Alle Kapitel von 偽悪役令息は偏食魔王に溺愛される: Kapitel 21 – Kapitel 30

36 Kapitel

第三章 第二話*1

 結局、母国への手紙の件は、城に帰ってからの夕食の支度の忙しさを理由にうやむやになっていた。 しかしそれでもエリオットの中にヴェルクレイン国の現状に対する憂いは消えず、不安と心配が募っていく。 母親殺しと呼ばれ続け疎まれてきた自分に課せられたただ一つの王命を、もう嫁いで半年も経とうかというのに未だに果たせていないなんて思いもしなかった。自分では懸命にやれることはやっているつもりではあったが、それはやはりただの「つもり」でしかないということなのだろうか。 そんなことを悶々と考えつつ、今日もエリオットは書斎で書物を手に取る。ヴェルクレイン国の情勢が安定していないというのであれば、より魔王の魔力を強化する必要があるのではないだろうか。そのためには何か他に効果の高い方法があるのではないか、そう、考えているからだ。 「魔力の最大化……うーん……やっぱり、魔王様とあの儀式を行うことが一番みたいだな……」  どの書物を読んでも、最終的に導き出されるのはあの儀式――魔王と睦み合う、性交をして相手が子を成すことで魔力が最大化するというものだった。 子を成すということは、やはり生贄嫁が必要であるのだろうが……エリオットは生憎男性である。子を成せる機能が体にあるとは思えない。 「でもそれは、魔王様が最初にあった時に問題ないみたいに仰っていた気がする……それこそ儀式でどうにかするのかな……」  儀式の詳細は、ゼフに尋ねてもわからないと言われているし、そもそも書物に儀式のこと自体書かれていないのだ。魔力については魔王であってもその他の魔物であっても大差がないのか、書物から得た知識でどうにか対処出来てはきた。だが儀式については魔王だけが知る秘事なのか、まるでそれだけが抜け落ちたように見当たらないのだ。 「となれば後は魔王様本人に聞くしかないけれど……教えて下さるかな……」  初日にあんな騒動になったせいか、なんとなく魔王に儀式について聞いていいものかためらってしまう。いやなこと
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-07-20
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第三章 第二話*2

「やあ、エリオット。元気にしていたかな?」  前回予告なしに訪問したことを咎められたからだろうか、モルは数日後ちゃんと先触れの便りを寄越した上で城を訪ねてきた。 エリオットはダイニングで書斎から持参した本を読んでいる最中で、そこに出迎えたらしいゼフも傍についてきたのだが、なんだか複雑そうな顔をして去って行った。 「こんにちは、モル様。今日はどうされたんですか?」  魔王なら書斎にいると思うが、とエリオットが告げつつ案内しようとすると、「ああ、いいんだエリオット」と制してくる。 魔王の友人とも言える彼なのに、魔王に用事はないというような素振りをするのが不思議でエリオットがきょとんとしていると、モルは目の前に手のひらかを広げた。 するとそこには小さな花かごが現われ、咲きほころぶ花々と、その下には小さな焼き菓子が詰められているのが見える。思わずエリオットが小さく歓声を上げると、モルはそれを差し出してきた。 「お気に召したようなら差し上げよう」「え、でも……よろしいんですか?」「なに、先日の無礼の詫びだと思って受け取っておくれ」  苦笑交じりにそう告げてくるモルにエリオットは微笑んでうなずき、早速受け取った花かごをじっと見入る。こんなに華やかな贈り物など、初めてかもしれない。 「ありがとうございます。こんな素敵な贈り物、初めて頂きました」「おや、そうなのかい? なんだアズは贈り物の一つも君にしてないのか。全く無粋なやつだな」  呆れたようにため息をつきつつエリオットの向かいのソファーに座るモルは、相変わらず品の良い装いをしている。 魔王だって装いに品がないわけではないが、いかんせん黒ずくめが基本であるせいか、代わり映えがない姿に思えてしまうのだ。そういったところも、モルにしてみれば無粋だというのかもしれないが。 「魔王様ならばい
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-07-21
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第三章 第三話*1

