まさか、唯が男とこっそり会っていたなんて。明里の目に、素早く打算の色がよぎった。すぐに体を向け、取引先の視線を避けながら、スマホを出して二人並んだ後ろ姿を写真に収めた。禮との食事は、驚くほど静かに進んだ。唯は本当に腹を空かせていたし、禮としても、この静かさが心地よかったのだろう。二人はほとんど黙って食べていた。たまに話しても、料理の感想くらいだった。食事のあと、唯は車で禮を会社のビルの下まで送った。そのまま降りて別れるものだと思っていたが、停車しても禮はシートベルトを外そうとせず、唐突に切り出した。「上に、上がっていかないか?」唯が問うような目を向けると、彼はゆっくりと付け加えた。「聞いたよ。慎さんが、盛沢市での吉野グループとうちの共同プロジェクトを、全部君に任せたそうだね」唯は事情を察した。ちょうど彼女も、プロジェクトの細かい話を、最高責任者である彼に直接確認したかった。「いいですよ」彼女はきっぱり応じた。禮の会社の従業員教育は、想像以上に厳格なものだった。めったに会社に姿を見せず、女に興味のないことで知られる謎めいた社長の禮。その彼が、なんと品のある美しい女性を連れて、会社のエントランスから専用エレベーターまで歩いてきた様子を見て、みんなの顔には驚きが浮かんだ。でも、驚きは驚きとして、誰も声をひそめてささやいたりしなかった。じろじろ見ることもなく、仕事に集中したふりをした。だが心の中では、うわさ話の火がすでに燃え上がっていただろう。禮の社長室は最上階にあり、一番眺めのいい場所を占めていた。でも、部屋の内装は予想外なほどシンプルだった。必要なデスク以外の調度品は影を潜め、むしろ目を引いたのは、ガラスケースに所狭しと並べられた限定のゲームフィギュアたちだった。彼は、知らせを受けて駆けつけた誠に、唯へハンドドリップのコーヒーを淹れさせた。そして応接コーナーのソファを指した。「まず座って。少し待っててくれ」そう言うと、彼は社長室の一番奥の別室へ入っていった。唯はコーヒーを手に、ソファに静かに座って、あたりを見回していた。ほんの5分ほどで、別室のドアが開いた。中から出てきた禮の姿に、唯は思わず息を呑んだ。彼はさっきまでのラフなパーカーを脱ぎ、仕立てのいいオーダーメイドのスーツを着て
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