「もう嫌」紗和は反射的に両手で顔を覆った。「わかった。もうしない」征臣は笑いながら、驚くほど素直に答えた。紗和が指の隙間からそっとのぞくと、征臣は何やら楽しそうに考えている。嫌な予感がした。紗和はこっそりベッドの端まで這い、逃げようとする。だがすぐに大きな手が伸びてきて、あっさりと引き戻された。「もう……」紗和は思わず声を上げた。「征臣、嘘つき!」「まだそれだけ声が出るのか」征臣は面白そうに目を細めた。「俺の努力が足りなかったらしいな」その言葉が終わるか終わらないかのうちに、紗和は男の気配が変わったことを察した。征臣は逃がさないように、紗和の小さな手を大きな掌で包み込む。もっとも、今の紗和には本気で逃げ出すほどの力など残っていない。「昔のお前には、何度も腹を立てさせられた。いつか機会が来たら、一つずつきちんと清算してやろうと思っていたんだ」その声だけで、周囲の空気まで熱を帯びたように感じた。「これからも、俺を怒らせるつもりか?一度怒らせるたびに、こうして困らせてやる」紗和は心の中で、もうこの男を怒らせる勇気などないと思った。とはいえ、本当にひどい目に遭わされているとは感じていない。征臣の優しさは、ちゃんと伝わっていた。決して乱暴には扱わない。紗和の様子を見ながら何度も手を止め、頬や唇に口づけ、言葉をかけて安心させてくれる。強引に見えても、彼なりにずっと紗和を気遣っていた。窓の外は、すでにすっかり明るくなっている。さすがの征臣も、これ以上は続けられなかった。その気になれば今日一日どころか、この先1週間でも紗和を寝室から出さずにいられそうだったが、まだ片づけなければならないことが残っている。続きは、夜までお預けだ。紗和の胸の内は、静かな充足感で満たされていた。幸福感に包まれ、まだその余韻から抜け出せない。口では嫌だと言いながらも、こんなにも満たされた気持ちになるとは思っていなかった。これまで一度も味わったことのない感覚だった。征臣は紗和に、黒いドレスを選んだ。色合いこそ控えめだが、触れただけでも上質なものだとわかる。希少な天然繊維を丁寧に手織りした生地で、肌に沿う感触まで柔らかかった。征臣も黒のロングジャケットに、白いシャツ
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