうね……。出来ることなら早く解決してシモン村に帰りたいところだけど。エレナとジークも私達
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第98話 偶然の出会い

昼時からしばらく経った王都の目抜き通り。多くの商店が立ち並び買い物客などで賑わうその場所に、ジスタルとエドナの姿があった。彼らはひとまず宿を確保し、久し振りの王都を散策しているところだった。「人が多くて目が回りそう。やっぱり辺境とは違うわね……」「大丈夫か?」「ええ、ありがとう。すぐに慣れるわ。もともと住んでいたところだもの」エドナは多くの人の気に当てられて少し気分が悪くなっていたが、夫の気遣う言葉に笑顔でそう応えた。本人が言う通り彼女はエルネの出身であり、ジスタルとともに出ていくまで長年住んでいた場所である。「それよりも、着いた時は変わってないって思ったけど……少し雰囲気は明るくなったかしら?さっき通ったところなんて、昔はスラムだったのに……すっかり綺麗になって」「……そう、だな」エドナの言葉には複雑そうな感情が込められているようだったが、同意するジスタルもそれは同様だった。そして、気になっている事を聞いてみる。「……神殿には顔を出さないのか?」「あそこは……楽しい思い出もたくさんあったけど、それ以上に……」「……すまん」悲しげに応える妻の言葉に、気まずそうに謝る夫。 だが彼女は再び笑顔を浮かべて言う。「ううん、今は幸せなんだし、随分時も経ったのだから……もう折り合いを付けないと。それに、|義母《かあ》さんには会いたいわ。手紙の一つも出さない親不孝者が今更……って気もするけど」最後の言葉は少し自嘲気味だった。そして今度は決然とした表情で続ける。「私は大丈夫。でも、娘には同じ思いをさせるわけにはいかない」「もちろんだ。だが……俺達の心配は懸念に終わるかもしれないな」「?……どうして?」「さっきお前が言っただろう?『街の雰囲気が明るくなった』、と。街が綺麗になっただけじゃなく、道行く人の顔も明るくなったと思わないか?」周りを見渡しながら彼は言う。楽しそうにおしゃべりする女の子たち。仲睦まじげな恋人や夫婦。はしゃいで走り回る子どもと、それを慌てて追いかける母親……何気ない日常の光景がそこにはあった。そしてそれは、自身が騎士団に所属していた頃よりも、どこか開放的で……ジスタルはそう感じていたのだ。「街や人々の雰囲気ってのはな、政治の良し悪しを映し出す鏡だ。現国王アルド様は最近即位したばかりだが……噂では、それ以前から政治手腕は評
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第99話 むかし話

「『姉さん』……って……え、私……?」目の前の女性……エドナが発した言葉の意味がわからず、困惑するレジーナ。それを見て我に返ったエドナは、慌てて取り繕う。「ご、ごめんなさい!あなたが身内にとてもよく似ていたから……つい」そう言いながらも、エドナは半ば確信していた。偶然出合った目の前の|少女《レジーナ》が何者であるのかを。そしてそれを確認するために質問をすることにした。その間、ジスタルとレジーナの護衛は二人のやり取りを黙って見守っている。「あなたは……もしかして、レジーナ?」「えっ!?」目の前の|女性《エドナ》とは初対面のはずだ。なのに名前を言い当てられ、レジーナは再び困惑の声を上げた。「そう……ですけど、どこかでお会いしたことがありましたでしょうか?」そう聞くものの、少なくともレジーナの記憶にはない。困惑する彼女に苦笑しながら、エドナは応える。「覚えていないのは当然ね。あなたが赤ん坊の頃にしか会ったことがないのだから。私の名はエドナ。あなたの母親……リアーナの妹よ」「ええっ!?」三度目にして最大の驚きの声が上がった。亡くなった実母に肉親が存在したこと。そして、『エドナ』の名。色々な事がいっぺんに起こりすぎ、彼女は理解が追いつかない。そして心の整理がつかないまま、今度はそれまで黙って成り行きを見ていたジスタルが言葉を発する。「俺も君が小さい頃に会ってるんだ。あぁ、名乗りが遅れたが……俺の名はジスタルという」「っ!!」その名乗りには、レジーナのみならず護衛の男も反応した。彼はまだ年若いが、剣聖ジスタルの名は知っていたらしい。「聖女エドナ……剣聖ジスタル……じゃあ、あなたたちがエステルさんのご両親……なのでしょうか?」「!エステルを知ってるの!?」今度は二人が驚く番だった。エステルに会いに王都までやって来たものの、王城関係者の伝手が乏しく困っていたところ。そこにきて、思いがけない出会い……これこそ正に運命と呼ぶべきものだろう。「……こんなところで立ち話もなんだ。場所を変えないか?」「それでしたら……近くに公園があるので、そちらで……」人の往来が激しい街路で話すような内容ではない。そう判断した彼らは、より詳しい話をするために場所を変えることにした。 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆「…………じゃあ今は、エステルは王城に
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第100話 剣聖と聖女の出会い

幼き日のエドナは、日々の暮らし……いや、ただ『生きる』ためだけに、悪事に手を染めていた。彼女は不良少年たちのスリ集団に加わっていたのだ。「もちろん最初は罪悪感があったわ。でも、これも生きていくためって言い訳してね……それすらも段々と麻痺していった。裕福そうな人を狙って……どうせ私が盗むお金なんて|端金《はしたかね》なのだから、私が貰ったって良いでしょ……なんて正当化して。ホント、馬鹿な子供だったわ」……実の子供たちにも話したことがない、自身の人生の汚点。誰にも知られたくなかったそれを、まだ出会ったばかりの姪に話すのはなぜなのか?それは、レジーナに亡き姉の面影を重ね、気を許しているからなのか……あるいは彼女に対して懺悔しているようにすら見えた。その話を初めて聞くレジーナは……実の母と叔母の壮絶な過去に絶句する。母が神殿で暮らしていたことは知っていたが、それ以前の話は聞いたことがなかったから。しかし、エドナが後ろ暗いことをしていたと聞いても嫌悪感は抱いていない様子だ。エドナはそれに少しほっとしてから、話を続ける。「姉さんはそんな事してないから安心してね。私と違って……ちゃんとコツコツ真面目に働いていたわ」彼女はそう言うが、姉リアーナも幼い身であるが故に大した仕事ができるはずもない。例えそれが不当なものであっても、エドナの稼ぎがなければ食いつなぐことなどできなかったのだ。「それに、身体も丈夫じゃなかったから、荒事なんか無理だった。私は小さい時から、大人に負けないくらい力が強くて頑丈だったんだけどね」実は……エステルの異常とも言える身体能力は、母エドナに由来する。彼女も幼い頃から大人顔負けの力の強さを見せていた。恵まれた肉体と、剣聖の技……その双方を引き継いで生まれてきたのが、エステルなのである。もちろん今の彼女の実力は、弛まぬ努力の積み重ねがあってこそなのは言うまでもない。「そういう事もあって、運良く……というのは違うかもしれないけど、危険な目にあってもずっと切り抜けてこれたの。……この人に会うまでは」彼女はそこでチラッとジスタルを見る。彼は目をつぶって、腕を組んでじっと話を聞いていたが、そこで初めて口を開いた。「その時俺は、友人と街を歩いてんだがな。ちょっと裏路地に入ったところで、子供がそいつにぶつかってきたんだ」ちなみに『友人』というのは、現
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