جميع فصول : الفصل -الفصل 110

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第101話 発端

「……ジスタルとデニス様は、スラムの住民を何とかしようと視察に来たの」ジスタルと出会った時のことを思い出しながら、エドナは話を続ける。当時の王都は様々な要因により幾つかのスラム街が存在し、犯罪の温床となっていることが問題視されていた。しかし、犯罪行為をいくら摘発してもイタチごっこであり、国家上層部は日々頭を悩ませていた。結局のところ抜本的な解決のためには……まともに職に就く事ができない貧困層や、身寄りのない子供たちを何とかする必要があったのだ。「それで、デニスが親父さんに頼まれて現状視察に行くってんで、俺も付き合わされた……ってわけだ」「……ふふ。あなたの方から頼んできた……って、デニス様が言ってたわよ。その後も随分と積極的に関わっていた……とも。流石は正義の騎士様よね」妻の言葉に、頬をかくジスタル。どうやら照れているらしい。「そういった経緯から、スラム街の住民に対する様々な支援政策が行われて……その一環として、エル・ノイア神殿には救護院が設立されることになったの。……私達姉妹も、そこに引き取られたのよ」そして、当時の救護院の院長は現大神官のミラである。彼女は身寄りのない子供たちの『母』として愛情を注ぎ、立派に巣立つことが出来るように教育にも力を入れた。エドナとリアーナも彼女を母と慕い、過酷なスラム暮らしから一転して、平穏で幸せな日々を手に入れた。「そして……私と姉さんはそこで『聖女』の素質を見出されたの」それを聞いたレジーナは、|義母《ミラ》がアルドに明かしていた『判別のための道具』の存在を思い出す。おそらく彼女たちも、その道具によって素質を見出されたのだ……と。そして、救護院に引き取られた資質のある子供たち……身寄りのない彼女たちに、目をつけた者が現れたのだろう、とも。「姉さんはもともと身体があまり丈夫ではなかったのだけど……それでも普通に暮らせていたのは、加護があったおかげらしいわ」聖女候補として、姉妹の神殿内における地位は更に向上する。「勉強に、教養に、聖女としての振る舞いに……いろいろ覚えることがたくさんあって大変だったけど。姉さんがいて、ミラ母さんがいて、救護院の仲間がいて……充実した日々だった。……騎士になったジスタルも、様子を見によく来てくれたし」懐かしそうに、彼女は柔らかな微笑みを浮かべながら言う。厳しくも楽しかった
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第102話 行方不明

エドナは、姉がいなくなった日のことを思い出しながら、レジーナに話し始めた。 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆エル・ノイア神殿に引き取られ、聖女として日々を過ごすエドナとリアーナの姉妹。スラムでの過酷な生活から一転し、穏やかな毎日が続く。しかし、その平穏な暮らしは突然終わりを告げた。ある日、リアーナが忽然と姿を消したのだ。何の前触れもなく。これまでも何人かの聖女たちがいなくなったことがあったが、ミラからは『良縁があった』と聞かされていた。しかしエドナは、リアーナからそんな相手がいるなんて話は一度も聞いたことはなく……あるいは他の聖女の『良縁』とやらも、やはり嘘なのではないか?と考えた。もちろん彼女は姉の捜索を始める。手始めに養母のミラに聞いてみたのだが、彼女も姉がいなくなったことは初耳だったらしく、動揺を見せた。そこで二人は事情を知ってるかもしれない上位の神官たちに話を聞こうとするが……誰も彼も『知らぬ』と繰り返すのみだった。そして、他に目撃者がいないか聞き込みをしても、その成果は芳しくなかった。「ミラ母さん……おかしいわよ、絶対。上層部の人たちは何かを隠している」女神への祈りの時間の合間、礼拝堂の片隅の目立たない場所で、エドナは養母のミラと話をしていた。「そう……ね。だけど、この神殿でいったい何が起きているのかしら?」「分からないわ……。こうなったら……誰か捕まえて、力ずくで聞き出して……」パキポキと両拳を鳴らすエドナを見て、ミラはため息をつく。見た目や雰囲気、普段の言動はまさに聖女らしくなったのだが、どうにもスラム暮らしの感覚が抜けきっていないらしい。「落ち着きなさい。まったく……そんな事したら、あなたが捕まるでしょう」「でも!じゃあどうすれば……!」「とにかく、上層部が口を閉ざした現状では、神殿内で得られる情報も限られる。何か別の方法を考えなければ……」ミラは|頤《おとがい》に手を当てて考える。しかし、すぐには良い考えが浮かぶわけではない……が。手がかりの一つもないことには始まらない。そう思ったミラはエドナに問う。「エドナ。リアーナに何かおかしな様子はなかったの?」「姉さんに……?特に何も…………あ、いえ、そういえば確か……」 ミラに改めて聞かれると、姉の言葉に気になるものあったことをエドナは思い出した。「何日か前
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第103話 聖女、動き始める

