Todos os capítulos de 妊娠を隠して消えた私と五年後に再会したら、元契約だけの恋人がしつこいんですけど?: Capítulo 21 - Capítulo 30

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第21話

「篠原さん、またお会いしましたね」「……」前方からスタスタと右手を上げて近づいてくる男、都月渉を見て、香織は内心大きなため息をついていた。また…。このところ、どこに行ってもこんな風にこの男が現れる。兼悟の会社と渉の会社がこの度業務提携を結ぶことになって、なぜか香織がその担当者というか窓口になってしまってからというもの、この男は直属の上司でもないのに自分をこき使う。いったいどういうつもりなんだか…。あからさまにげんなりした顔つきの香織に、だが渉は気にした風もなく話しかけてくる。「ところで篠原さんー」「?」渉が香織の買い物袋を当たり前のように手に取って、言った。「実は、今回の業務提携なんですが…急に決まったものだったので、私、宿無しなんです」「……は?」耳にした言葉が信じられなくて目をパチパチと瞬く香織に、渉はニッと笑った。「ええ…?」いや、ちょっと待って。宿無し?どういうこと??急にそんなことを言われても…と困惑を隠せない彼女に、「ですからね」と渉が続けた。「あなたに物件を紹介してもらえないかとー」「あ、無理です」「いや、普通の部屋で結構なんでー」「無理です」「……」それでも一分の隙も見せない彼女に、渉は苦笑した。「そうですか…。困りましたね」彼のエスコートによって自然とカフェの席についていた香織は、その言葉に首を傾げた。「そちらの秘書さん…渡辺さん?に頼めばいいじゃないですか」香織は先日紹介された彼の秘書、渡辺冬馬を思い浮かべてそう言った。だが渉は、困ったように眉を寄せて首を振った。「彼はこの辺りのことはよく知りませんし。それに…支社設立に奔走してもらってますから、これ以上の負担はね…」「……」確かに。倒れちゃうかも…。香織は、複雑そうな顔で握手を交わした冬馬を思い浮かべて
last updateÚltima atualização : 2026-07-18
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第22話

「わかりました。すぐ戻ります」渉が昏い思いに沈んでいると、香織がそう言って通話を切った。「どうしました?」ハッとして尋ねると、香織はスマホをバッグにしまいながら言った。「ちょっとトラブルがあって……」そう言いながらも手早く自分の分の代金をテーブルに置く彼女を、渉は引き止めた。「送りますよ。会社ですか?」「いえ、自宅です。…ていうか、結構ですっ」慌てて断るが、渉はカップを置いて立ち上がると荷物を手に取り、テーブルの上の明細書を持ってスタスタと会計に向かって歩き出した。「ちょっとー!」呼びかけるが、彼は振り向かない。仕方なく、香織も残された自分の分の代金を回収して、渉の後を追った。カフェを出ると、そこに渉は立っていた。それを見た瞬間、周りのざわめきは彼女の耳を素通りしていった。香織を待つその姿は、どこか胸を打つ光景だった。「篠原さん?」少しの間ぼうっと渉を見つめていた香織は、その声に我に返った。「何でもありません。荷物をー」手を差し出すが、避けられた。「送りますよ?」「結構です」「急いでるんでしょう?」「……」確かに。今日彼女は車をメンテナンスに出していた為、タクシーを利用していた。これからすぐ捕まるかどうか分からないし…。そんな風に思ったら、もう頷くしかなかった。渉はそんな彼女に満足げに笑うと、「こっちへ」と彼女を自分の車まで案内したのだった。*助手席のドアを閉めると、香織はシートベルトを閉めるのに邪魔にならないよう、長い髪の毛を片側に纏めて垂らした。渉はそれを横目で見て、懐かしさに思わず口元が緩んだ。彼女は車に乗ると、いつもそうやっていた。いつだったか、締めたシートベルトに髪の毛が絡んで痛い思いをした、と愚痴っていたことを思い出した。それ以来彼女は、そうやって髪の毛を纒めてからでないとベルトを締めない。渉はあの時の、香織の拗ねたように唇を尖らせた顔をもう一度見たいと思っていた。そうやって忘れたフリをしていても、クセまでは誤魔化せないぞ、香織…?渉は内心で笑い、エンジンをかけた。「…?」香織は渉の車に乗ってすぐ、仄かに薫るものに気がついた。「これ…アロマですか?」尋ねたのは、自分が好んで買う香りだったから。そんな彼女を、渉は運転しながらチラリと見遣り、「ええ」と肯定した。だが、詳しいことは
last updateÚltima atualização : 2026-07-19
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第23話

