Todos os capítulos de 妊娠を隠して消えた私と五年後に再会したら、元契約だけの恋人がしつこいんですけど?: Capítulo 11 - Capítulo 20

50 Capítulos

第11話

思わずハモってしまい、2人の間に気まずい空気が流れた。「なるほど…」そんな2人を見て、医師が言った。「お二人のお子さんではなかったんですね。これは失礼」「……」「……」呆然とする彼らに、医師はまた爆弾を落とした。「でしたらおそらく、そのお子さんは彼女が忘れてしまった方のお子さんでしょうね。おそらくね」「え…」「な…っ」おい、どうすんだっ。このクソ医者が!兼悟はこんな爆弾を落としてしれっと去って行く医師に、心の中で罵声を浴びせた。チラリと彼女を見ると、案の定彼女の顔は青ざめ、そして困惑していた。「私…」香織はショックだった。妊娠していることもそうだが、それがいったい誰の子なのかまったく分からない…という事実に血の気が引いていく思いだった。記憶を消したということは、愛していない人の子供なの…?それとも不倫…?考えたくもないそんなことを、でも考えずにはいられなかった。香織はそっと、お腹に手をあてた。まだなんの膨らみもない、小さな赤ちゃんがここにいる…。そう思うと、胸がきゅうん…と痛む気がした。そういえば…「あの…ここはどこですか?」今更な質問に、兼悟は苦笑した。どうやら、ずいぶんとのんびり屋さんみたいだな。彼は知らない。香織が、以前は大手企業を牽引する冷徹社長の最も信頼する秘書で、秘密の契約恋人だったことを。そしてお腹の中の子供が、その男の子だということをー。「あ、そうだー」医師が「言い忘れた!」と戻って来た。「お腹の中の赤ちゃん、双子ですよ!」「……」「……」2人の複雑そうな顔を見て、今度こそ彼は去って行った。「なんなんだ…」兼悟が呟くと、香織もコクリ…と頷いたのだった。*その頃ー渉は目を皿のようにして、何度も確認した。香織…。「そんなバカな…」彼の手には、香織が乗ったと思われる、例の事故で誰一人として助からなかったあの飛行機の、搭乗者名簿があった。そしてそこに、山内香織の名は確かにあったのだ。渉は名簿の紙を持つ手が震えるのも構わず、それをクシャリと握りしめた。そしてその握りしめた拳の上に顔を伏せ、何かを堪えるようにただじっと動かなかった。ふぅ……やがて、彼は長い息を吐き、言った。「搭乗者の監視映像を手に入れろ」その声は低く、そしてその目は陰鬱に眇められていた。「ごちゃご
last updateÚltima atualização : 2026-07-06
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第12話

5年後ー。「鳳花(ほうか)ちゃ〜ん、こっちに目線ちょうだいっ。はいっ、OK!最高!」カメラマンの高いテンションにもニッコリ笑う小さな女の子に、撮影現場にいる全てのスタッフがほぅ…と息をついた。H市で最近人気のキッズモデル篠原鳳花(しのはらほうか)は、5歳にして天使の如く愛らしい容姿と、その癒しの笑顔で人々を魅了していた。カメラのシャッター音が連続でカシャカシャと鳴り響く。「あ!」その時、ひゅ~っと不意に吹いた風が、彼女の被っていたベレー帽を飛ばした。「……」足下に落ちたそれをゆっくりと拾い上げた男の子はパンパンと埃を払い、そして鳳花に言った。「愛想振りまき過ぎ」「えへへ」無愛想なその言葉にも気分を害することなく笑う彼女の頭に、彼はコツンと軽く拳を当てた。「痛い、龍牙(りょうが)っ」そんな風に2人が話していると先ほどのカメラマンが近づいて来て、その頬を指で掻きながらチラリと龍牙を見て言った。「この子は?」「……」その質問に、龍牙はふんっと顔を逸らし、彼女は無邪気に答えた。「お兄ちゃんだよ?龍牙っていうの!」「お兄ちゃん…」「うん!」その瞬間、周りはざわついた。「え、なに?この子めっちゃイケメンなんだけど?」「こんなちっちゃい子にときめいたの、私だけ!?」等など。2人の子供はどちらも非常に美しく、鳳花の整った顔立ちはまるで絵画から抜け出してきたかのようだった。一方龍牙は、まだ幼いながらもその目鼻立ちは整い、将来人目を引く美男子になることがはっきりと感じられた。おそらく一人は母親似で、もう一人は父親似なのだろう。カメラマンは目を輝かせ、頭を掻きながらまた一歩、近づいて来た。「あの、お兄ちゃんの方もぜひー」そう言いかけた時、「鳳花!龍牙!」2人の姿を目にして、兼悟が手を振った。周囲にいた数人がそっと振り返り、小声で囁きあった。「ねぇ、あの人誰…?すごくカッコいい…」「お父さんかな?」そう思ってしまうのも、無理はなかった。中村兼悟は背が高く、はっきりとした輪郭の顔立ちをしており、仕立ての良いダークグレーのコートを着てそこに立っているだけで、周囲より頭一つ分ほど抜きん出て見えた。それなのに当の本人は、その視線にまったく気づいていないようだった。「おじさん!」そんな彼に、鳳花は兄の手を離すと駆け出して
last updateÚltima atualização : 2026-07-06
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第13話

