Alle Kapitel von 偽悪役令息は偏食魔王に溺愛される: Kapitel 11 – Kapitel 20

36 Kapitel

第二章 第四話*1

「……またこれか」  エリオットが書斎に出入りするようになって二週間と少し。何度か魔王に書物を読み解いてもらったおかげで随分と魔物の書物を理解することができるようになり、そこで得た知識を活用し、早速様々な料理に挑戦していた。 今宵のメニューは満月の夜に収穫した野菜に月光草という花、干したカエルなどをふんだんに使ったスープは、魔物の疲労回復に良いとされていると本で見つけた料理の一つだ。見た目はおどろおどろしいが、ゼフによればかなり効き目は強いものだとも言う。 「今夜のは苦みがまろやかになるようにヤギの乳のチーズを入れてみました」  スープを前に顔をしかめている魔王にエリオットがそう説明をすると、魔王はうんざりといった様子でスプーンを手に取り掬い上げる。一応はひと|匙《さじ》掬ったそれを口元に運んで飲み込んではくれるものの、やはり表情は渋いままだ。 「……ゼフ、赤身肉のステーキを用意しろ」「は、はい、ただいま」  魔王に命じられゼフは慌てて厨房へ向かうなか、エリオットはひと口しか味わってもらえなかった自作のスープを前に居た堪れない思いで見つめる。 書物で魔物や魔力についての知識を得始めたことにより、どのような手段で魔力が回復しやすいかを知ることが出来ている。その中でもエリオットは割と得意である料理による対処法を試しているのだが、なかなか上手くいっているように思えない。 魔王は憮然としたまま赤ワインを何杯も喉に流し込み、まるでうがいをして口の中を整えているかのようだ。その様はエリオットの料理に対する評価にも感じられ、ますます居た堪れない思いにさいなまれていく。 「おい、人間。何度も言うがな、俺の魔力はああいった対処療法的なもので易々と回復するようなものではないとは思わぬのか? 曲がりなりにも魔王の魔力だぞ? そんな低級魔物の対処法でどうにかなるとでも?」「……申し訳ございません」  確かに魔王の言う
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-07-10
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第二章 第四話*2

 城の中の漂う、影のような鬱蒼とした重たい空気は、瘴気というらしい。書物とゼフの教えから学んだエリオットは、その瘴気の取り祓い方をまた書物で読み漁る。 「一番いいのは聖水らしいけれど、それは効き目が強すぎるから魔王様が弱ってしまうかもしれないのか……じゃあ、それに次いで効き目があるのは……」  瘴気は淀んだ空気の一種とされているため、手早く祓う手段としては新鮮な空気にさらすことだという。要は城内の換気を行うことが手っ取り早いのではないかと考えられる。 その第一弾として、エリオットは頼まれた魔王の部屋の掃除に取り掛かることにした。 「窓は開けたし、あとは……そうだな、あのまじないをやってみようかな」  瘴気を祓うためには強い魔力で抑えこむのが最も効果的と所に記されていたが、そうできない場合でも一応の対処法があるということを、つい先日エリオットは別の書物で見つけた。それが、月明かりに晒した白い小石を部屋の四隅においてある種の結界を張るというものだ。 「私に魔力がないから、どれくらいこれに効き目があるのかわからないけど……でも、しないよりはいい気がする」  そう言いながら、エリオットは魔王の部屋を掃き清めて空気を入れ替えた仕上げに、白い小石を部屋の隅に置いていく。少しでも瘴気が減り、魔王の魔力が回復しますように、そう祈りながら。 実を言うと、このまじないは魔王の部屋だけでなく、城のあちこちに施してもいる。廊下や食堂、厨房に至る思いつく限りの場所に、エリオットは白い小石を置いて回っていた。そうして今回最後に魔王の俺室にまじないを施すことになり、一応城全体に瘴気を祓うまじないをかけられたと言える。 最後の小石を魔王の部屋の一番奥の隅に置いたその時、魔王が部屋に現れた。魔王は一歩部屋に踏み込むと、何かを感じたのか片眉を上げるような顔をして辺りを見渡している。 「……お前、何かまじないをしたか?」 
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-07-11
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第二章 第五話*1