 屋敷にいる頃であっても、誰ひとりとして母親殺しと呼ばれているエリオットのことを可哀想にと称したことはなかった。 幼い時分であれば、憐れまれないことをさらに自分で哀れんだりして気持ちをなだめてはいた。だがもういまは十九になるのだから、自分の置かれた場所を理解できないわけではない。 それでも、先日モルに「可哀想に……」と言われたことがいつまでも頭から離れない。ただそれは優しくされた名残を味わうものではなく、見下された同情から覚えるモヤモヤした感情とも言えた。 「……はぁ」「どうしたエリオット。食欲がないのか?」  モルにあんなことを言われて数日。あれからあの言葉とモルから向けられた眼差しが頭から離れないエリオットは、ため息と上の空が増えていた。 魔王から窺うように声をかけられて我に返り、エリオットは慌てて止めていた手を動かす。 「い、いえ。なんでもありません。それより、今宵のスープはいかがですか?」「うむ……先日のよりも味が良くなっておるようだな。パンもなかなかだ」  そう言いながら魔王がひと掬いスープを口に運ぶ様子を見つめながら、エリオットはホッと息をつく。ようやくこの頃、落ち着いて魔王とそろって食事を取れるようになってきたのだ。いままでは気に入らなければ顔をしかめられる、突き返される、苦言を呈されることばかりだったのでこれはかなりの進歩と言える。 なにより、わかりにくくはあるが誉め言葉ともとれるような言葉も添えてくれるようになってきたのも、エリオットには嬉しい出来事と言えた。 しかし同時に先日のモルの言葉――魔王の子を孕めば殺されるという言葉が過ぎり、どうしても手が停まりがちになる。 ヴェルクレイン国の情勢を思えば、いずれ早いうちに魔王と儀式を行う、つまり交わらなければならないだろう。だがそれがエリオットには文字通り命がけの行為とも言えることを考えると、自ら話を切り出してよいものか迷いが生じてしまう。 「魔王様、この所のお身体
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-07-22
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第三章 第三話*2

「お気をつけて行ってらっしゃいませ、魔王様、エリオットさま」  ゼフに見送りの言葉にエリオットが微笑み、魔王が素早く姿を変える。 翌日の夕暮れ時、エリオットは竜化した魔王の背に乗りヴェルクレイン国の上空を旋回してくることになった。昼間でなく夕暮れ時になったのは、竜の姿を見てヴェルクレイン国の人々が騒ぎ立てることがないようにするためだ。不安定な情勢の国の上空に竜が現れたとなれば凶兆の前触れか、もしくは吉兆だとか、何にしても過剰に扱われてしまいかねないからというのもある。 支度を整えていざ出発となったその時、「おや、お出かけかな?」と、親しげな様子の声が聞こえる。振り返るとそこにはにこやかに微笑むモルが手を振って立っていた。 『見ればわかるであろう。何用だ』  モルの登場に魔王の声が明らかに不機嫌に曇る。竜化した姿で睨み付けられれば怖気づきそうなものだが、そこは魔物同士であることに加えて付き合いが長いからか、意に介している様子はない。 「そんな怖い顔をしないでおくれよ、アズ。一体どこに行くんだい?」『どこでだって貴様には関係なかろう』  苛立ちを隠さない魔王の口調を引き金に不穏さが生じやしないかと気を揉んだエリオットは、二人の間に割って入るように声を上げた。 「そ、そうだ! モル様もご一緒にいかがですか? 私の母国の様子を見に行こうと思っていたところなんです」「ほう、それは面白そうじゃないか。是非ともご一緒させてもらいたいな」  エリオットの提案にモルが乗り気であることは明らかで、魔王には分が悪く思えたのか、ムスッと仏頂面になってしまう。 『勝手にしろ。だがモルは自分で足はどうにかするんだぞ』  魔王が背に載せないと暗に言っても、モルは特に腹を立てることもなく、「承知しているよ」と言うに留める。 そうしてくるりとそ
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-07-23
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第三章 第四話

