紗和は抜き取った髪を、すぐに小さな保存袋へ入れた。ほかの者に任せるのは不安だった。だからこそ、自分で確かめに来たのだ。袋をバッグへしまい、帰ろうとしたときだった。晴翔がおそるおそる呼びかける。「ママ……」紗和が振り返ると、晴翔は抱いてほしそうに両手を伸ばしていた。ほんの少しくらいなら――紗和は子供を抱き上げた。そして、そばにいた佐伯へ尋ねる。「もう何か食べた?」佐伯は首を横に振った。「晴翔は、ここのクリームマッシュルームスープとミートソースパスタが好きなの。佐伯さんも何か頼んで、一緒に食べてあげて。会計は済ませておくから、私はこれで帰るね」抱き上げてもらった晴翔は、つい先ほどまで嬉しそうにしていた。だが紗和が帰ると聞いた途端、しょんぼりとうつむいた。「ママ、どうして帰っちゃうの?」紗和は理由を説明せず、晴翔を子供用の椅子へ下ろした。晴翔は離れたがらなかった。「ママ、来たばっかりでしょう?もう少しだけ、ぼくを抱っこして」明らかに甘えている。「今度、時間があるときにね」そう言われ、晴翔はひどく寂しそうな顔をした。紗和にも、母親として揺れるものはある。だが今はまだ、子供の願いをすべて受け入れることはできなかった。店を出たところで、怜央と鉢合わせた。紗和は気づかないふりをし、そのまま通り過ぎようとする。だが怜央が腕をつかんだ。紗和は反射的に身体を強張らせ、すぐに振りほどく。その仕草に、怜央の顔が傷ついたように歪んだ。もう一度手を伸ばし、今度は強引に紗和を引き寄せる。そのまま、逃がすまいとするように腕の中へ抱き込んだ。「紗和」押し殺した声が、かすかに震えている。「莉乃が俺を騙してたことは、もう全部知ってる。昔、俺を助けたのもあいつじゃなかった」怜央は息を呑み、続けた。「それに……俺が本当に愛してるのは、お前だ」紗和は力いっぱい胸を押した。「怜央、放して――」だがそのとき、怜央の視線が何かを捉えた。紗和の言葉を遮るように口元へ手を当て、そのまま商業施設の搬入口へ続く、人目につきにくい通路へ連れ込む。「静かに」低く告げ、外を示した。通路の隙間から見ると、征臣の車がちょうど前を通り過ぎていくところだった。征臣が普
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