جميع فصول : الفصل -الفصل 10

20 فصول

第1話 プロローグ

「はっ!せいっ!!やぁっ!!」色めく花々が咲き誇る庭園。そこは一見して綺羅びやかな……しかしその実、ドロドロとした愛憎渦巻く女の園。年若き王の伴侶、妃の候補となる女性が集められた後宮の一画である。そんな場所には似つかわしくない快活なかけ声が、広々とした庭園に響いていた。「はっ!ふっ!!せぇいっ!!」声の主……背中まである鮮やかな赤い髪を無造作に首の後ろで纏め、動きやすさ重視の簡素な服を着た少女は、掛け声を発しながら一心不乱に手にした木剣を振るっている。その格好はおよそ後宮住まいの女性とは思えないものだが、彼女は世話役の女官などではなく歴とした妃候補の一人である。服装に惑わされず、よくよく見てみれば……やや幼さが残るものの、透き通るような碧い瞳が彩る凛とした美貌は、なるほど、妃候補と言うのも頷けるかもしれない。そんな彼女に近付く数人の人影が。剣を振る少女の様子に眉を顰め、苦言を呈するべくやって来た他の妃候補たちだ。皆、少女よりも年上らしき妙齢の女性ばかり。その中の一人が代表して声をかける。「ちょっと、よろしいかしら?」「はぁっ!!やぁっ!!」「……もし?」「つぇいっ!!てりゃあっ!!」「っ!無視をするんじゃありません!!!」声をかけた妃候補は、少女がこちらに全く気が付かない事に腹を立て、手にした扇を畳んで彼女に投げつける!「っ!?ていっ!!」カンッ!自分に向かってきた扇を察知した少女は、木剣でそれを弾き返した。それは投げた主のもとに、投げた時よりも倍するほどのスピードで一直線に向かい……「痛っ!!?」投じた手元に当たって庭園の芝生に落ちた。「…………あれ?どうしたんですか?皆さんお揃いで」流石に剣を振るうのを止めた少女は、集まっていた妃候補達に向き直って不思議そうに聞く。「いつつ……どうした、じゃありません!!何で声をかけてるのに無視するのですか!!」「あ、レジーナさん、すみません。私、剣の稽古で集中すると周りが見えなくなっちゃって……あ、殺気とか攻撃されれば、バッチリ気が付きますから大丈夫です!」「誰もそんな事は心配してません!……いいですか、エステルさん。ここは後宮です。将来の妃や側室に相応しい女性となるべく、互いに研鑽を重ね高め合うところ。気品、礼節、教養……そういったものが求められる場所なのですよ。それなのに、あ
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第2話 剣聖の娘

エステルは辺境の開拓村出身の15歳の娘。燃え盛る炎のような鮮烈な赤い髪と、清らかな|水面《みなも》のように透き通った蒼い瞳を持つ、神秘的な美少女だ。だが、口を開けばその印象はガラリと変わる。彼女は幼少の頃から棒切れを剣にして振り回し、村の同年代の男の子たちを子分に従えるようなお転婆な娘だった。そして年頃の娘となった今でも、そのお転婆ぶりは変わらず。唯の棒切は、いつしか木剣に変わり……今ではしっかりと手入された実剣になった。振り回すだけの剣術とも呼べなかったものも、日々欠かさない稽古によって洗練された剣技へと昇華されている。そんな彼女を女性として見る者は、一部の例外を除いては居なかったが、相変わらずのガキ大将気質に彼女を親分として慕う|男《こぶん》は多かった。そして彼女がオシャレや恋愛よりも剣の稽古に精を出すようになったのは、間違いなく父親の影響だろう。かつて、名うての騎士だったと言うエステルの父は、どういうわけか早々に引退してしまい、妻とともに辺境の田舎へと引きこもってしまった。騎士を引退したとはいえ、まだ若く肉体的にも全盛期だった彼の剣の腕は些かの衰えもなく、魔物が跋扈する辺境の地では村人たちに大いに頼りにされた。成り行き、自警団の団長に収まるのにそれ程時間はかからなかった。そうやって村人たちの信頼と尊敬の眼差しを受けるようになった彼に、幼いエステルが憧れを抱くのは当然の事だったのかも知れない。剣に興味を示した幼い娘に、父は喜んで自ら剣を取って稽古を付けるようになったのである。それから僅か数年……エステルが十二を数える頃には、彼をして『もはや自分を超えた』と言わしめる程の腕前となるのだった。以来、父から剣を教わる事もなくなったが、彼女は日々の稽古を止めることはなく只管に剣の腕を磨き続けた。さらにその頃からは村の自警団にも所属し、辺境の強力な魔物相手に実戦経験も積み重ねてきたのである。そして、美少女天才剣士の噂は近隣の町村にまで届くようになった。その噂はやがて、彼女の村が属する辺境伯領の領主の耳にまで入る事になり、エステルに興味を示した領主は彼女を自分の屋敷に招き、噂を確かめようとするのであった…… ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆「わぁ~……立派なお家だね~、お父さん!」エルネア王国ニーデル辺境伯領の領都、ウィフニデアにある領主の屋敷
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第3話 手合わせ