都月渉は機嫌が悪かった。それは確かに必要に駆られてなのだが、こんな遠くに支社を作らなければならないことが既に気が乗らなかった。H市。それは、渉の住むK市からは飛行機で6時間もかかるほど距離が離れた土地で、しかも途中乗り継ぎをしなければならない不便さだ。ただの旅行ならまだいい。だがここに支社を設立するとなれば、今後数ヶ月おきにこうして足を運ばなければならなくなる。面倒だ。しかしここには、彼が無視できない2つの要素があった。1つは教育資源だ。H市の大学は特定の専門分野において全国トップクラスであり、それは渉の母校でもあった。毎年多くの優秀な人材を輩出しており、会社にとっては理想的な人材の供給源となっている。もう1つは、観光業の可能性だ。H市は近年観光客が増加し続けている一方で、関連するインフラは大きく遅れている。もし自社の文化観光プロジェクトをここに展開できれば、将来的なリターンは計り知れないー。この2点の為に、彼は今回の滞在を受け入れた。彼はネクタイを緩め、着替えもせずそのままベットに倒れ込んだ。静かな空間に、昨夜の美華の言葉が頭の中に蘇る。「あなた、まだ諦めてなかったの?」ほとんど軽蔑的な口調だった。「君に関係あるか?」口ではそう返したが、渉には分かっていた。もうあまり引き延ばせない…。香織が自分のもとを去ってから5年。渉はずっと探し続けてきた。当初は自分に何も言わず、逃げるように去って行った彼女に怒りを抱えて、見つけ出してせめて一言言ってやらなければ気が済まない!と執念を燃やしていた。でも…。だんだんと日が経つにつれ、なぜ彼女がこんなことをしたのか…ただそれだけが知りたくなった。もちろん怒りは未だこの胸の中にある。許せるはずがない。だがー。今は彼女に会いたかった。会って、ただ「ごめんなさい」と謝ってくれさえすれば、もしかしたらこのモヤモヤした気持ちにケリがつくかもしれないと、そう思ったのだった。美華と婚約して5年も待たせて、彼女は時々皮肉を言うだけだったが、きっと家からは催促をされていることだろう。どうするのか?結婚はするのか?しないなら、なぜ婚約を破棄しないのか?渉も、家からそうせっつかれていた。理由など、言える訳もない。金で契約した恋人に、契約が終了した途端逃げられたから探している…なんて、誰がどう
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第14話

