剣聖と聖女の娘はのんびりと(?)後宮暮らしを楽しむ のすべてのチャプター: チャプター 51 - チャプター 60

141 チャプター

第51話 女騎士(仮)、駆ける

「じゃあ私はお城に帰るね〜」宿でクレイに事情を説明したエステルは言う。極秘任務で長く城を不在にするわけには行かない……と、彼女は真面目に考えてる。「……『帰る』か。やっぱ順応するのが早いよな、お前」エステルが自然と口にした言葉に、クレイはしみじみと呟いた。エステルならどんな環境にもすぐ適応できると彼は思っていたが、改めてその通りだったと認識する。「えへへ、それほどでも〜」「別に褒めてないが」「クレイはこのあとどうするの?」「ギデオンと約束があるんだ」どうやら、昨夜一緒に食事をしたときに約束したらしい。直ぐにそんな約束をするあたり、お互いにかなり気があったようだ。「?……ギデオンって誰?」「あぁ……お前、名前は知らなかったか。ほら、騎士登用試験の会場で俺等に絡んできたヤツがいたろ?」「あ〜、あのおっきい人?」「ああ。俺等に本気出してもらおう……ってんで挑発してきたみたいだったんだが。話してみたら、中々いいヤツだったぞ」「へぇ〜お友達になったんだ〜、良かったね!」「ん……」改めてそう言われると照れてしまうクレイである。「まぁ、アイツも合格は間違いないだろうから……そのうち会う機会もあると思うぞ」「うん、紹介してね〜!」彼女は知る由もないだろう。彼の芽生えようとしていたかも知れない恋心をクレイが摘み取った事など。「で、何を約束してるの?」「ん?あぁ、実は……一緒にハンターの仕事を受けないか?って言われてな。最近ろくに鍛錬も出来てないし、付き合おうかと思って」「え〜!何それ!私も行きたい〜!」「だから、お前が帰ってきたらどうするか聞こうと思って待ってたんだが……極秘任務なんだろ?まぁ、王都の周辺なんて大した魔物はいないし、肩慣らし程度にしかならないさ」「むむむ…………むぅ、仕方ないか〜」エステルは律儀にも使命を全うしようとする。彼女は能天気でいい加減で何でもクレイに丸投げしがちであるが、一度引き受けた仕事を放り出すような無責任な娘ではない。……本当は極秘任務など無いのだが。それに、クレイが言った通り王都周辺は辺境と比べて魔物の強さは大したことがない。エステルやクレイくらいの実力者には物足りないだろう。「じゃあクレイ、またね〜」「ああ。……あまり無茶すんなよ」相変わらず心配性のクレイだが、エステルの事をよく知る彼から
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第52話 怒れる女騎士(仮)

裏路地を駆け抜けるエステル。道は細く入り組んでいるので彼女の本来の速度より相当抑えているが、それでもかなりのスピードだ。彼女は宿から引き上げた大きな荷物を持っているが、特に邪魔にはなっていない様子。特に目立つのは、彼女の本来の得意武器である大剣。少女の見た目には全く不釣り合いなそれ……自身の身の丈程にも及ぶ長大なバスタードソードを、なんの苦もなく背負って疾走していた。そして、彼女は声が聞こえてきた方向に進もうとするのだが……「あっ!?また行き止まり!?もうっ!!早く行かなきゃいけないのに……!!」裏路地は複雑に入り組んでいて、思うように目指すべき場所へと進むことが出来ない。こうしている間にも、女性が酷い目にあっているかも知れない……そう思うと彼女の心に焦りばかりが募っていく。「……え〜い!こうなったら……最終手段だよ!!てぇ〜いっ!!」そう言って彼女は……何と、その場から大きく跳び上がって建物の壁を蹴る。タンッ!!「はっ!!やっ!!せいっ!!」タッ!タンッ!!タンッ!!そうやって何度も掛け声を発して、道の両側の壁を蹴りながら、あっという間に上に登っていく。すると彼女は裏路地を見下ろす建物の屋根の上に上がってしまったではないか。「よし!これなら道に関係なく進めるでしょ!」そして彼女は今度こそ一直線に、声が聞こえた方に向かっていく。屋根を走り、路地を跳び超えて。もう彼女の行く手を阻むものはない。程なく、エステルはそこに辿り着いた。屋根から見下ろす裏路地の突き当りの袋小路。ちょっとした広場のようになっているそこで、複数の男たちが一人の少女を取り囲んでいる。「ん〜っ!!んーーーっっ!!?」「へへ……大人しくしな!!」「怪我をしたくなかったら暴れるんじゃねえぞ」いかにもゴロツキといった風体の男たち。そのうちの一人が少女を羽交い締めにし、声が出ないように彼女の口を塞ぐ。少女は激しく抵抗して悲鳴をあげようとするが、口を抑えられて思うように声が出せないようだ。そして別の男が縄をかけて身動きできないようにしようとし、更にもう一人が人一人くらいは入ってしまいそうな麻袋を頭から被せようとしている。明らかに人攫いが行われようとしている真っ最中だった。それを目撃したエステルは怒りに打ち震え、正義の鉄槌を下さんと声を張り上げた。「そこまでだよ!
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第53話 聖女騎士爆誕