辺境伯デニスの願いを聞き入れ、彼の配下の騎士と手合わせする事になったエステル。彼女はデニスの案内のもと、父ジスタルと共に領主邸から騎士団本部に併設されている訓練場へと向かった。「ここがニーデル騎士団の本部。この時間なら隊長格の奴らが訓練してるはずだ」まず騎士団本部へとやって来た一行。デニスは慣れた様子で門番の兵に労いの言葉をかけながら、父娘を連れて本部の中に入った。ジスタルは懐かしい雰囲気を感じて、目を細める。エステルは物珍しさからキョロキョロと落ち着きなく辺りを見回していた。「閣下……!態々こちらにお出でになるとは……いかがされました?」「おぉ、ウォーレンか。丁度いい。すまんが、訓練所に邪魔させてもらうぞ」デニスに声をかけてきたのは中年の騎士。いかにも歴戦の強者といった風情の厳つい大男だ。だが柔和な顔立ちと穏やかな口調で、人好きのする雰囲気ではある。「え、ええ……それはもちろん構いませんが……そちらの方々は?」「俺の旧友でジスタルと言う。それと、その娘だ」「よろしく」「エステルです!よろしくお願いします!」デニスに紹介されて、ジスタルは手短に、エステルは元気いっぱいに挨拶をする。「私はこの騎士団の副団長、ウォーレンと申します。こちらこそ、よろしくお願いします。……ん?ジスタル殿?まさか……あの剣聖と呼ばれた?」どうやら彼はジスタルの名を知っているようだ。騎士ジスタルの名は王都では有名だったが、それも十年以上も前のこと。とは言え、ウォーレンは見た目的には三十代半ばくらいなので知っていても不思議ではない。だが、ジスタルは今一自分の知名度の高さを自覚していないフシがあり、自身を知っている事に少しばかり驚いていた。「すると、もしや……剣聖殿に訓練のお相手をして頂ける……?」「あ~……俺はただの付き添いだ。コイツのな」「あぅ~……髪が乱れるよ、お父さん」期待の眼差しで問うウォーレンに対し、エステルの頭をポンポンと叩きながらジスタルは否定する。「実はな、このエステルの実力を確かめるために、お前たちの力を借りたい」「こちらの……お嬢さんの?」見るからに華奢で少女然としたエステルは、およそ戦いとは無縁であるように見える。実力を見るために力を貸してほしい……つまりは騎士団員と手合わせさせたい、と言う事だとウォーレンは理解した。しかし、いかな
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第4話 続 手合わせ