 魔王の魔力が、竜化が可能なほど高まりつつあることはわかった。だが、まだ自在に操ることは難しいらしく、感情の昂りのままに力が振り回されてしまうようだ。そのせいで魔王の俺室は壊滅的な惨状となってしまい、エリオットはゼフと共に数日かけて片付けに追われた。 「なんとか魔王様がお休みになれるくらいには整って来たかな」「そうですねぇ。本当に竜化するならするで制御できるようになって下さらないと……これじゃあおいら達がどんなに頑張って片付けてもキリがないですよ」「まあ、それはそうだけど」「魔王様がもう少し魔力回復されたなら、回復の魔術を使って頂きましょう。あれならきっとあっという間に元に戻りますから」「回復の魔術?」「ええ、壊れたものでも傷ついたものでもなんでも直すことができる魔術です。おいらくらいだとちょっとした修理くらいしかできませんけど、全盛期の魔王様なら瀕死の生き物を蘇らせることもできたんですよ」「へぇ、すごい……」「でもいまは無理でしょうねぇ。何せ竜化するだけでこの有様ですもの」  そう、うんざりした様子でゼフはため息をつき、山のようにまとめられたゴミを浮遊術で外へ運び出していく。 ゴミを処分しにゼフが出て行ったのと入れ替わるようにして、しばらくすると魔王が部屋に現れた。エリオットはちょうど部屋にまたまじないを施し直したところで、その様子をじっと見つめてくる。 「お体はもう大丈夫なんですか?」「お前なんぞに心配されずとも、俺は魔王だ。大事などない」  素っ気ない素振りはするものの、魔王は不機嫌そうな顔をしていない。寧ろ興味深そうにエリオットの様子を窺っていて、心なしかいつもより距離が近い気がする。何かまだエリオットに用があると言うのだろうか。 「魔王様? どうかされましたか?」「どうもしない。ここは俺の部屋だ。どう過ごそうと勝手だろう」「あ、そうですね。じゃあ、私はこれで失礼しますね」
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-07-12
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第二章 第五話*2

 玄関ホールに通用門、回廊を通り抜けつつ確認をし、三階建ての各階の部屋ひとつひとつを見て回る。 「おい、ここの小石は黒ずんでおるぞ」「では、交換しなくては。きっと瘴気を祓ってくれたんでしょうね」  城に来てから得たまじないの知識によれば、白い小石が黒ずむと言うことはそれだけ魔を祓ってくれたということらしい。 エリオットは黒くなった小石を拾って小さな袋に仕舞い、新たな小石を取り出す。 「石はまだあるのか?」「はい、ゼフが満月の時にたくさん拾ってくれたので。でも、お城は広いので足りるかな……」  そう、エリオットが微笑みつつ手のひらに石を広げて答えると、魔王はその内の一つをひょいと摘まむ。そうしてふっと息を吹きかけると、小石は小さく震えて二つに分裂したのだ。分裂して増えたそれらを、魔王がそっとエリオットに手渡してくる。 「石が、二つに……?」「これくらい、造作のないこと。それに俺の魔力がかかっておる小石なら、お前の些末なまじないに魔力を加えてまじないを強化できるからな」「そうなんですか? まじないは、私みたいに魔力がなくてもいいと仰ってましたよね」「それはあくまでまじないという部類においての効力の話だ。祓う力もゼロではない。ただ、先達て俺が竜化して打ち払ってしまったからな。その勢いでまじないとしての効力まで消し飛んだ可能性がある。魔力そのものはまじないよりもうんと強力だからな」  そう言いながら、魔王は広間の隅に白い小石を置いていく。心なしかエリオットがまじないを施した時よりも石が輝いて見える。きっと魔王の魔力が施されて力を帯びているのだろう。 「すごい、石が光って見える。魔王様の魔力はかなり回復されているのですね!」  ついはしゃいだ声でそう顔をあげた時、すぐ間近に魔王の顔があった。吐息を感じるほどの至近距離に、二人は弾かれたように飛びの
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-07-13
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第二章 第五話*3