翌日、外は雨が降っていた。昨日までの晴れ間が嘘のように、今日は冷たい雨が景色をけぶらせていた。渉は冬馬に休みを取らせ、自分はタクシーに乗り込んだ。「H大学まで」彼の恩師が、今日は公開講座を行う。出発前に少しだけ、顔を見ておこうと思ったのだ。車窓の外は、雨に煙っていた。渉は座席に身を預け、静かに目を閉じる。大学時代の彼にとって、唯一頭を下げた相手が根津(ねづ)教授だった。あの風変わりな老人は迷いの中にいた彼に、それまでずっと欲しかったのに一度も与えられなかったものをくれた。…〝父性〟というものを。それ以来渉は、彼に対して敬意を抱き続けている。ふと。教授と、その妻が寄り添う姿を思い出した。教授はこれまで無数の難問を解いてきたが、人生で最も難関だったのは、おそらくあの人だっただろう。それでも彼は、それを解いてしまったー。それなら自分のこの問題は、どう解けばいいというのか…。渉は窓にもたれ、雨に濡れる外の景色を見つめた。*悪天候で道路が混み、少し時間に遅れてしまったせいでそろそろ講座も終わっただろうか…という頃に、大学に到着した。それならと、彼は教授の研究室で待つことにした。「ヤバいな…」渉はチラリと腕時計に目を遣り、できるだけ早足で研究棟へと渡り、根津の部屋を探していた。その時、「あれ…ここどこだ?」どこかから、子供の声が聞こえてきた。「?」渉は聞き間違いかと耳を澄まし、立ち止まった。すると今度は「くそ、なんで圏外なんだよ…」と同じく子供の声で聞こえてきて、どうやら幻聴の線は消えたようだとキョロキョロと辺りを見回した。「いた…」声を出すと、その子はバッ!と振り返った。渉はその顔を見た瞬間、どこか見覚えがあるような気がした。眉や目元の輪郭のせいか、それとも言葉では説明できない雰囲気のせいか…。全体的に馴染みがある、と思わせる子供だった。無意識のうちにもう一度視線を向けた。が、すぐに心の中で自嘲した。何を考えてるんだ。ただの見知らぬ子供にすぎないー。手にはスマホを持ち、おそらく保護者にでも電話をかけていたのだろう。だがー。圏外か…。それはたぶん、この辺りの研究室で何らかの実験でもして、一時的に電波が遮断されたとかそんなことだろう。過去にも似たようなことがあった。まったく、いい迷惑だ…。渉は警戒した目
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第15話

「いた」その声に、ビクッと反射的に振り向いた。見ると、そこには少し距離をおいて立つ男がいた。彼は自分と目が合うと、なぜかその顔に戸惑いの色を浮かべた。龍牙はその瞬間不快感を覚えたが、実は自分も、なぜかその男の顔を見て戸惑っていた。なんだ…?どこか、見覚えがあるような…?不思議な感覚に眉を顰めていると、その男がスタスタと近づいて来た。そして、「ここではスマホは使えない」そう言われた。そんなのわかってるよ。圏外なんだからっ…。そう言おうとしたが、また男が先に言った。「お前…迷子なのか?」「……」そんな訳ない。ちょっと母親を見失っただけだ。でも…。「違うけど…違わない」ほんの少しの不安を隠してそう言うと、男は可笑しそうに笑った。そしてまた言った。「ママを探してあげようか?」願ったり叶ったりだ。龍牙はコクンと頷くと、その提案に乗った。だが一つ、「抱っこしてもいいか」と訊かれた時は、はぁ?と思ったが…仕方ない。これ以上ママを心配させる訳にはいかない。龍牙は渋々と、本当に渋々、嫌々ながら頷いたのだった。そうしてひょいと抱き上げられた時、その声は聞こえた。「何してるの!?息子を離しなさい!」ママだ!「ママっ」嬉しくて思わず大きな声で呼ぶと、男がそれに反応して振り向いた。そしてー。「香織…?」なぜか、母親の名前を呼ぶ男に、龍牙の気持ちが一気に冷めたのだった。お前、誰だよっ…。龍牙がジタバタと暴れると、呆然としていた男、都月渉はハッと気を取り直して、とりあえず抱え上げた子供を降ろすことにした。「龍牙っ」「ママっ」駆け寄る子供を、香織がしゃがんで迎える。その光景を目にして、渉は混乱した。「ママ…?」ママ、だと…?渉の脳内に、昼間は彼のサポートをし、甲斐甲斐しく世話をして、夜は甘え、そして最後は無情にも何も残さず去って行った香織の姿が、次々と浮かび上がってきた。その瞬間、彼の中に言いようのない怒りが沸き起こった。「なるほどな…」だが…なんでここに?あんなに探して、半狂乱になるほど追い求めた女が、今、目の前にいる。「?」だが…。彼女はまるで見知らぬ人を見るような目で、自分を見つめていた。そして、「あの…息子を保護していただいたようで…ありがとうございます」とペコリと頭を下げたのだ。「息子…?
last updateÚltima atualização : 2026-07-11
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第16話