エドナは結局、自分たちでは姉の消息を掴むことは叶わず……ジスタルの心当たりに一縷の望みを託さざるを得なかった。だが、それから数日が過ぎてもなかなか連絡が来ず、彼女は焦りばかりが募っていく。しかしある日のことだった。予想もしなかった事態が起きる。エドナにその報せを持ってきたのは、ジスタルの友人であるデニスだった。「えっ!?ジスタルが捕まった!?」「……どういうことです?デニス殿」デニスが神殿を訪れてエドナとミラにその話を伝えると、彼女たちは当然のことながら驚愕する。まったく寝耳に水の話に、エドナは驚きの声を上げたあと暫く呆然とするが、ミラは冷静に彼に問うた。なお、三人が話をしているのは神殿の応接室の一つ。高位貴族(辺境伯)の子息であるデニス相手に立ち話するのも……ということで、ミラが案内したのである。「いや、それが……あいつ、陛下に直接なにか意見したらしくて……。俺も詳しくは分からねぇんですけど、それで不興を買ったとかなんとか」「陛下……バルド様に?」「……まさか、ジスタルの『心当たり』って、王様の事なの?」先日、彼から『心当たりがあるから信じて待て』と言われていた。だからエドナがそう思うのも当然のことだった。「……デニス様、ジスタルには会えませんか?」とにかく、何があったのか確かめなければ……と、エドナは彼に聞く。「いや……流石に王城の地下牢だからなぁ……。いまヤツの同僚の騎士たちの署名も集めて、嘆願してるところなんだが」「王城の地下牢ですね。分かりました」立ち上がってどこかに行こうとするエドナを、慌ててミラとデニスが止める。「まてまてまて!『分かりました』じゃねえ!どこ行くつもりだ!?」「え?そんなの決まってるじゃないですか。ジスタルを助けに行くんです。それから王様のところに殴り込みを……」何を当たり前のことを……とでも言いたげな顔で言うエドナ。その目は完全に本気である。だが、二人に掴まれた腕を無理やり振りほどかないところを見ると、まだ少しは冷静なのかもしれない。「とにかく落ち着けって。嘆願してるっていっただろ。アイツは近衛の隊長格だし、人望も厚い。『剣聖』に味方する者もかなりいる。何らかの罪状に問われてるわけでもないし、そんなに心配するな」「むぅ…………分かりました。でも、早くしないと私……暴れますよ」「……分かった」
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第104話 聖女、潜入する

