All Chapters of 剣聖と聖女の娘はのんびりと(?)後宮暮らしを楽しむ: Chapter 61 - Chapter 70

142 Chapters

第61話 執着心

その日の夜。昨日は夜更かししてアルドと手合わせしたエステルだが、晩餐(今回はアルドは来なかった)のあと直ぐに入浴して就寝した。よく食べてよく眠る事こそ、彼女の|元気《パワー》の源だ。まだお子様だから……ではないはず。まだ他の者は起きているような時間なのだが、エステルはもう既にベッドの中でスヤスヤと寝息を立てている。先程まで彼女の世話をしていたクレハも、部屋の主が就寝したため仕事を終えようとしていた。そして、ちょうどそのタイミングで部屋を訪れる者が……「はい、どちら様でしょう……」 ノックする音を聞きつけたクレハが部屋の扉を開けると、そこにいたのはこの後宮そのものの主。「アルド陛下?」「ご苦労。あ~……その。エステルに会いに来たのだが……いま大丈夫か?」少し遠慮がちに、視線を彷徨わせながらアルドは言った。女性の部屋を訪れるのに慣れていない様子だ。「エステル様は既にご就寝されましたが……」「なに?……随分早いな。どこか具合でも悪いのか?」「いえ、そう言うわけではなく、普段からこのくらいの時間には就寝なさっているらしいです」「ふむ……(娯楽の少ない辺境出身なら普通……なのか?)」実際のところ……確かに彼が思う通り、王都に比べれば地方の方が就寝時間は早いのかもしれない。それにしても……ではあるのだが。「それなら仕方ないか…………いや、顔だけでも見ておきたいな」「……承知しました。どうぞお入りください」本来なら女性の寝姿を見るなど……少なくとも、部屋の主の了承なしに男を入れるのは躊躇われるところ。クレハも一瞬だけ悩んだが……ここは後宮で、アルドは後宮の主だ。更に、エステルとアルドは既に……と、クレハは認識 (誤解)している。それらのことを瞬時に判断して、彼女はアルドを部屋に招き入れた。初めてエステルの部屋に足を踏み入れたアルドは、どこか緊張した様子だ。「寝室はこちらでございます」「あ、あぁ……(そう言えばこのメイド……勘違いしてるんだったな……)」躊躇う様子もなくエステルの寝室を案内するクレハを見て、アルドはそう思ったが、特にその勘違いを正そうとはしなかった。「では私は失礼しますので……ごゆっくりどうぞ」「う、うむ……」これから何をすると思われているのか……そう考えると彼は気まずさを感じるのだが、クレハはあくまでも事務的に告げて部屋
Read more

第62話 危うき純真

翌朝、まだ日が昇って間もない時間にエステルは目覚めた。騎士登用試験の日は寝坊しそうになったが、本来の彼女は非常に早起きで寝覚めもよい。「…………はて?」目覚めた直後の第一声がそれだった。彼女は何か違和感を覚えたのだが、それが何なのかは直ぐに分かった。大きすぎると思っていたベッドに、彼女は一人で寝ていたはずなのだが……今は誰かを抱きしめているのだ。(クレイ……じゃないよね?)宿に泊まっていたとき、彼女は何回か寝ぼけてクレイのベッドに潜り込んでしまったのだが、彼とは気配が違うと思ったのだ。しかし、その正体は直ぐに分かった。「アルド陛下……?」そう、エステルが抱きついていたのはアルドである。昨日エステルに捕まってベッドに引きずり込まれた彼だったが、結局抜け出すことができずにそのまま眠ってしまったらしい。想いを寄せている少女に抱きしめられて悶々としながら、劣情を抱いても拘束されてどうすることもできず……結局生殺しのまま、最終的には眠気に負けてしまったようだ。「どうしてここに?………………ん、あったかくて気持ちいい……」当然わけが分からない彼女だったが、温もりが心地よくてそのまま二度寝の態勢に入った。ふと、エステルは彼の顔を見た。「…………綺麗」ポツリとつぶやく。彼女は普段、自分も含めて容姿の美醜には興味を持たないのだが……アルドの寝顔は素直に美しいと感じた。しばらくそうしていると、アルドの瞼が震え……青い瞳がエステルを射抜いた。「あ、おはよ〜ございます!」「…………おはよう。…………っ!?す、すまん!!」起きた直後は一瞬思考が定まらなかったアルドだが、直ぐに状況を把握して謝りながら飛び起きた。「あ……」掛け布が払われ冷たい空気が肌を刺す。そして、アルドの温もりが離れていくと、エステルから少し寂しそうな声が漏れた。アルドはそれには気が付かずにベッドから離れて、少し乱れていた服を直す。昨夜は執務の合間にやって来たので、当然ながら寝間着などではない。そして、ずっとエステルに抱き締められて身体が凝り固まっていたのだろう、首や肩を回して強張りを解きほぐしている。「なんでアルド陛下が私のベッドに……?」当然、エステルはその疑問を口にする。しかし、自分の知らぬ間に男と一緒に寝ていた割にはあまり気にした様子はない。彼女とて男女の営みの何たるか
Read more