部屋から出てきたのは、先ほどまで教壇に立っていた根津(ねづ)教授だった。「せっかく来たんだ。入っていきなさい」香織は龍牙と顔を見合わせ、そして戸惑ったように教授を見た。「教授、お久しぶりです」自分たちを間に挟んで、根津教授と男が視線を交わしていた。「え…と、私たちはこれで…」香織は愛想笑いを浮かべてそう言ったが、それを根津が引き留めた。「いいから、君たちも来なさい」「あ……はい…」内心ビクビクしながら、龍牙に手を引かれるまま根津の部屋へと足を踏み入れた。一方、龍牙はー。思いもよらず憧れていた教授の部屋に招かれたことに、ウキウキとしていた。香織と違って足取りも軽く、備え付けの棚に並ぶ本などにも目を遣って、「ふ~ん」などと浮かれていた。そしてー。「え…?」その足が、ピタリ…と止まった。彼の視線は、壁にかかる鏡に向かって留まっていた。そこには自分と、渉の姿が映っていた。似てる…?龍牙はそう思った自分に、驚いた。なんで……。目元、鼻筋…それから、薄い唇…。全体的に、自分たちは似ていた。「……」だが龍牙は、その事実をこの場の誰にも言わなかった。言ってはいけない。なぜか、そう思ったのだった。「さて…」根津は、自分のデスクについて3人の客人にそれぞれ椅子を勧めた。そして渉をチラリと見遣って言った。「君は私のところに来たんだろう?で、こちらは?君の家族かね?」「え…」「違います」教授の言葉に一瞬躊躇っていると、香織が割り込んで答えた。根津はそれには黙って渉の方を見た。説明をしろ。そう言われているのだろうことは分かっているが、渉にはその言葉がなかった。「君たちは、先ほどの私の講座に来ていたね?」「はいっ」「ずいぶん小さいな。何歳かね?」「5歳ですっ」チラリとこちらを見てそう言った根津の言葉に、龍牙が元気よく返事をする。どうやら憧れていた教授と対面し、声をかけられていることに興奮しているようだった。だが、香織はそれどころではなかった。さっきから、息子と一緒にいた男が自分をチラチラと見てきて、全然落ち着かなかったのだ。「あの……なんですか?」香織は教授に対してペラペラと喋り続けている龍牙をおいて、渉に戸惑いの視線を向けた。「……」だが彼は彼女の質問には答えず、ただじっと見つめてくるだけだった。
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第17話

帰りの車中、香織と兼悟の間には気まずい空気が流れていた。後部座席の龍牙はそれを少しだけ気にしながら、車窓の外を流れる景色をじっと見つめていた。あの時…。教授の部屋を出て行った母親を追いかけてあの男が出て行き、訝しげに首を捻る自分とは対照的に、教授は仕方ないな…というようなため息を一つついた。そしてその後、兼悟と香織が一緒に迎えに来た。「おじさんっ」呼びかけると、兼悟が「帰ろう」と言い、教授に向かってペコリと頭を下げたのだった。「香織っ…」その時、さっきの男がまた戻って来て、なぜか必死な顔で母親を見つめていた。「…?」龍牙には何が起こっているのか分からなかったが、3人の間に何やら妙な雰囲気が漂っていることは理解できた。だから言った。「どうしたの?」それに答えたのは、兼悟だった。「なんでもない。さぁ、パパと帰ろう」「……」パパ…?龍牙は瞬時に視線を動かして母親の困惑したような顔と、若干苛立ったような顔の男を見た。ふ~ん…。そして、にっこりと笑って言った。「うんっ。パパ、帰ろうっ」自分の言葉に合わせてくれた龍牙にホッとしながら、兼悟もにっこりと笑った。そして「さぁ…」と香織を促す姿は、間違いなく仲良し家族のようだった。教授に別れを告げ、部屋を出る際チラリと振り返ると、あの男が自分たちをきつい眼差しで見つめていた。「おじさん、名前は?」ふと思いついて尋ねると、その男は一瞬驚いたように目を見開き、そしてなぜか肩の力を抜いたような優しい笑みを浮かべて言った。「都月。…都月渉だ」龍牙はそれを聞いて、ひらひらと手を振った。「じゃあね。渉おじさん」そう言うと、渉も手を振り返した。「またな。龍牙くん」「……」2人のやり取りを見ていた兼悟は、ふい…と顔を逸らした。そうして今、自分たちは帰途についている。「知ってる人…?」助手席の香織が、前を向いたまま兼悟に尋ねた。「いや…」兼悟はそれだけ答えると、後はずっと黙り込んでいた。空調の効いた車内だったがそこに温もりはなく、龍牙はただ黙って外を見続けていた。*「お帰り〜」玄関を開けると、鳳花が駆け寄って来た。「どうだった?楽しかった?難しかった?」「まぁまぁ」矢継ぎ早な質問に適当に答えながら、龍牙は手を洗い、不満そうな妹を横目に自室へと向かった。子供用の机
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第18話

