結婚して3年、神崎蒼真(かんざき そうま)が柊結衣(ひいらぎ ゆい)と夜の営みをする際、必ず三つの条件を出してきた。一つ目は、必ず大きな声を出すこと。二つ目は、彼の名前を何度も呼ぶこと。三つ目は、最後に愛していると言うこと。今夜も結衣は何度も繰り返し叫んでいた。「蒼真、愛してる……」その瞬間、蒼真は彼女の耳元で別の名前を呼んだ。「美雪……俺も愛してる」結衣の体は一瞬にしてこわばり、口元に自嘲の笑みが漏れた。……とっくに慣れているはずなのに、心臓は鈍い刃物でえぐられるように痛んだ。蒼真は結衣に見向きもせず、まっすぐバスルームへと向かった。シャワーの音が響き出すと、結衣は体を丸め、体温が少しずつ失われていくのを感じた。3年前、彼女がまだ柊家のお嬢様だった頃、密かに蒼真に想いを寄せていた。当時の彼は上流社会でひときわ目を引く御曹司であり、一挙手一投足に生まれ持った気品が溢れていた。一方の彼女は、彼を遠巻きに眺める大勢の女たちの一人に過ぎなかった。その後、柊家は破産し、両親はビルから飛び降りて命を絶ち、借金取りが押し寄せてきた。彼女が窮地に立たされた時、蒼真が現れた。彼はまとまった金を提供する代わりに、3年間彼の妻になることを条件として提示した。当時の結衣は、これを運命の神様からの贈り物だと思った。借金を返済でき、長年片思いしていた人に近づけるのだから。しかし結婚式の日、蒼真から真実を打ち明けられ、なぜ彼が急いで結婚したのかの理由を知った。彼には柚木美雪(ゆずき みゆき)という幼馴染がいた。しかし彼が告白する前に彼女はそそくさと他の男と結婚してしまい、彼はその感情を心の奥底に隠すしかなかった。その後、美雪が離婚すると、蒼真は真っ先に告白しに行った。だが、美雪はそれを拒絶した。彼女は自分が3年間結婚していた身であり、誰もが羨むような彼には釣り合わないと考えたからだ。だからこそ、彼もやむを得ず誰かと3年間の結婚生活を送ることにした。そうすれば、彼女と同じスタートラインに立てる。そして、彼女にアタックする資格を得られるからだ。真実を知った結衣が、悲しくなかったと言えば嘘になる。それでも彼女は献身的に彼の妻を務めた。ただ、彼が長年好きだった人だからという理由だけで。
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