All Chapters of 剣聖と聖女の娘はのんびりと(?)後宮暮らしを楽しむ: Chapter 71 - Chapter 80

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第71話 エステルvsクレイ2

開始の合図とともに、まず動いたのはクレイだ。彼は戦闘中とは思えないくらいにゆったりとした足取りで、エステルの方に歩を進める。彼女は構えを崩さずその場に留まって、クレイを待ち受けていた。そして、開始の位置から半分ほど距離を詰めたところで……突然クレイが爆発的な加速を見せる!次の瞬間、ガンッ!!と、木剣を打ち鳴らす鈍い音が訓練場に響いた。クレイが二本の剣をそれぞれ袈裟懸けに振るった攻撃を、エステルが横に構え直した大剣で纏めて防いだのだ。この場にいる者で、今のクレイの攻撃を視認出来た者はほとんどいなかった。二剣と大剣の鍔迫り合いは長くは続かない。エステルは大剣を力ずくで押しやりながら、クレイの胴に蹴りを放つ!!しかし、彼は大剣に押される力も利用して一瞬で後方に飛び退る。それを逃さないとばかりにエステルは前に飛び出し、大剣を叩き込もうと振りかぶる。クレイはそれに合わせてカウンターを狙うが……エステルは大剣を振りかぶった姿勢のまま大きく跳躍した!!「何っ!?」クレイのカウンターは空を切り、エステルは身体を翻しながら彼の頭上に舞い上がる。そして……!ドンッ!彼女は天井を蹴って加速し、一気にクレイの背後に着地し、そのままバックハンドで大剣を振るう!ガァンッ!!!「あっぶねえ!!何てことしやがる!?」「よく止めたじゃない!」遠心力の乗ったエステルの一撃を、かろうじて二剣を交差させて防いだクレイ。衝撃を吸収しきれないと咄嗟に判断した彼は、剣で受け止めながら後ろに飛んで退避している。「お前、屋内戦の経験なんかあったっけか?」「無いけど……今のは木の枝とかでもやったことあるよ」「あ〜……なるほどな。それにしても、俺を殺す気か?」「このくらいクレイなら全然平気でしょ。まだまだ行くよ!!」「はぁ〜……勘弁してくれ。結構ギリギリなんだぞ、こっちは」そんな弱音を言いながらも、クレイはエステルの怒涛の連撃を捌いていく。言葉とは裏腹に余裕を持って対処しているようには見える。そして、エステルの斬撃による衝撃波が訓練場の中を吹き荒れる。木剣であるのにもかかわらず、それは当たればただでは済まされない威力を持っていた。いくつかの斬撃波がマリアベルが張った結界に衝突し、その度に『バァンッ!!』と破壊音が響いて見学する者たちの肝を冷やすが、今のところ結界に綻びが生
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第72話 禁じ手

エステルとクレイの手合わせが続く。……いや、その戦いの激しさはもはや手合わせの範疇を超えていた。「……木剣なのによく壊れねぇな」ギデオンがそう小さく呟いた。彼が言う通り、あれほど激しく剣を打ち合わせていれば、とっくに壊れていていてもおかしくないが……その疑問にはアルドが答える。「あれは剣にまで『闘気』を纏わせているんだ。おそらく、鉄製並みの強度があるだろうな」「マジですか……」ギデオンのレベルでもそれは理解を超えていた。エステルやクレイ、アルドの領域に到達して初めて体現できるものなのだろう。「だが……どうやら決着は近そうだ。エステル嬢がこのまま押し切って終わりだろう」ディセフが二人の戦いの先行きを予測し言う。彼が言う通り、クレイはエステルの怒涛の攻撃を防ぐので手一杯で反撃もままならないように見えた。しかし。「……それはどうかな?」アルドは意見が違うようだ。「陛下……ですが、クレイはもうどうにも手詰まりのように見えます」「何を狙っているのかはわからん。だが、あいつの目はまだ諦めていない。俺の目には、あいつは何らかの策を繰り出すタイミングを見計らっているように見える」「……確かに、勝負を投げてはいないですね」「ああ。お前たちもよく見ておけよ」最後まで勝負を諦めない。その姿をクレイは見せてくれているのだ……と、アルドは騎士たちに言う。果たして……クレイの策とはいったい何なのか?その時は直ぐにやって来た。「はぁーーーっっ!!」エステルがこれまでよりも更にギアを上げて猛然と踏み込み、裂帛の気合で大剣を大上段から振り下ろす!その一撃をクレイはかろうじて横に飛んで躱した。ドゴォッッ!!!エステルの大剣は、クレイの脇をギリギリ掠めて地面に叩きつけられ、そこに大穴を開けた。通常であれば、大振りの一撃のあとには隙が生まれそうなものであるが……エステルは即座に叩きつけた大剣を無理やり引き上げて構えを取っている。恐るべき膂力である。「おいおいおい!!攻撃の殺意が高くないか!?」「え?普通でしょ?」エステルはしれっと言うが……暫く稽古が出来なかった鬱憤を爆発させている自覚はない。その相手をするクレイはたまったものではないだろう。(このままでは押し切られる……しかし、例えこいつが相手でも、入団後の初戦は勝ち星で飾りたいところだ。……仕方
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第73話 『好き』