その夜ー。渉はあの後すぐに秘書に連絡を入れて、中村兼悟とのアポイントメントを何が何でも取るよう、指示した。そしてそれと同時に彼の周り、特に私生活についての調査を命じた。彼は思い出したのだ。今回自分がこの街に来た理由と、その為に根回しをしておかなければならない企業のことを。中村兼悟。彼こそ、自分が絶対に会わなければならない人物だった。「アポイント、取れました」秘書の言葉に、彼は翌日に予約していた帰りの飛行機便をキャンセルするよう、手配させた。冬馬は不思議に思った。社長の気まぐれは分かっていたが、相手もそんな人物なのか…?今まで頑なに会おうとしなかった兼悟が、急に面会を了承したことに、冬馬は首を捻っていた。「それから…こちらもー」そう言って差し出した資料に、渉が目を通すのをじっと待つ。やがてー。「ふん…やっぱりな…」バサッと資料を放り投げ、渉が不気味に嗤った。冬馬はそれに僅かに眉を顰めたが、何も言わずそれらを拾い上げた。「何か、手配することはありますか?」急に取れたアポイントは、明日の午前中だった。今から何ができるのか分からなかったが、彼の秘書として、今回の場を成功に導かなければならない。そう思って訊いたのだが、渉は「大丈夫だ」と言って退出を促した。冬馬はそれを聞いて、静かに彼の部屋を出たのだった。香織…。お前が今、中村兼悟の秘書をしているとはな…。渉はふっ…と鼻で笑い、ドサッと椅子の背もたれに身体を預けた。カチリとライターで煙草に火をつけ、思い切り吸い込み、大きく吐き出した。彼は部屋の窓から見える夜景に目を遣りながら、思考の渦に身を潜らせた。5年…いや、もうすぐ6年前…。あの女はいきなり姿を消した。その時は理由を自分に求めた。自分が彼女に内緒で婚約をしたから。彼女の気持ちに気づいていながら、蔑ろにしたから。目の前で婚約を見せつけて、彼女を傷つけたからー。そんな風に思って、自分を責めた。だが…。もしもそうじゃなかったら?彼女が自分のもとを去ったのが自分ではなく、彼女自身の理由だったなら…。手にした煙草を吸い込むと、ジジ…と微かに音を立てた。渉はまた、深く吸い込んだ煙を吐いた。彼女の子供は5歳だと言った。彼女が自分から去ってもうすぐ6年…。考えなくてもわかる。あの時、彼女は妊娠していたのだ。…誰の子をー
last updateÚltima atualização : 2026-07-11
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第19話

