All Chapters of 剣聖と聖女の娘はのんびりと(?)後宮暮らしを楽しむ: Chapter 131 - Chapter 140

141 Chapters

第131話 因縁

前大神官ミゲル……かつての『事件』の首謀者。女神より祝福を賜った聖なる乙女たちを、自らの欲望のため売り渡した……神をも恐れぬ大罪人だ。その悪事は聖女エドナによって白日のもとに晒され、彼は裁きを受けてエルネア王国を追放された……はずだった。「……よく、ここが分かったな?」ミゲルは、いま目の前に対峙するモーゼスに疑問を投げかける。誰にも知られず、誰の目にも触れずに王都を脱出できたはず……と、彼は不思議に思った。モーゼスの様子を見れば、それは偶然などではなく確信を持って待ち伏せしていたであろう事も分かったのだが……そうするに至った根拠までは分からなかったのである。「想定していたよりも早くオークションが始まる……騎士団本部でそう聞いたとき、おそらくそれは陽動だと思いました。黒幕……あなたが脱出するためのね」モーゼスがそう答えるとミゲルはピクリと眉を動かすが、それ以上の反応は示さない。しかし現実に彼は今この場所にいるのであるから、その推察は正しかったと言うことだ。そして更にモーゼスは続ける。「騎士団の捜査の手が及ぼうとしている事も事前に察知したのでしょう?あなたの事だから、いずれはそうなるだろう事は最初から想定していたはず。そしてその時が来れば……組織とオークションの客を丸ごと囮にして逃げの一手を打つつもりだった。違いますか?」「……その通りだ」今度は、モーゼスの推測を肯定するミゲル。そして今度は逆に聞き返す。「だが、それで何故お前は私に剣を向ける?拾って育ててやった恩を仇で返すというのか?」「……」「誰にも告げずに一人でやって来たのは……まだ情が捨てきれないのだろう?さぁ、今からでも遅くない。その剣を捨て、私のもとに戻ってこい。そして『また共に暮らそう、息子よ』」(!……今のは……魔法?まさか……!)岩陰に隠れて二人の会話を聞いていたレジーナ。彼女はミゲルの最後の言葉に魔力が込められていたことを感じ取った。おそらくは精神干渉系だったのではないか……と考えたが、しかし具体的な効果を彼女が知る機会は訪れなかった。「無駄ですよ。もう、それは私に通用しません」事も無げにモーゼスは言う。どうやらミゲルが使ったらしき『魔法』は彼には効かなかった様子である。「……そもそも何故『洗脳』が解けているのだ。私の魔法はそう簡単には解除できぬはず」魔法が効かないこ
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第132話 祈り

謎の男達に捕らえられてしまったレジーナは、自分の軽率さを激しく後悔していた。モーゼスの行動を訝しみ、誰にも相談することなく一人で追跡を行った。その浅はかな行動が招いた結果がこれである。もっとも、誰にも告げずに単独行動を取った……という点においてはモーゼスも同じだ。二人とも、自分自身の手で何とかしたいという焦りにも似た気持ちが先走ってしまったのである。「モーゼス、剣を捨てよ。あの小娘が何者かは知らぬが、見捨てるわけにはいくまい。お前は、仮にも聖職者だろう?」「……どの口が言う」ミゲルは勝ち誇ったように命じ、モーゼスは苦々しく悪態をつきながらも言われたとおりに剣を手放した。「モーゼスさん!!」レジーナが悲痛な叫びを上げる。首筋に当てられた短剣も無視して彼女は飛び出そうとするが、男の一人が彼女の腕を捕らえて後ろ手に捻り上げた。「あぅっ!?」「よせ!!乱暴するな!!…………私はどうなっても構いませんが、彼女の身の安全は保証してください」既に覚悟を決めている彼はミゲルに嘆願する。彼らが大人しくレジーナを解放してくれる可能性は低いかもしれないが、せめてそれだけでも……と。彼にとってレジーナは、大神官ミラと共に幼い頃から面倒を見てきた大切な相手。そして、やはり大切に思っていた姉妹の……リアーナが命と引き換えに遺した娘。絶対に守らなくてはならない。(……やはり女神様は、まだ私の罪を赦してはいなかった)彼はミゲルが追放されて以来、彼の悪事に加担していたことを後悔し罪を償う道を選んだ。精神干渉を受けていた事など言い訳にせず。そして人々の心の安寧のために日々活動し、地道に努力を重ねて生きてきた。そんな彼を周りの者たちも認め、ついには大神官補佐の地位にまで至ったが……犯した罪が赦されたなどとは思っていなかった。だからこそ、今ここで報いを受ける時が来た……と。しかし、レジーナには何の罪も無い。自分のせいで彼女が巻き込まれるのは耐え難い苦痛である。それに……報いというならば、この場には更に罪深い者がいる。(女神エル=ネイアよ、私は今ここで報いを受けます。しかし、彼女だけはどうかお救い下さい。そして……願わくば、悪業深き者共に裁きの炎を!)彼は心の中で女神に祈りを捧げながら、目を瞑って両手を組み、その場に跪いた。「……どうやら観念したようだな。まあ、安心しろ。
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第133話 望まぬ決着