第63話 朝のあれこれ

朝から思いもよらないハプニングがあったが、エステルは特に気にしていない。うら若き乙女としてそれはどうなのだろうか……だが、アルドとしては嫌われずに済んだので良かったのかもしれない。彼自身は男として微妙な気持ちだったかも知れないが。そして、アルドが出て行って暫くしてから、エステルの世話をするためクレハがやって来た。「おはようございます、エステル様」「あ、おはよ〜ございます、クレハさん!」朝の挨拶を交わす二人だが……クレハがエステルの首筋あたりに視線を向けると、彼女の顔が少しだけ赤くなる。「どうしたんですか?」「あ、いえ……何でもございません」「?」クレハの様子を不審に思ったエステルは、首を傾げて疑問を口にしたが、クレハは言葉を濁して誤魔化す。彼女は、昨夜アルドがエステルの寝室にやって来たことを知っている。朝早くに帰っていったことも。そして、エステルの首筋には赤い跡が残っていて……それを見たクレハは、昨日ここで何が行われていたのかを想像してしまったのだ。(……エルネア王国は安泰ですね)クレハの誤解はもう解けることはないだろう……同じ頃……アルドは昨晩の遅れを取り戻すために、早々に執務室で仕事を始めていた。そして、いつも通り宰相フレイもやって来る。「陛下……エステル嬢に手を「出してない」……そうですか」フレイがそう言うのを予想していたアルドは、即座に否定する。「……と言うか。お前に情報が伝わるの早すぎやしないか?」「何をおっしゃいますか。情報は鮮度が命ですよ?文官の長たる私にとって、情報こそが生命線なのです」「……俺のプライバシーも考慮してくれ」今回も、クレハ→ドリス→フレイのホットラインなのは想像に難くない。「しかし、一晩を共に過ごして何も無いとは……ヘタレですね(自制心が強いですね)」「本音と建前が逆になってるぞ!?」王の腹心は付き合いも長いので、なかなか遠慮がない。王を相手にしても言うべき事は言うフレイを、だからこそアルドは信頼しているとも言えるのだが。「まあ冗談はさておき」「冗談で済ますなよ……」「騎士団から例の作戦の計画書を預かったのでお持しました」そう言ってフレイはバサバサと紙の束を執務机に置く。「何だ、ディセフが持ってくるかと思ったが」「昨晩は陛下がよろしくやっていて不在だったので、私のところに持ってき
Read more

