「すみません。今の言い方は、よくなかった」 謝られて、逆に言葉が止まった。 「怖がらせたいわけじゃない。ただ、九条の名が出た以上、無関係だと決めて閉じるのは危険です」 私は答えを探すように、机の上の法人関係図へ目を落とした。 「閉じたいんです」 言ってから、自分がどれほどそれを望んでいたのか分かった。 机の上の法人関係図。透明袋に入ったメモ。封筒の古い写真。赤ん坊の識別バンド。 法人関係図の上に、窓からの光が斜めに落ちていた。 どれも私を見ているようだった。 「知らない家の名前まで背負いたくありません。偽令嬢だって言われて、代役で嫁げって言われて、今度は九条ですか。私は、誰かの名前がないと説明できないんですか」 最後のほうは、声が掠れた。 そこまで言うつもりはなかった。 けれど、一度こぼれると止められなかった。 律は黙ったまま、私の言葉が尽きるのを待っていた。その間が長くても、責められている感じはしなかった。 高瀬さんが、机の上の紙を一枚だけ裏返す。こちらから法人名が見えないようにしたのだと、遅れて気づいた。 「君は、九条の人間だからここにいるわけじゃない」 律が言った。 「ただ、誰かが君を九条に近づけないようにしている。そこは、見ないふりをしない方がいい」 「九条の前に立たせるな、って……そういう意味ですか」 「おそらく」 「九条家に会う予定なんてありません。今のところは」 「相手が予定を待つとは限らない」 「分かっています。でも、勝手に先回りされると腹が立ちます」 「それは同感です」 律が真顔で返したので、私は言葉に詰まった。 張っていた肩の力が抜ける。 「……本気で答えるんですね」 「冗談だったんですか」 「半分くらいは」 律は返事をせず、法人関係図へ目を戻した。 それ以上続ける気はないらしい。 悔しかったが、言い返せたことに自分でも驚いた。 ほんの短い間だけ、九条の名を考えずに済んだ。 「……つまり、私はもう巻き込まれてる。そういうことですか」 「巻き込まれている可能性がある、です」 高瀬さんが横から補った。 「今大事なのは、九条家と戦うことじゃありません。あなたが知らないうちに誰かの思惑で動かされないようにすることです。調べる範囲も、止める範囲も、
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