数日後ー。「香織」兼悟に呼ばれて、資料の整理をしていた香織が振り向いた。「今日の都月グループとの会議…休んでもいい」「え…どうして?」驚いて目を見開いた。だって、自分は確かこのプロジェクトの担当だったはず。それなのに…休んでいい?香織は理由を問い質した。すると、「都月社長が…君に直接謝罪をしたいと言ってきた」「……」兼悟の顔には苦い笑いが浮かんでいた。「アイツ…何の責任を感じてんだかな」そう嘲るように言う兼悟だったが、香織は戸惑っていた。正直言うと 、あまり関わりたくない。彼と関わると、必ずと言っていいほど嫌な思いをする。頭痛だってしてくるし。でも…。渉は取引会社の社長だ。しかも、このプロジェクトを主導している人物で、自分はその担当者だ。まったく会わないなんて、あり得ない。香織は、渉と会う度に引き起こされる頭痛が、自分の消えた過去と何らかの関係があるのでは…?と思っていた。知りたい…。けど、知るのが怖い…。彼女の葛藤を見抜いたように、兼悟が言い添えた。「無理をすることはない。担当者だからって、毎回必ず会わないといけない訳でもない。今日はやっぱり休んだ方がいい」「兼悟さん……いえ、会います」香織は言った。「あの人、しつこそうだし。先延ばしにしたところで、やめたりなんかしないだろうし。…それに、謝罪を受け入れてくれない、て新たなクレームをつけられちゃ敵わないわ」そうおどけて肩を竦めると、兼悟も仕方なさそうに笑った。兼悟にはわかっていた。都月渉は、香織を取り戻そうとしている。記憶を失うほど傷つけた人を、なぜ取り戻したいのか。ただの贖罪か。それとも…&h
last updateÚltima atualização : 2026-07-20
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第24話

あれ以来、渉は香織と顔を合わせるたびに何かしらのプレゼントをくれていた。マーガレットをあしらったブーケや刺繍の入ったハンカチ、風に揺れる花畑が広がるポストカード、等など…。それらは皆小さなものだったけれど、2人の噂に拍車をかけるには十分だった。もちろん、以前のマンションの鍵が最大の焦点ではあったけれど。毎回いろんなものを持ってきてにっこりと笑顔で差し出す渉を、社内では既に【貢くん】なんてあだ名で呼ぶ者すらいるくらいだった。ある日ー「いい加減にしてください」その日も、会議に現れた渉からマーガレットの花の可愛らしいピアスを差し出され、思わず苛立たしげに言った。「気に入らなかったかな?」「そういうことじゃありません」「ピアス、開けてるだろ?」「開けてますけど。……そうじゃなくてっ」「なら、何が問題なんだ?」「っ……」キョトンと首を傾げる渉を、香織はキッと睨みつけた。だが周りの目もある。彼女は会議の片付けをアシスタントに任せて、グイッと渉の腕を取り、引っ張った。そして一階フロアにあるカフェに連れて行くと奥の席に着き、以前渡された部屋の鍵を取り出した。「お返しします。それと、今後こんなことはしないでください」「なぜだ?」「迷惑ですっ」「……」そう言うと、彼はそっとそれを手に取り、静かに口を開いた。「変な意味じゃない。単なるプレゼントだ」「度が過ぎてます」「そうかな?……普通じゃないか?」「……」普通じゃない。香織は、話の噛み合わなさにうんざりした。「私たち、そんな間柄じゃあないでしょう?」それでも彼女が受け取りを拒否すると、彼は言った。
last updateÚltima atualização : 2026-07-21
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第25話