その場に突然現れた前王バルド。彼はレジーナを捕らえていた男を拳の一撃で昏倒させ彼女を救い出し、娘に危害を加えようとしていた者たちに怒りを向ける。しかし娘が戸惑うように声をかけると、それも幾分か和らいだ。「お、お父様……?」「立てるか?」「は、はい……」腕に抱いていた娘を降ろしたバルドは、ミゲルや謎の男たちを一瞥する。「ほぅ……随分と懐かしい顔がいるな。特に感慨深くも無いが」「貴様……バルド!!大人しく隠居してれば良いものを!!」「それはお前もだろう。その様子だと、また性懲りもなく悪事を働いていたようだな」バルドが後宮を廃して聖女たちを解放さえしなければ自分が追放されることもなかった……と、ミゲルは怒りをあらわにする。もちろん完全な逆恨みなのだが。「今も昔も……聖女を拐って何を企んでいる?……|よそ者《・・・》が関わっているのは予想していたが」そう言って彼は謎の集団に視線を向けた。突然の闖入者に驚き、バルドの怒りに飲まれて固まっていた男たち。その中でも、リーダーらしき男だけは落ち着いた様子で成り行きを見ていた。その彼が、バルドに語りかける。「そうか……貴殿があの『|剣《つるぎ》の王』か。色欲に溺れて落ちぶれてしまった愚王などと聞いたものだが……噂など当てにならんな」彼はどうやらバルドの名と噂を知っていたようだ。そして、その当人を目の前にして……その雰囲気と言動から噂はあくまでも噂であり、実際は侮りがたい人物である……と判断したらしい。「……いや、その噂は間違っておらぬな。守るべき者を守れなかったばかりか、多くの者を虐げた愚か者だ。だが……そんな愚か者であっても、たった一人の娘を護ることくらいは出来る」そう言って彼は腰の佩剣を抜き放つ。そして、未だ膝をついていたモーゼスに目を向けて言った。「立て。お前も過去の因縁を断ち切りたいなら自らの手で成し遂げよ」その言葉にハッ……となったモーゼスは、先ほど手放した剣を拾い上げて再び立ち上がった。彼の祈りは届き奇跡は成った。ならば……バルドが言う通り、ここから先は自らの手で過去の因縁を断ち切る。そんな決意を胸にモーゼスは剣を構えた。「くっ……!たった二人だけで何ができるか!!セルヴァン、やつらを殺せ!!」先ほどモーゼスに数的優位を覆されそうになった事実を忘れているわけではないが、ミゲルはあくま
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第134話 最後の罠

