風が止まった。 さっきまで街道脇の草を揺らし、俺の金色の髪をしつこく頬へ貼りつかせていた風が、糸を切られたように途絶えた。 森の中から聞こえていた鳥の声もない。 木々の葉がこすれ合う音も、遠くで流れていた川のせせらぎも消えている。 静かすぎた。 俺たちの足音だけが、湿った土の上へ重く落ちる。踏みしめた枯れ葉が砕ける小さな音さえ、誰かに聞かれているような気がした。 ラステルへ続く街道は、夕暮れの中で灰色に沈んでいた。 道の両側には幹の太い木々が並び、複雑に伸びた枝が頭上を覆っている。枝葉の隙間から差し込む夕日は血のように赤く、苔の生えた岩や、古びた道標の上に長い影を落としていた。 その影が、俺たちの進む方角に逆らい、ゆっくりとこちらへ伸びてくる。 足を止めた瞬間、胸の奥が強く脈打った。「龍夜くん……」 すぐ後ろから、ミユウの小さな声が聞こえた。 振り返らなくても分かる。 いつもなら明るく響く声が、わずかに震えていた。 俺は腰の剣へ手をかけた。 冷たい柄を握りしめる。 辺りを覆う静けさの向こうで、何かが息を潜めている。姿は見えない。それでも、こちらを見ている視線だけは、皮膚に突き刺さるようにはっきり感じた。「俺の後ろにいろ」「でも――」「頼む」 声を低くした俺の横顔を、ミユウが見上げている気配がする。 そのとき、道の前方に落ちていた木々の影が、不自然に揺れた。 地面へ貼りついていたはずの黒い影が、ぬるりと持ち上がる。 やがて影は何本もの細い筋となり、一か所へ集まり始めた。黒い霧が渦を巻き、その中心から長い腕が現れる。続いて、黒い衣に包まれた胴体と、頭から伸びた二本の角が形を作っていった。 紫色の目が、闇の中で開く。 そいつが完全な姿を現した瞬間、森の空気が一気に冷え込んだ。 吐き出した息が白くなる。 冷気は服を通り抜け、骨の内側まで染み込んできた。剣を握る指先から感覚が薄れていく。「やっと見つけた」 悪魔が笑った。 口元だけが大きく吊り上がり、紫色の目には何の感情もない。「白い羽を持つ娘。そして、身の程を知らずにその娘を守ろうとする人間」 背後で、白い羽が大きく開く音がした。「龍夜くん、下がって!」 ミユウが俺の横から飛び出そうとする。 俺はすぐに左腕を伸ばし、その身体を止めた。細い肩が腕にぶつかり
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