間違っても、友好的ではなかった。渉はふっ…と笑い、引っ込めた掌をさり気なく拭った。それを見て、兼悟の眉がピクリと跳ねた。「ご要件は?こちらも無理にこの場を設けましたので、あまり時間がありません。手短にお願いします」そう言う彼の声は、明らかに不機嫌だった。渉はそれを聞いてわざとらしくため息をつき、無礼さを隠す気もなく足を高々と組んだ。「貴様ーっ」さすがにその態度に腹を立てて思わず声を上げた兼悟に、渉はバカにしたように嗤い、その目を眇めた。「失礼。…普段はこんなことしないんですがね。あなたとは、少しでも本音で語り合えれば…と思いまして」「……」渉の軽い謝罪は、兼悟を更に苛立たせた。だが、「今日は、何の用でこちらに?」彼は不快げに息を吐き、強引に話を進めた。この面会を早々に終わらせようという意図が、見え見えの態度だった。それに渉は苦笑すると、組んだ足を解き、ずい…と身を乗り出した。「近々、こちらにお邪魔させていただくつもりなんですが…。どうか私が手に入れたものを取り上げるような真似は、お止めくださいね?」「……。それは、どういう意味ですか?」意味深なその言葉に、兼悟は眉をひそめて尋ねた。渉はふんっと鼻を鳴らすと、サッと身を引いた。「お心当たりがないと…?」「……」彼の言葉には棘が仕込まれていた。兼悟は一度小さくため息をついて、体勢を立て直すと言った。「今日は、業務提携のお話だと秘書から聞いておりましたがー」それを聞いた瞬間、渉がピクンと頭を揺らした。「秘書…ですか…?」「…ええ」渉の膝に置かれた手が、ぎゅっと拳を作るのを兼悟は見た。なんだ?兼悟は、渉が引っかかりを覚えた言葉に何の意味があるのか分からず、困惑した。先ほどの〝手に入れたもの〟云々は、おそらく香織のことだろうと推測できる。子供たちの父親がこの男だろうと分かった以上、香織が彼の恋人であったことは否定しようがないし、その後、彼女が彼のことだけ忘れたことから、この男が誠実とはかけ離れた人物であることも、予想できた。それなのに、「取り上げる」だと…?まるで自分が2人の仲を裂いたような物言いをされて、兼悟の苛立ちが募る。「具体的なお話をしましょうか」彼の感情を隠した冷たい声音に、渉はチラリと視線を上げた。決して広いとは言い難い応接室に、ギスギスとした
last updateÚltima atualização : 2026-07-11
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第20話

香織が買い物を終えて駐車場に行くと、自分の車の前に屈んでいる男を見つけた。「あの…」近づいて声をかけると、その男は振り返りざまサッと頭を下げた。「あ……」香織の声に、頭を下げた男も何かに気がついたのか、ゆっくりと身体を起こした。「あれ…?」そして「あなたでしたか…」とホッとしたように微笑んだ。見ると、車のバンパーが少しヘコんでいた。「……」香織が微妙な顔つきでその男、都月渉をチラリと見ると、彼は苦笑した。「すみません…ぶつけてしまいました…」「はあ……」そうですか。そうとしか言えなかった。なんせ、これでもう3度目なのだから…。香織はピッと鍵を解除して、渉に言った。「修理代はいつものところに請求しますね。ではー」「あ、ちょっとー」ドアを開けて乗り込もうとした彼女に、渉は慌てて声をかけた。「何ですか?」面倒くさそうに尋ねる香織に、彼はニコッと笑って提案した。「お茶でもいかがですか?その…お詫びと、プロジェクトの件について少しお話を…」「……」香織の、彼の真意を見極めようとするような視線に、渉は居心地悪く口元を引きつらせた。そして、「わざとでしょ?」「は…?」突然、確信を持って言われた言葉に、渉は呆然とした。香織はそんな渉を見つめて、嫌そうに眉を寄せた。「せっかくですけど、ご遠慮します」「あ…っ」目の前でバタンッと閉じられたドアに、渉は息をついた。それから、エンジンをかけた音を聞いてコンコンッと窓を叩いた。「何ですか?」窓を下げて問う彼女に、渉は悪戯でも企むように言った。「今度は、もう少し加減します。お茶を飲んでる間に修理ができるくらいに」「……」その言葉に、香織は呆れ返ってしまった。「バカなの?」「さぁ?」彼はひょいと肩を竦めて、「では、どうぞ」と香織に道を譲った。はぁ……まったく…。香織は大きくため息をついて窓を上げ、エンジンを切った。これ以上、わざと車をぶつけられるなんて、冗談じゃないわ…。一度目は、偶然だと思った。二度目は、偶然にしては怪しいと思った。そして三度目の今日、絶対わざとだと確信した。二度目の事故があった後、香織は車を買い替えていたのだ。それなのに、早速ぶつけられたなんて…。どう考えても、わざととしか思えない。香織は、渉が自分に何か話があるのだと思った。だから
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