古代の劇場跡地での戦闘後。拘束された者たちに縄を打ち、これから撤収しようとしていた矢先のことである。「……うっ!!?」他の者たちと同様に縛られていたアロンが、突然うめき声を上げ膝をついた。「どうした?傷が痛むのか?」縄を手にして彼を連行しようとしていた騎士が立ち止まって声をかけた。アロンはエステルの力で一命は取り留めたものの、完全には回復していない。なので身体のどこかが痛むのだろう……と思われたのだが。彼はそのまま地面に蹲って頭を激しく振りだした。その様子は、痛みに耐えているものとはとても思えない。「どうした?さっきみたいに、また何か……」様子がおかしいことに気付いたアルドがやって来る。そして、先ほどアロンが意識を取り戻したあと、モーゼスの名を聞いた時のことを思い出した。アルドがアロンに声をかけようとすると、それよりも前に彼は顔を上げて叫びだした。「早くここから……いや、王都から逃げろ!!あの方の…………違うっ!!|やつ《・・》の仕掛けがもうすぐ発動してしまう!!」「「「!!?」」」アロンのあまりの剣幕にアルドや周りの騎士たちは圧倒され、彼が何を言っているのか即座には理解できなかった。しかしアルドはすぐに気を取り直して聞き返す。「いったいどういう事だ?『やつ』とは?『仕掛け』とは何だ?」アロンの様子から、ただ事ではない何かが起きると言うことは理解したものの、その言葉だけではどうすれば良いのか判断できない。アルドはさらに詳しい話を聞き出そうとしたのだが……「急げ…………これ以上罪を重ねぬよう………頼む……」そう言い残してアロンは気を失ってしまった。「お、おい!!……王都から逃げろ、だと?いったい、何が起きるというんだ?」 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ディラック率いる小隊は、もう王都の目前まで迫っていた。これまで無理をさせて飛ばしてきた馬はもう限界で、いつ倒れてしまってもおかしくはないが、もう一踏ん張りすればお役御免となるだろう。しかし……「ディラック様!!?そっちは……!!」ディラックの馬が街道から外れて脇道に入ろうとするのを見て、部下の騎士が驚いて彼に声をかける。「そっちは『聖域の森』ですよ!?勝手に入ったら……」「構わん!!責任は俺が取るから黙ってついて来い!!」ディラックはその先が神殿の管理下であること
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第135話 決死の覚悟

地下の古代劇場跡地から地上に出たエステルたちは、そこで信じがたい光景に遭遇した。「……こういうことか」アルドは呆然と呟く。アロンが『逃げろ』と言った意味が、今はっきりと分かった。他の者たちもあまりの事態に立ち尽くしている。彼らの視線の先には、森の木々を優に超える巨大なドラゴンの姿。王都に現れる事などないが、それがドラゴン……魔物の頂点に君臨する存在であることは誰もが一目で理解していた。その威容は見る者に畏怖の念を抱かせ、矮小な人間ごときが抗えるものではないと否が応でも理解させる。ドラゴンの全身はうっすらと光りに包まれていたが、やがてそれも消えて……閉じられていた瞳が開く。そして天に向かって首を伸ばした、高らかに咆哮を上げた。エステルとクレイも、辺境で見るよりもはるかに巨大なドラゴンを前にして驚きを露わにしていたが……「……クレイ、王都にもドラゴン出るんだね。それも、あんなにでっかいのが」「……いや。そんなはずはないんだが……」王都周辺に出没する魔物は辺境よりも弱い。彼はそう聞いていたし、それは事実のはずだ。ギデオンと魔物狩りに行って実地で経験もしてる。当のギデオンもクレイの言葉にしきりに頷いていた。だが、あれは明らかに彼らの認識と矛盾する存在だ。ならば、あれこそがアロンが言っていた『やつの仕掛け』なのだろう……アルドと同じくクレイもそう理解した。「でも、あれだけ大っきいと……お肉たくさん食べられるよね。じゅるり……」エステルのそのセリフは、彼女の母とほとんど同じものだった。あの母にしてこの娘ありだ。(こいつ……ドラゴンを食材としか見てねぇ……)そしてそのセリフに、同郷のクレイですら若干引いているが、気を取り直して彼女に現実を突きつける。「シモン村に出てくるのは精々が中位竜まで。上位竜も一度だけ現れたことがあったが……あれはどう見ても、それを超えている。下手すると、食われるのはこっちだぞ」エステルとともに竜狩りの経験がある彼にとっても、今回ばかりは分が悪いと考えているのだ。かつて一度だけシモン村近傍に上位竜が現れたときは、自警団員はもちろん戦える村人総出で事にあたり何とか撃破することが出来た。その時よりも厳しい戦いになるのは間違いないだろう。「でも、あんなの放っておいたら王都に被害が出ちゃうよ!私たちが何とかしないと!……ですよね、陛
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第136話 集う強者たち

