「……嘘…でしょう…?」目の前の現実が受け入れられない。山内香織(やまうちかおり)の顔色は青ざめ、その手は細かく震えていた。*「おめでとうございます。妊娠9週です。しかも、双子ですよ」診察を終えて医師の前に座った途端、そんな風に言われた。双子…。本当ならすごく嬉しい。香織は子供が好きだ。自分の子供ができたら絶対に甘やかして、ちょっと我儘で、でも可愛らしい、誰からも愛される子に育てる。ずっとそう思っていた。でも…。香織の胸は痛みに張り裂けそうだった。恋愛感情は持たない。妊娠をしてはならない。それは、彼との約束だった。香織は唇を噛み締め、俯いていた。そんな彼女を見た医師は、彼女がこの妊娠を望んでいないと誤解した。「お相手の方とよく話し合われてみてください。こんなおめでたいことはないのですから」「…はい」そう答えるしかなかった。どうしよう…。どうしたらいいの…?診察室を出て、待合室で料金の精算を待っている間、香織の頭の中は迷いが渦巻いていた。彼女は、直属の上司であり、秘密の契約恋人でもある都月渉(とつきわたる)の子を身ごもってしまった。しかし〝妊娠してはならない〟というのは、彼と交わした絶対の約束だった。あと1週間で終える契約を、こんなことで破棄する訳にはいかない。自分にはまだお金が必要なのだから。でも…。この子たちを諦めたくないっ…。どうして…なんでよりによって、このタイミングで…。*香織は、都月渉の秘書だった。3年前のあの夜、彼は宴会で薬を盛られ、彼女はホテルへ呼び出された。300万円ー。一夜限りの対価だった。彼女にはお金が必要だった。祖母の療養費が重くのしかかり、他に選択肢はなかった。翌日、渉は彼女にある提案をした。「月給500万円で、恋人契約を結ばないか?」同居、日常の世話、夜の相手。契約期間は3年。条件は、冷徹に明記されていた。〝恋愛感情は抱かないこと〟〝妊娠しないこと〟違反した場合、契約は即時解除。「お受けします」彼女は迷うことなく署名した。恋愛は必要ない。ただ、お金だけが必要だった。でも香織は気づかなかった。3年間、彼は優しく、丁寧で、何よりも彼女を大切に扱った。彼女は徐々に、まるで粉雪が降り積もるように、渉を愛してしまっていた。香織は期待した。もしかしたらこの妊娠をきっ
Last Updated : 2026-07-06 Read more