ヴァルダンジュ伯爵家の門をくぐった時、セレフィアは、自分がもう本当に戻れないところまで来てしまったのだと知った。 朝はまだ薄かった。空は白く、東の端だけがようやく淡い金を滲ませている。春に近づいたとはいえ、朝の空気には夜の冷えがまだ残っていて、吐く息がわずかに白んだ。石畳の中庭には出立のための馬車が三台並び、黒く磨かれた車体の側面へ、まだ若い光がぼんやりと映っている。馬の鼻息が白く煙り、蹄が地面を掻くたびに金具が小さく鳴った。革の匂い、乾いた藁の匂い、油を差した車輪の匂い。それらが朝の湿った空気と混じって、いつもの伯爵家の庭とは違う、遠出の匂いを作っている。 門前にはもう父と母がいた。 父レオンハルトは濃紺の外套をきちんと留め、手袋をはめたまま、すでにすべてが滞りなく整っていることを確認する役人のような顔をしていた。母エルヴィラは薄灰色の朝用ドレスの上に毛皮の短い肩掛けを羽織り、唇の色だけが、春の冷えた花のように淡く硬い。どちらの目にも、娘を送り出す親の感傷はなかった。あるのは、手落ちがないかを点検する目だけだった。 セレフィアの背後ではミレナが最後の荷を確認している。花嫁道具と呼ばれる箱の中身のほとんどは、本来オルフィーヌのために選ばれたものだ。深い色の外套、レース、手袋、香水瓶、針箱、祈祷書、薄絹の夜着。箱の蓋が閉じられるたび、かすかな木の鳴る音がする。そのどれひとつにも、自分のためという感触がない。「もっと顎を引きなさい」 母が近づいてきて、セレフィアのヴェールの位置を整えた。白い手袋越しの指先が額に触れる。冷たかった。「出立前から怯えた顔をしていてどうするの。哀れに見せたいのなら別だけれど、今は不要よ」「……申し訳ありません」「謝らなくていいのです。直しなさいと言っているの」 母はそう言うと、耳元に残っていた髪をひと房、指先で内側へ収めた。香水の匂いがかすかに揺れる。白百合と、少し甘い琥珀。昨日一日で嫌というほど嗅がされた、オルフィーヌの香りだった。朝の冷気の中でもそれははっきり残っていて、首筋へ貼りつくようにまとわりつく。「道中は口数を減らしなさい。宿に泊まる時も、疲れているように見せること。食欲がなくても少しは取りなさいよ。顔色が悪すぎると不自然です」「はい」「笑う必要はないけれど、沈み込んでも駄目。静かに、慎ましく。わかる
Last Updated : 2026-07-02 Read more