聖域の森の一画に突如として現れた巨大なドラゴン。それは王都の住民たちも目撃し、当然パニックになりかける。しかし騎士団は即座に行動を開始。非番の者も駆り出して住民の避難誘導と外壁の護りを強化すべく総動員態勢となっていた。もともと裏組織壊滅作戦のため多くの騎士や兵士たちが臨戦待機していたのは、不幸中の幸いと言えるだろうか。そして、その陣頭指揮に当たっていたのは、王の懐刀と言われている近衛騎士ディセフである。彼は次々に来る報告を受け、迅速に判断を下して各方面に指示を飛ばしていたが……「陛下はまだお戻りになられないか!?」「たった今伝令がありました!!陛下は御自らドラゴンとの戦闘の指揮をとられていると!!」「マジか……団長もいないし、俺がこっちの指揮をとらなきゃじゃねえか」もともと王や騎士団長が不在の間だけ、彼らの代行として指揮権を預かっているのがディセフである。アルドが戻ってくれば全軍の指揮権を彼に返し、代わりに自分が現場指揮に当たるつもりだった。王が最も危険な前線で戦うなど、本来ありえることではない。もともと裏組織壊滅作戦にアルドが直接出張るのも許容しがたかったのであるが、エステルを潜入させる代わりに……と言って聞かなかったのである。もっとも……そうでなくてもアルドが自ら前に出ようとするのは常のことであるし、そういう主君だからこそディセフも敬愛してるわけだが。「あれ程の敵を相手にするなら、確かに最強の駒をぶつけるべきだとは思うが……」アルドだけでなく、エステルやクレイなど……今最前線にいるはずのメンバーは、現在王都に居る中では恐らく最強の布陣であるとは彼も思っている。それでも、あれほどの敵を相手にするのは荷が勝ちすぎるだろう……とも。「せめて、あともう何人かいてくれればな……」騎士団長のディラックや、それに準ずる力を持つ者があともう少し戦闘に加わってくれなければ……と、自分も前線に向かいたいという気持ちを何とか抑えながら、彼は思わずにはいられない。だが、与り知らぬところでディセフの願い通りに力が集結しつつあることを、彼はまだ知る由もなかった。 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆アルド率いる部隊はついにドラゴンの元へ辿り着く。そして、王都と民を守るために決死の覚悟で戦いを挑もうとする彼らの前に、予想外の光景が広がっていた。「アルド陛下!
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第137話 さらに集う強者たち

王都外壁から外に出たジスタルとエドナは、ドラゴンが見える方角に向かって道なき道を一直線に走る。獣道すら無いような森の中は相当な悪路であるが、ジスタルが剣で藪を切り払い、エドナがその後ろに続く。そのスピードは平地でのそれよりは若干落ちる程度だ。彼らは辺境の開拓村での暮らしも長いので慣れたものである。「もう戦いが始まってるみたいね」「ああ。あそこから動いてないところを見ると、結構善戦してるようだ」まだもう少し距離はあるが、二人とも既に戦いの気配を感じ取っていた。そして竜をその場に留めているくらいには騎士団が頑張ってくれているのだろう……と、ジスタルは感心する。「もしかして……あの子たちもあそこで戦ってるのかしら?」ジスタルの言葉を聞いてエドナはその可能性を考えた。エステルとクレイならば、ある程度は竜との戦いにも慣れているから、二人の存在が善戦の理由なのでは……と思ったのだ。「裏組織の壊滅作戦……だったか?|あれ《・・》がその組織とやらに関係してるってんなら、可能性はあるな。……まあ、そうでなくても首をつっこむだろうが」「そうよね……あの娘、ドラゴン(の肉)が大好きだし。はぁ……」思わずため息をつくエドナ。それは娘のトラブル気質に呆れるというよりは、どちらかと言うと心配する気持ちから出たものだった。そして、戦闘の音が間近に聞こえるくらい目前まで二人が迫ったとき。ジスタルは何者かの気配が横合いから近づいて来るのに気付いた。「誰か来る……?」走るスピードはそのままに、警戒してそちらの方を見ると……ある男が走り寄ってきて合流してきた。彼は記憶にある姿よりも歳をとっていたが、ジスタルもエドナも知る人物だった。 「「バルド陛下!?」」「誰かと思えば……ジスタルだったか。それに……今日は懐かしい顔を見る日なのだな」そう言う彼の表情は穏やかだ。同じ『懐かしい顔』でも、ミゲルに対する反応とはかなり異なる。「陛下……まさか、|アレ《・・》と戦うつもりですか?」「無論だ。そう言うお前たちもだろう?」かつての王が自ら死地に向かっている事にジスタルは眉をひそめて言うが、バルドは「それがどうした?」と言わんばかりだ。「……あの時以来、鍛錬は欠かしておらぬ。最後にお前と手合わせした時よりも、今の俺は強い。むしろ今が全盛期かも知れぬな」「しかし……」バルドの言
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第138話 総力戦