「も〜、ひどいんだよクレイは!」「まぁまぁ、落ち着いてエステルちゃん」後宮の庭園にある|四阿《ガゼボ》にて、エステルとマリアベルがお喋りに興じている。クレイとの手合わせを終えたエステルは、『次はギタギタにするかんね!おぼえてろ〜!』という捨て台詞を残して訓練場を立ち去った。その場の騎士たちが、ポカン……としていたのは言うまでもない。ディセフが『お、おい、作戦の説明は……』と言っていたのも耳に入らなかった。「でも、二人とも本当に凄かったわ。速すぎてほとんど見えなかったけど」「えへへ〜、ありがとう!……でも、負けたの悔しい〜!」マリアベルに褒められて一瞬だけご機嫌になるものの、直ぐに思い出してプンスカするエステル。彼女は何事にもあっさりしていて引きずらないタイプなのだが、こと剣の手合わせに関してはこの限りではない。とは言っても、完全に実力で負けていたのならとっくに切り替えているはずだ。やはり、クレイの『禁じ手』がよっぽど腹に据えかねたのだろう。「ふふ……でも、クレイくんも意外と大人げないのねぇ……もっと達観してる印象だったんだけど」「クレイはいつもあんな感じだよ?」「ふ〜ん……」そこでマリアベルは、手を|頤《おとがい》にあて、暫し思案に暮れる。「どしたの?」「……ねぇ、エステルちゃん?あなた、クレイくんの事はどう思ってるのかしら?」「ほぇ?どう……って?」マリアベルの漠然とした問いかけに、エステルはキョトンとして聞き返す。「ほら、何ていうか……『かっこいい!』とか、『ステキ!』とか……」「う〜ん?…………あ!『お母さん』みたいかも!」「お、お母さん……?」エステルの答えにガクッ……となるマリアベル。同い年の男の子を捕まえてそれは無いでしょう……と彼女は思ったが。「だってさ〜、いろいろ口煩いし、私のこと子供扱いするし〜」エステルは母エドナのことは大好きであるが、ちょっと口煩いところは苦手である。そして、クレイも似たようなところがあるのでそう答えたのだが……せめて『兄』ではないだろうか。彼の方はエステルを『妹』のようだ……と思ってるのだが。「ま、まぁ……家族みたいに仲が良いってことよね」(なるほどね〜……この様子だと、彼に恋心を持ってると言う事はなさそうだけど。でも、家族みたいな愛情から男女の愛に変わるなんて良くある事よね)
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第74話 従姉妹