「大丈夫ですか?」「は、はい……助けて頂いてありがとうございました」攫われそうになっていた少女は、震える声でエステルに礼を言う。なお、彼女を攫おうとしたゴロツキどもはエステルが全員瞬殺(殺してない)した。描写することなど全くないくらいに一方的で、戦闘と呼ぶのもおこがましい。|竜《ドラゴン》が蟻を踏み潰すが如くだった……とだけ言っておこう。その男どもはボロ雑巾のように地面に転がってピクピクしている。暫くは目を覚まさないだろう。……もう二度と目覚めないなんて事はないはず。「本当にありがとうございます。何とお礼を言えばよいか……」「いえいえ、お礼なんて必要ないですよ!!騎士として当然の事をしただけです!」少し落ち着いた少女の改めてのお礼の言葉に、エステルは当然の事だと言う。騎士云々は置いておいて、それは彼女の本心である。「騎士様……?」実は少女は、エステルが騎士だと言うのに最初は半信半疑であった。自分より年若い少女であり、その格好も雰囲気も騎士をイメージさせるものなど何も無かったから。強いて言うなら背中の大剣くらいか。しかし、実際にエステルの圧倒的すぎる実力を目の当たりにすれば、信じざるを得ないだろう。……まぁ、エステルは騎士ではないのだが。そして少女は顔を上げてエステルに縋り付くようにして言う。「騎士様!!どうかお願いです!!私の……私の妹も助けてください!!」「妹さん?……妹さんも、攫われたってこと?」『妹も』という言葉からすれば、そういうことなのだろう。「はい……。私は攫われた妹を探していたのですが、それでこの人達に目をつけられてしまったらしく……」「あ、ちょっと待ってね。先にその怪我を治しちゃいましょう!」「……え?」その言葉の意味が分からず少女は戸惑う。しかしエステルはそれには応えずに意識を集中して聖句を唱えはじめ……暖かく優しい光が彼女の手から溢れ出し、少女の身体を包み込んでいく。「え……?こ、これは……聖女さまの……?」癒やしの奇跡を使うことができるのは聖女だけ……一般にはそう認識されており、エステルのような野良聖女も少数ながら存在する事はあまり知られていない。「私は聖女じゃないですよ〜。…………でも、聖女で女騎士……聖女騎士?……うん!それ、すごく良いかも!」自分の言葉に満足そうに頷くエステル。どうやら彼女は
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第54話 尋問