「おい人間。何か摘まむものを寄越せ」  午後になり夕食の支度をしようかという時分になると、決まって魔王は厨房に顔を出し、そうせびる。 だから、魔王が現れればゼフが果物やら菓子やらを用意するのだが、「そうではない」と機嫌を損ねてしまう。 困り果てたゼフがエリオットの方に泣きつくような顔を向けるので、エリオットは仕方なく必ずこう尋ねる。 「ですが魔王様、いま生憎私が作ったクッキーしかありませんけれど……」「構わん。寄越せ」  そう言われてしまうと、エリオットとゼフが摘まんでいたクッキーを差し出すしかない。作った中でもとりわけ形が良い物や自信がある物などを選び、皿に並べてハーブティーも魔王の分を用意する。 「どうぞ、魔王様、お口に合うと良いですけれど」「うむ……悪くないな」  美味しいとは消して言わないが、魔王のクッキーを摘まむ手は止まらない。あっという間に一皿分平らげてしまうと、「もうないのか」と催促をしてくる。その様は不満げというよりも、持っとくれとせがんでくる幼子のように目をキラキラさせた顔なのだ。 「魔王様、もっとお召し上がりになりますか? 今日も多めにご用意してますよ」  だからこの所は魔王のおかわり用も考慮して、クッキーを多めに焼くようにしている。しかもその形はどれも愛らしいハート型や星形をしている。その形の一つ一つにも魔王は惹かれるらしく、食べる際に嬉しそうに眺めている。 食べきってしまった魔王にエリオットがそう申し出ると、魔王はパァッと一瞬だが顔を輝かせるのだ。その表情を目撃してしまってからというもの、エリオットはクッキーを用意するのが楽しくて仕方ない。 「そ、そうか……ならば食ってやらんでもないぞ」「どうぞどうぞ! たくさん召上ってください!」  エリオットが嬉しそうにクッキーを盛り
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-07-14
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第二章 第六話

 エリオットの一日は明け方前に始まる。 まずは魔王のために朝食を用意し、それから掃除を兼ねてまじないの見回りを行う。場内は広大で広く、庭の方も見て回らなくてはならないため、ざっと見て回るだけでも半日がかりだ。 その間に昼食を作り、午後のお茶の用意もする。もちろんゼフの手伝いも借りるが、食事関係はエリオットが中心になっているのでとても忙しい。 「はあ……やっと全部見て回れた」  魔王の私室の扉を閉め、まじないの小石がちゃんと置かれて白いままであることを確認したエリオットは、安堵と疲労のため息をつく。 最近は魔王がまじない用の小石に魔力をかけてくれるので、黒ずむことが減ってきている。つまりそれは瘴気が随分と減ってきている証拠だろう。 「魔王様も随分調子が良さそうだし……この分ならあと半年もすればヴェルクレイン国は安定するかもしれないな」  エリオットは国戻って様子を見に行くことは叶わないかもしれないが、魔王の様子を見ていれば国の安寧もある程度はわかるので、さして憂いてはいなかった。 「掃除が終わったのか?」「ああ、魔王様。はい、いましがた終わりました」  掃除の間部屋を出ていてくれた魔王が戻ってきて、エリオットがそう答えると、魔王は満足げにうなずいて中へ入っていく。 何か見逃しや掃除が行き届いていない箇所がないか、エリオットも部屋の入り口で窺っていると、「おい、来てみろ」と魔王が手招きしてくる。 やはり何か見落としていただろうかと掃除道具を手に慌てて駆けつけてみたが、見たところ汚れているわけでもまじないの意思が黒ずんでいる様子もない。 「どうかされましたか、魔王様」  お茶の時間だというのであれば、また別で用意するのだが……と思いながら尋ねると、魔王が一輪の花――それも月光草を差し出してくる。心なしかそれは、いつも見るものよりも花弁の色が濃
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-07-15
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第二章 第七話*1