第64話 叙任式前

「叙任式……?」「はい。何でも……騎士登用試験で優秀な結果をおさめられた方に前倒しで入団して頂くそうです」朝食を終えたエステルが、今日はこれからどうしようか……と考えていた時、クレハがそんな話をした。「優秀な成績って……たぶんクレイの事だよね」「お二人いらっしゃると聞いております」「じゃあ、あの大っきい人かな?たしか……ギ、ギ……ギリアムさんだっけ?」『ギ』しか合ってない。幼馴染の友人になった人の名前くらい、ちゃんと覚えましょう。エステルが試験会場でざっと見たとき、その二人が突出した力を持っていたので彼女はそのように予想した。「それで、エステル様もご参観されないか……と、アルド陛下から伝言がございました」「あ、行く行く!行きます!」一も二もなくエステルはその話に食いつく。彼女には後宮の警護の任務がある(と思っている)が、流石に一日中ここにいるのも退屈だと思っていたのだ。(それに……騎士団本部なら、ついでに稽古もさせてもらえるかも!)結局……幼馴染の晴れ舞台よりも、彼女にとってはそちらのほうが重要なのかもしれなかった。 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆一方そのころ。叙任を受ける当の本人達はと言えば……「…………」「おいおい、今からそんな緊張してどうする?全く……図体のわりに案外気が小さいんだな……」「だってよ……いきなり今日からって言われたってなぁ、心の準備ってもんがまだ出来てねえんだよ」呆れたように言うクレイの言葉に、ギデオンが反論する。彼らは今、王城にある王国騎士団本部に向かっているところ。約束の時間にはまだ早いが、遅刻するわけにはいかない……と、早めに行くことにしたのだ。「しかし……俺たちを前倒しで入団させてまで、どんな任務をさせるってんだろうな?」「さあな。その話も今日聞けるんだろ。少なくとも、いきなり他の騎士たちと連携して……なんてことはないんじゃないか?だとすれば……純粋な戦闘要員として期待されてるんだろうな」「なるほど……じゃあ、あの嬢ちゃんの役割ってぇのは何だろうな?」「それこそさっぱりだが…………|一人軍隊《ワンマンアーミー》とか|最終兵器《リーサル・ウェポン》みたいなやつだからな。騎士団があいつの力を把握してるなら……裏組織の中枢に単騎特攻させて暴れさせるとか、|竜《ドラゴン》の巣に放り込んで
Read more

第65話 叙任式1

騎士の礼装を纏ったクレイとギデオンは、ディセフに案内されて叙任式を執り行うため王城内の聖堂へと向かっていた。今回は略式との事だが、諸々の式典などが省略されるだけで、手続は正規の手順に則って行われる。後日、ふたりは他の新規登用の騎士たちに混じって正式な叙任式にも参加する事になるらしい。(二度手間で面倒くさいな……)と、クレイは思ったものの、早く騎士になれること自体は歓迎している。本来であれば試験の結果を確認したら、一度シモン村に帰る予定だったので、その手間は省けたとも言える。(……後で手紙出しとかなきゃな。アイツはそんな気の利いたことしないだろうし。……しかし、アイツの事は何と伝えるべきか?)……彼は本当に苦労性である。「本来だったら騎士団長も参加するんだがな……生憎と遠征に出ていて不在なんだ」案内の途中でディセフが言う。本来の正式な式典は、騎士団長は当然として国の要職に就く者や高位貴族なども列席する盛大なものだ。「騎士団長……確か、国王陛下と並んで王国最強の騎士……だっけか」「そうだ。騎士の中の騎士、『大聖騎士』ディラック様だ。あの伝説の剣聖ジスタル様の一番弟子なんだぜ!」「……え?」クレイの呟きに答えるギデオン。突然出てきた師の名前に、クレイは驚きの表情となる。「何だ、知らなかったのか?王都では有名な話だぞ」「あ、あぁ、いや……俺の村は辺境もいいところだからな。初めて聞いた」「そうか。ディラック様は王都民の憧れの存在だからな、早くお会いしたいぜ。……ん?ディセフさん、どうしたんすか?」ギデオンは、ディセフは複雑そうな表情を浮かべているのに気がついて声をかけた。「いや……あんまり幻想は持たないほうがいいぞ」その言葉と、ディセフの表情を見たギデオンは思った。エステルの事を話すときのクレイに似ているな……と。そして、そのクレイはと言えば。(……師匠の一番弟子って事は、俺やエステルの兄弟子って事だよな。そんな事一言も言ってなかったけど……単に知らないだけかもしれんが)もしジスタルがそれを知っていたのであれば、別に隠す理由もないはず、と彼は思ったが……(いや、師匠はあまり王都の事は話したがらないからな……昔なにがあったのかハッキリしないが、俺たちもあまり師匠の事は言わない方が良いかもしれん)因みにエステルがジスタルとエドナの娘で
Read more