聖女の失踪について神殿上層部が揃って何か隠しているのであれば、そのトップたる大神官も当然なにかを知ってるはず……そう考えたエドナは、直接会って話を聞こうと考えた。しかしそうは言っても、彼女の地位ではおいそれと会えるものではない。それは彼女もよく分かっていた。だから……(大神官様の部屋にこっそり忍び込む……それしかないわ)と、大胆なことを考えるのだった。 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆夕刻。仕事を一通り終えたエドナは、人目を忍んで神殿の立ち入り制限区域へ向う。そこは一般には開放されてない区画であり、彼女もこれまで数回ほどしか訪れたことがない場所だ。ほとんど人影はなかったが、気配を感じるたびに柱の陰に潜んでやり過ごし、彼女は記憶を頼りに大神官の執務室に向う。完全に不審者である。やがて、彼女は目的の部屋の前にたどり着いた。そこは神殿内で最も奥まった場所の一つ。最高権力者の部屋というだけあって、その扉も大きく立派なものだ。(……ここね。確か今は不在のはずだけど)流石に、彼女は大神官のある程度のスケジュールを事前に確認はしていた。だが念のため……誰か中にいないか、彼女は扉に張り付いて聞き耳を立てる。やはり完全に不審者である。(……物音はしない。よし……!)エドナは意を決して扉に手をかける。鍵はかかっていないようだった。ドアノブを回したときに、カチャ……と音が出るのに肝を冷やしながら、僅かな隙間から中を覗き込む。(……うん、大丈夫ね。誰もいないわ)すると彼女は、素早く扉の隙間からスルリと部屋の中に入り、そっと扉を閉めた。紛う事なき不審者である。部屋の中はとても広く、至るところに綺羅びやかな調度品が置かれている。だが、仕事をするには落ち着かない雰囲気に思えた。一つ一つのモノは良いものだと言えるのだが、部屋全体としての統一感に欠くのである。(聖職者の執務室というよりは、成金的な俗っぽさね……)平民の出で、今も比較的質素な暮らしをしている彼女であっても……その部屋は下品でセンスが無いと感じられた。(大神官……ミゲル様って、個人的にはあまり良い感じはしなかったのだけど……)部屋の雰囲気一つ見ても、自分の感覚は正しかったのかもしれない……と思った。そして彼女は調度品の一つ、彼女の背丈ほどもあろうかという大瓶の後ろに隠れた。(予定通りなら……
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第105話 聖女、大神官と対面する

「……お前、そんなことしてたのか?」「あら、言ってなかったかしら?」過去のエドナの行動……大神官の部屋にこっそり忍び込んで面会していた事を初めて聞いたジスタルは、呆れたように言うが妻は悪びれずにとぼける。「とにかく。私はミゲルに面会して、姉の所在を聞き出そうとしたのよ。それで……予想通り、あいつは姉さんの事を知っていたのだけど……」その時、当時の大神官ミゲルはエドナに何を語ったのか。彼女は話を続ける。 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆「リアーナに……姉に会いたいか?」大神官ミゲルはエドナから姉の所在を聞かれ、怪しげな笑みを浮かべながら……逆にそんな事を聞いてきた。「もちろんです」『姉に会いたいか』と聞かれれば、エドナの答えはもちろん決まっているから、彼女は迷うことなくきっぱりと答る。「そうか……まあ、当然であろうな。……お前は姉がいなくなった理由を何と聞いている?」「え……?それは……『良縁があった』……って。でも、そんなはずありません!」それは姉だけでなく、他の聖女たちがいなくなった理由としても聞かされていたものだ。だが、そんなものは到底信じられなかった。「嘘ではないぞ。お前の姉も、他の聖女たちも……王に見初められて後宮に迎えられたのだからな。まさしく『良縁』だろう?」「後宮……?王様に見初められて……?何なの……それは……」思ってもみなかったミゲルの答えに、彼女は呆然となる。ただ、後宮というのはよく分からなかったが、王が聖女たちを集めているというのは理解した。「それは……みんな納得しての事なんですか?」「おお、もちろんだとも。王の後宮に入れば、何不自由無い生活が約束されるのだから当然ではないか」「……姉さんも?」姉が自分に何も言わずそんな事を受け入れるはずがない……と彼女は思っている。「リアーナか……確かに彼女は一度断ろうとしたが……」そこでミゲルは意味ありげな視線をエドナに向ける。リアーナは、一度は断ろうとしたが最終的には受け入れた。それは何故か?エドナは、彼の視線が意味するところを察してしまった。「まさか……私を|だし《・・》にしたんですか!?」「ふふ……『王がエドナかお前を欲している』と言ったら、喜んで自ら進み出たのだぞ」「なんてことを……」きっと他の聖女たちも弱みに付け込まれたのかもしれない。あ
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第106話 聖女、後宮に入る