「さあ、魔王様。パンが焼きあがりましたよ。スープもいまお持ちしますね」  エリオットが魔王のもとに嫁いでそろそろ二カ月が経とうかというこの頃、随分と魔王の食事作りも板について来ている。 食事作りはゼフと二人係りで行っているのだが、魔王は最近食堂で待っているだけでは飽き足らないのか、厨房に顔を覗かせることも増えてきた。 「今日のスープはいつものと少し違うようだが?」「はい。今夜のスープは干したコウモリから取った物です。あと、魔力回復にいいと聞いたハーブもたくさん使ってみました」「……その割には、いつもより臭わんな」「たぶん、ハーブの香りがコウモリのクセを打ち消しているのかと思われます」  料理の説明をしながら、共に食卓を整えることも習慣になってきており、エリオットにとってそのひと時がちょっとした楽しみになりつつある。 魔力回復に効果がある料理は、材料の兼ね合いもあってクセが強いものが多い。そのため調理中も調理されてからもクセの強いものが少なくなく、当初魔王はそれに対して大いに苦言を呈しするだけでなく、強い拒絶の態度をとってきていた。エリオットが悔し涙を飲んだことも数知れない。 「ほう、そうか。ならば食してやらんでもないな」「ぜひ、お召し上がりください」「しかし魔力回復食とやらはどうも好かんな……ひと口でも口に含んだらいつまでも苦みが残る」  相変わらずすんなりと食す感じではないし、文句も多いが、皿を下げろと命じるようなことはなくなった。それでも魔王の顔色が良くなってきていることも、目に覇気を感じられるようになり、エリオットは一定の成果を感じ始めてもいる。 これならヴェルクレイン国も少しは盛り返しているのではないだろうか……そんな淡い期待もこの頃では抱いてもいた。 「それでしたら、こちらの裏ごししたイモにミルクとチーズを混ぜたサラダをお召し上がりください。苦みがまろやかになりますよ」
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-07-16
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第二章 第七話*2

「おい、お前いま暇だろう。ちょっと付き合え」  厨房での夕食の片づけを終えて自室に戻ろうとした時、廊下に魔王が立っていて声をかけられた。 何故こんなところでエリオットを待っていたというのだろうか。エリオットが不思議に思いつつも、「ええ、まあ……」と肯くや否や、魔王はエリオットも手を引きずんずんと歩き始める。向かう先はエリオットの自室のある塔の方だが、エリオットの部屋はあっさりと素通りしてしまう。 そうして辿り着いたのは――当の最上階の小さなバルコニーだった。 「わあ、高い! 空が近い!」  塔に部屋を割り振られてはいるものの、自室以外に塔の中を出入りたことはないエリオットは、初めて目にする最上階からの眺めに感嘆の声を上げた。 見上げた空には星が冴え冴えときらめき、山の端からは半月がゆっくりと昇り始めているのが見える。銀色の月は美しく、山の夜気の冷たさも忘れて見つめていた。 「きれい……星ってこんなにきれいなんですね。屋敷にいた頃は夜にはあまり外を見たことがなかったので、嬉しいです」「……お前、キラキラしたものが好きなのか?」「え? まあ、きらめいているものは美しいとは思いますが……」  エリオットがそうきょとんとしながら答えると、魔王は「そうか」と言い、その瞬間ふわりと体を浮かせて煙幕に包まれた。 一体何が、とエリオットが問うよりも先に現れたのは、いつぞやに見た巨体な黒竜。しかもいま目の前にしているそれは、かつて目にした時よりもはるかに堂々とした雰囲気をまとい、金色の目に明らかな覇気がみなぎっている。 だが魔王が竜化するのは感情が昂った時だけではなかっただろうか。そして、それは制御がまた上手くいかなかったはずでは――そうエリオットが思案していると、魔王が答える。 『また暴れ出すんじゃないかと思うておるのだろう?』「え、いや、その……」  胸中を見
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-07-17
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*第三章 二人の間に差す影 第一話*1