ウォーレンの合図によって開始されたエステルとレオンの手合せ。しかしほんの一瞬でその決着は付くことになる。開始と同時に飛び出して先制攻撃を仕掛けたのはレオン。彼が狙ったのは剣を持つエステルの手元。安全のため、分厚い革製の篭手をはめている。いかに剣聖の娘で実力もそれなりにあると聞いてはいても、婦女子に剣を向けるのには抵抗がある。なので早々に剣を弾き飛ばしてしまおうと考えたのだ。だが……!ギィンッッ!!!激しく金属音とともに勢いよく弾かれた長剣がクルクルと回転しながら宙を舞い、そして訓練場の地面に転がった。「そ、そこまでっ!!勝者エステル!!」ウォーレンがエステルの勝利を告げた。しかし……周囲で観戦していた騎士たちは、その瞬間に一体何が起きたのか直ぐには理解が追いつかない。暫しの間、静寂が訪れる。それを破ったのは対戦の当事者であるレオンだ。「な、何が起きたんだ……?」剣を弾き飛ばそうとして、逆に自分の剣が弾かれたのは分かる。それを成したのがエステルであることも。だが……彼女は今も、最初の構えのまま一歩も動いていないように見える。どのようにして自分の剣が弾かれたのか、全く見えなかったのだ。「おい、ジスタル。何がどうなったんだ?」「何だ、見えなかったのか?普通に弾き返しただけだぞ」デニスの問にジスタルは事も無げに返す。だが、彼の言う通りだ。エステルがレオンの剣を弾き返した。言葉にすればそれだけの事。しかしその速度は常人では視認すら困難なほど。いや……ここに集うのは戦いの専門家である騎士たちだ。その彼らの目を持ってしても動きを捉えることは出来なかったのだ。「も、もう一度!!もう一度お願いします!!」確かに油断はあった。しかし、剣聖の娘であるという触れ込みと、少女の見た目によらず重い剣を軽々と素振りする様子から、そこまで侮っていたわけではない。だが、結果はこの通り。自分の想像を遥かに超える実力者であることを、レオンは認めざるを得なかった。それでもこのまま引き下がるのは、彼の騎士としてのプライドが許さない。「実戦だったら、やり直しなんてきかないんだがな……」「いいよ、お父さん。私ももう少し手合わせしたい!」「まあ、お前がそう言うなら構わないが」「うん!レオンさん、もう一度お願いします!」「ああ、ありがとう」レオンは礼を言い、弾き飛ば
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第5話 騎士への道

即席の剣術指南会をどうにか収集したあと、デニスと父娘は再び領主邸の応接室に戻ってきた。「すまねぇな二人とも。ちょっと嬢ちゃんの実力を確認するだけのつもりだったんだが……」「いや、構わんよ。中々やる気のある連中で、一領民としては頼もしいと思ったぞ」「私も、色んな人と戦えて凄く楽しかったです!」申し訳無さそうに言うデニスに対して、特に気にしたふうもなく父娘は答えた。エステルはニコニコと笑顔を浮かべ、本心からの言葉であることが分かる。「それで?コイツの実力を確認して……どうするんだ?単なる興味で呼び出したわけでもあるまい?」「いや、理由の半分は純粋な興味からなんだがな」「もう半分は?」「ふむ……」ジスタルの重ねての問に、デニスは暫し口籠る。だが、意を決して再び口を開く。「なぁ、ジスタルよ。お前は……あの事件の事、どう思ってる?」「ん?あぁ……。今となっては別に……いまさら特に思うところは無いな」「だったら……」「だからと言って、王国騎士団に復帰するつもりも無いぞ」「……そうか。まぁ、それは仕方ない」そうは言っても残念そうなデニスではあるが、今更何を言ってもジスタルが意思を変える事もないのは分かっているので、それ以上は言及しない。そして、雰囲気を変えて話を続ける。「ともかく、お前の話は置いておいて……今はエステル嬢ちゃんの話だな。さて、もう半分の理由だが……」そこでデニスは当のエステルに向き直る。「なぁ、エステル……お前さん、王都に行ってみたいと思わんか?」「王都?」エステルは不思議そうに聞き返す。そしてジスタルは、ピクリと眉を動かすが、口出しすることはない。「あぁ。あれ程の剣の才能。剣聖すら凌ぐ実力者を、こんな辺境の地に埋もれさすのは勿体ないと思ってな。その剣の腕……国のために活かそうとは思わぬか?」「ん~……」デニスの言葉に、エステルは唸り声を上げて考え始める。ジスタルはその段になっても口出ししない。そして、エステルが再び口を開いて出した答えは……「え~と、国のため……と言うのはよく分からないですけど、王都には行ってみたいです」と言うものだった。特に深い考えがあるわけではない。そこには、ただ純粋な興味があるだけだった。彼女は辺境の暮らしに不満があるわけではない。日々研鑽を重ね、自警団の一員として村の人々を護る仕事
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第6話 帰路

