All Chapters of 異世界転生してもスキルはなかったけど、白い羽をもつ彼女を守るため最強の勇者目指します: Chapter 31 - Chapter 34

34 Chapters

第31話 例えこの胸が止まろうとも

「ミユウ!」 閉じかけた魔界の門へ、俺は手を伸ばした。 赤黒い光の裂け目が、刃のように細くなっていく。その向こうで、ラフィセルがミユウを連れ去ろうとしていた。白い翼を押さえ込まれても、ミユウは振り返り、まっすぐに俺を見ていた。 怯えきった顔ではなかった。 俺が来ると信じている目だった。「龍夜くん!」 声が届いた直後、ラフィセルの姿が闇に溶けた。 門が閉じる。 ミユウの白い指先が見えなくなり、赤黒い光は一本の線となって消えた。俺の手は、何もない空間をつかんだ。「ミユウ!」 返事はない。 鏡の池を渡ってきた冷たい風が、金色の髪を揺らした。さっきまで門があった場所には、黒く焼けたような円形の跡だけが残っている。「ミユウ! 聞こえるか!」 俺は拳で門の跡を叩いた。 固い壁を殴ったような衝撃が腕を走る。それでも構わず、もう一度拳を振り上げた。「ミユウ!」「いつまでそうやって叫んでいるつもりですか」 背後から飛んできたルゥの声が、俺の拳を止めた。 振り返ると、ルゥは腕を組んで立っていた。いつもと変わらない、偉そうな顔だ。けれど、その視線は俺ではなく、閉じた門へ向けられている。「叫べば門が開くのですか。あなたの声が大きいことくらい、もう十分に分かりました」「分かってる。だけど……!」 言いかけた言葉をのみ込む。 このまま名前を呼び続けても、何も変わらない。 ミユウは最後まで俺を見ていた。助けを諦めた顔ではなかった。なら、俺がここで立ち止まる理由はない。 俺は目を閉じ、一度だけ深く息を吸った。 冷たい空気が胸へ入る。速くなっていた鼓動を数え、吐く息と一緒に焦りを押し出した。 今やるべきことは、嘆くことじゃない。 閉じた門を開けることだ。「ルゥ。この門は、もう開かないのか」「通常の方法では無理でしょう。向こう側から閉じられた門です。鍵穴すら残っていません」「通常の方法なら、か」 ルゥがわずかに眉を動かした。 俺は再び門の跡へ向き直り、今度は拳ではなく、開いた手のひらを押し当てた。 氷に触れたような冷たさが皮膚から染み込んでくる。 だが、その奥に別のものがあった。 小さな脈。 閉じた門の向こうで何かが鼓動しているように、かすかな振動が手のひらへ返ってくる。 意識を集中すると、俺の身体の内側にも、それに応える熱が生
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第32話 黒く染まった翼との再会

 靴底が石段を打つたび、乾いた足音が螺旋階段の奥へ吸い込まれていった。 ひび割れた石壁は肩が触れそうなほど近く、壁に掛けられた古いランタンだけが、狭い足元を頼りなく照らしている。炎は風もないのに揺れ、俺の金色の髪と、ねじれながら伸びていく影を何度も闇へ沈めた。 右へ、さらに右へ。 いくら登っても同じ景色が続き、中央の吹き抜けは底のない穴のように口を開けている。錆びた手すりの向こうを覗いても、下層の明かりさえ見えない。踏み外した石片が暗闇へ落ちていったが、いつまで待っても音は返ってこなかった。 胸の奥で、鼓動がひとつ大きく跳ねた。 続くはずの次の鼓動が来ない。 心臓だけが取り残されたような空白のあと、遅れを取り戻そうとする激しい脈動が胸を内側から叩いた。冷たい輪で締めつけられる感覚が強まり、吸い込んだ息が喉の途中で止まる。「っ……まだだ」 俺は胸元を押さえていた手を離した。 痛みがあることはわかっている。体が普段どおりではないことも、無視できるほど鈍くはない。 それでも、止まる理由にはならなかった。 この階段の先にミユウがいる。それなら今の俺に必要なのは、痛みの正体を考えることではなく、一段でも多く登ることだ。 視界を遮る曲がり角へ踏み込んだ瞬間、頭上の闇が膨らんだ。 俺は反射的に右手を伸ばした。「アストラルフレイム!」 金色の光が指先へ集まり、剣の形を結ぶ。 直後、上段から振り下ろされた巨大な爪が刃へ激突した。 耳を刺す金属音とともに、狭い階段の空気が爆ぜる。両腕へ押し潰すような重圧がかかり、足元の石段から何本もの亀裂が伸びた。俺は奥歯を噛みしめ、沈みそうになった腰を支える。 敵は上にいる。 ただでさえ狭い場所で、体重まで乗せた一撃を受け続ければ押し切られる。 俺は刃をわずかに傾け、爪の力を外壁側へ逃がした。黒い爪がアストラルフレイムの表面を滑り、石壁へ深く突き刺さる。 石の破片が頬をかすめた。 敵の腕の下を潜り、二段上へ踏み込む。懐へ入れば巨体の力は使えない。そう判断して剣を振り上げようとしたが、切っ先が低い天井へ触れた。 ほんの一瞬、剣筋が止まる。 その隙を、敵は見逃さなかった。 横から黒い衝撃が叩き込まれた。「ぐっ!」 体が浮き、外壁へ弾き飛ばされる。 俺は激突する直前に左足を壁へ突き立てた。靴底が石を削
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第33話 例え全部嘘でも、俺は信じてる