姉に会うため、バルド王の後宮入りを承諾したエドナ。彼女が自室で待っていると、扉がノックされる。 とうに日は沈み、窓の外はすっかり暗くなっていた。「はい……」エドナが扉を開けると、そこには顔見知りの神官の男性が立っていた。先日、姉の所在を聞きに行った高位の神官……彼女が直接話をすることができる、数少ない神殿上層部の人間だ。彼は外見的にはまだ二十歳前後くらいで、エドナともあまり年は離れていないようにみえる。そんな若さで高い地位にあると言うことは、よほど優秀なのか……あるいは縁者に、より高位の者がいるのか。彼は神職者が着る法衣ではなく、一般市民のようなごくありふれた服装をしていた。「エドナ。これから君を王城まで連れて行く。既に同意していると聞いてるが……相違ないか?」「……はい」「そうか……」淡々とした言葉で彼はエドナに確認するが、彼女が肯定すると複雑そうな声音で呟く。何だか悲しそうな表情だ……と、エドナは思った。「これを被りなさい」そう言って男はフード付きのローブを手渡してくる。それで顔を隠せということなのだろう……と理解したエドナは、それを羽織って目深にフードを被った。「では行こうか。人目につかないよう、人払いをしている所を行くから少し遠回りになる」「はい」そして二人はエドナの部屋を出て、男が言った通り誰もいない神殿内を歩いていく。やがて、二人は広大な神殿敷地の裏手から人気のない路地に出て、そのまま街のにぎわいを避けるようにして王城を目指す。二人とも途中まで無言を貫いていたが、沈黙に耐えかねたエドナが気になっていたことを質問する。「あの……姉さんのことは知ってたんですよね?」「…………ああ」やや間が空いたのは、後ろめたさがあったからだろうか。暗くてその表情を窺い知ることはできないが、その声の響きから彼女はそう感じた。「なんで教えてくれなかったんです?私達のこと……あんなに気にかけてくれてたのに」「……この件は大神官猊下より固く口止めされているんだ。いかに執行部の私であっても、あの方に逆らうことはできない」淡々とした言葉の中にも、やはり隠しきれない苦渋の響きが感じられた。(……なんで?権力者って、そんなに何でも出来るの?私には理解できないわ……。ジスタルだったら……)エドナは彼が本意ではないことを察して口を噤むものの、なぜ
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第107話 聖女、姉と再会する

「それでは……叔母様は自ら後宮に?」「ええ。とにかく、王に直接面会しなければ埒が明かない……と思ってね」レジーナが聞いた話では、エドナは無理やり後宮に連れていかれた……ということだったが、当の本人から事実を聞かされて驚きをあらわにする。「まったく……無茶をしたもんだよ」「だって、あなたまで捕まってしまったって聞いて……その時は、もうそうするしかないって思ったのだもの」「……まあ、俺ももう少し早く動いておけば良かったよ。牢を抜け出すことはいつでも出来たんだがな……」ジスタルは慎重に機を伺っていたということだ。遠からず釈放されるであろうことも分かっていた。しかし彼はエドナの行動力を見誤っていたのだ。まさか自ら後宮入りを志願してまで王に会いに来るとは思わなかったのである。そのあたり、やはりエステルの性格はエドナ譲りであるところが大きいのかもしれない。「とにかく。私は後宮に入って、そこでようやく姉さんと再会することができたのだけど……」 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆後宮に案内されたエドナ。綺羅びやかな光に彩られた夜の宮殿に圧倒され、やや気後れする彼女だったが……「こちらへどうぞ」使用人の女はそんなエドナの様子には目もくれず、再び足早に歩き始めた。エドナはハッとなって、慌てて彼女の後に付いていく。そして、手入れの行き届いた庭園を通り抜け宮殿の入口まで辿り着くと、彼女は再び目を瞠る。「……凄い」大扉を開け放つと、そこには更なる別世界が広がっていた。平民であるエドナであれば、物語などから想像するしかなかった王宮の暮らし。いま彼女の眼の前にあるのは、まさにそんな光景だった。先に触れた大神官の部屋の成金趣味的な品のない豪華さとは異なり、計算し尽くされた内装や調度品の数々は華やかでありながら、同時に落ち着いた雰囲気をも演出していた。幼い頃はスラムで暮らし、今も清貧を良しとする神殿で過ごす彼女も年頃の少女なので……ここに来た目的もほんのいっとき忘れ、その夢のような光景に目を奪われてしまうのだった。「……では、エドナ様のお部屋にご案内いたします。こちらでございます」案内役の声に、またもエドナはハッとなる。しばし後宮内の光景に見惚れていた彼女を慮っていたのだろうか、案内役はその場に一旦立ち止まっていたのだが、相変わらず感情は見せずに再び歩き
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第108話 真の聖女