エステルとマリアベルが談笑する場へとやって来たレジーナ。彼女はエステルの誘いに応じるが……「…………」「…………」マリアベルとレジーナは笑顔を貼り付けたまま無言を貫いている。(う〜ん……やっぱり空気が重いなぁ……仲が悪いってわけでもなさそうなんだけど)それだったらレジーナもこうして同席しないだろうとエステルは思うのだが、ではなぜ黙ったままなのか?と言われても理由が分からない。しかし彼女は場の雰囲気に怯むような性格ではない。戦いも会話も果敢に攻め込むのが持ち味なのだ。だから……「二人ともお知り合い……というか親戚同士なんですよね?何で喋らないんですか?」なんてド直球を放り込んでくる。流石は我らがエステルと言えよう。「親戚……そうですわね。私と、マリアベル様やアルド陛下は、いとこ同士なんです」「いとこ……そうね、そうだったわ」二人の関係を説明するレジーナの言葉に、まるでその事実を忘れていたかのようなマリアベルの呟きが漏れる。「???」当然、彼女たちの関係を知らなかったエステルは、ますます意味が分からずコテンと首を傾げた。その様子を見たレジーナは更に説明する。「実は私とマリアベル様が初めてお会いしたのは、つい最近のことですわ。ですから、どう接したら良いのか……距離を測りかねてるところがありまして」そう言いながらレジーナがマリアベルに視線を向けると、彼女も頷いて同意する。エステルは、どうもそれだけじゃ無さそう……とは思ったものの、それ以上は聞かなかった。そのかわり。「じゃあ、これから仲良くしましょ〜!せっかく歳も近いんだし」と屈託なく言う。一見お花畑な言動に見えるが、二人がお互いに険悪な感情を持っている訳では無いと見越した上でのものだろう。エステルは女の勘は持ち合わせていないが、中々の観察眼の持ち主だ。あるいは剣術にも通じるものがあるのもしれない。そしてエステルに言われた二人は顔を見合わせて……お互いに、くすっと笑った。「ふふ……そうですわね。マリアベル様、これからもこうしてお喋りしていただけたら嬉しいですわ」「こちらこそ、レジーナ様……いえ、『様』付けはよそよそしいわね。私達はいとこ同士なんだから、もっと気軽にいきましょ」と、二人は笑顔で言い、エステルは『うんうん』と頷くのだった。そうして、暫くは3人でお喋りをする。最初は他愛
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第75話 作戦決行日

数日後。人身売買組織壊滅作戦を決行する……つまり、エステルが攫われた娘を装って潜入する日がやって来た。作戦に先立って、彼女はごく一般的な王都平民の娘の服装に着替えている。戦闘が発生することも考慮して動きやすさ重視の格好だ。「普通の服って、何だか久し振りな気がする~」ここ数日の後宮暮らしで彼女はすっかりドレスなどの上質な服に慣れていたので、ついそんな感想も口をついて出てくる。やはり彼女はお洒落に目覚めたようであり、所作も多少は女らしさが増した……かもしれない。そしてエステルは作戦決行前の最終確認を行うため騎士団本部の作戦会議室へとやって来た。そこには既にアルドやディセフ、今回の作戦で実行部隊を指揮する隊長格の騎士たち姿があった。そして……「来たか、エステル」「あ、クレイ!」居並ぶ騎士たちの末席にクレイが居た。まだ入団したばかりの彼がこの場にいるのは、かなり異例な事だ。だが、先日のエステルとの手合わせで彼の実力は既に騎士団内部に広く知れ渡っており、今回の作戦においても大きな期待がかかっているのである。また、ここにはいないが、ギデオンも実働部隊の主力として抜擢されている。「エステル、こちらへ」「は~い」アルドが自分の隣を指し示し、エステルに着席を促した。この場の者の間では、エステルがアルドのお気に入りであることはすっかり定着している。王の態度を見れば、彼女を伴侶として迎えようとしているのは誰の目にも明らかだった。当の本人は全く認識していないが。そして、それを見たクレイは複雑そうな表情を浮かべる。それは、本当に彼女を王妃などにして大丈夫なのだろうか……という懸念の現れか。いや、あるいは…………?「よし、これで揃ったな。ディセフ、頼む」「はっ!」アルドの指示を受けてディセフが説明を始める。既に作戦の詳細は各部隊に共有されており、これは最後の認識合わせとなる。「これより、こちらのエステル嬢に、攫われた街娘を装って組織の内部に潜入してもらう。今回の作戦は、彼女の類まれなる単身での戦闘能力があればこそだ」これまでも囮作戦は検討されてきたが、作戦遂行に足るだけの能力を持った女性騎士がいなかったため実践できなかった。その点、エステルは最強クラスの力を持つ上に、彼女の美貌は組織からすればかなりの『商品価値』があるはずだ。「今回の作戦に当たり、一つ懸念が
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第76話 潜入前