辺境伯領の領主デニスとの面会を終えたエステルとジスタルの父娘は、領主邸を出て帰路につく。エステルはこれまで村の外に殆ど出たことがなく、精々が近隣の町に買い出しに行く程度であった。だから領都ウィフニデアにやって来たのは今回が初めてであり、到着した時と同様にキョロキョロと街の様子を珍しそうに観察しながら歩いている。「やっぱり大きな街だよね~、お父さん!王都はもっと大きいの?」ウィフニデアの街は辺境にあるとは言え、流石に領都と言うだけあってかなり大きな街である。いま彼女たちが歩いているメインストリートには石造りの高い建物が立ち並び、多くの人が行き交う賑やかな街並みは、エステルにとって大都会そのもの。都会暮らしに憧れがあるわけでも無い彼女であっても、歩くだけでワクワクするのだ。そしてまだ見ぬ王都はどれほど大きな街なのか……と彼女は父に質問する。「王都か……まぁ、こことは比べ物にならないくらいに大きな街だぞ。人も桁違いに多いしな」「ふわぁ……想像できないなぁ~」剣術一筋のエステルであっても、どうやら大都会への憧れのようなものが芽生えつつあるらしい。その瞳は好奇心でキラキラと輝いていた。ジスタルはそんな娘の様子に苦笑いする。敢えて水を差すような事は言わなかったが……(……どうにも心配だ。我が娘ながら、世間知らずで人を疑うことを知らんからなぁ……)内心でそんな事を考える。仮に母親の許可を取り付けたとして……一人で王都に出すのは何とも躊躇われるのだった。そうこうしているうちに、父娘は街の入口までやって来た。ウィフニデアは国境近くの街であり、防衛のために街の周囲をぐるりと街壁が囲っている。とは言っても、隣国とは近年は友好関係にあり、その機能は専ら辺境の魔物の襲撃に備えるものとなっていた。外壁には大きな門が設けられ、門の前は広場になっている。そこは乗り合い馬車の発着場も兼ねており、領都周辺の町や村に向かう馬車に乗るため、多くの人でごった返していた。「帰りも走るの?」「ああ。チンタラ馬車に乗ってたんじゃ、時間がかかってしょうがないからな。自分で走ったほうが速いだろ」「うん!良い鍛錬になるしね!」「……ああ。(今更だが、常識を教えた方が良かったかもな……)」魔物が多く|蔓延《はびこ》る辺境の地では、護衛が付き魔物よけの魔導具も備えている乗り合い馬車を利用
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第7話 シモン村

行商人一行と別れた父娘は、その後はスピードを緩めることなく疾走し……馬車で3日以上かかるはずの行程を、わずか半日で駆け抜けてしまった。ウィフニデアを出発した時は天頂にあった太陽は、既にかなり傾いて西の森の中へと沈みつつある。夕日に赤く染まる辺境の広大な森林地帯。その入口に、父娘が暮らすシモン村があった。集落は木の柵で囲われているが、それは防壁の役割を果たすのには余りにも頼りなく、あくまでも村の敷地を示す以上の意味は無さそうだ。一応、門らしきものもある。観光地でもないのに『ようこそシモン村へ!』などと看板が掛けられていた。やたらとカラフルでポップな意匠……一体誰が描いたのだろうか?その門には二人の若い男女が、門番のように立っていた。いや、革鎧を纏って佩剣してるところからすれば、実際にそうなのだろう。彼らは猛スピードで接近し、村の手前で急制動をかけた父娘に直ぐに気が付いて声をかけてきた。「あっ、団長!!お帰りなさい!!」「お帰りなさい!!」「おう、お疲れさん」「ただいま〜!!」人口は精々100人程度の小さなシモン村だ。当然彼らは顔見知りである。気軽な様子で挨拶を交わす。「俺たちの留守中に何か変わったことは無かったか?」自警団の実力者トップツーが不在だったので、ジスタルは念のため不在の間の村に問題がなかったか確認する。「いや、特には……迷いドラゴンが近くまで来たんで退治したくらいですかね〜」「そうか」……さらっと言ってるが、犬猫ではなくドラゴンだ。竜種としては小型で低ランクではあるものの、本来であればウィフニデアの騎士が総出で対処するような魔物である。それを、さも日常のように……否、彼らにとっては日常なのだろう。一体シモン村とはどんな人外魔境なのか……「やたっ!じゃあ、今日はご馳走だね!」「もう解体して各家庭に配ってるよ〜」竜種の肉は高級食材である。王侯貴族でも滅多に食べられるものではない。それが、ここシモン村ではたまにあるご馳走程度の認識だ。「お父さん、早く帰ろう!!」 「分かった分かった。(やっぱりこいつは、色気より食い気だよなぁ……)」流石にもう少し女らしくても……と思わなくもないジスタルであったが、それはもう今更である。剣術に興味を示した彼女に、喜々として剣を教えたのは彼。エステルが少女らしい事に興味を示さないのは、彼
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第8話 同行者