何とかゴロツキのリーダー格の男を復活させ、人身売買組織の情報を聞き出そうとしたエステルだったが……「何にも知らない……?そんなわけ無いでしょ」「う、嘘じゃねぇ!俺等はただの末端なんだ!本当に、組織の事は殆ど知らねぇんだ……信じてくれ!」エステルから強烈な闘気をぶつけられ、カタカタと震えながらも男は人身売買組織の詳細は何も知らないという。その様子からすると、男が嘘をついているようには見えなかった。先程ティーナから聞いた話でも、捕まるのは末端ばかりで全容が掴めない……との事だったので、エステルは彼の口から組織の情報を入手するのは諦める。しかし。「でも、私やティーナさんを売ろうとしたのなら……そいつらと接触する方法があるんでしょ?」今回ばかりはエステル・ブレーンのポンコツさは鳴りを潜め、まるで凄腕の女騎士のように男に問い質す。……本当に彼女はエステルなのだろうか。「そ、それは…………」エステルの質問に男は言い淀むが……「ひぃっ!?」更に強くなった彼女の闘気が浴びせられると、男はへたり込んで恐怖で顔を歪める。腰を抜かして地面に座り込み、その体勢のまま後退るが……それに合わせてエステルも間を詰める。「……教えなさい。すり潰すよ?」普段の快活で脳天気な彼女からは想像もつかない氷の表情。それとは逆に、絶大な『気』が陽炎のように空気を揺るがせる様は凄まじい熱量を感じさせるほど。普段から荒事を生業とする男であっても、鬼神の前ではただ震え上がる事しかできない。「わ、分かった!!教える!!教えるから勘弁してくれ!!」ついに恐怖に屈した男は観念する。「……よし。それじゃあ、教えてくれる?」それまでの恐ろしい雰囲気を一転させ、エステルは再び男に質問した。男は霧散した闘気にほっとした表情を浮かべ、少し躊躇ってから口を開いた。「……決められた連絡場所があるんだ。一見普通の、なんてこたぁねぇ酒場なんだが……」「ふむふむ。お店の名前は?」「……『宵闇亭』だ。そこでマスターに……」そうしてエステルは男から店のある場所と、連絡員と接触するための情報を聞き出した。「なるほど〜。それじゃあ早速そこに行ってみようかな」「いや、店は夕方からしか開いてねぇぜ」エステルは迅速果断にそう言うが、男が待ったをかけた。酒場なのだからそれも当然だろう。「そっか……なるべく
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第55話 王の決断

「陛下、失礼します」王の執務室にて。国王アルドは朝から書類仕事に集中していたが、昼近くになってようやく一息つこうとしていた。そこへやって来たのは……「ディセフか。どうした?……エステルに何かあったのか?アルドはエステルに対して『自由にして良い』と言ったが……彼女の動向は気になるので、ディセフに『それとなく見守るように』と指示していた。……間接的なストーカーである。とは言え、アルドが本気でエステルを将来の伴侶に……と考えているのであれば、その動向を押さえるのは当然の指示とも言えるだろう。そして、その指示を出したはずのディセフがこうしてここに来ていると言う事は、何かあったのではないか……と、アルドは思ったのだ。「ご心配なさらずとも、今はもうエステル嬢は後宮に戻ってますよ。……まぁ、『何か』はあったんですけど」苦笑いしながらディセフは言う。「何があった?話してみろ」ディセフの様子から深刻な事ではないと察するが、続きを促すアルドの声は真剣そのものだ。エステルの事が気になって仕方がないのだろう。「実は……」そしてディセフは、先ごろあった『事件』を主に説明する。エステルの尾行は部下に任せても良かったのだが、何となく予感がしたのか……彼は自ら彼女の後をつけていた。気取られないようにエステルからかなりの距離を取っていた彼は、突然彼女が走り出したのを見て慌てて追いかけようとしたが途中で見失ってしまった。……まさか屋根に登って道なき道を進んでいくなど、彼の想像の範囲外の事だっただろう。見失いました、では済まされないと思ったディセフは、エステルが向かった方角だけを頼りに裏路地を駆け抜け、何とか再び彼女を発見することが出来たのだ。……なお、見失ってしまった事実はアルドには秘密にしておくようだ。そして、その後はご存知の通り。攫われそうになっていた少女を助けるため、エステルがゴロツキどもをボコボコにし、彼女は人身売買組織の事を知る。ディセフはその様子を隠れて見ていたのだった。「……お前、エステルが戦っている間、黙って見てたのか?」「睨まないでくださいよ。秘密裏に……って事だったでしょう?……でも、まぁ、そうも言ってられない展開になりそうだったんで、しょうがないから姿を見せることにしたんですけど」放っておけば……夜になったらエステル一人で敵地に突貫してしまいそう
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第56話 作戦会議