「「エステル!!」」「えっ……お父さん!?お母さんも!?なんで!?」「師匠!?」巨大な竜との戦いの場面。そこに、全く予想もしていなかった人物……ジスタルとエドナが突然現れたことに、エステルやディラックは思わず攻撃の手を止めて驚愕した。最も果敢に攻めていた強者のうち二人が一瞬でも立ち止まってしまったため、竜の反撃が苛烈さを増す。「「「うわぁーーーっっ!!?」」」振り下ろされる脚、薙ぎ払われる尾、襲い来る|顎《あぎと》……常人には抗いがたい猛威が騎士たちを襲い、まるで羽虫のように彼らを追い散らす。「話をするのは後だ!!今は攻撃の手を止めるんじゃない!!」即座に状況を察したジスタルは二人にそう叫びながら自らも戦線に加わる。いま何とか竜をこの場に留めていられるのは、ごく数人の強者の力があってこそ。ならば、自分やバルドが加われば、劣勢を覆すことも可能……と、彼は考えた。「お前たちは下がって支援に徹しろ!!」ジスタルとバルド……更なる強者の参戦によって状況が変化するであろう事を受け、アルドは即座に指示を飛ばした。(まさか……|義父上《ちちうえ》や|義母上《ははうえ》だけでなく、伯父上まで来られるとは……しかし、これで僅かにでも勝ち筋が見えてきたか?)エステルやディラックと違い、新たな協力者の登場にも表向きは冷静さを保っていたアルドであったが、内心ではバルドの参戦にかなり驚いていた。彼に対しては色々と思うところはあるものの、いまこの場における助力については素直に感謝する。なお、ジスタルとエドナの事はやはり義父母呼びである。そして、エステルやアルドなどの力ある者たちが前衛の要となり、他の騎士たちは足手まといにならないように支援に徹する事となった。負傷した者はエドナの力によって既に治療を施されている。王城からの支援部隊も少しずつ集まってきた。対する竜も、出現直後は目覚めたばかりだったからなのか比較的動きが緩慢だったが、今は攻撃速度と頻度が格段に増している。騎士たちを下げたのは正解だろう。エステルたち強者であっても一瞬たりとも油断できず、まともに被弾すればただでは済まないのは彼らも同様だ。否が応でも多大な緊張感を強いられる戦い。しかし人間たちも竜も互いに決定打には欠け、戦いは長期戦にもつれ込むと思われたのだが……「グオォーーーッッ!!!」しつこく纏わり
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第139話 女神