翌日。エステルは朝早くから、シモン村自警団が詰所として使っている小屋へと向かった。昨晩、両親から条件として提示された通り、一緒に王都に行ってくれる人を探すためだ。「おっはよ〜!!みんな!!」ばーん!と勢いよく詰所の扉を開け放ちながら、元気よく挨拶する。中には数人の団員たちが、朝の見回りの準備をしているところだった。「おはようございやす!!エステルの姉御!!」「「「おはようございやす!!」」」……まるでどこぞの山賊団のような挨拶だが、もちろん彼らは善良な村民である。この村一番の実力者であるエステルに敬意を払っているだけだ。多くの団員はエステルよりも年上の男が多いが、実力が全ての自警団ではそんなものは関係ないのだ。 「どうしたんだ、エステル?領都に行くからってんで暫く非番にしてたんじゃないか?」そんな団員たちの中にあって、気軽な口調で彼女に話しかける者がいた。「あ、おはよクレイ。領都には昨日日帰りで行ってきたよ〜」クレイはエステルの同い年の幼馴染だ。物心付いたときからいつも一緒にいた、気心の知れた友人である。「そうか。でも非番の予定は変わらないんだろ?」「うん。ちょっと皆に話があって来たんだよ。実は……」そして彼女は、昨日の経緯を団員たちに説明する。………………「そんな……姉御が王都に行くだなんて!!」「はいっ!!俺が一緒に行きます!!一緒に騎士を目指します!!」「あ!?テメー、抜け駆けするんじゃねぇ!!俺が行くッス!!」「いや、そこは俺だろう!!」エステルから事情を聞いた団員たちは、我こそはと名乗りを上げて……やがて大騒ぎとなる。「へぇ〜……皆、そんなに王都に行きたかったんだ〜」「いや、違うだろ……」どこかズレたエステルの感想に、クレイは冷静にツッコミを入れる。これまで彼女を女性として見る者は多くはなく、頼れる親分的なポジションだったのだが……最近は特に(見た目は)女性らしくなってきたこともあり、男たちを魅了するようになってきたのだ。しかしエステル自身にはその自覚はなく、無防備な彼女にクレイはやきもきさせられている。「う〜ん……でも、村の守りもあるから一人だけね」「姉御と二人きり……!」「ええ〜い!!こうなったら!!実力で決めようぜ!!」「お、おい……!」ヒートアップする団員たちを、クレイは落ち着かせようとす
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第9話 王都の初日