 エリオットの魔力回復食のお陰で基礎的な魔力が回復したらしい魔王に、エリオットは更なる提案をしてみた。 「城の周りを散策する? 何のために」「魔王様はもう随分と魔力が戻られたようなので、もっと鍛えるようにしてはいかがかなと思いまして」「それと散策が何の関係がある」「えーっと……こちらの書物によれば、『基礎魔力の増強には更なる魔力の補強が欠かせない。例えばそれは微弱な瘴気を取り込むことでも可能である』……とのことなので、試しにお城の周りに漂っている瘴気を扱ってみてはいかがでしょうか」  魔王の魔力回復のために、魔物の書物を読み解き始めて数ヶ月。随分と様々な文献を読み解くまでになってきたエリオットは、先日見つけた魔力回復の書物を手に魔王に提案をしてみたのだ。 それによれば、基礎魔力の土台作りは魔力増強が期待される食事を取ることで、更なる増強は魔力そのものを取り込むのが手っ取り早いというのだ。 しかし魔王はどこか乗り気ではなさげで、エリオットの提案に肯こうとはしない。 「魔王様は魔力の取り込み方をご存知ですよね? 魔の物は生まれながらにそれは可能だって、別の書物にもありましたよ」「あー……まあ、確かにそうではあるんだが……」「じゃあ、いいじゃないですか! 朝食の前と、午後のお茶の前に散策しましょうよ」「一日二回もするのか?」「ええ、その方がきっと早く魔力が増強されますよ」  ね? と、エリオットが魔王の顔を覗き込むように念を押すと、魔王は渋い顔をして黙り込んでしまう。 たかだか城の周辺を歩き回るだけでなぜそんなに渋るのだろうか。基礎体力が備わっているいまの魔王であれば、瘴気にあてられて倒れるようなこともないと思われるのに。 「魔王様、散策はそんなにお嫌ですか? 私も一緒に参りますので、退屈はしませんよ」「なに? お前も来るのか?」「ええ。だって魔王様は一人だと退屈でつまら
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-07-18
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第三章 第一話*2

 魔王は高い山の上にあるのだが、その周囲は城壁のように高い壁に囲まれている。更にその周辺には深い森が広がり、人はおろか他の生き物でさえも容易く近寄れる環境ではない。 だからなのか、城の城門を出て脇道に入ると、すぐに|藪《やぶ》に行き当たる。藪は複雑に枝葉を伸ばした樹々が生い茂り、まだ昼間であるのにその下に日はほとんど射していない。そのせいか周辺の空気は城内よりも幾分ひんやりしている気がした。 「日が射してないからか、なんだかひんやりしますね」「それもあるだろうが……ほれ、見てみろ」  そう魔王に足元を指されて目をやると、エリオットと魔王の脚の間を何やら白濁の|靄《もや》のようなものが漂っている。靄よりも少し輪郭がはっきりしているそれは、まるで意思を持っているかのように、エリオットの脚に絡みついてくる。 「え、な、なに!?」「じっとしておれ、エリオット」  靄に絡まれ戸惑うエリオットに、魔王は動くなと言ったかと思うと、さぁっと手を靄の上をなぞるように払う。 するとどうだろう。靄はまるで魔王の手に吸い込まれるように消えてしまったのだ。 まるで奇術でも見せられたかのような事態にエリオットがポカンと呆けていると、魔王は更にまた新たに絡まってきた靄にも手をかざし、吸いこんでしまった。 「ま、魔王様……いま、何をされたんですか?」「瘴気を取り込んだ。お前が先程申していたであろう、魔力増強には瘴気を取り込むのが一番だと」「ええ、そうですけど……いまのがそうなんですか?」「ああ。瘴気は人間が長く充てられると病を得たり正気を失くしたりすると言われておる。さっさと処分するに限る」「そうなんですね……。ありがとうございます、助かりました」「……べつに、造作ないことだ」  エリオットがホッと安堵しながら礼を言うと、魔王はふいっと顔を背け、またエリオットの手を引いて歩きだす。一瞬、
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-07-19
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