遺跡荒らしという職がある。 屍肉食とはひどい言われようだが、古代文明の遺した屍体を食い扶持にしているのだから、これほどぴったりの呼び名もないだろう。 遺跡荒らしは、迷宮探索者に次ぐラビリントゥムの花形だ。混沌との決戦の地とされるラビリントゥム周辺は、その際に建設された砦や要塞の遺跡がいくつも残されている。最も有名なのは統一王国の王墓だろう。郊外にある統一王家代々の墓は、古代の要塞跡を修築したものであり、その始まりから数えれば千年以上の歴史の重みを抱えている。 異説もあれど、地下に拡がる大構造が混沌由来。周辺に点在する遺跡も混沌に対抗すべく作られたものが大部分。迷宮都市ラビリントゥムは、成り立ちから言えば「混沌都市」とでも云うべき街でもあった。 そのラビリントゥムを臨む丘のひとつ。 先日の地震で地崩れを起こし、赤茶けた断面を晒している。 そこに群がる人々がいた。食人巨鬼、竜鱗の裔、新古樹族、奈落鍛冶に緑肌矮人と種族は雑多だ。屍肉食の徒党だろう。地崩れで出来た崖には直線的な構造物が露出しており、そこに古代遺跡が眠っていることは明らかだった。 その一団にひとり、毛色の違う者がいる。 形は大雑把に言えば人間の女。しかし、学帽の下の肌色は一定せず、さざめく水面のように色が変わる。紫紺の長衣の襟や裾から伸びた半透明の触手が書物や紙束を抱え、また別の触手が万年筆を握って何かをしきりに書きつけている。 粘体生物の学者だった。 それ自体は珍しいことでもない。この種族には文字や記録に執着する者が多く、自然、学問や研究を生業にする者も増える。本来は不定形の生物なのだが、その嗜好ゆえに好んで人型を模す。多くの書物や筆記具は人型種族向けに作られているからだ。しかし、肉体的にはそれほど強靭ではなく、危険を伴う実地調査に赴く者は稀であった。「リンネ先生、また掘り出してきやしたが、お宝はありやすか?」 牛飼い帽を被った緑肌矮人の男がひとり、猫車を押してやってきた。リンネと呼ばれた|
Last Updated : 2026-07-03 Read more