「…………という事があったんです~」「まぁ、そんな事が……お怪我はございませんか?」「だいじょ~ぶ!」後宮に戻ってきたエステルは、街で起きた事件の事をクレハに説明した。エステルが人攫いに正義の鉄槌を下したあと……ディセフの他にも複数の騎士や衛兵が現れ、人攫いの男達は全員捕縛され、そのまま騎士団詰所に連行された。そしてティーナも事情聴取と保護のため騎士団詰所に行くことになったのでエステルはそれを見送ったあと、後宮に戻ってきたのだが……「それでね、これからディセフさんと極秘の作戦会議をすることになってるんです!」ディセフが別れ際に、『人身売買組織壊滅作戦について極秘に相談したいので、城で待っててくれ』と言ってきたのだ。……放っておくのは不味いと考えた彼のファインプレーであろう。おそらく彼がそう言わなければ、今夜にでもエステルは連絡場所の酒場に単独で殴り込みをかけていたはずだから。しかし、彼女の『極秘』とはいったい……使用人であるクレハに話すのは良いのだろうか?「ディセフ様……ですか」「あ、知ってます?」「ええ、もちろんです。あの方は、アルド陛下の懐刀とも言われる近衛騎士様です」何かとアルドに振り回されるディセフであるが、それは信頼をおいているからこそ……だろう。「へぇ~、アルド陛下の…………確かに『そこそこ』強そうだったかも」「そ、そこそこ……?」エステル評価指標において『そこそこ』は相当な猛者という事になるのだが、基準を知らないクレハはその言いように驚きを見せる。そしてディセフだが……エステルの本気の一撃から逃げおおせたという事実だけでも、彼が強者なのは間違いない。「という事で、そのうち連絡が来ると思うので、取り次ぎお願いしますね~。それまで部屋でのんびりしてますから」「はい、承知しました。では昼食はこちらにお持ちしますね」そうしてエステルは、ゆっくりと自室で寛ぎながら連絡を待つのであった。 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ コンコン……「エステル様、失礼します。ディセフ様からご連絡を頂きました」エステルが暫く居間で過ごしていると、クレハがその報せを持ってきた。「あ、わかりました!どこへ行けば良いですか?」「騎士団本部の会議室までお越しくださいとの事です。ご案内いたしますね」そして、エステルはクレハに案内され、
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第57話 人身売買組織壊滅作戦

国王アルドと騎士団の幹部が居並ぶ会議室。そんな中に何故か平民の娘であるエステルが混じっているのは異様な光景とも言えた。アルドの隣に座った彼女に、今も騎士たちの視線が集まっているが……当の本人はまるで萎縮することなくニコニコとしている。よほど『極秘任務』の会議に参加できるのが嬉しいのだろう。「よし、皆揃ったな。今回皆に集まってもらったのは他でもない。近ごろ、王都の民を脅かしている人身売買組織……『宵闇の翼』の壊滅に向けた作戦についての最終確認を行いたい」アルドが視線を巡らせて幹部騎士たちを見やりながら、会議の開始を告げた。「既に各部隊には通知されていると思うが……これまで散々手を焼かされてきた闇の組織を、今度こそ確実に潰すための極秘作戦だ。心して遂行に当たるように。……ディセフ」「はっ!作戦の詳細については私から説明させていただきます」アルドの言葉を引継いで、ディセフが說明を始めようとするが……年配の騎士が一人、手を上げて発言の許可を求める。「申してみよ」「ありがとうございます。作戦の詳細を詰める前に……そちらのお嬢様についてご説明頂いても?」アルドの許可を得た騎士が発言すると、再びその場の視線がエステルに集まった。「ほぇ?私?え〜と……」「彼女は今回の作戦の要となる娘で、エステルと言う。……今度、俺の後宮に入る予定の者だ」何と答えるべきかエステルが悩んでいると、アルドがそのように説明した。その言葉に、騎士たちの間に動揺が走る。「へ、陛下、よろしいのですか?」「騎士団には腕の立つ女性もおります。危険な任務にそのような方を参加させるなど、同意いたしかねますぞ」口々に反論する騎士たち。王の伴侶となるかもしれない女性を危険な目にあわせるわけにはいかない……口にする理由はそういったものだが、騎士団としてのメンツ、プライドというのも多分にあるのだろう。「貴兄らの疑念はもっともだ。しかし、今回の作戦ではどうしても単独行動が求められる。何か不測の事態が起きた場合に、自力で切り抜けられるほどの実力がある女性騎士はいないだろう。それに加えて、容姿が優れている……という点も必要だ」ちら……とエステルを横目に見ながらアルドは言う。「確かに、エステル嬢はお美しいですが……」「えへへ〜」美しいと言われて照れるエステル。容姿を褒められて喜ぶところは、多少
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第58話 人身売買組織壊滅作戦2