エステルがデニスより騎士の誘いを受けてからおよそ一ヶ月後。彼女は幼馴染のクレイと共に王都にやって来た。エルネア王国の辺境の地であるニーデル領から王都エルネまでは、通常であれば乗合馬車で数週間の道のりだ。しかし二人はその長い道のりを僅か5日で駆け抜けてしまった。エステルやジスタルのみならず、クレイもまた人間離れした力を持っているようだ。……いや、彼らだけでなく、シモン村の村人の多くはそうであるのだが。「ふわぁ……人が凄いたくさんいるよ~。お祭りかな?」「いや、これが普通なんじゃないか?ウィフニデアよりも何倍も大きな街だってんだから」二人が今いるのは、王都の外周を囲む外壁に幾つかある門の一つ、その門前広場だ。外壁の外側にも民家が立ち並び、徒歩で門を潜るものも多いので、ウィフニデアと違って二人を訝る者はいない。門は大きく開け放たれ、往来は自由だ。夕暮れ時の広場には多くの人が行き交う。エステルはウィフニデアでさえ人が多いと感じていたが、王都のそれは比較にはならない。あちこちに露天商が店を構え、広場から続く街路にも大小様々な店が立ち並んで、買い物客でごった返していた。その光景はシモン村から殆ど外に出ることがなかった若者二人にとっては未知の世界だった。「今日はもうすぐ日が落ちる。騎士団に行くのは明日にして、取り敢えず宿を確保するか……」「任せた!!」これまでの道中でも、宿の確保はクレイが行っていた。エステルは今回も遠慮なく丸投げの構えである。(本当にコイツは……師匠やエドナさんが心配する気持ちも分かるなぁ)クレイは苦笑しながら内心で独りごちる。彼も都会の常識など持ち合わせてはいないのだが、エステルよりはマシだろうと彼は自負している。しかし。(でも、何だかんだ何とかしてしまう気もするけど。逞しいからな)ポジティブ思考に突き抜けたエステルならば、何でも自力で何とかしまいそう……とも思うのだった。 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆「部屋が空いてない?ここもか……」「申し訳ありません、二人部屋なら空いてるのですが……」これで5件目である。道中の宿場では空きがないということは無かったのだが……「つい最近まで新国王陛下の戴冠を祝う祭りが行われていたんです。ピークはもう過ぎてるのですが、観光で残っている人も多く、王都の宿はどこもいっぱいだと聞い
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第10話 路地裏にて

翌朝。「ふわぁ〜……おはよ、クレイ。……なんで私のベッドで寝てるの?」「……それは俺のセリフだ。お前のベッドは向こうだぞ」「んぁ?……あ〜、ホントだ〜。そう言えば昨日の夜はちょっと寒かったからね〜」「……」エステルは普段は妹弟と一緒に寝ている。そして季節はまだまだ肌寒い。人肌恋しくなるのは仕方がない事なのだ。だが、いくら女として意識してないなどと言っても、クレイだって年頃の少年である。流石に同年代の女の子と同衾すれば冷静ではいられない。エステルは中身は少々アレだが、見た目は美少女であるから尚更だ。そして寝起きのせいで寝間着が着崩れているのが妙に艶かしい。「ん……?何か硬いモノが……」「だぁ〜っっ!!!早く出てけっっ!!!」それは生理現象だ……と、クレイは自分に言い聞かせるのだった。 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆そんな、朝のドタバタはあったものの……エステルとクレイは予定通り、騎士登用試験を受けるための手続きを行うため、王都騎士団の詰所の一つへと向かっていた。「ほら、早くいこ〜よ!!こっちこっち!!」「おい!勝手に行くんじゃない!!お前、場所わかってんのか!?」「方角はあっちでしょ?テキトーに行けば着くって」「バカ!!こんな入り組んだ路地を適当に進んだら……」…………………………………「迷ったなう」さもありなん。「言わんこっちゃない……とにかく一旦戻るぞ」 「ん……?……!?クレイ、あっちの方から誰かの悲鳴が聞こえる」「聞けよ。……悲鳴?俺には何も聞こえなかったが……まぁ、お前が言うなら間違いないか」エステル・イヤーは数百メートル先で落ちた針の音も聞き分ける。……本当にこの娘は人間なのだろうか?「だが、揉め事に首を突っ込むんじゃないぞ」今にも飛び出していきそうなエステルに対して、クレイはそう釘を刺す。しかし。「でもクレイ、私達は騎士を目指してるんだよ?正義と秩序のために戦うのが騎士でしょ!!」「……お前の口から秩序なんて言葉が飛び出すことこそ驚きだが。でも、まぁ……正論ではある。仕方ない、行くぞ!!」「うん!!!」そして二人は、悲鳴が聞こえたという方に向かって路地を駆け出した。 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆二人が駆けつけた細い路地の先。そこは行き止まりになっていて、若い男女が数人
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