「エリオット、いまいいか?」  魔王の背に乗ってヴェルクレイン国の様子を見に行った夜遅く、魔王が珍しくエリオットの部屋を訪ねてきた。もうそろそろ明かりを消して休もうとしていたエリオットは、魔王の珍しい来訪に目を丸くする。 「ええ、大丈夫ですが……いかがされましたか?」  寝台に腰かけて書斎から持ち出した本を読んでいたエリオットは、それを枕元の台に置き、魔王に向き直る。 魔王もまたエリオットの隣に腰を下ろし、なにやら少し神妙な面持ちをしている。 「お前、先程モルと何を話しておったのだ? 企みはないことはわかっておるが、何か良からぬことを吹き込まれてはおらぬか? お前のことだ、何か口の上手いあいつに騙されてはおらぬか?」  先程はモルの手前気丈に振る舞っていたのか、本心を言えば魔王とは言え不安がないわけではないのだろう。 しかしそれを正直に口にできるのであれば、いまこんな神妙な顔をしてエリオットを夜更けに尋ねてくることなどないだろう。出かけた帰りでも夕食時でもなく、いまになってそんなことを尋ねてくる辺り、いかに魔王が先程の件を気にかけて悩んでいたかが窺える。 エリオットとしては、先程のモルとの話は企みがないと答えた時点でまっさらになっているつもりだ。やましいことなどなく、魔王だけを信じているのだから。 とは言え、全く何もないといったところで魔王が信じてくれるとは思えない。そうであれば、いまの時分になって尋ねてくることなどないだろう。 だからエリオットは小さく苦笑し、「騙されてなどおりませんよ」と答える。 「ただ少し、魔王様は愛想がないから大変だろうとだけは仰っていました。贈り物もしたことがないのか、って」  先程の会話とは多少違うが、モルから言われたことには間違いがない。愛想がないという話であれば毎度されている話題でもある。 その件に関しては魔王も否定できないのか、渋い顔をして「あ
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-07-24
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第三章 第五話*1

 上空で見る限り、ヴェルクレイン国の様子は前回目にした時とそう大きく変わっているように見えなかった。 見たところ内乱が起きているわけでも、他国に侵攻されているわけではないようではあったが、空から見て国の人々が飢えていないかどうかまではわからない。 (やはり儀式は早めに行うようにした方がいいんだろうな。でも、どうやって切り出そう……)  モルの言葉がまったく気になっていないかと言えば嘘になるが、先日魔王との間に信頼関係を再認識したエリオットにとって、それは頭を悩ませるほどの大きなものではなくなっていた。早ければ今日か明日か、近々魔王に儀式について提案しようとは考えられるほどに気持ちは落ち着いている。 「エリオット、国の様子をどう思った?」  魔王と共にヴェルクレイン国の様子を見に行ってから数日後の午後、ダイニングでお茶を飲みながら魔王が尋ねてくる。午前中いっぱいかけて用意した焼き菓子が気に入ったのか、随分と機嫌がいい様子だ。 この様子なら、儀式のことを切り出しても頭ごなしに拒まれることはないかもしれない。そうエリオットは踏んだ。 「はい、上空から見た感じでは私がいた頃と大きく変わらない気がしました。ただそれが、国の情勢がいいことを示しているとは限りません。それに……」  そう答えながらエリオットが胸ポケット方取り出したのは、先月母国から寄越された窮状を訴える手紙だ。ただ儀式を行いましょうというよりも、国の現状から必要性を訴える方が断られにくいのではないかと思ったからだ。 「国から、まだ情勢が安定しなくて困窮しているという旨の手紙が届きまして……魔王様がよろしければ、その……近々儀式を行ってもらえればと思い……」「ふむ……」 
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-07-25
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第三章 第五話*2