「うそ…だろ。なんで…お前…そんな」 声が震えた。 広大な玉座の間へ放たれたはずの言葉は、黒い柱と高い天井に何度も反響し、最後には冷たい石の壁へ吸い込まれていった。 返事はない。 正面に立つミユウは、俺が知る白い翼の少女ではなかった。 銀色の髪は変わらない。細い頬も、透き通るような瞳も、何度も俺へ笑いかけてくれた顔も同じだ。 けれど、その背中から広がっている翼だけが、夜よりも深い黒に染まっていた。 一枚一枚の羽根から闇色の魔力がこぼれ落ち、床を這う霧となって彼女の足元へ絡みついている。青白い燭台の炎が黒い翼に遮られ、ミユウの顔には凍りついたような影が差していた。 違う。 姿だけじゃない。 俺を見る目に、あのあたたかさがない。「ミユウ……」 名前を呼び、一歩踏み出した瞬間、胸の奥で冷たい輪が縮んだ。「ぐっ……!」 心臓を内側から握り潰されるような衝撃に、身体が前へ折れる。 俺は胸を押さえた。螺旋階段を駆け上がっていたときから続いている異変が、玉座の間へ入ってから急激に強まっている。 乱れた呼吸が、やけに大きく響いた。 床へ膝が落ちそうになる。 それでも、つま先に力を込めた。 ここまで来たのは、倒れるためじゃない。 あいつを連れて帰るためだ。 俺が顔を上げると、ミユウは黒い翼の向こうから俺を見下ろしていた。澄んだ瞳には、心配も迷いも浮かんでいない。 やがて、薄い唇が冷たく動いた。「無様な姿ね」 聞き慣れた声だった。 だからこそ、その言葉は刃より深く胸へ突き刺さった。 ミユウは具合が悪そうな誰かを見つければ、考えるより先に駆け寄るようなやつだった。苦しむ相手を見下ろして笑うなんて、俺の知るミユウなら絶対にしない。「そんな顔で、そんなこと言うなよ……」 絞り出した声に、ミユウは答えなかった。 黒い翼をゆっくりと畳み、俺へ背を向ける。 そして玉座へ向かって歩き出した。 一歩ごとに鳴る靴音が、冷たい空間を重く打つ。 俺から離れ、あいつへ近づいていく。 玉座の間の最奥には、黒銀の装飾に囲まれた巨大な玉座がそびえていた。その上に腰かけるラフィセルは、頬杖をついたまま俺たちを見下ろしている。 怒りも警戒もない。 俺がここへ来ることも、ミユウが俺の前に立つことも、最初から知っていたような顔だった。 玉座へ続く床には
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第34話 俺の命は、俺が決める

「愚か者!」 冷え切った声が、玉座の間の高い天井へ突き刺さり、幾重にも反響して降ってきた。 ミユウの指が、俺の首へ容赦なく食い込んでいる。細い腕からは想像もできない力で持ち上げられ、爪先は黒い石床を離れていた。喉を塞がれた肺が空気を求めても、唇から漏れるのは掠れた吐息だけだった。 目の前には、見慣れた銀色の髪がある。 けれど、その背から広がる翼は白くない。艶のない漆黒の羽根が重なり合い、俺たちの頭上を覆っていた。わずかに翼が揺れるたび、羽根の隙間から黒い魔力が粉雪のように舞い落ち、床へ触れる前に闇へ溶けていく。 明かりを遮られた俺とミユウの影は、足元でひとつに重なっていた。向かい合う二人の影には見えない。巨大な黒い翼を持つ怪物が、人間を呑み込もうとしているようにしか見えなかった。 遥か後方では、白骨を思わせる長い階段が闇の中を延び、その頂に据えられた玉座へラフィセルが腰かけている。 床が割れようと、柱が揺れようと、すぐには届かないほど遠く、高い場所だ。 ラフィセルは頬杖をつき、薄い笑みを浮かべて俺たちを見下ろしていた。ようやく獲物が罠の中心へ踏み込んだことを確かめるような、静かで冷たい眼差しだった。「あんなちっぽけで無力なわたしはもういないわ」 ミユウが吐き捨てる。 堕天の力によって成長した姿は十六歳ほどに見えた。すらりと伸びた手足も、大人びた輪郭も、俺の知る姿とは違う。だが、何より遠く感じたのは、真っ直ぐ俺を見つめる瞳だった。 かつてそこに宿っていた柔らかな光はなく、凍りついた夜の湖のような冷たさだけがある。 首を締め上げる指へ、さらに力が込められた。 耳の奥で鼓動が鳴る。息を吸えない苦しさに重なり、胸の中心を冷たい刃で抉られるような痛みが走った。視界の端が黒く欠け、玉座の間の景色が遠ざかっていく。 それでも、俺はミユウの目を見続けた。「自分のことをそんなに否定するな」 喉を絞られた声は、ひどく掠れていた。「小さかったからって、お前が無力だったわけじゃない。お前は誰かが困っていたら、自分の危険も考えずに飛び出してただろ」 俺の声が石壁にぶつかり、弱々しく戻ってくる。 ミユウは答えなかった。 その表情にも変化はない。ただ、俺の首へ触れている指先がわずかに震えたように見えた。そう見えただけかもしれない。確かめようと目を凝らすよ
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