いよいよエステルが組織に潜入する時がやって来た。もともと彼女を危険に晒すことに難色を示していたアルドが、心配そうに声をかける。「エステル、くれぐれも気を付けるのだぞ。あくまでも自身の安全を最優先に考えてくれ。もし君に不埒な真似をするような輩がいたなら、その時は遠慮する必要はない」「はい!えっちな事をされそうになったら潰します!!」ナニを潰すのかは秘密だ。皆聞かなかったことにしている。「……取り敢えず、ギリギリまでは我慢してくれると助かるんだが」ディセフが複雑そうな表情で言う。仕える主君の手前、彼とてエステルに無理をさせる様な事はあまり言えないのだが……作戦の成否に関わるところなので、そう言いたくなるのは致し方ないところだろう。「本当に大丈夫なのか?」「何?心配してくれるの、クレイ?」「そりゃあな。お前、大抵の事は力で解決するじゃないか。早々に大立ち回りを演じる光景が目に浮かぶよ」彼は幼馴染の少女に危険が及ぶかもしれないということについては全く心配していない。彼女を害することができる存在などいないと思っている。それは、ある意味ではエステルに対する信頼の証なのだが……「失礼な。それはその方が手っ取り早いからでしょ。私だって今回の作戦の……私の役割くらい分かってるんだからね!」「それなら良いんだけどな……(本当かなぁ……?)」その点に関してはクレイはいまいち信用しきれないのだった。(多分、自分の身の危険については、ある程度我慢できるかもしれんが……他の囚われた女性が酷い目にあっていたら、果たしてどうかな……)正義感の強い彼女が、他人の痛み我慢できるかどうか。クレイはそれを懸念していた。エステルのそういうところは彼女の美点であり、彼も好ましいと思っている。しかし、彼女が作戦のために冷酷になれなければ……早々に自分たちの出番がやってくるかも知れない。彼はそう考えていた。 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆そして、夕刻。エステルは王都の人気のない路地裏へとやって来た。彼女の他に、『アラン』に扮したアルドとディセフ、クレイの他、数人の騎士たちも。彼等は皆、騎士であることが分からないように、普通の平民の格好をしていた。そして更に……「いいか、おかしな真似は考えるなよ。この地域一帯には、俺たち以外にも市民に扮した騎士や兵達が配置についてお
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第77話 潜入開始

日が沈んでから暫くの後。拘束されて麻袋を被せられたエステルは、人攫い(役)たちが引く荷車に横たえられて運ばれていく。荷車には大きな布がかけられているので、傍目には何を運んでいるのかは分からないようになっている。車輪が街路の石畳を転がるガラガラという音が裏路地に鳴り響き、細かな振動が荷台に横たわるエステルにも伝わってくるが、流石の彼女もそんな状態ではどこに向かっているのかまでは分からない。(……ガタガタ揺れて地味に痛いんだけど。退屈だな〜)身動きが取れず目隠しもされた状態では何もする事が出来ない。ただじっとしてるだけなのは、活動的な彼女にとってはさぞかし苦痛な事だろう。しかし、その退屈な時間も終わりを告げる。騎士団詰所の近くの空き家から人目につかないように出発した荷車は、目的地である『宵闇亭』の裏口前に到着した。人攫い役のゴロツキの一人が表に回って店に入る。ここで連絡要員との接触が行なわれるはずだ。店の周辺では、騎士たちが潜んでおり、怪しい動きが無いか監視している。その中にアルドもいる。ディセフは国王自らが作戦に参加することについて、最初は難色を示していたが、念話での速やかな連絡のために必要だろう……と押し切られた形だ。暫くすると裏口の扉が開いて、中から何者かが姿を表す。「……それが『商品』か?」荷車を一瞥してその人物が問う。目深に被ったフードで顔が隠されているが、体格や声からして男であるのは間違いないだろう。「へ、へい、そうです。……へへへ、今回は目ん玉が飛び出るくらいの上玉、それも生娘ですぜ。ダンナもきっと驚くこと間違いなし、でさぁ」「ほう……それが本当なら、次回のオークションもさぞかし盛り上がる事だろう」男たちは小声で会話を交わす。ゴロツキの男はエステルの商品価値をアピールし、連絡員の男から機嫌の良さそうな答えが返ってくる。そこに何かを疑うような素振りは見られない。(……へ〜か、『生娘』って何ですか?)エステルは念話でアルドに質問する。アルドたちに会話は聞こえないが、その言葉から何となくやり取りを察した彼は答える。(あ〜、何と言うか……キミが魅力的だ、と言ってるのだろう)(えへへ〜、褒められちゃった)何とも緊張感が無い様子だ。アルドとしては、彼女が恐怖に怯えていないことに少し安堵することが出来たので良かったのかもしれない。そう
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第78話 宵闇亭の秘密