エルネアの後宮でついにリアーナと再会したエドナ。しばらくぶりに見た姉の姿は、特に変わったところもなく、彼女は安堵の様子を見せる。そして、予想外の妹の訪問を受けたリアーナは……「どうして……なんで、こんなところまで来ちゃったの?あなたには手を出さないって……約束したはずなのに……」驚き、悲しみ、怒り……様々な感情が混ざったような表情を浮かべながら、彼女は呟いた。それを聞いたエドナは、やはり自分のために姉は犠牲になったのだと確信し、怒りを覚えた。それは大神官ミゲルに対してだけでなく、姉に対してもだ。「姉さん。私のために姉さんが犠牲になるなんて……そんなこと、私が喜ぶとでも思ったの?私たち……これまでずっと一緒に生きてきたじゃない。それは、これからも同じだと思ってた。姉さんは違うの?」「エドナ……もちろん私も同じ気持よ。たった二人だけの家族なんだから……。でも、だからって何もあなたまで……」「私は横暴な権力者の言いなりになる気なんてないわ。ここに来たのだって、姉さんと一緒にここから出るためなんだから!」抑えていた激情を解き放って彼女は叫ぶ。あくまでもエドナは……ただ真っ直ぐに自分の意志を貫こうとする。そして、かつて自身が道を誤った事を自覚し後悔ているからこそ、彼女は人一倍『正しく』あろうとするのだ。「エドナ……」リアーナは妹の眩しさから目を背けるように俯く。「姉さん、二人でここを出ましょう。例え誰かが邪魔をしてきても……私が姉さんを守るわ!」力強く宣言する妹の言葉に、姉は再び顔を上げて……今度は真っ直ぐ目を見つめる。その瞳は迷いの色もなく、決然としたものだった。「……私は、ここに残るわ」「えっ!?な、なんで……?」予想外の姉の言葉に驚愕の声を上げたあと、エドナは呆然となる。リアーナの表情を見る限り、二人だけでここから脱出することなんて出来ない……などと諦めているわけではなさそうに見える。であるからこそ、エドナは訳が分からなくなった。「……あの方を、放っておけないわ」「あの方って…………バルド陛下のこと?」続く姉の言葉にエドナは取り敢えず落ち着きを取り戻し、聞き返す。この後宮で「あの方」と呼ばれる人物など、後宮の主である国王しか考えられない。そしてそれは正しかったらしく、リアーナは頷いてさらに続けた。「バルド様は大きな悲しみに囚われるあま
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第109話 虚無の瞳の王