人身売買組織壊滅作戦に参加することとなったエステル。彼女は囮役……つまり、人攫いに捕まった哀れな街娘としてオークションにかけられる役目である。実は騎士団の中では以前から囮作戦は検討されていた。しかし、少数あるいは単独での潜入となるため、当然ながら非常に危険がつきまとう任務となる。いざというときに単独でも切り抜けられる程の戦闘能力が求められるのだが……現在の騎士団の中には、それほどの力を有する女性騎士がいなかったのである。更に言えば、より中枢に近付くためには、より『商品価値』が高い……つまり、見目の美しい若い娘である必要があった。その点で言えば、エステルはまさに理想的な囮役だ。騎士たちは未だ半信半疑ではあるが、その戦闘能力は折り紙付き……どころか、国内最強の一人と言われている国王アルドとも互角だという実力者。そして、国王の後宮に入るほどの美貌を持つ若い娘である。「という事でエステル嬢には、捕まった娘のフリをして内部に潜入してもらいたい」「はいっ!お任せください!必ずや私の手で女性たちを救い出して、悪人たちを残らずボコります!!」「い、いや……状況を把握して態勢が整いしだい騎士たちが突入するので、エステル嬢は基本的には救援が来るまで大人しくしておいて欲しい」「……分かりました」エステルはちょっと不満げである。敵地に行ったら大暴れしたかったようだ。だが不満そうにしながらも文句は言わない。彼女は良い子だから。しかしその様子を見たディセフは、『……もしかして早まったか?』と内心思い、冷や汗が頬を伝う。なので、もう少し釘を差すことにした。「……くれぐれも先走った行動は慎むように。それもまた騎士の務めだ」エステルはまだ騎士では無いのだが、彼は敢えてそのような物言いをする。「騎士の……はい!分かりました!」今度は彼女もしっかりと返事をした。どうやらディセフは、早くもエステルの扱い方を理解したようだ。流石は王の懐刀、優秀である。「でもディセフさん、『状況の把握』ってどうするんですか?内部に潜入するのは私だけなんですよね?」エステルがそのような疑問を口にするが、それは当然だろう。「それについては……陛下?」「ああ、俺から説明しよう。エステル、君には王城内で自由に行動するためのアイテムを渡しているだろう?」「アイテム……?あぁ、これですか?」エステル
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第59話 宵闇亭にて