頭から被らされていた麻袋が取り払われ、エステルは視界を取り戻す。もちろん手を縛った縄と猿轡はそのままである。彼女が運び込まれたのは『宵闇亭』の裏口から入った倉庫。保存の効く穀物や野菜、酒樽などが所狭しと並んでいた。(……お酒の匂いが強いね。ちょっと飲みたいなぁ)まだまだ彼女は余裕だ。なお、全く酔うことがない彼女にとって、お酒はジュース感覚である。「ほぅ……確かにこいつは物凄い上玉だな。オークションの目玉になるぞ」「へへへ……そうでやしょう?……ちょっと胸が寂しくて子供っぽ……ひぃ〜っ!?」エステルからゴロツキに向かって殺気が飛ぶ。彼女は自分では『せくすぃ〜おねえさん』と思ってるので、こども扱いは禁物なのだ。そんなところ全くアピールする気もない癖に……全くもって意味不明である。なお、殺気はピンポイントで飛ばしてるので……なぜ彼が悲鳴を上げたのか分からず、連絡員の男は不思議そうにしている。「急にどうしたんだ?」「い、いえ、何でもありやせんぜ。……と、とにかく、こんな上玉を連れて来たんですから、礼金の方は……」「ああ、分かってる。たっぷり弾んでやろうじゃないか。店のマスターに渡しておくから、後で取りに行け」「ありがとうございやす!!」そういって人攫い役の男は外に出て行ってしまった。彼の役目はこれで終わりだ。当然ながら、彼は執行猶予中の身なので、店の外に出たら騎士たちに確保される事になる。「行ったか。さて…………嬢ちゃん、随分と落ち着いてるが、これからどうなるのか分かってるのか?」連絡員の男はそんな事を聞いてきた。フードから覗く口元には、いやらしい笑みが浮かんでいる。これから売られる哀れで美しい少女の行く末を想像して、嗜虐的な悦びを感じているらしい。「お前はこれからオークションにかけられて、他国の金持ちに買われていくんだ。その後でどうなるかは分からんが……お前ほどの美貌の娘が辿る道など容易に想像がつくだろう」男はニィ……とますます笑みを深めて言うが、エステルは無反応である。怯えた少女の演技をする……などと気の利いたことはエステルには不可能だ。クレイのお墨付きである。「なんだ?ここまで言っても平然としてるとは……よっぽど肝が座っているのか……ただのアホなのか」「んむ〜っっっ!!!!(なにお〜っ!!アホって何さ!!)」「おわっ!?」ア
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第79話 ポンコツ王と秘密の地下通路