「え?……ええ…」嘘をつくことに多少の罪悪感があったが、もう既についてしまった後だった為、訂正は難しかった。香織が気まずげに目を逸らすと、「じゃあ…」と渉がとぼけたフリで言葉を継いだ。「なぜ同じ名前を名乗らないのですか?もしかして、秘密婚?」「違いますっ」咄嗟に否定して、ハッと我に返った。「その…」チラッと渉を見ると、彼は「ん?」という風に眉を上げた。このまま黙ってやり過ごす…という選択肢は、どうやら与えられないらしい。「旧姓を…名乗ってるだけです…その…仕事上…」「……へぇ~…」全く信じていない口調と表情だった。それはそうだろう。香織は、兼悟が個人で契約した秘書だ。会社にも所属していない。それなのに、仕事上旧姓を名乗る?どう考えても矛盾してる。でも他にどう言ったらいいのか分からなくて、彼女はそれで通すことにしたのだ。だが香織がどうにか言い繕おうとしたら、その前に渉が話題を変えた。「ところでー」彼はずい、と身を屈めて、香織の顔に自分のそれを近づけた。「まだ引っ越さないつもりなのか?」「っ…」ビクッと身を引き、眉を顰めた。近いっ。心の中でそう言った。首を傾げる彼に「そんな予定はありません」と言うと、「どうして?」と本気なのかわざとなのか無害を装う彼に、香織は苛立ってソッポを向いた。「なぜ私が、そんなところに行かなきゃいけないの?」そう言うと、渉はふむ…と腕を組んだ。「第一に、君は、ここらに詳しくない俺のサポートをすることになっている。第二に、君に用がある時、いちいち居場所を訊いて出向く
last updateÚltima atualização : 2026-07-22
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第26話

「つまり…」兼悟が、渉からの提案書を前に目頭を指で揉んでいた。「そちらの事業を推進する為のインフラを、共同で整備しよう…と?」「そうだ」「……」兼悟はジロリと渉を睨みつけた。「ずいぶんと都合のいい話だ」「?」首を傾げた渉に、兼悟の苛立ちが募る。「なぜ我々が、そこまであなた方を助けなきゃいけない?」彼の声は冷え切っていた。だが渉は、意味がわからないというように眉を寄せた。「何を言ってる?これを整備すれば、そちらの得にもなるだろう?いや、得にしかならないじゃないか」彼は言った。「現状、この街は時代に取り残されて停滞している。せっかく〝文化観光〟という流行りが来て、政府もそれに乗っかってる状態なのに、これを放っておく手はない。今ここは旅行客から見て、大した魅力がない。遊びたい連中には静かすぎるし、癒しを求めるには騒がしい。どっちつかずな感じだ」そう言いながら、彼は前の席に座る香織に自分の赤ペンを差し出した。香織はそれを無意識のうちに受け取り、当たり前のように使った。ーーそしてハッと顔を上げた。資料に目を通しながらメモを取ることに夢中で、自分がチェックする部分に赤ペンを使いたい、と探していたことを悟られたことに気がついたのだ。香織が気がついたことに気がついた渉は、柔らかく口角を上げて微笑んだ。「……」彼女は気まずげにペコリと頭を下げ、彼はそれに頷いた。兼悟はそれを視界の隅に捉え、グッと奥歯を噛みしめた。同時に郷土愛が強めな地元社員は、渉のこの辛辣な意見に不満げな顔をした。が、「しかも、空港からのアクセスが悪すぎる」という意見には、頷かざるを得なかった。「この街の観光の目玉になるイベント……あ〜…何だっけ?」「〝氷の祭典〟と〝星まつり〟」兼悟の言葉に「そうそう、それー」と渉が嗤った。「地味すぎないか?」「……」はっきりした意見だ。腹立たしいが、反論はできなかった。H市は北の方に位置する都市で、例年冬には大量の雪が積もる。昔はそれがネックになって、その時期街は閑散としていた。だが雪が積もるなら…と役所が中心になってどこだかの都市の真似をし、雪像やらを作って〝雪まつり〟などと銘打ち観光客を呼び込もうとした。でも二番煎じはやはり上手くいくわけもなく、悩んで意見を出し合った結果、似たような〝氷の祭典〟というイベント
last updateÚltima atualização : 2026-07-23
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第27話