第66話 叙任式2

騎士の叙任式に臨んだクレイとギデオン。そしてエステル。クレイはエステルがこの場にいる事に大いに驚くが、一方の彼女はと言えば。「やほ〜、クレイ」「やほ〜……じゃない。何やってんだ、お前?」「何って……見学だよ〜」「見学って……その格好は何だ?」「えへへ〜、良いでしょ。どお?似合ってる?」「あ、ああ…………まさか、お前がそんな格好に興味があったとはな」そんなふうに、最初はいつもと変わらないやり取りを始める二人だったが……エステルのドレス姿の話になると、クレイは再び先程の感覚が呼び起こされた。そしてエステルはそんなクレイの様子には気付かず、王の前でガチガチに緊張しているギデオンに声をかける。「あ、大っきい人もよろしくね!えっと、ギ、ギ……ギルバートさんだっけ?」「い、いや…………」「『ギ』しか合ってねえよ。ギデオンだ」緊張のあまり声が出てこないギデオンに代わってクレイがツッコミを入れた。ひとまず、自分でも分からない感覚には蓋をすることにしたようだ。「コホン……陛下の御前ですよ。略式とはいえ騎士の任命は大切な儀式。これから王と国に剣を捧げる身として自覚なさい」「「すみません!」」「ごめんなさい〜」会話の切れ間を見計らって彼らを嗜めたのは、アルド達の後ろに控えていた宰相フレイ。本来であれば騎士の叙任式は、武官の長である騎士団長が主催すべきところ、不在のため彼が代理で進行する事になっているのだ。もっと言えば……登用試験の合否から新たな騎士の任命まで、本来であれば国王の任命の前に騎士団長の承認が必要となるはずなのだが、それに関してもディセフが代理として権限委譲されているのだった。「まあ、そう堅苦しいことを言うな」フレイの至極当然な言葉に、しかしアルドは苦笑しながらフォローした。そして、マリアベルもそれに追従する。「そうよ。クレイくんと私達は知らない仲じゃないんだから」「え……?」マリアベルの言葉に、クレイは疑問の声を漏らす。たかが平民が、国王と王妹に面識などあるはずが……と思いかけたところで彼は気が付いた。「もしかして、あの時の兄妹……?」「正解よ!」「あの時は世話になったな。こうして、また会えて嬉しいぞ」エステル達が彼ら兄妹と別れるとき、アランは確かに『またな』と言っていた。あの時クレイは、その振る舞いからアラン達を貴族だ
Read more

第67話 兆し

クレイとギデオンの叙任式に参加したエステルは、再び後宮の自室に戻っていた。 「騎士団の訓練……ですか?」 「うん!クレイたちも早速参加するって言ってたから、私も!……って、お願いしたんです。だから、私の服に着替ようと」 エステルの今の格好は、ご令嬢が式典に参加するのに相応しいドレス姿である。流石にそれで剣を振るうわけにはいかないだろう。……実はそのままの格好で参加しようとしてアルドたちに止められたのだが。 「それでしたら、陛下からエステル様に……と、贈り物がございます」 「贈り物?」 「はい。いまご用意いたします」 そう言ってクレハは、衣装部屋へと向かう。そして直ぐに戻ってきた彼女が手にしているものは…… 「こちらです」 「おお〜……!可愛い!!」 ハンガーに掛けられ服を見たエステルは目を輝かせて喜びの声を上げた。どうも彼女はオシャレに目覚めつつあるようだ。  そしてクレハが持ってきてくれたのは、艷やかな光沢を持つ淡いブルーのミニのワンピース。その色はおそらくエステルの瞳をイメージしたのだろうか。シンプルな形状ながら所々に金糸の刺繍が華美になりすぎない程度にさり気なく施されている。 ボトムスには、伸縮性のある素材で出来た太腿の半ばまでを覆う黒のショートパンツに、焦げ茶色の編み上げロングブーツ。靴底は平なので、ヒールに慣れないエステルでも歩きやすいだろう。 オシャレさと動きやすさを両立し、王城内でも街歩きでも違和感のない絶妙な上品さのコーディネートだ。 そして早速、エステルはその服に着替える。サイズもぴったりだった。 「うん!可愛い!動きやすい!」 姿見で確認しながら身体を動かしてみてご満悦のエステルである。 「とってもお似合いですよ」 「えへへ〜。……あれ?この服って……」 クレハに褒められて喜ぶエステルだったが、ふと何かに気が付いて呟いた。 「お気づきになりましたか?実はその服は、護りの魔法がかけられてると聞いております」 「護りの魔法……?確かに魔力を感じたんだけど」 「何でも……下手な鎧などより防御力があるとか。更に魔法防御にも優れ、汚れにくいなど……かなり手の込んだ品のようですね」 「へぇ〜……凄いんだぁ〜」 エステルは感心してはいるが、その程度の反応だ。 しかし……それほどの魔法がかけられた服など、パーティ
Read more