『宵闇亭』の裏口から入った場所。そこは一見して単なる倉庫と思われたが、地下へ通じる階段が隠されていた。「う〜ん……なるほどなぁ……やはり店に秘密が隠されていたのか。おそらく地下通路か何かで別の場所に行けるようになってるんだろう」エステルの念話によってもたらされた情報に、ディセフは唸りながらそう言う。これまでほとんど手がかりが掴めなかった原因の一つは、この隠し通路の存在だろう。そして、そんな大掛かりな施設を準備できるところを見ると、やはり相当大きな組織が背後にいることを示している。「よし!では総員突にゅ「いやいやいや!?待ってくださいって!!」宵闇亭に秘密があったと知るやいなや、アルドは配下の騎士たちに突入を命じようとしたが、慌ててディセフが止めに入る。「陛下!!なにやってんすか!?まだ潜入したばっかじゃないですか!!」「敵の地下施設が割れたんだ。もういいだろう?早くエステルを助け出さなければ!!」「いやいやいや……まだ本拠地に通じてると決まったわけじゃないですし、今から突入してもトカゲの尻尾切りされるのがオチですよ。これまで散々やられてきたでしょ〜に……」「お前はエステルが心配じゃないのかっ!?」「……いや、陛下から話を聞く限り、随分と余裕そうでしたけど。とにかく!!落ち着いてください!!エステル嬢が危なそうだったら直ぐに突入させますから!!」「……ほんとだな?絶対だぞ?」何とかアルドの暴走を押し止めたディセフ。しかし、アルドは取り敢えずはいったん落ち着いたものの、何度もしつこく念押しする。(あ〜、もう……エステル嬢が絡むと途端にポンコツになるなぁ……当の娘もあんな調子だし……胃が痛ぇ……はぁ……)自分が言い出した作戦とはいえ、ディセフは内心でそんなふうに思いながらため息をつく。そこに、店の方で待機していたクレイが様子を見にやって来た。ギデオンは店に残してきたようだ。「店の方は特に変わった動きはありません。……って、何やってんですか?」「おお、クレイか。……お前も、今から突入しようとか言い出さないよな?な?」エステルの幼馴染である彼ならば、やはり彼女の事が心配だろうし……アルドと同じことを言い出さないかと、ディセフは疑心暗鬼になっている。「……はぁ??今潜入したばかりで何言ってるんですか?作戦はまだ始まったばかりでしょう?」「
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第80話 たどり着いた場所

連絡員の男に案内されて歩き続けることしばし。先が見えず、ずっと同じ景色ばかりが続いた細い通路にもようやく変化が現れる。一本道と思われた通路だったが、十字路に差し掛かったのだ。「分かれ道があるんだ……」「ああ。ここから先は迷路のようになってる。途中ではぐれたりしたら迷って出られなくなるぞ。俺だって決まった道順から外れれば迷うんだからな……さあ、こっちだ」そう言って連絡員の男は十字路を右に曲がる。その先は、彼がいった通り幾つもの分かれ道が続いて複雑な迷路のようになっていた。(……王都の地下にそんなものがあるとはな)(アルド陛下は全然知らなかったんですか?)エステルは自身の状況を念話で逐一アルドに報告している。今も、彼女から地下の様子の報告を受けたアルドだったが、その予想以上の規模に驚いている様子だった。そして、この王都の主とも言えるアルドが、これだけの規模の地下施設の存在を知らなかった事について、エステルが疑問を持つのも当然だろう。(この街の歴史は非常に古い。それこそ王国が成立する前から存在しているが……忘れ去られた古代の遺構なの一つなのかもしれん。実際、今でも時折その時代の遺跡が見つかることがあるんだ)(へぇ〜、ロマンがありますねぇ〜)(しかし、それほど大規模のものなら……もしかしたら君が言う通り王家には伝わっていたのかも知れない。だが、俺が王位を継いだ時期は少しゴタついてたからな。いや、しかし……仮にそうだとすると……)そこでアルドは口籠る。エステルは続く言葉を待っていたが、もうそれ以上は語られる事はなく、彼女も追求することはなかった。それから、また暫くは連絡員の男の案内で迷路のような地下通路を進んでいく。……因みに、エステルは以前自分で豪語した通り、一度通った道は忘れることがない。今回も複雑な道順をバッチリ記憶している。更に、分かれ道の度にどちらに行くのかを都度報告しているので、地上側ではそれを元に宵闇亭からの道順を記した簡易的な地図も作られていた。それに加えて、彼女は距離感や方向感覚も恐ろしいほど正確なので……王都の地図と照らし合わせて、おおよその現在位置も把握することが出来たのである。ここでも彼女はそのチートぶりを発揮するのだった。そして、もう数十分ほどは歩いただろうか。エステルの前に、再び上へと昇る階段が現れた。「着いたの?
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