「ああ、いよいよなんだな……」  生贄嫁としての役割を全うする時がそこまで迫っている。その日を迎えるまでに積み重ねてきた日々は、長くも短い、目まぐるしいものだった。 悔し涙にくれたこともあるし、自分の至らなさに忸怩たる思いを抱いたこともある。だがそれも、魔王と共に過ごし触合っていく内に、新たな信頼と感情を芽生えさせる種となっていった。 それがいま芽吹こうとしているのかもしれない――エリオットはその喜びにひとり頬を緩めて微笑む。 儀式にはただいな犠牲が伴うと言っていたモルの言葉が全く怖くないわけではない。それが嘘かどうかもわからない。だからこそ、こうしている間にも頭の片隅では「本当にそれでいいのか?」と、問うような自分の声がする気もする。 「でも魔王様ならきっと、大丈夫」  先程の言葉にしても、眼差しにしても、とても儀式である性交のあとに相手を殺すような残忍さは窺えなかった。魔王はかつて想像していたような恐ろしい存在でないことは、エリオットが誰よりも知っている。 きっと大丈夫だ……そう、もう一度言い聞かせるように呟いた時、「随分と嬉しそうだね、エリオット」と、声が聞こえた。 聞き覚えのある声にハッと顔をあげると――いつの間にか先程まで魔王が座っていたソファーにモルが脚を組んで座っていたのだ。 「モル様! いつの間に……」  今日は来客の予定は入っていなかったはずなのに、とエリオットが思い返していると、それを見透かすかのようにモルが柔和に――しかし目は全く笑っていない顔で――微笑む。 「あいつにオレの来訪を知られれば厄介だからね。きっとまた出て行けだの何のと言われるからな」「では今日はどういったご用件で……」「決まっているだろう。君を連れ出しに来たのさ。あの恐ろしい残酷な魔王からね」  そう囁くように言いながら、モルはエリオットにゆっくりと近づいてくる。
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-07-26
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第三章 第六話

 瞬きをする間もなく連れてこられたのは、ガラスのように磨き上げられた氷でできた洞窟の中の部屋。どうやら北限にあるモルの住処に運ばれたらしく、そこは恐ろしく凍えるほど空気が冷たい。 吐く息さえ凍るほどの寒さのなか、エリオットは痛む体を支えながら氷でできた堅牢な檻の中に閉じ込められていた。 「ッう……あ……体が、痛い……」  壁にたたきつけられた際、うちどころか悪かったのか、ひどく全身が痛む。恐らくどこか骨が折れているか、見えないところに大きな傷を負っているのかもしれない。確かめようにも痛みと寒さで体が思うように動かず、エリオットはただじっと痛みを覚える箇所をさするしかできない。 北限の地に連れてこられたことは、この凍えるような部屋の寒さで気付くことができた。しかしここが魔王の城からどれほど離れているかはわからない。何より、どう魔王にさらわれたことを知らせればいいのか、魔力がまったくないエリオットには何の手立てもなかった。 「考えろ……何か手はあるはず……絶対、魔王様のところに帰るんだ……」  痛みと寒さ、そして不安で頭がどうかなってしまいそうな不安と恐怖を覚えるも、それでも正気を保っていられるのは魔王を想う心があってこそだ。 「魔王様……逢いたい……」  祈るようにうずくまり、名前を唱える。届くともわからない祈りの声は、冷たい床に落ちて転がる。かすかに右の小指が熱を持っているが、それが何になるかもわからない。 強い拒絶を超えて心を開き、少しずつ気持ちを築き上げてきた魔王との関係は、きっと味方になってくれるに違いない。エリオットはそう信じ、ここから脱出する手立てを考えらながらも必死に自分を奮い立たせていた。 「さてそろそろ観念する気になったかな、エリオット」「モル……」「どんなにお前があいつに想いを馳せようとも、所詮無力な人間の祈り。届くわけがない。無駄な足掻
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-07-27
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*第四章 失うもの、得るもの 第一話*1

