彼らの心の中で、伝説とまで言われた大物経営者のイメージが、一瞬にして、女好きで仕事もしない、ただのバカへと崩れ落ちた。リビングは静まり返っていた。そんな中、唯だけが絶妙なタイミングで声を上げた。「まあ、驚いた!あの、めったに人前に姿を見せないっていう桐生社長が、裏ではこんな……こんなだらしない人だったなんて!社長室に女の人を隠してるなんて、大胆すぎるわ!」そう言うと、唯は顔を向けた。潤んだ瞳で、じっと雅人を見つめた。その顔には不安が浮かんでいて、彼女はそっと問いかけた。「雅人、これから私が会社にいなくなったら……あなたもあの人みたいに、別室に女の人を隠したりするの?」雅人は、ダイニングテーブルにまだ座っている明里のことを、ほとんど一瞬で忘れてしまった。胸を張り、大層立派な様子で唯に言った。「そんなわけないだろ?唯、俺のことを何だと思ってるんだ。もし俺が遊びに溺れて、女とだらしない関係を持つような人間なら、松尾グループが今の規模でいられると思うか?とっくに俺の手で潰されていたさ。俺は桐生社長みたいな、何の努力もしないボンボンとは、根本的に違うんだ」自分こそが理性的でまともな人間だと言わんばかりのその態度を見て、唯は心の中で冷たく笑っていた。皮肉なものだ。常に浮気を繰り返すような男が、どの面下げてこれほど立派な理屈を並べ立てるのだから。ダイニングテーブルでは、隆平は椿のように雅人のだらしないプライベートを蔑むことはなく、しばし考え込んでいた。しばらくして、隆平は低い声で口を開いた。「雅人。桐生社長の能力や人柄がどうであれ、彼と組めるチャンスは一つも逃してはならないぞ。それに、見方を変えてみろ。あいつが無能であればあるほど、うちにとっては都合がいいんだ」雅人はきょとんとした。どうやら隆平の考えについていけていないようだった。隆平は鼻で笑った。長年業界で揉まれてきた者の、容赦ない眼光だった。「バカな奴ほど、操りやすいものだ。あいつは桐生グループという巨大な企業を握っていながら、自分では支えきれない。これこそ、うちにとって最高のチャンスじゃないか?今回の提携を利用して、うちの事業を中に入り込ませるんだ。桐生グループを足がかりにして、逆に深津市の市場を広げていく。うちが一から深津市で勝負するより、どれだけ楽にな
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