香織は悩んでいた。先日、渉に言われたのだ。「今までは個人秘書だったからよかったけど、これからは頻繁に会社に来るようになることだし、中村社長と一緒に住んでるなんてバレたらまずいんじゃないのか?」「……」「秘密婚、なんだろ?」そのからかう様な口調に、香織は違うとも違わないとも言えず、口を噤んでしまった。でもとにかく、彼の言うことは正しかった。図らずも彼女はプロジェクトの担当者になってしまったことで、一時的にとはいえ、兼悟の会社に籍を置くことになってしまった。…となると、色々と提出しなければならない書類がある。家族構成はいい。今更未婚の子持ちだとバレたところで、大して気にならない。問題は、住んでいる場所が兼悟と一緒だということだ。目敏い人というのはどこにでもいる。香織は、このままではそう遠くないうちに、自分が社長宅に居候しているとバレてしまう未来が予想されて、頭を抱えていたのだ。*「ママ?」繋いでいた手をクイッと引かれ、香織はハッと物思いを断ち切った。「ごめん、何か言った?」慌てて尋ねるが、鳳花は「ううん」と首を振るだけだった。今日は、鳳花に地元でのイベントに出演する仕事が入っていた。香織は仕事が休みだった為、久しぶりに自分で彼女の送迎をすることにしたのだがー。その規模の大きさに驚いて足を止めてしまった。そこへ、「鳳花ちゃんっ」彼女の現場マネージャーが駆け寄ってきて、急かすように娘を控室へと連れて行ってしまった。「……」残された香織は複雑な気持ちだった。彼女は、龍牙が天才であることで周囲から浮いていることにばかり気がいって、鳳花がこれほど人気者になっていたことにまったく気がついていなかったのだ。香織は客席となっている席の一つに座り、深いため息をついた。ダメね…。親失格だわ…。子供を取り巻く状況に鈍くなっていた自分に、自己嫌悪した。その時ー「やぁ、よく会うな?」そんな風に軽く声をかけてくる男がいた。振り返らなくてもわかる。都月渉だ。「……」香織はそんな彼に胡乱な視線を向けただけで、無視した。頭痛の種が来た。その程度の認識だった。「どうした?機嫌が悪いのか?」「いいえ」「出かける度に会うけど、俺たち縁があるのかな?」「いいえ」だが渉は、そんな香織の気持ちなどお構いなしに話しかけてくる。香織は本当に
last updateÚltima atualização : 2026-07-24
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第28話

イベントは盛況だった。鳳花は着替える度に可愛いし、ファンらしき人たちもニコニコと嬉しそうに手を振っていた。香織はそんな娘がカメラマンの要求に応えながら笑顔を振り撒き、いっぱしの芸能人みたいな対応をしている姿に、誇らしいような、気恥ずかしいような気分を味わっていた。「可愛らしい子だな」「……」話しかけているのか、単なる独り言かわからない呟きに、香織は聞こえないふりで応えた。「あの子のファンなのか?」その見当違いな質問には、少しだけ笑えた。「…そうね」答えると、彼はふん…と頷いた。「だが、あんな小さいうちから働かなくてもな…。親は何を考えてるんだか…」「……」その言葉には、応えなかった。なぜなら、「ママ〜っ」撮影を終えて客席に出て来た鳳花が、嬉しそうに手を振りながら自分の方に駆け寄ってきたからだ。*着替えて、客席で待つ香織のもとへ急いで向かっていた鳳花の足が、ピタリと止まった。「ママ…?」そこには、知らない男の人がいた。ママの隣に座って、楽しそうに話してる。なんだろう…。ママ、迷惑そう?…でも…あっ…!突然、鳳花は気がついた。あの人!龍牙が言ってた人だ!一瞬、鳳花の顔に笑顔が広がった。でも…。そのすぐ後、彼女は考え込んでしまった。この人が私たちのパパー?龍牙は「ママを捨てた悪い奴だ」て言ってた…。ママを捨てた?じゃあ…私たちも…?そう考えて、小さな胸の奥がズキッと痛んだ。鳳花はその場を動かず、じっと2人を見つめた。ママはちょっと嫌そうな顔をしてる。でも、なんだろう&helli
last updateÚltima atualização : 2026-07-25
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第29話