 城へは竜化した魔王のお陰で瞬く間に帰り着くことができたが、その間もエリオットの容体は刻一刻と悪化していく。痛みによる熱にうなされ、いまはもはや会話すらままならない。 塔の上のエリオットの寝室の寝台に寝かされ、魔王による回復の魔術が行われるのを待つしかない。 「……思っているよりも傷が深いな……体の中の骨があちこち折れておるようだ」  エリオットの体に手をかざしながら傷の具合を確かめていたらしい魔王が苦々しく呟く。どうやら想像以上の重傷を負っているようで、魔王が困り果てているのが伝わってくる。 「へい、き……です……ッあ、ッく……こう見えて、私、痛みに、強い、ですから……」「ああ、喋るんじゃない。傷に響く。案ずるな、きっと治してやる」  そう魔王は微笑みかけてはくれるものの、深刻な事態に変わりはないらしく、すぐさま表情が曇ってしまう。それが一層エリオットには気がかりだった。 窺うように目を向けていると、魔王がそっとエリオットの汗ばむ額を撫でてくれる。優しい手つきに目を閉じて受け止めていると、魔王は言葉を選ぶようにして口を開く。 「エリオット……俺は、お前をどうしても助けてやりたい。お前は俺に愛とは何かを教えてくれた。いまやお前の存在は俺にとってなくてはならぬものだ。お前がいない日々など、到底考えられぬ」「魔王様……」  出会った頃はあんなに拒まれ、存在を否定せんばかりの態度だったのに。なくてはならないとまで言われ、エリオットの目に喜びの涙があふれてくる。モルは魔王からの愛など与えられるわけがないと言っていたが、それが違うことを感じさせる。 頬を伝い流れていくエリオットの涙を指先で拭いながら、魔王は顔を撫でてくれる。 「いまから最大級の回復の魔術を施してやろう。瀕死の生き物でさえ快癒させる術だ、きっと助かる」  そう言いながら魔王がエリオットの痛みを覚え
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-07-28
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第四章 第一話*2

(何か……あたたかい……熱い……なんか、痛みが……小さくなっていく――)  口付けているさなか、体内にも変化が現れ始めたのを感じる。ふつふつと泉が湧き上がるように、体のくから何かが息づいていくのを感じるのだ。そうしてそれにつられるかのように、血の気がなく力が入らなかった体、四肢にゆっくりと血が巡り始めるのを感じた。 ゆっくりと、確かめるように指先を動かし、そっと魔王の腕に触れてみる。すると答えるように魔王がさらに抱き寄せてきて、距離が縮まり、一層密着していく。そうして触れ合う肌が心地よく、エリオットはゆったりと身をゆだねるように口付けを受け止め続けていた。 体に力がみなぎっていくのがわかる。これは、回復の魔術を施されているのだ――エリオットはそう気づいたのだが、もはや拒むことはできなかった。 (魔王様、なぜ――)  このままではヴェルクレイン国が滅んでしまうかもしれない。自分なんかを救ったせいで、母国が、みんなが死に絶えてしまうかもしれない。 そして何より、魔王がまた魔力を失ってしまうのかと思うと、エリオットは言葉にならない申し訳なさで胸が潰れそうな想いがしていた。 「……ッは……ッはぁ、あ……ッはぁ、ッはぁ……」  呼吸も忘れるほどの長い口付けを、どれほどしていたのだろう。気が付けばエリオットの体は痛みが消え、出血も止まり、目も開いて視界も明瞭になっていた。 (……生きてる。体が、温かい……)  鮮明になった意識と視界に映し出されたのは心なしか青ざめた顔色の魔王で、エリオットは魔王が魔力を使い果たしたのかと|愕然《がくぜん》とした思いを抱いた。 すると魔王は、エリオットを見るなり「何だその情けない顔は」と苦笑したのだ。 「だって、魔王様……魔力を……魔力をすべて、私に……ああ、そんな……なんてことに……!」「そう慌てるな。お前が思っているような事態に
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-07-29
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