第68話 宣戦布告

「俺がエステルをどう思っているのか……」クレイはアルドの問に答えられない。物心付いたときから一緒にいた幼馴染の少女。自分にとっては手のかかる妹のような存在。それ以上でも以下でも無い特別な想いなど抱いたことはなかった。……そう、彼は思っていた。しかし、先程の叙任式でドレス姿のエステルを見たとき、彼の中で何らかの感情が芽生えた。普段見慣れない彼女の女性らしい姿を見たから……ではない。いや、確かにそれも心が動いた要因かもしれないが……一番の原因は、そんな姿でアルドの隣に立っていたからだ。その姿は、そう……まるで、王と王妃のようだった。それを見た彼の心に芽生えたのは、まだ彼自身では認識していない感情……『嫉妬』だった。「お前にはハッキリ言っておくぞ。俺はエステルに惚れている。出来れば、王妃として迎えたいと思っている」「お、王妃……!?そ、そんな無茶な……!?」「無茶ではない。確かに平民の彼女を正妃にするのは色々と煩いことを言うやつもいるだろうが……」「あ、いえ……そっちじゃなくて……」「?」クレイが言いたいのは、『アイツを王妃にするなんて……アンタ、国を滅ぼす気か!?』と言うことである。……少し本来の調子が出てきたようだ。「だが安心しろ。まだ俺は自分の想いを伝えていない。エステルはただ単に『極秘任務』のため後宮にいると思いこんでいる。俺のことも恋愛対象として意識してはいない」「後宮……?そんなところに…………」「もちろん、彼女に手出しはしていない。俺は彼女を無理やり王妃にするつもりなどないからな。しっかり彼女の心を俺に振り向かせてからの話だ」強引な手で後宮入のための審査は受けさせたが。「……なぜ、それを俺に?」「ふっ……お前が最大のライバルだと思ったからさ」そこでアルドはニヤリと不敵な笑みを浮かべて言った。言外に、『お前には負けない』と言う意志が込められているようだ。「べ、別に俺は……」「自分の気持ちに気が付かないフリをするのも良いだろう。だが、それで俺は遠慮などしないぞ?」「……」それはアルドの宣戦布告だった。確かな絆を持つ幼馴染同士の間に割って入り、まだエステルがクレイに恋心を抱く前に、自分が彼女の心を射止める……そう、告げたのだ。クレイはそれに答えることができない。自分がエステルをそういう目で見ている事に確信がもてない
Read more