「は…なんて?」昼休み。明美は社長室から出てきた白鳥瀬奈(しらとりせな)を捕まえると、キョロキョロと辺りを見回して彼女を給湯室へと引っ張り込んだ。そこで明美は、今朝知ったばかりのことを告げ、いったいどういうことなのか問い質した。だがそれを聞いた瀬奈は驚きに目を見開き、逆に明美を問い詰めた。「現住所が一緒って、どういうことよっ」「痛っ…どういうことも何も、そういうことなんじゃないの?」掴まれた腕に爪が刺さって地味に痛い。明美はさり気なく瀬奈の指を外しながら、答えていった。「何度も確認したから、間違いはないよ。それにねー」彼女、5歳の子供がいるの。それも2人。コソッと耳打ちした。「っ……」瀬奈の顔色が、サーッと青ざめた。「……」明美には、彼女が何を考えているかだいたい分かった。彼女は、この子供が中村兼悟の子供だろうかと疑っているのだ。以前、瀬奈は兼悟のアシスタントとして、彼の身の回りの世話もしていた。もちろん、仕事として。彼の秘書が会議や出張の予定を組んだ後、瀬奈はアシスタントとして会議の準備や、出張の為に使う飛行機などのチケットを取ったり、パーティーなどに出席する時は、自宅にお邪魔してそれに相応しいスーツなどをコーディネートしたり…と多岐にわたって兼悟のサポートをしてきた。それが5年前、急に彼から「これからは、こんなことまでしなくてもいい」と言われたのだ。理由を尋ねると、「妹夫婦と同居することになったから」と言われたのだが…。もしかして、嘘だった…?瀬奈は明美の窺うような視線など気にもせず、一人考えに沈んでいた。篠原香織ーー。この女はこの最近急に現れて、なぜかずいぶんと兼悟と親しげにしていた。いきなり立ち上がったプロジェクトの他社
last updateÚltima atualização : 2026-07-26
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第30話

香織は立ち止まって彼を迎えた。渉は冬馬を連れて近づいてくると、にっこりと笑って胸ポケットから薄っぺらい封筒を取り出した。「気に入るかな?」そう言って差し出されたそれは、中身が入っているのか分からないくらいの薄っぺらさだった。「何ですか?」香織が受け取って中の物を取り出すと、それは可愛らしい動物が描かれた数枚の栞だった。「……」香織は一目で気に入った。でもそれをまた封筒に戻し、渉の手に返した。「受け取れません」「なぜ?」「理由がありません」「理由…ね…」渉には、彼女がこれを気に入ったことがわかっていた。見た瞬間に彼女の瞳が輝き、口元も嬉しそうに弧を描いたからだ。それなのに〝理由がない〟なんてね。そう思ってクスッと笑ってしまった。「何ですか?」ムッとしたように問いかけてくる眼差しも、ほんの少し尖った唇も、何もかもが彼の笑いを誘った。彼は言った。「だって、本を読むのが好きだろう?君も。龍牙くんも」「……」その言葉に、香織は眉をひそめた。なぜこの人はこんなにいろいろ知ってるの?好きな花の種類といい、読書の趣味といい。龍牙のことまでー。あの子とは大学で会っただけなのに…。香織は、知らず自分や家族のことを調べられてるのかと疑い、その瞳に嫌悪の気持ちを乗せた。「これ以上、こんなことはしないでくださいと申し上げたはずです」「大したものじゃない」金額の問題じゃないの。香織はチラリと陰から自分たちを覗く人たちを見て、うんざりした。はぁ…また噂されちゃう…。そう思うと、目の前の渉をひどく憎らしく思った。「とにかく、困るんですっ」
last updateÚltima atualização : 2026-07-27
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