夕暮れ時の賑わいを見せる王都の街路を、二人組の若い男たちが歩く。その足取りは軽く、お互いに気軽なやりとりをしていた。「まぁ、いい運動にはなったかな……」「やはりこの辺りの魔物では物足りなかったか?」「いや……最近あまり身体を動かせなかったからな。ちょうど良かったよ」クレイとギデオンである。彼らは朝にハンターズギルドで依頼を受けて、王都郊外に出没する魔物退治を行っていた。辺境の魔物と比べればその強さは比較にならず、ギデオンが言った通りクレイにしてみれば物足りなさを感じるものだった。とは言っても、彼が王都に来てからは身体を動かす機会も殆どなかったので、多少は発散できて良かった……とクレイは思っていた。そして今はギルドにも報告を済ませて、夕食をとるため店に向かってるところだった。「昨日のところでいいか?」「ああ、そうだな。よく行くのか?あの店……『宵闇亭』だっけか」「いつもは家でお袋が作ってくれるんだが。安くて量が多くてそこそこ美味いんで、外食するときは大体あそこだな」「いいのか?別に俺に付き合わなくったって良いんだぞ?お袋さん待ってんじゃないか?」「今日は遅くなるかもって言ってあるから大丈夫だ。まぁ、気にすんな」そんな会話をしながら、多くの人が行き交う街路を歩いていた彼らだったが……「お前たち、ちょっと良いか……?」と、突然横合いから声をかけてくる者がいた。「ん?……俺たちですか?」 クレイが返事をしながら声のした方を見ると……そこには騎士の略装を纏った男が立っていた。どこかで見たことがある……クレイはそう思ったが、おそらく騎士登用試験の時に見かけたのだろう、と当たりをつけた。「ああ。クレイにギデオン……だな。俺は王国騎士団所属のディセフという。登用試験にも少しだけ顔を出していたんだが、覚えていないか?」「あ〜、何となく覚えてます」「俺たちに何か用事ですか?」突然街中で声をかけてきた事を怪訝に思いながら、二人は普段よりもやや丁寧な口調で答える。もしかしたら、自分の上司となるかもしれない……と思ったからだ。「ああ、これからお前たちの滞在先に向かうところだったんだ」ディセフはクレイの滞在している宿や、ギデオンの実家に向かうところだったのだが、たまたま街路を歩く二人を見つけたので声をかけたのだった。「俺たちのところに?……試験の
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第60話 友達

作戦会議を終えたエステルは後宮に帰るため、クレハを伴って王城の廊下を進む。昨日の今日ではあるが、もうすっかり勝手知ったる場所と言う感じで、彼女の足取りは軽い。そして後宮までやってきたのだが……エステルは庭園に誰かいるのを見つけた。その女性はエステルを見つけると真っ直ぐに近づいて来る。エステルは彼女の姿には見覚えが無かった。しかし……(あれ……?この人、どこかで会ったような……)豊かに波打つ白銀の髪に、青い瞳を持つ美しい少女。歳はエステルと変わらないくらいか。彼女は何故かとても嬉しそうな笑みを浮かべていた。「エステルちゃん!」「え?……え〜と」自分の名前を呼ぶ少女に戸惑うが、近くで見てもエステルは彼女に見覚えが無い……のだが、やはりどこかで会ったような気がする。どうも最近はそんなことが多い。「エステル様、この方はアルド陛下の妹君でいらっしゃいます」「アルド陛下の妹さん……?」「ええ、王妹のマリアベルよ。はじめまして……ではないわよ?」その名前、その喋り方、その声……そして、アルドの妹であると言う事から、エステルの記憶にある人物が思い浮かんだ。「もしかして……マリアちゃん?」「せいか〜い!また会えて嬉しいわ!」そう言って彼女はエステルの手を取って、本当に嬉しそうに言うのだった。「えっと……マリアベルさま、って呼んだほうが良い……ですよね?」「ううん、ぜひマリアって呼んでちょうだい。敬語もいらないわ。だって、エステルちゃんはお兄様の……」「アルド陛下の?」「……ううん、何でもないわ!」マリアベルは、兄アルドがエステルに好意を持っている事を知っている。直接本人から聞いたわけではないが、初対面の時の彼の態度や、エステルがここにいると言う事実から、それは間違いないと思っていた。(あのお兄様が、女の子に好意を持つなんて事……これまででは考えられなかった事だもの。そんな貴重な人は絶対に逃しちゃだめ。でも、エステルちゃんはまだどう言う気持ちなのか分からないから、ここは慎重にいかないと。とにかく、お兄様との仲は私が取り持つわ!……それに、私ももっと同年代のお友達が欲しかったのよね)などと、マリアベルは内心で慌ただしく考える。「と言うことで、これからよろしくね!」「うん!」エステルとしても同年代の女の子の友達が出来るのはとても嬉しい事だ
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