第69話 訓練場

騎士団の訓練場にやって来たエステルは、暫くは騎士や兵士たちの訓練を興味深そうに見学していた。訓練の内容としては……型をなぞって素振りをしたり、走り込みをしたり、筋トレしたり、手合わせしたり……様々だ。(ふむ……『まあまあ』かな?この中だとディセフさんとギー君だけ飛び抜けてる感じかな〜)エステル評の『まあまあ』は、戦いを生業にするものとしてはベテランと言っても良いくらいの強さである。そして以前評した通り、ディセフとギデオンは『そこそこ』ランクだ。この中では突出した実力を持っているが、エステルの食指が動くほどではない。ディセフは、若手らしい騎士に手合わせ形式で指導中。ギデオンはまだ入団したばかりなので、取り敢えずは走り込みをする事にしたらしい。(ん〜……アルド陛下と同じくらい強いって言われてる騎士団長さんは今不在なんだっけ?)会うのを楽しみにしていた騎士団長は現在遠征中……と、エステルはディセフから聞いていた。そうすると、今この場で彼女が自分から手合わせしたいと思える者は特にいない。(……そしたら、私も走り込みと素振りやって、クレイが来たら手合わせしようかな?)そう考えた彼女は、キョロキョロと訓練場の中を見渡す。そんな彼女の様子が気になるのか、チラチラ……と男たちが視線を向けるのだが、エステルは全く気が付かない。訓練場の外周はかなりの距離があり、何人かが走っている。エステルはギデオンがやって来るタイミングを見て走り出した。「やほ、ギー君!」ギデオンに合流したエステルは気軽に声をかけて並走を始めた。「お、おう……そ、その『ギー君』ってのは止めてくれねぇか?」初対面で心を奪われそうになった相手が話しかけてきたので、どもりながら彼は答える。「なんで〜?」「な、何でって……」もちろん気恥ずかしいからだが、それを言うのも意識しているようで気恥ずかしい……なんて複雑な男心のギデオンである。……正直キモい。そしてエステルは、そんな複雑な男心など理解するはずもない。「……まぁいいか。しかし嬢ちゃ「エステル!」……エ、エステル?」「なあに?」「あんた、クレイより強えってのは本当か?」名前呼びに少し照れながら、しかし彼は気になっていたことを聞く。クレイの言う事を信じていない訳ではないのだが……こうして改めて見ても、強さを感じ取ることが出来ないの
Read more

第70話 エステルvsクレイ

「集合!!」ディセフが号令をかけ、訓練場にいた騎士・兵士を集合させる。彼の横にアルドとマリアベル(アルド達の後からやって来た)が立ってるのに気付いた彼等は、その場で臣下の礼を取ろうとするが……アルドはそれを手で制して言う。「そのままでいい。俺たちのことは気にするな」そうすると、今度はクレイ、ギデオンに注目が集まる。そして、先程から騎士たちが気にしていたエステルにも。それを察したディセフが紹介を始めた。「あ〜、先ずはこちらの二人だが……格好を見れば分かると思うが、新たに我が王国騎士団に加わることになったクレイとギデオンだ。先程、任命されたばかりだな。二人とも相当な実力者で、即戦力となるのは間違いないだろう」「よろしくお願いします」「ぃしゃっす!!」ディセフの紹介を受けて二人は前に出て挨拶をする。すると、先輩騎士たちから拍手や「よろしく!」と言った歓迎の声が上がった。そして、残ったエステルへと注目が集まった。「あ〜……彼女は、何というか」そこでディセフはアルドに、ちら……と視線を向けたが、彼は特に説明する気は無いようだ。仕方なくディセフは自ら説明を続けた。「詳細はこのあと隊長格の者に話をするんだが……近日中に大規模作戦が行われるという話は皆も聞いているだろう」ディセフはそう切り出したが、|謎の少女《エステル》の紹介をするかと思っていた騎士たちは戸惑いの表情を見せた。だが、その疑問は直ぐに解消される。「その作戦で重大な役割を担ってもらう事になっているのが、こちらのエステル嬢だ」「みなさんこんにちは!!未来の聖女騎士エステルです!!よろしくお願いします!!」元気よく挨拶するエステルだが……『聖女騎士』なる聞き慣れない単語に、みんな頭に疑問符を浮かべていた。(……聖女騎士って何だよ。まぁ、確かにコイツは野良聖女で、何れは騎士になるつもりだろうが。あぁ、だから『未来の』って付けたのか。一応コイツなりに考えてるんだなぁ)内心で妙な関心をするクレイである。「……コホン。とにかく、彼女が作戦の要なのは間違いない。それでだな、これから彼女と騎士クレイが手合わせをするんで、その実力の程を皆にも知って欲しい」ディセフがそう言うと、今度は驚きの視線がエステルに集まった。どう見ても戦いとは無縁そうに見えるので彼らの反応は当然だろう。「二人とも、武器はあ
Read more
PREV
1
...
56789
...
15
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status