エドナから語られたリアーナの人物像を聞いたレジーナ。義母のミラから母の事は聞いていたが、より身近な肉親から話を聞かされたことで、彼女の亡き母親に対する思慕は一層と募る。「私の母は、優しい人だったんですね……」寂しそうでもあり、嬉しそうでもある……そんな笑顔を彼女は浮かべる。そして、その血が自分に流れている事に誇らしさを感じた。「ええ……姉さんは本当に優しい人だったわ。でも、私は……もっと自分を大切にしてほしかった」誰かのために献身的になれるのは美徳かもしれない。しかし身内からしてみれば、自分の身を犠牲にしてまで他人に尽くすというのは受け入れがたいことでもあるだろう。悲しげに目を伏せて言うエドナの肩を、慰めるようにジスタルが抱き寄せた。「ありがとう。……とにかく。私は後宮で姉さんに再会することはできたのだけど、姉さん自身の意思もあって、すぐに連れ出すことはできなかった」そして彼女の話は、いよいよ事件の核心に迫っていく。 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆リアーナから国王バルドの事情を聞いたエドナ。そして、姉が心を病んだ王を見捨てることができずに後宮に留まるつもりであることを聞いた彼女は、しかし何とか姉を説得しようと考える。しかし、いくら境遇に同情したからといって……姉が慈愛と献身の精神を持っているのだとしても、やはりそこまでするものだろうか?……と、そこまで考えたとき、彼女は一つの可能性に至った。「もしかして姉さん……バルド王の事を好きになっちゃったの?」「え……?」唐突な妹の言葉を、姉は咄嗟に理解することができなかった。しかし、問われた内容を理解したリアーナは、顔を赤らめて俯いた。「え?本当に……?」自分で質問しておいて、エドナは姉の態度に驚いて目を丸くする。しかし姉は慌てて手を振りながら否定しようとする。「ち、違うの!す、好きになったとかじゃなくて……ただ、その……バルド様とは……あの……」しどろもどろになる姉の態度を最初は訝る妹であったが……(あ……そうか、姉さんは既にバルド王と会っている。そして、ここは後宮……と言うことは……)と、エドナもそこまで想像してしまい顔を赤くする。そして妹が気付いたことに気付いたリアーナも、ますます顔を赤くして……二人はしばらく黙り込んでしまった。ちらちらと姉の様子を見るエドナ。そこに悲
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第110話 剣聖、動く

エドナが後宮にやって来た翌日のこと。未だ王城の地下牢に囚われていたジスタルは、そろそろ何とかしなければ……と、焦燥感を抱えていた。王に意見して不興を買ったとはいえ何らかの罪状があるわけでもなく、すぐに釈放されると同僚たちも言っていたが……(少し見通しが甘かったか……。以前の陛下とは違うと言うことは分かっていたんだがな。しかし、どうしたもんか……早くしないとエドナのやつ、王城に突貫しかねないぞ)彼の焦燥感の正体は、つまりそういう事である。最近は彼女も聖女らしい所作も身につけて、以前よりは大人になったと彼も思っているが……(なんと言ってもバイタリティと行動力が半端ない。良くも悪くも、そういうところは昔から変わってないからな……)初めて出会ってからこれまでの付き合いで、彼はエドナの本質をよく分かってる。スラムから姉妹を連れ出すときも一悶着あったが、それ以降も彼はずっと彼女たちが気になって、何かにつけて面倒を見てきたから。姉想いなところ、芯が強いところ。正義感が強く、そうであるがゆえに過去の過ちを悔いているところ。訪れる度に心を開いていくのに、それを素直に表に出すのを良しとせず憎まれ口をたたくところ。そして、本当は寂しがり屋で、誰かが側にいなければならないところ……ときどき苦笑も交えながら思い出すそれらの事柄は、彼にとってかけがえのないものだ。今回、彼にしてはかなり無茶をしたのは、自身の正義感もあっただろうが……エドナのためというのが大きかったのだろう。そんなふうに、そろそろどうにかしようとジスタルが考えていた矢先のこと。彼が囚われていた地下牢に、何者かがやってくる。「ジスタル、元気か?」「デニスか。……まあ、若干薄暗い事を除けば、三食昼寝付きで快適なもんだ。そろそろ飽きてきたがな。お前が来たということは、そろそろ出してもらえそうか?」ジスタルの前に現れたのはデニスだった。やや皮肉を込めて彼の問いにジスタルは応えたが、そこには期待もあった。しかし……「いや、まだ許可は降りてねぇな。それより……今朝方、俺んところにミラ様が来られたんだが……」「なにっ!?まさか、エドナが何かしでかしたのか!?」今まさに懸念していた事態が起きたのかと、彼は鉄格子越しにデニスに詰め寄った。「おわっ!?お、落ち着け!!……まったく。お前もエドナも、お互いのことになると冷
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