………………………………「…………え?」誰かの小さな呟きが、静寂の中ではやけに大きく聞こえた。上位竜をも超えるであろう巨大な竜から放たれた|竜の吐息《ドラゴン・ブレス》。それは人間が受け止めるにはあまりにも過剰な攻撃で……その場で戦いに臨んでいた多くの者は死を覚悟した。そして実際に、目を焼くような眩い光と耳をつんざく轟音によって、己に最期の瞬間が訪れた事を確信したのだ。しかし、彼らはまだ生きていた。それどころか傷一つすら負っていない。それは何故なのか?その答えは……「……光の……結界?」アルドは破滅の光が自分に襲いかかろうとする瞬間、最後まで竜から目を逸らすことはなかった。だから彼は自分たちがなぜ助かったのか、その理由が分かった。天を仰ぐ彼の視線の先には……黄金に輝く光のドームが戦場を覆い尽くしていた。それが彼らを護ってくれたのは間違いない。しかし、竜のブレスを完全に防ぐような結界魔法など……たかが人間の魔道士程度が作り出せるものなのか。自身も多少なりとも魔法を扱うが故に、アルドはその光の結界が常軌を逸するほど高度な魔法であると理解した。そして、その光のドームを支えるように、地上からは光の柱が立ち昇っている。それを発していたのは……「「エステルっ!?」」全身が黄金に輝くエステルを見たアルドやジスタル、エドナ、クレイの声が重なった。そして彼女は……普段では見られない、感情が抜け落ちたような表情で空を見上げている。その雰囲気は静謐で、その美貌も相まってどこか神秘的なものを感じさせた。『全く……何やら騒がしいと思えば。【器】に足るこの娘がおらねば、ここら一帯消し飛んでおったぞ』その声は確かにエステルのもの。しかし彼女を知る者からすれば、それが別人であることは明白だった。「エステル……じゃない。誰……?」エドナは、娘の身にいったい何が起きたのか分からずに呆然と呟く。他の者たちは声すら出ないほどに驚き戸惑っていた。『ふむ……』エドナの問いには応えず、エステルの姿をした何者かは自分の身体を確かめるように手を握ったり開いたりしている。『急なことだったゆえ半ば無理やり身体を拝借したが……長くは入ってられそうもないな。資質はあるが、まだまだこれから……ということか』「身体を借りた……?まさか……」アルドはそのセリフで、彼女がいったい何者な
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第140話 剣聖の娘は竜殺しを成し遂げる

『グルァーーーッッ!!!』竜が怒りの咆哮を上げる。たかが人間ごときに、天から地に叩き落された。たかが人間ごときに、地上最強種族が一瞬でも恐れを抱いた。そのあり得ない事実に、竜は怒り狂う。それは人間にとって天災に等しいものだ。力ある竜が怒りに任せて荒れ狂えば、力なき人間たちなど成すすべもなく蹂躙される……はずだった。しかし、その場にいる誰もが希望を失っていなかった。彼らの表情は、無謀な戦いに挑む者のそれではない。|竜の吐息《ドラゴン・ブレス》が放たれたとき、皆が一度は死を覚悟した。しかし今は、むしろ勝利を確信している。なぜならば……彼らは希望の光を目の当たりにしていたから。「はぁーーーっっ!!!」竜を地上に引きずり落とした張本人……女神によって持てる力の全てを解放されたエステルが、黄金のオーラを纏いながら竜に肉薄する。そして巨大な竜の背を軽々と跳び超え、渾身の一太刀を浴びせた。『グガァーーッッ!!??』彼女の斬撃はやすやすと硬い鱗を切り裂いて血飛沫が舞い、竜は苦痛の叫びを上げた。まだ致命傷を与えたとは言い難いものの、初めてまともなダメージが入ったのである。「通った……!!竜の意識を少しでも散らせ!!エステルが攻撃に集中できるようにフォローしろ!!」アルドの指示が下され、戦闘陣形が変わる。アルド、クレイ、ディラック、ジスタル、バルドらは竜の周りを取り囲み、少しでも竜の意識を分散させるように立ち回る。他の騎士たちは、王城や神殿から駆けつけた者たちも含めて弓や魔法による遠距離攻撃を始める。竜にとって、それらは針で刺される程度のものだったが……間断なく浴びせ続けられれば、|最も危険な人物《エステル》一人だけに意識を向け続けることも出来ない。こうして完全に|竜《ドラゴン》包囲網が敷かれ、エステルの攻撃を中心に少しずつダメージを与えていく。しかし事態は好転したものの、竜の脅威は変わらず油断できる状況ではない。実際、エステルは早期決着をつけるべく首の切断を狙っているが、敵も流石にそうやすやすとそれはさせてくれなかった。その一方で、竜は鬱陶しく纏わりつく人間たちによって注意力を分散させられながらも、何とかエステルを止めようとしていた。だが、脚で踏み潰そうとしても躱され、鋭い爪で切り裂こうとしても大剣に弾かれ……逆に反撃によるダメージがじわじわと蓄積していく
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